青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第24話 長谷川千雨(3) 世界と自分と真実

「ただいま~」

「……お邪魔します」

 

 世界樹の側にある私の家に帰ってきました。

 千雨ちゃんは落ち込んでるのか警戒してるのか、ちょっと声が硬いかな?

 

「おかえりシルヴィア。って誰だそいつ?また小さい女の子連れてきたのか?どこかの古本野郎に何か言われるぞ?」

「ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでよ!ちゃんと理由があって連れてきたんだよ!」

「……また?」

 

 もう、フロウくんてば!どうしてそう言う棘のある言い方をするようになっちゃったのかな?

 千雨ちゃんが余計に警戒しちゃってる気がするなぁ~。

 

「えっと、大丈夫だよ?何百年も昔の話だからね?シスターとかその弟子達とかの話だから、私は変な事したりしないよ!?」

「……なん、百年って?少し年上にしか見えないんですが……」

「相変わらずボケてるな……。とりあえずそいつの説明してくれよ」

「あっ!う、うん。この子は長谷川千雨ちゃん。シスターシャークティの依頼でね。教会の子の激励に行っていたんだ。そこでこの子がその、一部始終を目撃しちゃって……。一般人なんだけど、どうも人払いとか認識阻害のレジスト体質みたいなんだよね」

「はぁ?それで連れてきたってのか。学園の生徒なら学園長がうるさくねぇか?」

「それはもう大丈夫。学園長と3人で直に話し合って、こっちの身内にするって事で話はつけてきたよ」

「そうか。じゃぁちゃんと面倒見てやれよ」

「うん、もちろん。詳細は千雨ちゃん次第だけれどね」

「あ……はい」

 

 う~ん。緊張してるな~。とりあえず世界樹の事を説明しないとダメかな?あ、その前に魔法の事をちゃんと教えて……。どういう風にこれから生きていくか決めてもらって、弟子になりたいって言ったら――。

 

「……こんにちは、シルヴィアさん。フロウさん。何だか知らない気配がしたから、見に来てみたんですけど、どうかしました?」

「あ、麻衣ちゃん!」

 

 思考に耽っていると、いつの間にか麻衣ちゃんが家にやってきた。

 

「なっ!か、体が透けて!?」

「……あれ?この子って」

「こんばんは、ちょっと学園でトラブルがあってね。この子を預かる事になったんだ」

「……そう、なんですか?でも、この子って、ちうたんですよね?」

「な、なんでハンドル知ってるんだ!?」

 

 急に驚いてどうしたのかな?なんだか目を逸らして随分うろたえているみたいだけど大丈夫だよね?でも、緊張してるかと思ったらしっかり話し聞いてたんだね。それにしてもちうたんって何だろう?

 

「……え、あれ?まだコスプレHPは作ってない……んですか?あれ、まずかったかな?」

「何でバレてんだ……どうしてこうなった……」

 

 そう言って両手と膝を床について、項垂れる形でブツブツと何かを言い始めた。

 

「……ってコスプレ?千雨ちゃんコスプレ趣味なんだ?」

「ち、違う!いや、違く無いけど。違い……ます」

「くくく、無理に敬語使わなくて良いぜ。それからシルヴィア。お前大当たり引いたな。麻衣が覚えてて本人が知らないって事は、そいつ重要人物だぞ」

「「え!?」」

 

 じゅ、重要人物って、もしかして原作の!?もしかしなくても、何かまずい事しちゃったかな?

 

「ど、どうしよう!なんか、未来に影響あるのかな!?」

「さぁ?修正力とかあるんじゃねぇか?」

「あの、なんか、サッパリなんですけど……」

「あ、あ~。ごめんね。でも、どう説明したら……」

「魔法があるってのは分かりました。それで認識が変になったのは分かります。でも、まだ何かあるなら、私はちゃんと知りたいです」

 

 千雨ちゃんは強いなぁ。今まで魔法の事で認識を狂わされて大変だったのに、ここでそんな事が言えるなんて。さっきと違って目線もしっかりしてるし、これなら話しても大丈夫そうかな?

 

「うん、分かったよ。でもこれは最終確認。最終ライン。聞けばもう一般人じゃ居られなくなるよ?それでも、聞いてしまう?聞くなら全てを話すよ?」

 

 そう問い掛けてからもう一度千雨ちゃんと視線を交わす。

 

「学園長の口ぶりからしても、聞かない方が余計に危険なのは分かりました。それに、そこの緑髪の人が重要人物って言うからには、これ以上何かあるんですよね……?だから、教えてください」

 

 そう言って深々と頭を下げて懇願をする。

 

 うん……。ちゃんと受け止める覚悟はありそうだね。つらいと思うけど、受け止めて欲しいな。この子には幸せになって欲しい。

 

「うん。じゃぁまずこの世界には魔法があるって言うのは、もう分かってるよね。人を惑わす魔法。戦う為の魔法。守るための魔法。癒す為の魔法。簡単に想像出来る事は、そういう魔法で大概の事はできちゃう。でも、この世界にはもっと大きな秘密があるの」

「今の話だけでも、備えが無ければ十分危険だって分かりました。でも魔法よりもっと大きな秘密が?」

「うん……」

 

 頷いて一呼吸。ここからは私達の秘密、この世界の秘密。

 

「まず、ここに居る千雨ちゃん以外は、全員人間じゃない。そして何百年も前からこの世界で生きているの。仮に人間だったとしても、この世界の人間ではないの」

「シルヴィアさんと……。そこの半透明の人は分かりますけど、そっちの人も……?」

「あぁ、フロウって言う。こう見てもドラゴン種だよ。角でも生やすか?」

 

