青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

23 / 85
第21話 最後の転生者

「――と、言うわけだからお前らには転生してもらう!――転生特典もあるぞ!」

 

 フム、転生……か。これほど非現実的な言葉を聞くとは思わなかった。だが真実ではあるならば研究が続けられる。それならそれで問題は無い。

 

「特典……、しかし状況しだいでは研究データが持ち出せるか?」

 

 眼前の筋肉質の男。――自称神に視線を送ってから思考に耽る。

 

「チートも無敵も不老不死でも何でもありだ!もちろん原作介入もOK!」

 

 チート?聞かない言葉だがズルという事か?なじみが無いな。しかし何でも有りならばこれはチャンスとも言えるのだろうか。それならば、何とかなるか。

 

「転生先の世界は『魔法先生ネギま!』変更は認めない!」

 

 魔法?これはまた非現実を極めたな。しかし彼が真実に神であると言うのならば、そう言う事もありえるか。フム、それならば、別の角度からのアプローチも可能か?

 

「死後、そして転生、何でも可能なら俺の研究データの資料。そして実験装置は持って行けるのか答えて欲しい」

「もちろん可能だ!ただ魔法世界だからな!データは損失しない資料化して影魔法の倉庫に入れてやろう。実験装置は固有魔法化して、再現出来るようにすれば良いな?」

 

 魔法……か。いきなり使わされるとは、興味深い。だが、しかしおいそれと……フム、今は理屈に拘っている時ではないか。持っていけるのならばそれで良いだろう。

 

「あぁ、問題ない。後は精々長生き出れば良い」

「ならば長命種も付けよう!これ以上無ければ泉に飛び込め!」

 

 フム……。非現実が立て並べられたが、そこまで付くならば問題を感じない。魔法がどれだけ文明に関わって体系化されているかは気になる。しかし倉庫の魔法とやらで実質どうにでもなるか?

 

「では行くとする」

 

バシャン

 

 そう言うと静かに飛び込み、泉の波紋はやがて穏やかになった。

 

「くくく、無事に研究できると良いな!」

 

 

 

 

 

 

「シルヴィア、この前転生者の情報が出たって言っていただろう?どうやらアリアドネーの変な子供で間違いなさそうだぞ」

「ほんと!?どんな子なの?」

 

 今は1999年。世間はノストラとか言う人で盛り上がってるけど、未来が続く事を知っている私達から見るとなんて言うか……。教えてあげたいけれど良くこんなに騒げるな~という感じです。

 

 それはともかく、転生者の大まかな情報が出ました!内容は――。

 

 

・名前 エミリオ××××

 

・種族 長命亜人種 男性

 

・転生特典

 記憶の持ち越し。影魔法の倉庫。××××固有魔法。

 

・枷 『××××』(仮称)

 

 

 女神様は大まかにって言ったけど、大まか過ぎて本当にどこの誰か分からないよ!

 でもフロウくんが、名前と種族。影魔法の使い手まで分かれば、情報屋なら探せると言われて、結果を待ってみる事になりました。

 

「とりあえず、生まれてしばらくして奇病持ちだって分かったのもあるが、影魔法を使った上に、変な魔法を使ったそうなんだ。アリアドネーのそこそこの名家らしくてな。学者の家系だそうで家族は一時喜んだものの、病気を聞いて愕然としたらしいぜ。多分その病気が『枷』だな」

「変な魔法って多分この、『××××固有魔法』ってやつじゃないかな?とりあえずアリアドネーに向かうよ!」

「あぁ、気をつけて行ってこいよ」

 

 

 

 

 

 

 ――独立学術都市国家『アリアドネー』、とある病院で。

 

「先生!どういう事ですか!」

 

 そう言って心の底から問いかける一組の男女がいた。

 

「『先天性マナ減少病』あるいは、『先天性マナ枯渇病』とでも言うのでしょうか。今までに例を見たことがありません。ご子息は大変優秀な力をお持ちの様だ。しかし生まれつき魔力の器が小さい。そのために長く活動が出来ない……」

「そんな……!あぁ、エミリオ!」

「大丈夫!きっと大丈夫だ!大人になれば身体も丈夫になるさ!」

 

 悲痛な面持ちの妻を、夫が支えるように励ます。

 

「先生!大変です!例のお子さんの部屋にあの【癒しの銀翼】が尋ねてきて!しかも見たことが無い治療魔法を!それから患者の顔色が明らかに良くなってます!」

「なんだと!?そんな馬鹿な!」

 

