――あれから数ヵ月後。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック 闇の精霊27柱!集い来たりて敵を射て!魔法の射手!闇の27矢!」
エヴァちゃんが空に向けて魔法の射手を唱える。それは保護結界に当たって霧散して消えていった。
「う~ん。魔法は出来てるけど、ただ使ってるだけだね。もうちょっとどんな風になって欲しいかイメージした方が良いかな。あと密度も低いと思うよ」
「ハイ……」
微妙に納得していないのかな?あれから黒の森の私の家で、2人に魔法を教えながらで生活してます。得意な属性は氷と闇で、双子だけあってまったく同じ。何かの時の為に、それ以外の属性も2人で別々に練習するそうです。
それからベッドが1つしかないので町で注文。隠蔽と認識阻害の魔法を使ってダイオラマ球へ。その後は家のベッドルームで出しました。2人の食料もその時に私が町で買ってきたんだけれど。全然食べない私に文句を言われて再びお茶会をする事に。
「シルヴィアは近接は苦手なんだろう?近づかれた時はどうしてるんだ?」
そう……。エヴァちゃんからいつの間にか呼び捨てにされてました。私、何かしたかな?あれから呼び方が酷くなってる気がする!
悔しいのでエヴァちゃんって言ったら、難しい顔をしたけれど文句を言いませんでした。そのままアンジェちゃんって言ったら怒られました!理不尽です!アンジェちゃんが「良いですよ~」って言ったら、渋った顔だったけど文句は言わなくなりました。
「えっと、私の場合は光の障壁や楯を瞬間発動出来るから、あまり問題になった事は無いかな。一応、昔会った魔法部隊の隊長さんに近接格闘は習ったから練習はしてるんだけど、なかなか上達しなくて……」
デルタ隊長さん達の事は忘れられません。もちろん結界の楔になっていたダガーは大切に保管してあります。宝物ですね!
「それじゃぁあまり参考にならないな」
「それならあっちの人を今度呼んでみようか?」
「あっち?」
「うん、メルディアナ魔法学校の先生とかシスター。後は魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫の魔法兵とか騎士団とか?」
体術は得意じゃないのは確かだからね。そういえばフロウくんは得意だったと思うけれど、どうしてるのかな?
「天使様のお前はともかく、吸血鬼の私達がそんな表の場所に行って良いのか?」
「あ……」
そっか、教会関係者が見たら、絶好の魔女狩りの対象?あれ?というか、私の立場的に助けてよかったのかな?でももう助けちゃったし、見捨てたりはしないよ!?
「そっか~。じゃぁやっぱり個人的な知り合いとかを頼る方が良いかな?」
「そんなやつが居るのか?」
「うん、今度メルディアナに行って、手紙を送ってもらう事にするよ」
――さらに数ヵ月後。
コンコン
「あれ?」
「こんな森の奥に客なんて来るのか?」
コンコン
もしかしてフロウくんが来たのかな?まさか魔女狩り関係じゃないよね?昔来たし。
「出ないんですか?」
「出るよ。けれど誰か分からないから、警戒はしていてね?」
一応、防御魔法の準備を意識する。気を引き締めて、ドアを明けると――。
「ひどいですわお姉さまー!メルディアナから手紙なんて送らずに、会いに来てくだされば良かったのに!」
え、誰……?ドアを開けるなり抱きついてきた少女を見る。新緑色の髪。同じ色の瞳。薄く化粧をして、物凄いフリフリのドレスを着たフロウくんが……って!
「な、何してるの!?」
「まぁ、お姉さま。そんな声を上げて。遥々会いに来ましたのに、酷いですわ」
だ、誰こんな風に躾たのは!シスター達!?何だか別人になって無いかな!?
「な、何だシルヴィアその女は……」
「わ~、可愛い~」
その気持ちは分かるよエヴァちゃん。確かに可愛いよ!?可愛いけれど、どうしてこんな風になったの!?
「あら、真祖の吸血鬼と言うからどのような方かと思いましたけれど、随分と弱そうですわね」
「なんだと!?」
ちょっと待って!何でいきなり喧嘩腰なの!?エヴァちゃんはプライドが高いから、そういう言い方はダメだよ!
「これでは一般兵でも勝ててしまうではなくて?お姉さまが鍛えるまでもありませんわ」
「なっ!ふざけるなー!」
激昂したエヴァちゃんが吸血鬼のスピードで突撃していく。
まずい!止めないと!
「エヴァちゃん!?待って――」
その瞬間。フロウくんは突撃してきたエヴァちゃんの右手首を掴む。そしてそのまま重心を崩し、うつ伏せにしてあっさりと組み敷いてしまった。
「なっ!?」
「お姉ちゃん!」
「フロウくん!?」
あれって、気を込めてるよね?今のエヴァちゃんじゃ手も足も出ない!やりすぎだよ!
