青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第14話 世界樹(1) 望まない敵意

 ――関東地方に差し掛かった空。

 

「待て!そこの禁忌の烏族!」

 

 烏族?禁忌?いきなり何の事だろう?

 

「こんにちは。人を見ていきなり禁忌と言う貴方はどなたですか?」

 

 少し警戒。この世界の日本には初めて来るけど、空の上で声をかけてくる相手なんて居ないはず。

 

「俺はカラス天狗一門の者だ。ん?お前、気を感じないな。烏族ではないのか?」

「違います。それに烏族というものを存じておりません。私は世界樹に用があり、遥か西方の地より舞い降りました」

「世界樹だと!?」

 

 その言葉を聴くと、相手も警戒する様な声を上げる。

 

 カラス天狗ね~。妖怪って本当に居るんだね。魔法世界にも色々な人がいるし、日本だって気付かないだけで色々と居たのかもしれないね。

 

「世界樹に何の用があって来た?何者か応えろ!」

「世界樹には私事です。私は光の精霊を束ねるものです」

 

 そう言って、周囲に多めに光の精霊を集める。

 

 闇を集めたら警戒されちゃうだろうし。天使って言っても今の時代の日本じゃ理解されないというか、知らないよね?

 

「む……。嘘ではない様だ。失礼した。それならば世界樹の妖魔退治に来たのだろうか?」

 

 世界樹の妖魔!?そんなのが居るんだ?

 

「世界樹にはいつ時からか分からぬが、まるで守るかの様に妖魔が居る。ただその姿を見たものはおらず、確かめに行った者も1人として帰らない。やがて世界樹には妖魔が巣食っていると言われるようになった」

 

 なるほどね、それじゃぁ麻帆良学園はそれを退治して出来たのかな?フロウくんの作戦といっても、私が肩代わりかぁ~。まぁ未来で行動し易くする為の下準備なんだし、それくらいは頑張らないとねダメだよね!

 

「分かりました。私がその妖魔を鎮めてみせましょう。世界樹に来た理由は遥か遠く未来の為。その為に参りました」

「その言葉たしかに受け止めた」

 

 そう言うと納得したのか、カラス天狗はどこかへ飛んでいった。

 

「良し!じゃぁ、頑張らないとね!」

 

 

 

 

 

 

 ――世界樹上空。

 

 あの樹が世界樹?大きいんだろうなって思っていたけれど、ちょっと大きすぎるんじゃないかな?あれが埼玉県にあったら、確かに大騒ぎだよね。

 

 魅入る様に飛ぶ速度を抑えて、少しづつ近づいていく。

 

「え!?」

 

 世界樹に近づくと、出すつもりが無かった私の本が出てきた。

 

「いきなり出てきたって事は、この近くに転生者が居るって事かな?」

 

 光ってるから近くに居るって事だよね?とにかく今は情報が必要かな。とにかく本を開いてみないとね。

 

 

・名前 無し 設定可能

 

・種族 世界樹の木霊 無性

 

・転生特典 『積極的に生きるための力』

 

・枷 『人格封印、見敵必殺』

 

 

「な、なにこれ!?」

 

 人格封印!しかも敵を見たら攻撃!?もしかして、カラス天狗の人が言っていた妖魔が転生者!? まさか転生者が世界樹だなんて思わなかったけど。

 

「……私は、こんな事をした神様になんて負けない!すぐに行くよ!」

 

 悔しかった。あの神様のニヤついた顔がまぶたの裏に浮かぶ。それを火種にして全速力で飛ぶ。

 

「世界樹の木霊って、精霊だよね?という事は、世界樹にセフィロトを使えば良いのかな?」

 

 世界樹のすぐ側まで近寄り、周囲を確認して降り立つ。すると、人の形の様な白い靄が現れた。

 

「……貴方が、木霊さん?」

 

 声をかけると人形のような輪郭がハッキリとしてくる。顔を見ると、眼と口の位置に3つの黒いくぼみしかなかった。

 

「敵」

「ヒッ……!」

 

 思わず声が漏れる。その双眸に驚きと恐怖感を感じていた。

 

 こ、この人が木霊さん!?アンジェちゃんの時みたいに捕まえないとダメかな?あっ!でも、精霊ってどうやって捕まえるの?とにかく拘束の矢を!

