青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第36話 修学旅行(1日目) 京都へ出発

「おはようフロウくん」

「おう、おはよう。教員は集合早めなんだろ?朝飯は食うのか?」

 

 今日から修学旅行です。一応詠春さんにお願いしておいたから、あちら絡みの大きなトラブルが起きても大丈夫だとは思うんだけど、それでもやっぱり心配かなぁ。

 それに一般生徒の事だけじゃなくて、木乃香ちゃんと刹那ちゃん達の事もあるから気を引き締めていかないとね。

 

「おいシルヴィア。聞いてるのか?」

「あ、ごめん。今日はいいよ」

「そうか?食わなくて平気でもこういう時は食った方が良いぜ?」

「ありがとう。でも大丈夫」

 

 それから身だしなみを整えて集合場所の大宮駅へ出発――。と思ったらエヴァちゃん達が麻帆良中央駅で待ち構えていて、結局皆で行く事に。今の時間って教員の集合時間に合わせるための時間だから、まだ朝の5時なんだけど……。待っててくれる人が居るのは嬉しいね~。

 

「待っていろ、私の京都……ふふ、ふふふふ」

「お姉ちゃん京都好きだもんね~」

 

 あれ?もしかして待っててくれたんじゃなくて、早く行きたかっただけ?

 

 

 

 そして大宮駅に到着すると、教員の集合時間にも拘らず既にやって来ている3-Aの生徒がいた。生徒たちは挨拶を交わすと早々にネギ先生を捕まえ、京都の話で盛り上がりを見せていた。

 

「ネギくん達は朝から元気だね~。教員より早く来てる子も居てびっくりしたよ」

「まぁ、私達もあんまり人の事言えねぇけどな」

「おはようネ、皆さん。良く眠れたかナ?」

「おはよう超ちゃん。外で話しかけてくるなんて珍しいね?」

「そうでもないヨ?そうそう、茶々丸のメンテナンスに関しては万全だから、あちらでの心配は要らないヨ。良かたネ」

「了解しました超」

「そうか。良かったな茶々丸。京都では万全を尽くせ」

「はい。マスター」

 

 それって何の万全なのかな?もしかして、茶々丸ちゃんのカメラで京都の観光地を全部写真に収めろって言ってる?確かに茶々丸ちゃんは初めての京都だから、エヴァちゃんが張り切ってたりするのも分かる……かな?ううん、やっぱり良く分からないよ。そういえば、さっき麻帆良駅で怪しく笑ってたよね……。

 

「……何を尽くすんだよ。それから超。その蒸篭の山は何なんだ」

「もちろん我が超包子が誇るスペシャル肉まんだヨ♪ネギ坊主に食べさせて、イギリスにも京都にも肉まんを広めるネ。世界全てに肉まんを。シルヴィアさんも良かったら1つ食べるヨ」

「そ、そうか……頑張れよ」

「それじゃぁせっかくだから貰おうかな?」

「うむ。それじゃこれはサービスにしておくヨ」

「え、良いの?ありがとう、超ちゃん」

 

 そのまま貰った肉まんを口に入れると、思ったよりも柔らかく挽き肉と野菜の旨みが口の中に広がった。食べなくて平気な身体とはいえ、食事という満足感はシルヴィアに素直に浸透し、気分の高潮を促していた。

 

「あ、美味しい」

「それは良かたネ。今後も是非ご贔屓に頼むヨ」

 

 3-Aの生徒達と騒がしいやり取りをしつつ新幹線に乗り込み、京都へ向かって進みだした。

 

 

 

「新田先生。申告があった乗り物酔いし易い生徒達に、酔い止め薬の配布終わりましたよ」

 

 一応私は養護教諭だから、東京駅で乗り換えた後の京都まで長時間、申告があった生徒に酔い止めを渡して回ってました。酔い止めの薬を配るなんてむか~~しあったな~。と懐かしみつつ、自分が指示する立場になっている事が凄く不思議な感じなんだよね。

 薬を配り終わって職員達の座席に戻ってきたんだけど、私達の席は生徒達から見ての端の方。ドアの辺りに固まっています。

 