 医者と夫妻は慌てて病室へ向かった。

 そして――、奇跡を見る事になる。

 

 

 

 

 

 

「貴方がエミリオくん?」

 

 そう問いかけるも、赤ん坊に応えられるはずも無く、ただその視線だけが交わった。

 

「う~ん。この本見える?見えたら何か反応して欲しいかな?」

 

 

・名前 エミリオ・C・O・イアス

 

・種族 長命亜人種 男性

 

・転生特典

 記憶の持ち越し。影魔法の倉庫。実験装置具現化の固有魔法。

 

・枷 『病弱、先天性マナ枯渇病(仮)』

 

 

 本の裏表紙の内容を見るなり眼を細めて理解したような瞳が見て取れた。

 

「読めてる、よね?でも会話が出来ないんじゃ……あ!念話の魔法を使うから、心で考えて、話してみてもらえるかな?」

 

 そう言って念話の魔法を使う。

 

(もしもし?エミリオくん?聞こえてるかな?)

(……あぁ。問題ない。これが魔法か。大したものだ)

(年の割りにはすごく淡々としたしっかりした声だねぇ~)

(こう見えて生前は45だ。お嬢さんより年上のつもりだ。君の歳が見た目通りならばだが)

 

 見た目通り……。うん、まぁ少女にしか見えないからねぇ~。

 

(う~ん。一応これでも900年くらい生きてるかな?でも前世は16だったんですよ)

(フム、では年上になるか?私の話し方は癖でね。容赦願いたい)

(あ、ぜんぜん気にしませんよ!私も900歳って言われても、まったく実感は無いんです。って、世間話してる場合じゃなくてですね!)

 

 ハッと我に返る。そして転生時の事実、自身が天使になった経緯、この漫画の世界の説明、他の転生者の説明をする。彼が生前には年上だったと聞くと、無意識に敬語で話していた。

 

(なるほど。私は研究さえ出来れば問題ない。病気を治して貰えるならそれで良い。そうだな……何かあった時、私の研究が役に立てば、協力する事を約束しよう)

(そんなに律儀にならなくても良いと思いますよ~?『枷』を外す以外に何か身体にしておいて欲しい事ってありますか?)

(そうだな。身体の成長を若干早めて欲しい。それと身体的に若い時期を不自然ではない程度に長く。もうこれで十分過ぎる)

 

 欲の無い人だね~。本当に研究さえ出来れば良いんだ?

 

(じゃぁそれでやりますよ?)

(あぁ、頼む)

 

 そう言うと本を裏返し、背表紙に手を当て『セフィロト・キー』を召喚する。

 

「起動準備……。適応完了……。行きます。『リライト』!」

 

 そう唱えると、セフィロトの描かれた杖は光の粒子になってエミリオの身体に吸い込まれた。

 

「うん、これでちゃんと治ったはずですよ!」

 

 そう言ってエミリオに、結果が書かれた本の裏表紙を見せる。

 

 

【『セフィロト・キー』の適応完了】

 

・転生時の枷『病弱、先天性マナ枯渇病(仮)』を解除しました。

 

・不自然では無い程度に成長が早く、若い時期が長くなりました。

 

・受肉により「リライト」の影響を受けません。

 

※以下は上位神による初期設定により変更不可能です。

 

・名前 エミリオ・C・O・イアス

 

・種族 長命亜人種 男性

 

・転生特典

 記憶の持ち越し。影魔法の倉庫。実験装置具現化の固有魔法。

 

・影の倉庫

 生前の研究データが書かれた資料などを収納するための倉庫。

 

・実験装置具現化

 自身や大気中のマナと魔力で、仮想的に実験装置を再現する固有魔法。

 1度具現化したものは、自らの意思で分解・再構成が可能になる。

 

 

 『セフィロト』の力を受け入れたエミリオは、顔色が見るからに良くなり、バテ気味だった体調も落ち着いた様だった。そして最後の役目を終えた本が光の粒子となり、大気に溶け込む様に消えていった。

 

(うむ。問題無いようだ。感謝する。用があればいつでも尋ねてきて欲しい)

(ええ、こちらこそありがとうございます。現世の家族も心配していると思うので――)

 

ガチャン!

 

 唐突に何かを落とす音が聞こえた。

 

「まさか……貴女!せ、先生ー!先生ー!?」

「え、あ、あれ!?」

 

 ど、どうしよう。何か騒がれちゃうかな?

 

(俺の事は気にしないで良い。騒ぎになると面倒だろう。行ってくれ)

(あ、はい。それじゃ失礼しますね。またいつか!)

