改行の見直しやちょっとした推敲作業が楽しくなってきてしまった……w
「どぉぉーーりゃぁぁぁぁ!」
自信に満ちた顔の赤髪の少年が、拳に魔力を込めて必殺の気合と共に向かい合う男を殴りつける。その直撃を受けた男はなす術も無く気絶した。
「決まったぁぁぁぁ!今年の『まほら武道会』優勝者は、ナギ・スプリングフィィーールドォォ!」
オオォォォォォ!
アナウンスと共に割れんばかりの歓声が周囲にこだました。
「なんと若干10歳!外国の少年が優勝者だぁぁぁ!」
「イッエーーーィィィ!」
オオォォォォォ!
パチパチパチパチ!
「なるほど、あれが後のサウザンドマスターとやらか。ガキだな」
「だが魔力は馬鹿に出来ないぜ?」
「でも結構凄いよ?子供であれだけの事って、なかなか出来ないと思う」
「ケケケ。切ッテ良イカ?」
「今はダメだ」
私達は麻帆良学園の学園祭に、認識阻害を使って見学に来ている。
エヴァちゃんは敵状視察とか張り切っちゃって……。でも口で言うほど甘く見てないみたい。眼が真剣なんだよね~。それに実際に馬鹿に出来ない実力が分かりました。
それから最後に喋ったのは、チャチャゼロちゃん。エヴァちゃんが旅の間に作った人形の従者。手にナイフを持ったとっても怖い人形です。趣味が切る事と刃物集めって、一体どんな教育をしたんだろう。
「魔力による身体の強化『戦いの歌』の練度が高いだけではないな」
「あぁ、瞬動術も使ってたし、虚空瞬動も使ってた。まだまだレベルが上がりそうなのが恐ろしいな」
「チッ。ツマンネーノ」
瞬動術っていうのはクイックムーブと言って、数m~数十mを一瞬で移動する技。足元に魔力を纏わせて、地面を蹴り上げる高等戦闘術です。しかも虚空瞬動はそれを空中で行うんだから、その完成度は歳の割りにかなり凄い!って事になる。
「それで?優勝者を横から引きずり落とすとかどうだ?」
フロウくん、そんな目立つ様なやり方は止めようよ……。
「今は何もしないさ。ここでやっても目立つ。どうせ魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に行くんだろう?戦時中の方が目立たないさ。そう、何があってもな」
「なるほどな」
「ヨシヨシ。切リ刻ンデヤルゼ」
そう言うとニヤリと黒い笑みを浮かべ合う3人。
「……程々にしてね?」
「「もちろん!」」
「楽シミダナー」
凄く良い笑顔で答える3人。
これはダメっぽいね……。
――それから約3年後。
「例の戦争が始まったぞ。ヘラス帝国が始まりの地『オスティア』って国を、メセンブリーナ連合のメガロの支配から解放するって張り切ってるらしい」
「やっぱり戦争は始まっちゃうんだ……?」
避けられないって分かってても、戦争が始まるって悲しい事だと思う。今はまだ小競り合いでも、だんだんと犠牲は増えていくんだろうし……。
「とりあえず静観。いま救助になんて行ったら、双方から敵とみなされて立派な賞金首だ。勝手に行くなよ?」
「うん……」
今出来る事をしないとね……。
それから私達は情報集めと、薬や物資の準備をする事にしました。
その後ナギ・スプリングフィールドを含む、メセンブリーナ連合によるグレート=ブリッジ奪還作戦が成功。その後しばらくして、岩山交じりのとある平原に騒がしい集団が居た
「よおぉぉぉし!今日も俺の勝ちだったぜ!」
「へっ!俺様の方が多かったな!」
そう良いながら赤毛の少年と、筋肉質の大男がどつきあう。連合からは【千の呪文の男(サウザンドマスター)】と呼ばれるナギ・スプリングフィールド。そして【最強の傭兵】、【千の刃の男】と名高いジャック・ラカン。
「お前達いい加減にせんか!」
「まぁまぁ詠春。士気が上がるのは良い事ですよ」
「そうじゃぞ、腹も減ってはと言うではないか」
「ゼクト、それは意味が違うと思います」
「ガトウさん、止めないんですか?」
「止まると思うのか?」
タートルネックにズボン姿だが、長い刀を持つサムライマスター、青山詠春。
胡散臭い笑みに細目でローブ姿の魔法使い、アルビレオ・イマ。
少年ながら老人の様に喋り、ナギの魔法使いの師匠でもある、ゼクト。
ヘビースモーカーでスーツ姿の男、ガトウ。
そして、ガトウに付き添う少年、タカミチ・T・高畑。
彼らは後に、英雄【紅き翼(アラルブラ)】として、称えられる面々である。
「それにしてもこの戦で私達も随分と有名になった」
「まぁそれだけ俺達が最強だって事だ!」
「ほう、ではその最強殿に一泡吹かせてみるとするか?」
「「「「「「「!?」」」」」」」
その瞬間、声が聞こえた方向と逆側から、天を埋め尽くす光り輝く刃が降り注いできた。
時は少しだけ遡り、赤い男をリーダーとする集団から離れた岩山に隠れて、様子を窺うもう一組の集団が居た。
「ほんとーーーーにやって良いの!?私は止めた方が良いと思うんだけどな~?」
「良いって!大呪文の1つや2つでやられる奴等じゃないぜ!」
「やってしまえ」
「ケケケ!切リ刻ンジマエ」
「は~~~」
恨みはまっ~~たく無いけど!私じゃ3人を止められませんでした!恨むならこの人(?)達を恨んでください!
