――再び世界樹上空。
「あれが世界樹だよ。近くに下りれば良いと思う」
「実物を見るとかなりでかいな。きっともっと成長するんだろうし」
そう言いつつ世界樹の根元に着陸する。皆の様子を見ると人の姿に戻ったフロウくんは割りと余裕そう。エヴァちゃんは表情は崩さないもののどこか疲れた様子。アンジェちゃんは目を輝かせて、余裕そうだね……。
「えっと、じゃぁ連れて来たんだけれど、麻衣ちゃん居るかな?」
「世界樹に宿ってるなら居ないって事は無いだろう」
世界樹に向かって話しかける。すると根元からぼんやりと人の輪郭が現れ、次第に収束して半透明な人の姿になった。
「……ごめんなさい。まだ、うまく姿をコントロールできなくて」
「大丈夫だよ。ゆっくり慣れていけば良いんだから」
そう言う麻衣ちゃんの姿は、ロングヘアでどこかの学校の制服の様だった。
「こいつが麻衣か?」
「外国といっても髪と瞳が黒いだけか?服の生地は悪くなさそうだが随分と丈が短いな?」
「違うよお姉ちゃん。この服は女子高生だよ」
そっか、今の時代から見たら未来の服なんて分からないよね。麻衣ちゃんの前世の記憶の姿は制服がイメージ強かったのかな?
そう思い麻衣ちゃんを見ると、随分と驚いた顔をしていた。
「……え、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!?ほ、本物ですか!?」
「私の事を知ってるのか?と言うかミドルネームは持って無いぞ?」
もしかして麻衣ちゃんって、結構原作の事知ってるのかな?
「それで女子高生って何だ?それからA・Kのミドルネームも」
「ねぇねぇそれってどこの制服?」
「麻衣ちゃんって、原作知識が結構あるの?」
「……え、あの、……えっと」
「おまえら落ち着け!めちゃくちゃ困ってるだろ!」
「「「あ!」」」
しまった。ついつい聞きたくなっちゃって……。ごめんね麻衣ちゃん。
「とりあえず順番にな?女子高生ってのは女子の高等学校の生徒って意味だ。どこの学校のかは後で個人的に聞けよ。ミドルネームは俺は知らないから麻衣に教えてもらえ。それから原作知識は質問が終わってから全員で確認だ」
「「「「ハイ!」」」」
声が揃いました。
「……えっと。A・Kって言うのは、アタナシア・キティ、だったと思います。『ネギま!』の話は、途中までの流れとかは、ぼんやり覚えてます」
「アタナシア・キティ?不死の子猫だと?未来の私は何を思ってそんな名前を名乗ったんだ?」
「でも子猫って可愛いよ~?」
「ぐ……。あ、いや、もしかしてカトリーヌお母様の事か?ラテン・ギリシャ読みでエカテリーナ。その辺りが年月で訛って認知されたか?」
子猫かぁ~。たしかにエヴァちゃんは可愛らしいし、ツンツンしてるところが子猫って気もしなくも無いけれど。う~ん、お母さんの名前をミドルネームにしたって方が納得かな?
「ぼんやりと、か。覚えている範囲で良いから話してくれ」
「……は、はい」
麻衣ちゃんの覚えている知識と、私達が分かってるものをまとめると――
・原作の約600年前
エヴァンジェリンが真祖の吸血鬼に転化。
・原作の約20年前、戦争が起きる。
ナギ・スプリングフィールドとかジャック・ラカン等が活躍する。
政治的暗躍をする組織があった。
・2003年の3学期に麻帆良学園で原作開始。
ナギの息子の、主人公ネギ・スプリングフィールドが何故か女子中の先生になる。
一部の生徒にすぐに魔法がばれる。
・エヴァがネギを襲う。
『登校地獄』の呪いを解くために、呪いをかけたナギの息子のネギの血を狙う。
仮契約者が出来る。
・修学旅行でトラブルがあった。
また仮契約者が出来る。
・学園祭の格闘大会でネギがけっこう頑張る。トラブルも起きる。
・2003年の夏に魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫に行く。
「意外と情報が増えた……かな?」
「随分参考になったと思うぞ。少なくともエヴァに呪いがかかるって所とかな」
「『登校地獄』ってどんな呪いだ?私には解く実力が無かったと言う事か?」
呪いの言葉に、エヴァちゃんが不安そうな顔で尋ねて着たけどそれはそうだよね。真祖のエヴァちゃんの魔力量は凄く大きいから、それで解けないって言うのはちょっと疑問が残るかな?
