「じゃぁまずはこれを渡しておくわ。あと貴女の管理者としての使命もあるからきちんとこなしてね」
「……本?」
そう言って手渡されたのは、ハードカバーの洋書みたいな焦げ茶色の渋めな本。表紙と背表紙には金色の装飾があってとっても高そうに見える。それは良いんだけど、転生の説明は無しなのかな? 聞きたい事もあるんだけど……。
「なにかしら?」
そろそろ心を読むのを止めてください! とりあえず順番に……かな?
「えぇと、私の他にも何人か居たと思うんですけれど? 小さい子とかも居たし流石に私みたいな事になっていたら可哀想だなぁって……」
成人してた人も居れば同い年くらいの人も居たんだよね。でも流石に子供は放っておけないよね。
「それも使命の一つね。あなたの使命は大まかに三つあるわ」
「三つですか?」
「えぇ、そうよ」
この世界の管理が一つ目だよね。あの子を助けるのも使命みたいだし、あと一つは何だろう。
「順番に説明するわ。まず一つ目はこの世界を存続させる事。天使として信仰を集めて置く事をお勧めするわ。信仰がなくても死にはしないけれど、今の時代ならヨーロッパに行くのがお勧めね」
信仰!? 生き神様として崇められろと……。そんな器じゃないと思うんだけどな~。
「次に二つ目よ。これは『セフィロト・キー』で貴女の他の転生者の『枷』を外す事ね」
二つ目が『枷』? あの子にも何かされているって事かな?
「そうね。転生者は貴女を含めて全部で五人。まだ他の子は生まれていないわ。最初に生まれるのは約二百年後で、場所は魔法世界(ムンドゥス・マギクス)ね」
魔法世界……? それって何かファンシーな所だったりするのかな?
「随分かけ離れたイメージをしているみたいだけれど、割と現実的で危険な世界よ」
あぁ、やっぱり。マッチョ神め……。
「そこは原作の問題ね。ちなみに貴女が付けられていた『枷』は『不条理』だから」
「えっ!?」
不条理!? どういう事なのマッチョ神!
「そもそも彼がどうしてこんな事をしたかというと、暇だったらしいのね」
暇つぶし~~!? そんな理由で巻き込まれたの!?
「まぁ早くに亡くなってしまった貴女達が幸運を掴んだとも言えるし、運悪く巻き込まれたとも言えるわね」
うん、決めた。なるべく人助けをしよう。不条理を押し付けるのは良くないよね。あ、でも何処かの誰かが善意の押し付けは要らないって言ってた様な。だれだっけ?
「それで転生者達を探して、『セフィロト・キー』で大まかな『枷』の取り外しと再構成をする事。彼が見て楽しむ為に行われた転生だから、要望に対して曲解、あるいは歪な形で取り付けられているわ。さしあたって二百年後に生まれてくる子もそうなっているはずよ」
なるほど~。まずはその子の『枷』外しかな。うん、頑張ろう!
「転生の時にかけられた『枷』は、さっき渡した本を本人の前で開けば分かる様になっているわ。近くに行けば本が反応するから、それで探すことね」
ふむふむ。どんな『枷』を付けられたか想像したくないなぁ~。やっぱり不幸とか?
「それから再構成時には、言語の早期習得能力を付けてあげなさい。貴女には再構成の時に英語はもう”覚えさせた”けれど、殆ど日本人ばかりだったから無いと苦労するわよ」
あっ! そんな事も出来るんだ! 確かにそれは重要だよね~。ヨーロッパにこれから行くみたいだし、英語とか中高生のテストをやり過ごせるレベルしかないからね。
「それじゃぁ三つ目ね。地球に関しては彼が光と闇の属性を貴女に集めてくれたおかげで、幸いにも命の循環に影響は無いわ。『神核』を押し付けてそのまま傍観するつもりで居たみたいね。問題は火星にある魔法世界よ」
火星!? 魔法世界って火星だったんだ……。それよりも火星に行くなんてロケットとか? そんなの作れないし、持ってる国にお世話になるしか無いのかな?
