「ふへぇ~~……」
「……おい。何だそのだらけきった顔は」
「え~~?なんか、気が抜けちゃって~」
「教会の奴等が見たら泣くぞ、その顔」
こんにちは、おやすみなさい。今はエヴァちゃん達の家に居ます。最後の転生者を見届けて、家に帰ってきて皆に説明したら、何だか凄く気が抜けちゃった。緊張の糸が切れたって言うのかなぁ?
「うぅ~~ん……」
「私のソファーでごろごろするな!どうせするなら家に帰れ!」
「シルヴィア……気晴らしにカフェテリアにでも行ってきたらどうだ?」
「はぁ~~~い」
そう言われてカフェまで移動。
この麻帆良もいつの間にか大都市みたいになりました。
それなり大きさの学校が1つだけが建つのかと思ったら、小・中・高・大学と一貫教育が出来て寮まで完備。いろんなお店が立っていてここだけで暮らして生きていけちゃうくらい。
最近出来た超包子(チャオパオズ)って中華店が、人気をじわじわ上げているそうです。
そう考えつつもカフェで注文してテラスの席に座り、ぼーっと過ごして居た。
側道を走る自転車を走って追い抜いていく”歩行者”を見て「またかよ……」と心で呟き、顔を伏せる。
「相変わらず変な学校だ……」
私がこの学園で生まれ育って10年になる。けどな、埼玉県って日本の首都じゃねぇよな?なんで東京の繁華街よりこの麻帆良って賑わってんだ?しかも観光地リストには乗ってない、馬鹿デカイ木とかあるし!
「第一、誰も気にしねぇのも有りえねぇだろ!?」
感情が高まって思わず声が出る。けれどもそれだけだった。だれも注目しない。誰も不思議に思わない。自身の行為と周囲に苛立ち、ぷるぷると震える手で額を押さえる。
「いや、口に出しても、いつもと変わらないか……」
諦め。そんな気持ちと共に言葉を出してから再び顔を伏せる。
「学校も終わったし。飲み物買って帰るか。今日はどこの板が上がってっかな」
得意なパソコンで引きこもる。そんな毎日だった。特に意識する事も無く、足取りを見かけた全国チェーンのカフェに向ける。飲み物だけ買って帰ろう。それだけだった。ただそれだけの事が、彼女の運命を大きく変える事となる。
「すみません、カフェ・オレ1つください」
店舗に入るところで、少し間延びした声で注文をする声が聞こえた。そのまま先客は品物を受け取りレジから離れていく。
私もカフェ・オレにすっかな。まぁ、ネットやってたら味なんて気にしないけど。
特に理由も無く、流されるように注文をしただけだった。飲めるものなら何でも良い。そんな気持ちと共に、暗く鬱屈した声でレジに向かって注文をする。
「……すみません。カフェ・オレ2つ。テイクアウトで」
「ハーイ!レジの横でお待ちくださーい!」
店員の活気に満ちた声が聞こえる。むしろ皮肉でしかないなんて思いながら、ふと何となく店内と見回す。そこでテラス側の席に、あまりにも場違いな白いゴシックドレスを着た美少女がいた。
「ちょっと待てテメェ!」
「お客様?いかがなさいました?」
「……え?あ、何でもないです」
目立ちたくない。そんな気持ちと共に店員に断りを入れる。一瞬躊躇ってから再びテラス側の席に視線を向けて考える。
やっぱり、おかしいよな?どう言う事だよ。何だあの美少女。場違いにも程があるだろ!?ゴシックドレス……だよな?しかもコスプレに使うような安い生地じゃねぇ。
素材は明らかに上質なもの。しかも着慣れた感じがする。ぼーっとしてるが、どう見ても本人のレベルも高いなのに誰も注目して無いとかどういう事だよ!?またか、また私がおかしいのか!?チクショウ。
「お客様。ご注文のカフェ・オレ2つ。テイクアウトになりま~す!」
「あ、はい」
カフェ・オレを受け取って代金を支払い店を出る。これ以上この場の空気に触れたくなくて、早々に逃げ出した彼女は気付いていなかった。唐突に声を上げて、不思議に感じない店員。不思議に感じない客。その中でただ1人だけ「どうしたのかな?」と思った白い女性が居た事に。