 

「風の精霊31柱! 縛鎖となり――!」

 

 唱え終わるよりも早く、右手を剣の様に尖らせた木霊がすぐ目の前に来ていた。

 

 ――は、速い!

 

「きゃあ!」

 

 慌てて身体を捻って回避しようとしたが間に合わず、右肩を貫く。

 

「痛っ!くぅ、魔法の射手!光の1矢!」

 

 貫かれたまま痛みを我慢して、左手から矢を放ち木霊を弾き飛ばした。飛ばされた木霊は空中で身を翻し、世界樹に着いた足をバネにして再び向かってくる。

 

「ぅく!右肩を再構成……。光の楯!4重層!」

 

 面の魔法楯を4重に展開する。しかし木霊の突撃は、全てを貫き再び目の前に迫ってきた。

 

「まずい!」

 

 翼を広げ飛び上がる。――が、木霊は空を見上げて追いかけてくる。

 

「もう、ちょっとしつこいよ!魔法の射手!連弾・光の101矢!」

 

 最初に襲われた時ほど近づかれていないので、魔法の射手を唱える。波状攻撃で上空から放たれた矢が、木霊に突き刺さりながら地上に降り注ぐ。

 

「なんか、全然応えて無い感じがするよ。どうしよう……」

 

 このまま魔法の射手を少しづつ撃っても意味が無いかな?1000本くらい撃てば効果があるかもしれないけど、それで命を奪ってしまったら困るし。

 

「――!?」

 

 思考に捕らわれていた瞬間。自身より高い位置に現れた木霊に、両足で背中を蹴りつけられたまま地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ!――かは!?」

 

 マズイ!このままじゃ、ずっと攻撃されちゃう!

 

 これまで無いほどの身の危険を感じながら木霊に視線を送ると、木霊の両手が組み合わされ、振り下ろされる瞬間だった。

 

「風花!風障壁!」

 

 一瞬だがあらゆる物理攻撃を弾く魔法楯。10tトラックの衝撃でも耐えられる魔法障壁で防御する。

 

パリィィィン!

 

 衝撃が弾ける音と共に風精を召還!

 

「風精召喚 戦の乙女 10柱!」

 

 召還した風の精霊が戦乙女の姿を取り、突撃しながら木霊を空に巻き上げる。その隙を狙い、拘束魔法を唱える。

 

「風の精霊55柱! 縛鎖となり 敵を捕らえて! 魔法の射手・戒めの風矢!」

 

 虚空から天空へと風の精霊が走り抜け、木霊を絡め取った。

 

「捕まえた、かな?」

 

 木霊を見上げて見ると、もがき抜け出そうとしているのが見える。

 

 困ったなぁ。これでも捕まってくれないの?

 

「――あ!」

 

 そうだ、私が黒の森にいた時にかけられて失敗した封印術!

 

 思い立つと翼を広げて飛び上がる。

 

「契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが!」

 

 150フィート四方(46m弱)の空間をほぼ絶対零度に出来る氷結魔法が、木霊めがけて降り注ぐ。そのまま続けて――。

 

「全てのものを 妙なる氷牢に 閉じよ こおるせかい!」

 

 木霊が凍りつき、何一つ動くものが無い氷の牢獄が出来上がっていた。

 

「うん、それじゃぁセフィロトだけれど……どうしよう。この姿のままはつらいよね」

 

 そう言って本を取り出す。人の形を取っただけの白い塊。髪は無く黒い点だけの顔。この姿で生きていくのはつらすぎる。

 

「どうしよう……。フロウくんみたいに勝手なイメージで再構成しちゃうと困るし」

 

 悩む――。枷を外す以外に、実際どう再構成して良いのか思いつかない。

 

「もし自分だったらどうして欲しいかな……」

 