「魔法世界へ行くための転移ゲートが世界のあちこちにあるから問題ないわ。特に熱心な宗教関係者には魔法使いが関わっているから、信仰集めには持って来いよ」
「え~……」
それって、やっぱり天使様を演じろって事だよね? 騙すようで気が引けるなぁ~。
「だますも何も天使じゃないの」
う……、そう言えばそうでした。うーん、とりあえずはヨーロッパに行って……。
「思考が逸れているみたいだけれど、魔法世界での最終的な目的は『造物主』の持っている『グレートグランドマスターキー』を食べる事。取り込むとか、摂取するとか、まぁ手に入れれば何とでもなるわ」
食べる? 鍵を? 光の玉といい精霊といい、何だか変なものばっかり食べてるよね……。いい加減普通のご飯が食べたくなって来るんだけどなぁ。
「食べるというのは物理的なものではないわ。比喩。私達神族にとって人間的な食事のイメージは持たない方が賢明ね。食事は出来るけれど食べた傍からマナに還元されるから、消化とかは無縁ね。それから、物語の大きな出来事は必ず起こるわ。だから西暦2003年の夏に魔法世界で大きな戦争があるのだけど……。その戦争で『造物主』を必ず倒す事。これは貴女が倒しても主人公が倒しても問題ないわ。その後は『造物主』の所有物という設定が無効化されて、管理者である貴女の所有物になる」
西暦2003年? これからあの子や他の転生者が生まれるとして、今って何年なのかな? 何だか嫌な予感がするんだけれど……。それに戦争って言われても……。
「戦争と言っても魔法世界の事だから、必要なのは魔法使いとしての能力よ。それまでに相応の実力を身に付けなさい。そもそも貴女には物理法則は当てはまらないから、まずは慣れる事から始めた方が良いわね」
とりあえず二百年の間は身体を慣らして、教会とかにも接触して、あの子を助ける。とか言う流れになるのかな。それにしても二百年かぁ。
「それじゃ最後になるけれど、その本の説明ね。まずは表紙を開いてみて」
えぇと。あ、ちゃんと日本語で……『シルヴィアちゃんの取扱説明書♪』ってぇぇ!
「なにこれぇぇぇぇ!」
私の取扱説明書って何!? 転生者を探す本じゃないの!?
「貴女ねぇ、自分の体の事や魔法の扱いとか解る? その辺りどうなっているのか初級から中級魔法の教本をかねた説明書よ。もちろん『セフィロト・キー』もその本の中に入っているわ」
そうですね……。そもそも自分の体って今どうなってるのかな? 天使って事は翼が生えてたり?
「はい、鏡♪」
何だか嬉しそうな顔の女神様が、どこからともなく行き成り姿見を出して来た。そういう所も普通にチートだなぁ。いや、魔法なのかな?
「…………え”っ!?」
「そんなに喜ばなくて良いわよ♪」
だれこれぇぇ!? 顔は面影があるような気がするけど、明らかに私じゃない! すっごく可愛くなってる! それに確かに銀色だらけだよ!
髪はサラサラで銀色のロングだし、パッチリした目も、澄んだ紫の瞳も光の加減で銀っぽく見える。今まで気にならなかったけれど、何か薄っすらとした銀色の翼がちゃんとある! って、意識したら何だかむず痒くなってきた!?
「むぁわわゎゎああ!」
考えると余計に変な感じがする! 何か四枚もあるし滅茶苦茶に動いちゃって気持ち悪い! しかも混乱して収まらなくなってきた!
「落ち着きなさい」
ごす!
「痛った!」
「落ち着いたかしら? とにかくヨーロッパに移動するから手を出しなさい、引っ張るから飛びながら慣れる事。良いわね」
「そ、そんな無茶な~!」
そう言うとがっしりと手を繋がれて、考える間も無く引かれるままにその場から飛び立った。
と言うわけで、あっという間にヨーロッパに到着してしまいました……。女神様の説明によると、今は西暦1100年位みたい。でも最初に『ネギま!』の世界に連れて来られたのは、紀元前700年くらいだったらしい。
そのまま光と闇の精霊――核は天使だけれど――になってから、無意識で精霊に溶け込んでいたらしいのですよ。気が付いたら年齢だけはおばあちゃんを遥かに超えてるって……。うん、あまり考えないようにしよう。
私の見た目は、「天使様やるんだから見目麗しい方が良いでしょ!」と、一蹴されちゃったよ。まぁ、確かにそうなんだろうけど~。嬉しいと言えば嬉しいんだけど~。これって殆ど私じゃなくなってるよね? あっさり美少女に変わり過ぎて微妙な気持ちが……。
とりあえず今居る場所は、とにかく森。森。森。大事なことなので三回言いました。女神様に連れられて何処かの森の中まで飛んで来て、家だけは作ってくれました。
現代風のベッドルームとリビングにバスルームのサービス付き! 一応マッチョ神の代わりに、私の現在の上司になっているらしいし、これは本当に助かったよ! ありがとう女神様!
それから現代人に中世とかの生活は厳しいです! 洗濯機が無い! って言ったら服は魔力で編まれてるから汚れないらしい。でも、白か黒のゴシックドレスと同色のブーツと下着類しか無いんですがいじめですか? 白はともかく黒で天使しろって無茶だよね!
それから翼が邪魔です! って言ったら無理やりぐいぐい押し込まれて、見事に消えました! もう一度出せる自身はありません。何だかんだとやり取りした女神様は、「じゃ、あとは頑張りなさい」って帰ってしまいました。
しまった、名前を聞いてなかった~。マッチョ神も知らないけれど、もう居ないらしいからそっちは要らないかな。上司らしいし、また会う機会もあるよね?
