青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第29話 魔法使いは計画的に

 ネギくんの赴任から数日が経って、その行動は段々と見過ごせない状況になってきた。教室や授業での様子を見ていたエヴァちゃん達の話を纏めると……。

 

 再び教室で武装解除魔法が暴発。脱がされてキレた明日菜ちゃんが、ネギくんを睨んでいた。

 

 その後、ネギくんがホレ薬を作ったらしく、明日菜ちゃんに渡そうとしたけど自分で呑むことになり、魔法抵抗が無い一般生徒に効き過ぎて大騒ぎなった。

 

 高等部のドッジボール部とネギくんの所有権(?)を巡って騒ぎになり、ネギくんが無意識に武装解除魔法をボールにかけて騒ぎになる。などなど、頭が痛くなる内容ばかりだった。

 

 魔法の秘匿を行う事は一般人と魔法使いの境目を作る事が目的になっている。

 大々的に世間に公表されれば文明的な混乱がおきてしまうし、差別意識に選民思想を持つ魔法使いなんかが台頭したら大変な事になってしまう。それに一般人じゃ抵抗出来ない、巨大な武力としての危険な面も持っている。

 これらは極端な例になるけれども、その一方で医療分野に革命を齎す可能性もある。けれども、科学医療万能の現代で、医師達の尊厳の破壊や失職を招く可能性もある。

 だからナギさんやタカミチくんを例に、表向きはNGO法人として影から魔法を使う場合もあるんだよね。つまり現代の魔法使いは、秘匿を行う事によって科学社会と共存しているという事。

 

「それにしても、ちょっと目立ち過ぎじゃないかな? なんて言うか予想していたトラブルとは、その、ぜんぜん違う方向の様な気がするんだけど?」

「私もそう思うよ。何のために死に物狂いで修行して来たんだ、これ……」

「見てる分には面白いぞ? 次は何をしでかしてくれるかな?」

「ね~? 面白いよ~」

「しかしマスター。アンジェ様。ネギ先生は十歳にしては良くやっているかと」

「あぁ、まぁそうじゃないか? 十歳にしてはだがな」

 

 エヴァちゃん達はネギくんを面白がってるみたいだね。意外に気に入ったのかな? 随分と楽しそうに気楽な発言をしてくれてるけど、ちょっとそういう事態でもないと思うんだけどね~。

 それに茶々丸ちゃんはネギ先生を評価してるみたいだけど、魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫の戦争や病人達を診てきたから、何だか調子が狂わされちゃうよ……。千雨ちゃんもあんなに頑張って修行してたのに拍子抜けしてる感じがするなぁ。

 

「噂は聞いてるぜ? お約束って奴だからそんなに気を落とすなよ。もうすぐあれだ、エヴァの吸血鬼騒動だぞ? やる気なんだろ、イロイロ」

「そう言えばそんな事言っていたか? やる気は無いが、どうなんだろうな? 回避不可能なら面白可笑しくやってやるさ。茶々丸も準備は怠るなよ?」

「了解しました。マスター」

 

 うん……。どうせなら穏便なトラブルの方が良いよね? 血生臭い展開になるよりは、A組の中できゃいきゃいと騒いでくれている方がましなんだけどね。

 

 

 

「シルヴィア! ちょっと良いか?」

 

 あれから数日が経って今は週末。第三保健室で仕事をしていると、血相を変えた表情の千雨ちゃんがやってきた。

 

「慌ててどうかしたの?」

「どうもこうもないって、ネギ先生と何人かが図書館島で行方不明らしい!」

「え……。何であそこに?」

「何か知らねぇけど、図書館島探検部の奴らの話だと、魔法の本とか口にしてたぞ。これって不味いんじゃねぇか?」

 

 え、それってまさか、魔法が図書館島探検部の子達にばれてるって事? そんなそぶりはなさそうだったけど、もしかして、図書館島の伝説とか噂を聞いて入って行ったって事なのかな?