 自分のことを考える。傲慢な神に砕かれた事。感謝はしてるけれど、理不尽に美化されて自分の面影以外失った事。

 

「あっ!そっか、簡単だった。自分自身を取り戻させてあげれば良いよね!」

 

 木霊になる前の自分自身の記憶にある姿。それをセフィロトの杖に乗せれば良い。そう思い付くと、本を出して凍りついた木霊へ近づいていく。

 

「……『セフィロト・キー』召喚」

 

 気を引き締めて、木霊に向かって宣言する。

 

「適応完了……『リライト!』」

 

 セフィロトの杖は光の粒子になり、木霊に吸い込まれていく。

 

「あっ!凍ったままじゃ動けない!」

 

 セフィロトの事ばっかり考えてて、凍ってるのを忘れてたよ!大丈夫、だよね?

 

 恐る恐るウェストポーチから魔法薬を取り出し、解凍の魔法をかける。

 

「あれ?え、居ない?」

「……こっち、です」

「え!?」

 

 声が聞こえた方に慌てて振り返ると――。世界樹の根元に体の透けた、自分と同じくらいの背丈の少女が居た。その姿を見て、急いで世界樹の根元に降りる。

 

「ごめんね、だいじょう――」

「ごめんなさい!」

「え!?」

「……私、さっきの事、ぼんやりと覚えてるんです」

 

 さっき?私と戦った事、だよね?でも、あの『枷』を見たら悪くないと思う。

 

「……ずっと、私は私じゃなくて!何も、何も考えられなくって。私が!」

「もう、大丈夫だよ。貴女はもう自分を思い出したでしょ?」

「……でも!凄く痛そうだったのに!」

「うん、痛かったけれど、貴女の心のほうがずっと痛かったと思う。だから、もう大丈夫」

 

 そういって、彼女の身体をそっと抱きしめる。しばらくすると、彼女の嗚咽が収まってきた。

 

「……ごめんなさい。大丈夫です」

 

 大丈夫……かぁ。無理して無いかな?

 

「うん。それでね、ちょっとこの本を見てほしいんだ」

「……本、ですか?」

 

 そう言って、私の本を彼女に見せる。

 

 

【『セフィロト・キー』の適応完了】

 

・名前の設定が出来ます。

 

・転生時の枷『人格封印、見敵必殺』を解除しました。

 

・前世の記憶に基づいた姿で顕現が可能です。

 

※以下は上位神による初期設定により変更不可能です。

 

・種族 世界樹の木霊 無性

 

・転生特典

 積極的に生きるための力。(世界樹の力)

 

・世界樹との共生

 世界樹の魔力が使用可能。ある程度の力の方向性を導ける。成長途中。

 

 

「……これ、何ですか?」

「貴女の、人生みたいなものかな?」

「……私の、人生」

「とりあえず名前どうしようか?新しい名前になる事もできるよ?」

 

 そう告げると彼女は、少し考え込んだ様子で――。

 

「……菜摘 麻衣。私の、名前です。」

「麻衣ちゃん?」

「……はい、前世の私の。これからも私の名前にしたいです」

 

 そう言う彼女の顔は、少し影が残りつつもとても輝やいた笑顔に見えた。

 その笑顔にためらいつつも、あの神と自身の事を説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

『これってあれよね!好きな能力もらい放題よね!?』

 

 ……私の記憶。

 

『チートも無敵も不老不死でも何でもありだ!もちろん原作介入もOK!』

 

『ちなみに原作で起きた大きな事件は必ず起きる。妨害しても修正力が働くからな!』

 

 そうだ私、神様に会ったんだ。引っ込み思案で、地味な自分を変えたかったんだっけ。あの時は、神様に願いを叶えてもらおうと必死だった。

 

 

『何でもありだ!』

 

 

 神様のあの言葉を聴いて、真っ先に思ったのは明るい性格。でも、『ネギま!』の世界はそれだけじゃ生きていけないと思った。だから、生きる為の大きな力が欲しいって言った。

 

 それは主人公の様な!ヒロインの様な!

 

 気が付けば私は。世界樹に近づくものを排除する人形だった――。


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