「ふーん、こんなものか。やっぱり成り立てだからか、力がまったく使えて無いな。」
「な、何!?」
「え!?」
フロウくんの口調が戻ってる……。もしかして演技!?
「相手の見た目に騙されて、口車にもあっさり。これじゃ守るものも守れないぞ?」
ごめんなさい。私も騙されました……。あ、エヴァちゃんは愕然とした顔をしてるね。正論過ぎるのもきついんだよ?アンジェちゃんもショックを受けてるみたい。
「性格変わりすぎです!せっかく可愛い人が遊びに来たって思ったのに!」
アンジェちゃんそっちなの!?
「それからシルヴィア。世界樹の件を忘れてるよな?」
「あ……!」
しまった、エヴァちゃん達の修行ばかり考えて、すっかり忘れてたよ……。
「戦国時代が近づいてくると、全国で厄介ごとが増えるだろう。それまでには行っておいた方が良いと思うぞ」
はい、そうですね。それはともかく……。
「フロウくん、そろそろ離してあげてくれないかな?」
「あぁ、良いよ。現実も分かったみたいだしな」
「それで……。この女は何なんだ?」
うわー、明らかにエヴァちゃんの機嫌が悪い……。
「俺はフロウ。こう見えてもドラゴン種だ。よろしくな?」
そう言うとフロウくんの頭から、天に向かって後ろ斜めに突き出た1対の角が生えて、竜の翼を広げて尻尾も生える。
「――!?」
「わ~。凄いね~」
まさか、フロウくんはエヴァちゃんを驚かしに来たの?どうしてこんな子に。アンジェちゃんはうろたえないなぁ~。
「それから俺は男だ。見た目はこんなんだが、間違えるなよ?」
「うが、貴様変態か……」
「でも可愛いよ?」
やっぱり驚かして喜んでる。アンジェちゃんって可愛いものに目が無いのかな?
「嘘だ。実は女だよ。男だけどな!」
「どっちだ貴様は!」
あぁ、あんなに良い笑顔をして……。フロウくんはどこか遠くへ行ってしまいました。
「それでシルヴィア、本当に何なんだこの女は!」
「あ~……うん。転生者だよ。私やアンジェちゃんと同じ」
「え、そうなの!?」
「あぁ、魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫で死にかけの所を助けてもらった。そのまま色々世話になってるよ」
それにしてもこんな登場をしなくても良いと思うんだ。普通に来て普通に話をすれば良いと思うんだけど。
「シルヴィアからの手紙には、エヴァンジェリンとアンジェリカがお互いを守り生き抜くための力を求めて居るって書いてあった。俺はこんな容姿だからな。使えるものは使う。油断しただろう?相手の実力が分からずに突っかかって、俺が教えていなかったらもう終わってた。力を付けるのも良いが、眼も養った方が良い。真祖って言ってもコントロールが出来て無いんじゃ、シルヴィアみたいに出鱈目な魔力馬鹿とやりあうどころか、本当に一般兵に負ける」
シルヴィアの不安を他所に、フロウは淡々と言葉を述べていく。
「良い経験になったんじゃないか?」
「ぐ……!」
エヴァちゃん黙り込んじゃったね。でもこれはちょっと……。
「フロウくん。言い方ってものがあると思うんだ。もっと普通に教えたら良いと思うよ?」
「俺やお前なら問題ないんだよ。2人の立場がヤバイ。隠蔽術や認識阻害を覚えれば一般人やそれなりの実力者は誤魔化せる。だがいきなり本物に出会ったらどうする?だからこういう状況が1番解り易い」
う……。そう言われるとそうかも。
「しばらくここで色々教えてやるよ。魔法や体術もある程度教えられる。だからシルヴィアは世界樹を見に行って来てくれ」
「うん、それは良いんだけど喧嘩しないでね?それからあっちは大丈夫なの?」
「シスター達がいるから問題ない。色々と準備もしてある」
引っかかるけれど、大丈夫って言うなら大丈夫……なんだよね?
「世界樹って何だ?」
「学校だよお姉ちゃん」
「まだ無いけどな」
そっか、原作知識も交換しておかないとね。
「例の600年後と言うやつで良いのか?」
「あぁ、そうだ。それまでに本物の実力者になってもらわないと困る」
「なる。なってみせる!」
「私もお姉ちゃんの事守れるようになりたい!」
この調子なら大丈夫だよね?エヴァちゃんの眼にあの時の色が戻って来てる。アンジェちゃんも、エヴァちゃんの事を大切に思って居るから頑張れそう。
「じゃぁそういう訳だから、シルヴィアはさっさっと行って来い。終わったらまたこっちに戻ってきて手伝ってくれよ」
「じゃぁ2人とも、フロウと頑張ってね?」
「分かった」
「はーい」
姉として、守る者として決意のある言葉を述べるエヴァだった――。