 

「ねぇ千雨ちゃん、詳細は分かる?」

「あ、いや……。そこまでは流石に」

「そっかぁ。それじゃ後で学園長とかタカミチくんに確認してみるよ」

「それで良いのか? 探しに行ったりは?」

「私達がここで関わるのはちょっと不味いと思うんだ。まずは傍観して、どんな風に進んでいくのか確認しないと。けど、本当に酷い時は、ばれないようにお願いね?」

「あぁわかった。それじゃ私は教室戻るからな」

「うん。ありがとう、千雨ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 遡る事、前日の学園長室。そこでは指導教員のしずな先生が、学園長にネギのこれまでの生活態度と、先生の仕事の様子を報告していた。

 

「フォッフォッフォ。そうか、ネギ君はなかなか上手くやっとるか」

「はい学園長。生徒達とも仲良くしています。指導教員として見て、一応は合格かと……」

「そうかそうか。それなら四月から正式教員として採用できるかの。じゃがその前にもう一つ……。彼には課題をクリアしてもらおうかの」

 

 そうして学園長は一枚の紙を用意し、封筒に入れてしずな先生に預けた。

 

 

 

「何だか最近、皆さんぴりぴりしてますね~」

「うん、もうすぐ期末テストだからね」

「来週の月曜からだよ」

「えぇっ!? それってうちのクラスもじゃ!?」

「あはは~。麻帆良はエスカレーターだからね~」

「うちのクラスはず~っと学年最下位だけど大丈夫だよ~」

 

 期末テストと最下位の言葉を聴いて急に慌て出すネギだが、2-Aの面々はどうでもよさそうに笑っていた。

 それは大丈夫じゃないんじゃ? と思いつつも、こういう時に効く魔法があった様な? と考えに沈みこみ、思考に耽っていると突然に横から声をかけられた。

 

「――ネギ先生」

「はい!? あ、しずな先生」

「学園長が貴方にこれをって……」

「え、僕への最終課題!?」

 

 そんな事は聞いていなかった。今更追加の課題が出てくるなんて予想外だと慌てるネギだが、慌てていても仕方が無いと気持ちを切り替えて、受け取った封筒を開封すると、そこには……。

 

『次の期末試験で2-Aが最下位脱出できたら、正式な先生にしてあげる。 麻帆良学園 学園長 近衛近右衛門』

 

「な、なーんだ! 簡単そうじゃないですか~」

「そ、そう?」

「どうしたのネギ君~~?」

 

 悪のドラゴン退治や、新しい魔法を二百個習得などと考えていたネギから見たら、随分と簡単そうに見えた。そのまま緩みきった顔をするが、これがまたトラブルの始まりだった。

 この夜、ネギは明日菜をはじめとする図書館探検部の面々達に誘われて、広大な土地の図書館島へ魔法の本を求めて進入し、そのまま奥底へと入り込んでしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ学園長? ネギくんと数名の生徒が行方不明みたいなんだけど、どうしたのかな?」

「なぁに心配いらんよ。もう戻ってきとるぞい」

 

 そして期末テスト当日、月曜日の朝。ネギくん達の様子を聴きに学園長室を訪ねると、頭に絆創膏を張った学園長が、事も無くそう言い放った。

 

「そう? 心配というよりは、何をさせてたのかが気になるかな~?」

「それはどういう意味かの? ネギくん達は図書館で勉強しておっただけじゃよ?」

「ネギくんよりも、数名の生徒の方が気になるかな? ネギくんの魔法暴発の癖はまだ治ってないみたいだし、魔法の本って言葉も出てたみたいだよ? それに、将来優秀らしいA組の子を巻き込むつもりなのかなって」

「彼は今、魔法を封印しておるよ。今日まで含めた三日ほどの。問題ありゃせん。それに既に明日菜君にはバレておるの。木乃香は気づいていないようじゃ」

 

 まぁ、封印してるなら、図書館で勉強って言うのが本当なら問題無いかな?

 それでも明日菜ちゃんは心配かな。ばれてて放置だなんて。せめて説明位してあげないといけないと思うんだけど?