 そう言って立ち上がり、角と翼を生やしてみせる。

 

「んなっ!?ほ、本当に!?」

「……私は、世界樹に宿ってる木霊です。菜摘麻衣って言うんですけど、この世界の生まれじゃなくて、別の世界から来ました」

「別の……世界?シルヴィアさんも?」

 

 私の方を真剣な目で見てくる千雨ちゃん。

 

「うん。私の本質は天使。身体は麻衣ちゃんと同じで精霊で出来てるの。そしてね……みんな、魔法がない世界で生きていた。そこで一度死んで、神様に出会って、この世界。……この魔法使いの物語の世界。漫画の世界に転生者として送り込まれたの」

「ま、まんが……?」

 

 あぁ……やっぱり愕然とした表情をしちゃってる。自分が物語の中の登場人物だって言われても、困っちゃうだろうし、信じられないよね。

 

「でもね。これだけは分かって欲しいかな。私達は今ここで確実に生きていて、この世界は実在している。不確かなものじゃないって事。間違いなく生きているって」

「……それは、学園長は、知ってるんですか?」

「ううん。知らせて無いよ。この世界に生きている人で、知ったのは千雨ちゃんが2人目」

「もう、1人は……?」

「エヴァンジェリン。吸血鬼だ。ここからちょっと離れた家に住んでるぜ。そいつの双子の妹が俺達と同じ転生者だ。会ってみるか?」

「きゅ、吸血鬼!?」

「大丈夫。エヴァちゃん達は怖く無いよ。血を吸ったりもしないから」

 

 そうだよね、普通は驚かれちゃうだろうし。一気に話すにしても、もうちょっとゆっくりでも良かったかなぁ~。

 

「会わせてください……」

「え、大丈夫なの?」

「はい……」

「うん、じゃぁ、ちょっと呼んでみるね?」

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 天使に精霊にドラゴンに吸血鬼……。何でも揃えりゃ良いってもんじゃねぇだろ。だけどどう見ても真実だ。正直魔法はもうどうでも良いが、ここまで空想のオンパレードとかありえねぇだろ?

 ……うん?魔法はもうどうでも良いのか?なんかおかしくなって来たな。大丈夫か私?そうかダメか。

 

「今連絡したよ。すぐに来るって言ってるから、ちょっと待っててね?」

「あ、はい……」

 

 そうか、吸血鬼が来るのか。一体どんな奴なんだ?やっぱりホラー映画みたいな奴なのか?

 ふ、ふふふ。何だ余裕そうじゃないか。とりあえず一般人に戻れないのはもう分かった。こんだけ秘密を聞いて、一般人です。何て言える訳ねぇな……。

 

「来たぞシルヴィア。そいつか?長谷川千雨とか言う奴は」

「こんばんは~」

「ケケケ、ガキジャネェカ」

「こんばんは、皆いらっしゃい」

 

 え……?こいつら、明らかに同い年、だよな?いやマテ、シルヴィアさんが何百年も生きてるって言ってんだから、こいつらも見た目通りじゃないって事か!?

 と、とりあえず挨拶か?話通りなら、いきなり取って食われるって事は無さそうだよな?

 

「こ、こんばんは。ハジメマシテ」

 

 って、声上擦ってんじゃねぇか!腕も震えてるし!

 

 そう思いつつ、震える右手を背中に隠す。

 

「くくく、こいつか?人外の巣窟に喜んで飛び込んできた一般人というのは?喜べ長谷川千雨!これから貴様は後悔という言葉を知る間も無く、闇の魔王の下僕になるのだからな!」

「ドコカラ、切リ刻ンデヤロウカ?」

「――な!?」

 

 話が違うじゃねぇか!何だよこいつ等、マジでヤベぇ奴じゃないのか?

 

「エヴァちゃん……。そんな台詞をニヤニヤしながら言っちゃダメだよ?」

「お姉ちゃん、いぢめちゃダメだよ~?」

「な、何だ!私が悪いのか!?アンジェまで!?」

「あ、あの……?」

「エヴァなら悪乗りしてるだけだ。気にすんな」

 

 そ、そうか。そうなのか?要するに……、悪ふざけか……。

 

「はぁ~……」

 

 深いため息を吐きながら、その場に座り込んだ。

 

「わ、悪かったな!ただその何だ。第一印象という奴は大切らしいからな!」

「お姉ちゃんは励ましたかっただけなんだよね~?」

 

 そうなのか?ツンデレなのか?……何だかメチャクチャ疲れたぞ?

 

「1つだけ聞かせてくれよ……」

「なんだ?」

「この世界で生きていて、ツラくないのか?」

「何がだ?私にはアンジェが居る。守るべき大切な家族が居る。そのための力もある。例え物語から生まれた世界だろうと何だろうと関係ないな」

「そうか……」

 

 それを聞くと何だか余計に力が抜けた感じがした。

 

「秘密って言うのは、これで全部なのか?……なんですか?」

「ううん。後1つ、これは学園との問題で、麻帆良と周囲の土地は私達が貸していて、その際に細かな契約があってね、その関係で学園側に居るのか、私達の身内で居るのかは、凄く立ち位置が変わるんだ」

「あ~……。なるほど」

「後で契約内容とかは説明するから、とりあえず今日は泊まっていく?明日学校休んでも大丈夫だと思うから、一度休憩にして、それからまた話した方が良いと思うんだ?」

「……あ、はい。おねがいします」

 

 それから一度休憩。お風呂を借りてそのまま泊まる事に。エヴァンジェリンって人からやたら可愛いパジャマを着せられたけど、気にならないくらい疲れていた。

 

 こうして嵐の様に魔法使い1日目生活は過ぎていった――。


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