心の中でそう懺悔しつつ、魔法の詠唱に入る。
「契約により声に応えよ 聖光の王 来れ 天上の剣! 穢れ無き刃! 乱れ輝き 幾重にも刻み貫け! 咲き乱れる閃光!」
呪文を紡ぐと、光の精霊がシルヴィアの遥か天上を埋め尽くす。それらは集合し、研ぎ澄まされ、輝く刃を無数に象っていく。それぞれ1本1本が必殺の一撃を持ち、光の粒子を咲き乱れさせながら、赤い男の集団めがけて一斉に降り注いだ。
「うおぉぉぉぉぉ!?」
「ぬほ!?なんじゃこりゃぁぁ!」
「これはいけません!」
「うわぁぁ!?」
「タカミチ!こっちだ!」
「最強防御!」
叫び声を上げてから一転。それぞれが回避を行うが、周囲がクレーターだらけになる。そんな中、閃光がナギとラカンを執拗に追跡し、集団から切り離す。
「よし!シルヴィア、あとは任せた!」
「こんなの任せないでよ!」
ごめんなさい、もう一撃――。
「契約により声に応えよ 聖光の王 来れ 裁きの聖剣! 魔を払う刃! 光り輝け! 我が敵を貫き砕け! 天を裂く聖剣!」
無数の光の精霊がシルヴィアに集まり、聖剣を模した槍の様にも見える数mの剣を形作った。光の粒子を絶えず放つ聖剣は、周囲の空間を震わせ巨大な存在感を誇る。質量の無い聖剣の剣先を地面に向けて持ち、翼を広げて飛び立つ。
「2人を分断します――!」
集団にそう声をかけて、地面に剣を押し当てながら滑空をすると、地面に巨大な亀裂が走る。その行動に、全員の視線がシルヴィアに集まる。
「な、なんだぁ!?」
「狙いは俺達らしいぜ!」
「悪いがお前達の相手はこっちだ!」
「――闇の吹雪!」
そう言って2人それぞれが、獲物を見つけた猛獣の様に襲いかかり引き離して行く。そんな4人を背に。残りの面々を見つめ返す。
「ごめんなさい急にこんな事をして。あの2人がど~~しても、勝負をしてみたいって止められなくて……」
「モット切リ刻ンデヤレヨ!」
「チャチャゼロちゃん、そんなこと言っちゃダメだよ!」
慌てて頭を下げて謝罪をする。怒ってるよね?こんな事いきなりしちゃったし。
「あぁ、要するに有名税というわけか」
「敵意は無いみたいですから、放っておいて問題無いでしょう」
「そうじゃな」
「師匠!良いんですか!?」
「え!放っておいて良いの!?」
逆にびっくりだよ!絶対怒られるって思ってたのに!これが戦争の悲しさというやつなのかな?違うよね?
「いや、最近調子に乗ってるから、実際良い薬だろう」
「あ、あははは……」
「ところで貴女は、もしや【銀の御使い】ですか?」
と、急に核心を突くアルビレオ・イマ。
「えぇ!?何でそんな古い名前を!どこかで会いました?」
「アル。その【銀の御使い】とは何だ?」
「ワシも聞いた事があるの」
「ゼクトさんも!?」
何だか私の方がびっくりさせられてばかりだよ!びっくりさせちゃうだろうな~って思ってたんだけど、逆ドッキリですか!?
「いえ、昔、救世のために旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)から、こちらへやってきた天使が居たという逸話がいくつか残っていましてね。なんでも、小さな女の子ばかり集めていたとか何とか」
「集めてません!助けた子も居るけれど、シスター見習いの子達とかがほとんどだと思います!」
「本物っぽいな……」
「天使って実在したんですね……」
「オイ、ハメラレテルゼ」
「――あ!」
か、鎌をかけられたー!?この人ずるい!温和そうな顔をして、やることがフロウくんみたいだよ!……フロウくんが悪い子なわけじゃないからね?
「ソロソロ切リ刻ンデイイカ?」
「ダメだよ……」
「ところでその小さな子達には会わせて貰えませんか?」
「やめろアル。こっちが恥ずかしい」
あ、あははは……。英雄ってこんな人達だったんだ。
予想していた英雄像とのあまりの違いに、乾いた笑いが止まらなかった。
「オイオマエ、ソノ刀クレヨ」
「断る」
チャチャゼロちゃんも遠慮しなさ過ぎだよ……。