「……それは、サウザンドマスターっていう、魔法使いが居て。エヴァンジェリンさんが何度もしつこく追いかけるから、罠にはめて。……麻帆良学園から出られない呪いと、魔力も封印されて。身動きが取れないんです」
「あ~、そんなのもあったかもしれねぇ。て言うかナギだな」
「つまりはそのサウザンドマスターという奴が要警戒人物、と言うわけか」
何か確信した様に、ニヤリと黒い笑みを浮かべるエヴァちゃん。なんだか、ナギって人もかわいそうに。生まれる前から警戒されちゃってるよ……。
「でもその主人公のネギくん、魔法がいきなりばれるのってまずいんじゃないかな?未来にあるのか分からないけれど、魔女狩りとかにあったりしないのかな?」
「たしか黙っててもらえて、そいつはそのまま魔法の道に引き込まれてたな。そう言えば仮契約者もハーレム状態だった」
それは……。マンガだからかな?今の時代じゃ考えられないなぁ~。魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫だったら何も無いけれど、地球でそんな事になったら教会や名声欲の強い冒険者が押し寄せてくるね!
「……あの、私も、質問しても良いですか?」
思い出した様に麻衣ちゃんが声を上げてきてって、いけないいけない、こっちの話で持りあがって置いてけぼりにしちゃったかな。
「うん、もちろん!何が聞きたい?」
「……皆さん、転生者、なんですよね?その、エヴァンジェリンさんもそうなんですか?…あと1人分からなくて、全部で5人だって、聞いたから」
「シルヴィア、お前ちゃんと説明してなかったのか?」
「え?あれ?話してなかったっけ?」
「おい……」
「ご、ごめんなさいー!」
「ホントにボケてきたんじゃないのか?」
ち、違うよね?ボケてないよね!?
「……天使様だと、思っていたんですけれど、シルヴィアさんも転生者だったなんて」
「まぁ俺もこんな姿だが、あまり気にするな、俺はもう気にして無いからな」
「私はお姉ちゃんが居るから平気だよ!」
「……エヴァンジェリンさんも、この世界の事、……受け入れてるんですね」
「あぁ、何と言われようと、今ここに生きているからな」
それぞれがお互いの立場と生い立ちを説明して一呼吸。私達の状況を知った麻衣ちゃんは、自分が決して悪くないと知って、少し落ち着いた様子に見えた。
「それで麻衣ちゃんはこれからどうしたい?」
「……どう、と言っても。……世界樹からは、離れられないみたいですから」
「シルヴィアはここに住む為にダイオラマ球で家を持ってきたんだろう?落ち着くまでここに居たら良いと思うぜ?」
「え?うん、そうだけれど」
「後はこれからの事だな。まだ原作まで約600年。やれる事はやれば良いし、原作へどれだけ関わるか方針も決めておいた方が良いと思うぞ?」
原作か~。転生者を助けるって事で頭がいっぱいで、あんまり考えてなかったかもしれない。どうしたら良いかな。
「……あの、私は、世界樹に来て、悲しい事になった人の家族とか。……また来る事があれば、ちゃんと謝りたい、です」
「麻衣ちゃん……」
「その気持ちは立派だな。ただな、聞いた限りでは世界樹の力を利用しようとしたものが多いんじゃないのか?私は利用して吐き捨てる貴族どもを見てきたからな、全てがそうとは言わないが、ナツミ・マイ。お前が完全に悪いわけではないと思うぞ?ある種、世界樹の自己防衛だろう?」
「……それでも、助けを求めてきた人とか。……居たかもしれないから」
「そうか……」
「まるでシルヴィアだな」
え?何でそこでフロウくんが私みたいって思うのかな?
「なぁシルヴィア、お前は天使だけど天使様をいつまでも続けなくて良いと思うぞ?人間だった自分を忘れてないか?転生者を助けるってのは良い。だが延々と人助けをする天使って言うのは、本当のお前の姿か?」
「なるほど。例の傲慢な神とやらの影響を、一番受けたのはシルヴィアみたいだからな、それと責任を感じて自分を卑下するナツミ・マイとは似通っているというわけか」
「本当の私……?私は世界を存続させる使命があって、転生者を救わなくちゃいけなくて、造物主を倒すのを見届けなくちゃいけなくて……」
「ダメだな、すっかり天使様になってる。せっかく魔法世界を離れてここに居るんだ。しばらくこっちで頭を冷した方が良いぞ」
そう言うとフロウくんはダイオラマ球を持ち出し、世界樹の近くに私の家を設置していた――。