その原因は認識阻害の結界。ここ麻帆良学園が魔法使いの麻帆良であるために、一般人には不思議な事が起きても「常識的な行動」と誤認させ、魔法使いの露見を防ぐ、魔法使いの為の大型結界のせいだった。
そして翌日。日が変わろうが例え戻ろうが、今日になっても結果は同じ。同じ現実。眼が覚めても変わらない朝。「変わってたまるか!」ってのもあるが、ここの常識はおかしいよな?ちょっとくらい変わってくれても良いんじゃないかって思うんだが……はぁ。
「まぁ良い。いや、良かねぇけど。遅刻する前にメシ食って出かけるか……」
俯きながら学校へ行く。いつもの光景。いつもの異常。変わらない現実。そして、帰宅途中。
「あの、カフェチェーンか……」
気が付けば何故か足を運んでいた。違うと分かっていた、もしかしたら何か変わるんじゃないか。やっぱり変わらないのかもしれないけど――。そんな淡い気持ちと共に。
「いらっしゃいませ~!」
店員の声を気にも留めず店内を見回す。昨日と同じくテラス側の席へ。不安と期待を込めながら白い姿を探す。瞬きするのも惜しみながら、少し興奮した気持ちの自分に気付く事も無く。
「……居た!」
やっぱりあの美少女だ!それに周りは何も言ってない。何でだ!男子だって居るのに、一目も見無いとかどういう事だよ!気づいてねぇのか!?
「お客様!ご注文をどうぞ!」
何事も無かったかの様に。事実、何事も無く店員が声をかける。
「あ……。カフェ・オレ……」
「ハイ!店内ですね!」
「え……。ま、いっか」
「はい!どうぞ~!」
店員の言葉で我に帰る。これだけは常識的な速さで出てきたプレートとカフェ・オレ。店内での受け取りを認めてしまったため、仕方が無く受け取って代金を支払う。
「満席じゃねぇか……」
そう呟いてからつい白い彼女に視線を送ると、眼が合った。
「――うっ!」
ぐ……眼が合っちまった。けど他に席は空いてねぇし。
どうする?と、自問自答をしながら軽くパニックに陥っていた。そのため彼女には、無理やり持ち帰ると言う選択肢が出てこなかった。しょうがないと思いつつ声をかける。
「……すみません。相席しても――」
「うん、良いよ~」
な、なんか、見た目美少女なのに軽い感じだな。随分とモテそうだが、言い寄ってくる奴いないのか?……もしかしてまたか?また私がおかしいのか?
そう考えて顔を伏せ、カフェ・オレをひと口啜る。
「……すみません」
「え?いきなりどうしたのかな?」
何謝ってんだ!何もしてねぇし、困惑させてんだろ!
ん?マテ、困惑?
不思議を感じて相手を見る。すると――。
「昨日いきなりレジで怒鳴っていた事かな?びっくりさせちゃったって思った?」
「――!?」
この人は、もしかして、常識が通じる人か!?いや、マテマテ。早合点はマズイ!たまたまかもしれねぇし。
「いえ、何でもありません」
心の動揺を悟られないように模範的な謝罪をする。その様子に白い彼女は、不思議そうな顔をしてカフェ・オレを飲んでいた。
もしかして、もしかして本当に常識人?でももし、もし違ったら……。
裏切られる事への恐怖。誰も自分を認めてくれない。誰もが自分を否定する。それでも、やっと見つけたかもしれない常識人を目の前に、尋ねられずに居られなかった。
「あの木って……大きいですよね……」
躊躇う様に、願う様に。
小さく、小さな声でそう尋ねる。さながら神に祈るかの様に。
「世界樹の事かな?大きいよね~。始めてみたときはびっくりしちゃったよ」
「――!!」
この人は、常識が通じる。やっと出会えた。『希望』。その言葉が一瞬身体を支配する。しかし。
あ、ちょっとマテ!ちょっとマテ私!だからってどうするって言うんだ!