 

 そう言うと認識阻害の魔法を使って窓から飛び出す。それから数分の後、喜びに泣き崩れる夫婦と、不思議そうにする医者と看護士いた。

 

「エミリオ!エミリオ!?あぁ、顔色がこんなに良くなって!」

「し、信じられない!まさに奇跡だ!」

「脈拍も安定。魔力量も問題が無い。一体、【癒しの銀翼】はどんな魔法を使ったというんだ……」

 

 

 

 

 

 

「――『リライト』!」

 

 その言葉と実行される魔法に自分の耳と目を疑った。馬鹿な”ありえない”。僕の聞き間違えか?今確かに彼女が使った魔法は、この世界を救うための魔法。だが問題はそれだけでは無い。魔法の構成がまったくもって分からなかった。『鍵』も僕が知っているものではなかった……。『リライト』。こんな偶然があるのか?

 

「接触してみるしかないか――」

 

 小さくそう呟いてから、魔法を使った人物――シルヴィアの後を追う。

 

「早いな」

 

 思ったよりも彼女の飛行速度が速かった。有り得る事とは言え、これも存外にありえない事だ。一瞬の思考に置いて行かれそうになり、飛行魔法の速度を上げる。しだいに加速し、高速で飛ぶ彼女に追いついた。そして躊躇う事無く、全身が白銀色の彼女に声をかける。

 

「君、ちょっと良いかな?」

 

 

 

 

 

 

「え?は、はい!?」

 

 だ、誰だろうこの子?

 飛んでる私に追いついてきて、しかも声をかけてくるなんて。魔法使い……だよね?

 

「少し良いかい?君に聴きたい事があるんだ」

「え、はい。良いですけど……」

 

 そう言って翼を止め返事はしたものの、少し警戒をする。けれども、上から下へと白く灰色な子。思わず自分と似通った色を持つ彼に妙な親近感を覚えた。

 

 この子、さっきの病院関係者かな?もしかして、追ってきた?

 

「あぁ、大した事は無い。さっきの魔法が気になっただけだよ。アリアドネーで習ったのかい?」

「いいえ。あれはちょっと訳があって上司から預かったものです。さっきのが最後の1本だから、もう見せられないですよ?」

「預かり物に、最後……か。嘘ではない様だ」

 

 あれ?もしかして探査魔法かけられてた?どうしよう、何か凄い警戒されているかも。でも害意のある魔法は感じないし、信じてもらう為にもとりあえずはそのまま……かな?

 

「上司と言ったね。その人はどこに居るのか出来れば教えて欲しい。あと貴女の名前も」

「上司はこの世界には居ません。それに多分来ないと思います。あと私の名前は、シルヴィア・アルケー・アニミレスと言います」

 

 そう告げると少年の半眼の目が驚いた様に一瞬見開き、そして納得したのか再び半眼に戻った。そのまま抑揚の無い落ちついた声で言葉を続ける。

 

「権天使≪アルケー≫に、魂≪アニマ≫……か。出来すぎだね。神とは本当に無慈悲な様だ。さっきの鍵は手に入れる事はできるのかな?」

「無慈悲、ですか。残念ですけど、鍵を手に入れる方法は分かりません。あれは本当に預かり物なんです」

 

 無慈悲。そう言われてマッチョ神を思い出してしまった。それに鍵の事も。もしかしたらこの子は、誰か救いたい人が居るのかもしれない。

 

「まるで君自身が神を見てきたかの様だね。まぁ良いや。僕はフェイト。世界を救うために活動をしている。もしかしたら君とは、またどこかで道を交える事があるかもしれない」

「フェイトくん……ですか。立派なんですね」

「そうでも無いよ。僕の用は済んだ。それじゃぁ」

 

 そう言ったフェイトはアリアドネーの方へ飛び去っていく。

 

「フェイトくん、かぁ。不思議な子だったな~。……よし!世界樹に帰ろう!」

 

 再び翼を広げ、メガロメセンブリアにある家の地下を目指して飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 その頃、麻帆良学園都市の暗がりで、否、闇の中で何者かの足音が聞こえた。

 

「実験は成功ネ。あとは目的の為の下準備と資金稼ぎカ」

 

 中華風のドレスを身に纏い、瞳に力強い眼差しを込めた女性がそこに居た。

 

コツコツ

 

「フフフ、待って居るが良いヨ。魔法使いさん達」

 

 そうして1人、闇の中へ消えて行った――。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。