とにかく今必要なのは説明書の確認かな? 何が出来るか解っておかないと、これから合う人達の信用も何も得られないよね。『シルヴィアちゃんの取扱説明書♪』とか、一頁目から底抜けに明るい言葉で書かれているのは気になるけど、この本を読んでみない事には始まらないし。
「どれどれ~っと」
内容を纏めて、この本と私の能力を簡単に説明すると。
・この本は私自身の魔力で構成してあるので、念じると体内にしまうことが出来る。
・転生者が生まれる年代に近づくと、表紙裏に大まかな情報が出る。転生者の前では本が発光する。
・『セフィロト・キー』は裏表紙に手を当てて召還する。ただし転生者四人分まで。
・『セフィロト・キー』を使い終わった時点で消滅する。
・私は魔法発動体を使わずに精霊を集合させて魔法を使える。呪文詠唱は必要だが始動キーは要らない。ただし初級の光と闇属性はその限りではない。
・体を損失しても再構成できる。応用すれば大きさも変えられる。
・翼は分解と再構成による出し入れが出来る。
・高い言語習得能力を持っている。日本語・英語は習得済み。
・特定の相手を祝福できる。ただし光か闇限定。
・仮契約を行うと、従者は半精霊化する。実質不老。
・本契約を行うと、従者は眷族になる。実質不老不死。
何か……、随分とチート仕様な気がしてならないんだけれど、大丈夫なのかな? とりあえず、契約とかは慎重になろう。私の勝手であの神様みたいな事はしたくないよね。
「よしっ! それじゃ時間は有るんだし、練習! 外で色々試してみようかな」
ともかくここは静かな森の奥だし、人も入って来なさそうってくらい深いから、魔法を使ってもそうそうにばれなさそう。
「えぇと、教本の部分は~。あったあった。後ろの方のページだね」
さてさて、何が書いてるかな? 『――魔法初心者は灯火から♪ 魔法少女なイメージでレッツトライ☆』って! またあの女神様のいたずらだよね!? これはもういじめじゃないかな。ううぅ。これって本気にして良いのかな? うさんくさいなぁ。もうちょっと読み進めてみよう。
……なになに? 魔法は理論・実践・制御で成り立っている。精霊を扱うための理論が完璧でも、経験が無ければ扱いは上手くならない。また制御が疎かであれば集められる精霊も少なくなり、実際の効果も薄いものとなる。
「なるほどねぇ~。魔力だけは沢山あっても、練習しないとダメですって事だね。どこの世界でも勉強は必要か~」
うん。他には魔法理論編とか魔法制御編とか書いてあるけど、実践とかは書いてないなぁ。とりあえず、やるだけやってみるしかないかな~?
とりあえず灯りの魔法? なら危険はなさそうだし? せっかく魔法の世界に居るんだから、魔法使いにはちょっと憧れるよね?
「それじゃぁ……。プラクテ ビギ・ナル 火よ灯れ!」
ゴオォォォ!
「うひゃぁぁぁぁ!」
何かすっごい焚き火が出来たんですけど! どういう事!? 灯りじゃないの?
「って、このままじゃ火事になっちゃう! 水みずミズ~~~!?」
バシャァァァァ!
「冷たい……。水浸しになるほど集まらなくても良いのに~」
外でやっていて良かった。こんな事になるなんて、相性が良い光か闇から始めた方が良いのかな?
「えぇと、闇は危なさそうだし、光の魔法にしよう」
魔法の項目をぺらぺらと捲って、他の探してみると……。あ、丁度良さそうなページが有るね。
・攻撃魔法
初級魔法『魔法の射手』。集めた精霊の数の分だけ魔法の矢を放つ。状況に応じて連弾、収束、拡散などを使い分けられる応用性がある魔法。
・防御魔法
自分の周囲に張り巡らせる魔法障壁と、任意の点や面に収束させる魔法の楯がある。
………………。どう考えても楯からだね。攻撃魔法はヤバイ! 灯りって言ってるのに焚き火になったり、消火したいだけで水浸しになるんだし攻撃は危険だよ!
「えっと、自分の周囲に楯があるイメージで……。光の障壁!」
って、まぶしいぃぃぃぃ! 何これ!? あたり一面光っていて何も見えないよ! もしかしなくても、また威力が有り過ぎるって事かな?
「か、解除~! おしまい~!」
そう言うと精霊が解散してくれたみたいで普通の森の景色に戻った。これはダメだなぁ~。魔力ばっかり大きくて、制御が出来てないお手本みたいな気がするよ……。当分は制御の勉強だね。
あっ、翼の出し入れの制御も出来るようにならないと。課題が山積みだなぁ~。魔法ばっかり夢中になってついつい忘れてたよ。まだまだ人間のつもりだし、いろいろ慣れないといけない事が多そうだね。
そういえば私の他の転生者も人間じゃない種族で生まれてきたりするのかなぁ? あの子達を探す時は気を付けないとね。
2013年3月12日(火) 記号文字の後にスペースを入力。無駄な改行の削除、及び地の文と会話文を推敲して若干の加筆をしました。
にじファンでの執筆当事に幾つか失念していた点を補足。ゴシックドレス以外に、ブーツと下着類を加えて、言語習得能力を加えました。英語を習得済みに選んだ理由は、ネギがイギリス人なのと、魔法世界も英語の様な描写が有ったからです。