 

「木乃香の事はおいおいじゃが……。明日菜くんは自分から積極的にネギ君に関わっておる。ワシらがとやかく言う事じゃないぞい?」

「……木乃香ちゃんはお孫さんだから良いかもしれないけど、明日菜ちゃんは一般人でしょ? 千雨ちゃんみたいな事になったらどうするの? 説明もしないのは不味いと思うよ? それとも『学園関係者』として見て良いと言う事?」

「そのために『依頼』がしたいのじゃが……? 勿論受けてくれるんじゃろう?」

 

 あぁそっか、目的はそっちなんだ。上手く乗せられちゃった。これは断り辛いなぁ~。

 

「内容しだいかな? それにその口ぶりだと『学園関係者』と見なすよ?」

「構わんぞい。そこでネギ君と明日菜君に魔法使いとして実力を示してやって欲しい。方法は任せるぞい。出来れば、エヴァンジェリン君達の様な分かりやすい対決相手が良いのぉ」

 

 構わないって、ちょっと酷いんじゃないかな。それにここでエヴァちゃんに依頼を振ってくるんだ。エヴァちゃんは何か考えてたみたいだし。うん、受けてみようかな?

 

「良いよ。ただし報酬は金銭や物品ではなく、借り一つと言う事で良いかな?」

「む、何故じゃ?」

「こっちから始めた事じゃないでしょ? それにネギくんを中心にした『学園関係者』の計画。無理にこちらから関わる理由も無いんだけどな~?」

「ふむ……。無茶難題は困るぞい?」

「何かの時に融通してくれる程度。そんな所で良いかな?」

「ほ? それで良いんかの? ふむぅ……後が怖いが、それで手を打とうかの」

「それじゃ強制文書≪ギアスペーパー≫でよろしくね。期間は一年」

「うむ。これで良いかの?」

 

 学園長のサイン入りで有効期限はきちんと一年。うん、問題なさそうだね。何かあった時にこれが後々役に立つかもしれないって事で。

 

「それじゃぁ、計画を練るから帰るね。あ、ネギくんの試験が終わって、正式採用されてからが良いかな? 春休み明けとか?」

「そうじゃの。新学期になったらお願いするぞい」

「じゃぁそう言う事で、失礼するね」

 

 ふは~~。なんだかフロウくんみたいな事しちゃったなぁ。学園長と話をしてると、なんだかメルディアナに居た頃を思い出すよ。

 あの頃は、一般人にこんなの無理! って、必死になってたからね。あ、家に戻ってエヴァちゃんたちと相談しないと。とりあえず皆に念話を送って、夜に集まるようにしたら良いかな。

 

 

 

「なぜか2-Aは学年トップだったよ……」

 

 エヴァちゃんの家に集まった話し合いの一言目は、千雨ちゃんの疑問の声だった。今まで万年最下位だったA組が突然一位になったのは、ちょっと不自然だけど、まぁそれだけ皆頑張ったって事だよね?

 いつも手を抜いてるエヴァちゃんも、それなりにちゃんとテストを受けたって事かな?

 

「そうだったんだ、皆お疲れ様。とりあえずネギくんは首が繋がったね。それはともかく、学園長から依頼を受けてきたよ。内容は『ネギくんと明日菜ちゃんに魔法使いとして実力を示してやって欲しい』だって。やり方は任せるけど、エヴァちゃんに指名が入ってるよ。報酬は私が勝手に決めちゃったけど、強制文書に収めてあるからね」

「シルヴィアが決めたんなら俺はそれで良いと思うぜ?」

「それで? どんな報酬にしたんだ?」

 

 あまり興味がなさそうなエヴァちゃんだけど、報酬には興味があるのかな? ちょっと怒られちゃうもしれないって思いながら、学園長から取り付けた契約の書類を手渡しする。

 直感でしかないんだけど、これからいろんな事に巻き込まれた時の解決方法として、借りを作っておいても良いんじゃないかなってね。

 

「借り一つとして、何かの際に融通を利かせる。有効期限は一年間か。どうしてこんな内容に?」

「う~ん。何かねぇ嫌な予感がしたんだ。お金は困ってないし人員も要らないけど、何かあった時の為にって、何か引っかかったんだよね。ネギくんの何かに巻き込まれた時に、融通が利けば良いかなって」

「まぁ、何かに使えるだろ? 後は内容だな。どうする?」

「……私は、原作通りで良いんじゃないかって思いますよ? エヴァさんがネギ君の血を狙う事件をベースに考えるとか?」

 

 麻衣ちゃんの覚えてる事件だからねぇ~。一応そのままの方が良いのかな?