『この都市って変ですよね!木が大きいですよね!』
この人にそう言って現実が変わるのかよ。馬鹿馬鹿しい……。
「すみません、なんでもないです」
「……そう?ずいぶんと百面相してたけれど?」
そうか、そんな顔してたか……。だからって、現実が変わるわけじゃねぇんだよな。
「こんな所にいたんですか?探しましたよ!」
「シスターシャークティ?どうしたんですか?」
シスター!?あぁ、そういえば麻帆良には教会もあったな。無駄に馬鹿デカイのが……。
「今夜ちょっと教会の方へ来て頂けますか?貴女が来るとなれば弟子達も気合が入るというものです!」
「シスターシャークティ。私は広告塔では有りませんよ?頑張る、頑張らないは、本人の心次第です」
「それでもお願いしたいのです!」
「分かりました。それでは20時に教会に参ります」
了解の言葉を聞くと、少し上気した顔で満足そうに頷いてシスターは帰って行った。
今のシスターは何だ?弟子ってやっぱりシスターの事だよな?20時に……何かあるのか?行ってみるか?とりあえずここは――。
余計な事を言われる前にカフェ・オレを一気に飲み干す。
「すみません。帰ります」
「え?あ、うん。気をつけてね?」
気をつけて……か。
20時。教会周辺――。
「いやいや、シスターシャークティ!いくら何でも【銀の御使い】とか呼んでこなくても良いんじゃないっすかね!?」
「いいえ!貴女方が普段どれだけ真面目にやっているか、確認する良い機会です!それからちゃんと敬語を使いなさい!」
「ミソラ……がんばれ」
「アイアイサー!」
何だ……あれ?春日美空?あいつシスターだったのか?てかマテ、銀の御使いって?御使いって言ったら、天使って意味だよな?あの白い人が?
確かに天使みたい(?)にすっごい美少女だったが。いくらなんでも、そりゃねぇだろ?
「別に私が居ても居なくてもね?自分のペースで頑張る事が大切だと思うよ?今出来なくても、できる事から始めたら良いと思うの」
「ほら、こう仰っているのです!頑張りなさい美空!ココネ!」
「へーい」
「わかった……」
暗がりの中、表立った好奇心に突き動かされ、眼を凝らしてじっと見る。
あの人。昼間の白い人だよな?あの白いドレスは目立つな。ってマテ!あれって本物の翼か?半透明だが、動いてるよな?どういう事だよ、何が起きて――。
ゴアァァァァァァ!
「ひ!?」
唐突に何かの鳴き声が聞こえた。それは今までに聞いたことも無く、この世のものと思えない叫び声。声を聞いて思わず座り込んで縮こまる。驚きと不安、そして恐怖に体が震える。
「な、何だよ今の声!」
思わず声を荒げて教会の方を向く。――が、先程まで居た場所には誰も居なかった。
「え……。嘘だろ?」
そう思ってもう一度見るがやはり誰も居ない。恐怖感が全身を支配する。普段の常識の無い行動への恐怖とは違う。今まさに命の危険があるのでは無いか?恐怖と疑心が心と身体を支配した。
「う、嘘だよな?ドッキリとか……」
グワァァァ――。
再び聞いた事が無い叫び声が聞こえて――消えた。そうして、声がした方向を振り返ると、見た事が無い生き物が居た。
「あ、ぅ……あ、ああぁぁぁぁぁ!?」
完全にパニックに陥った彼女には、ただ叫ぶしか出来なかった。
「どうして一般人が!?」
「シスターシャークティ!マズイっすよ!」
「そんな事は分かってます!」
マズイ――。マズイ!マズイ!マズイ!マズイ!マズイ!マズイ!
確かに、彼女の言う通りだ。だが自分はシスターでも無いし勿論エクソシストなんかでもない!どうすんだよこれ!?
完全にパニック状態になり、危険と警告だけが頭を駆け巡る。
「光の楯!遠隔展開10層!――魔法の射手!収束・101矢!」
そして、声が聞こえた。目の前には光をまとって翼を広げ、心配そうな顔の天使がいた。