 

「いや、アレンジしようぜ? エヴァちょっと耳かせよ」

「何、どうするつもりだ?」

 

 そう言って黒い顔で相談を始める二人……。

 

「うーん。ネギくん無事に済むかな? 何だかとっても意地悪な作戦になりそうだよ?」

「先生、無事だと良いな。あいつらが揃って企むと、碌な作戦にならない……」

「あ、原作で茶々丸さんも戦ってたと思うので、気をつけてくださいね」

「はい、麻衣さん。忠告ありがとうございます」

「ナンダ、俺ハ、出番無シカ?」

 

 茶々丸ちゃんもか~。エヴァちゃんの従者だし、それは当たり前なのかな? チャチャゼロちゃんは出番が無かったのかな?

 

「おい千雨。ちょっとこっちのソファーに座れ」

「は? いきなり何なんだ?」

「良いから座れって、面白い事になるぜ?」

 

 ソファーにしぶしぶ移動して座った千雨ちゃんだけど、何をするつもりなんだろう?

 

「良いか? 眼を瞑って動くなよ?」

「マテ……。マジで何するつもりだ?」

「いいから瞑っておけ。眼を傷めるぞ」

 

 そう言いながらメイク道具を持って来たフロウくん。本当に何をするのか解らなくて不思議に思って居ると、エヴァちゃんが千雨ちゃんの髪を透かして結い始める。

 フロウくんは軽くメイクを施しながらエヴァちゃんとあれこれと相談をし始め……。

 

「完成だ。千雨、鏡を見てみろ」

「クックック、なかなか良い出来だぜ?」

「何したんだ? って、マテ! 声がおかしいって、何だこりゃぁぁ!?」

 

 そこにはどこからどう見ても、明日菜ちゃんの姿にしか見えない千雨ちゃんが居た……。

 

「マテって! 何だよホントに! キメェって! 眼の色まで神楽坂と同じじゃねぇか! 何をした!?」

「千雨ちゃん……だよね?」

「あ、あぁ。うゎ、喋ると変な気分になる……」

「慣れろ。それから、神楽坂明日菜の喋り方も少しで良いから真似できるようになれ」

「……せめて説明してくれよ」

 

 本当に何をしたんだろう。千雨ちゃんと明日菜ちゃんは、髪の色は似てるし身長も近いけど。これはちょっと似すぎだよね?

 

「神楽坂明日菜が使っている物とほぼ同じ鈴の髪留めに、幻術とヴォイスチェンジの魔法を施した。ツインテールは神楽坂の方が長いんでウィッグだ」

「そんでもって化粧品は魔法世界の諜報部が使うレベルの変装用だ。瞳の色は幻術だが顔立ちや目つきはかなり本物っぽいぜ?」

「……私を神楽坂に仕立てて何すんだよ?」

「あのぼーやを襲え。もっともお膳立てはするがな」

「神楽坂が一緒に居る時になるかもしれないが、出来ればネギ坊主を引き付けてからだな……。楽しくなりそうだ!」

 

 あぁ、これはダメだね……。もう止められそうに無い。私に出来るのは、後処理の準備と回復用の魔法薬の準備かな。

 

「頑張ってね? 千雨ちゃん……」

「……イヤだ…………」

 

 こうして春休みはネギくんいじめ、もとい、ネギくんと明日菜ちゃんへの修行計画を詰めていく時間に費やされていった。




 2012年9月27日(木) 記号文字の後にスペースを入力、及び地の文等を中心に若干の改訂をしました。

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