「おぉ、シルヴィア先生お疲れ様です」

 

 労いの言葉を掛けてくれたのは、厳しい顔つきを綻ばせた新田先生。広域生活指導員なので引率の先生として一緒に来ています。それから瀬流彦先生にしずな先生。そしてネギ先生で教員は全員だね。

 

「それでは私達は生徒達に修学旅行の心構えを話しますね。お願いしますネギ先生」

「はい!しずな先生!」

 

 そう言って席を立つネギくん達。

 

「修学旅行は自由時間も取ってあり楽しい旅になると思いますが――」

 

 車両のドアの前に立ってネギくんが挨拶をする。

 挨拶が終わってからの新幹線内は、暇つぶしやお喋りでとても賑やかなひと時となっていた。

 

 

 

「ん~~」

 

 両の手を組んで天に向かって軽く伸びをする。新幹線に乗って京都まで2時間半。まだ半分も来ていないけれど、ずっと座席に座って居ると流石に身体が固まって伸びの一つもしたくなった。

 

「あら、シルヴィア先生。まだまだこれからですよ?」

「そうですね~。でも身体が硬くなっちゃうってありませんか?」

「うふふ、そんな年寄りみたいな事言っちゃダメですよ。まだ若いんですから」

「は、はい。気をつけますね」

 

 う、うーん。一応私のほうが年上なんだけど流石にそれは言えないよね。まさかとは思うけど、若さを保つ為に魔法を教えて欲しい!なんて殺到する事態になったらメチャクチャになっちゃうし。

 

『車内販売のご案内をいたします。これから皆様のお席に――』

 

「ワゴン販売ですね。流石にまだお土産なんて買わないと思いますけど――」

「キャ、キャー!」

「カエルー!?」

「え!?」

 

 車内販売のアナウンスが流れてから僅か数分後。生徒達の手持ちのお菓子袋や菓子箱、座席の下等から急に大量のカエルが飛び跳ねだした。突然の事態に車内は騒然となり、パニックに陥る生徒が出始める。

 

 な、なんでカエルなのかな?確かに気持ちの良いものじゃないけど、カエルから呪術的な気配を感じるから、これって関西呪術協会の人の嫌がらせなのかな?うーん、でもこれじゃただの嫌がらせ、だよね?

 詠春さんは対策は練るって言ってたけど、結局一部の人の暴走を抑えられなかったって事かな?あ、いけない。のんびりしてないで対処を――。

 

「保健委員の人は介抱を!いいんちょさんは点呼をお願いします!」

 

 あれ?もしかしてネギくんの危機対応能力が上がった?何だかちょっと成長した感じかな?いけないいけない、考えるのは後回し。保健委員と協力して介抱のお手伝いしないとね。

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?無い!?学園長から預かった親書が!」

「兄貴!?」

「あ、何だ。下のポケットにあった」

 

 大量のカエルをゴミ袋に入れる事で処理のめどが付くと、ネギは親書の無事を確認しようとしていた。しかしその確認方法は親書を片手で持ち、そのまま高く上げるとあまりにも無防備な姿を晒すものだった。

 そしてその瞬間を狙ったかのように高い風切り音を上げながら、どこからともなく小鳥が現れると、親書を咥えて奪い飛び去った。

 

「あーー!?待てー!」

「兄貴!あれは日本の『式神』!使い魔の魔法だ!」

 

 小鳥に奪われた親書を追いかけて車両を走り抜けて行く。そして数台先の車両のドアを開くと、そこに落ちていた親書を思案顔で見つめる桜咲刹那の姿があった。

 

「……ネギ先生?」

「桜咲さん?あ、その封筒僕のなんです」

 

 床に落ちている親書を指差して、断りを入れてから拾い上げる。

 

「そうなんですか?……気をつけてください。特に、向こうについてからは」

「え!?ど、どうも」

「あ、兄貴!親書が!」

 

 

『次は無い。忘れるな西洋魔術師。――関西呪術協会を憂う者』

 

 

 親書にそう書かれた小さな紙が貼り付けられていた。

 

「え!?これって!?」

「さっきの女めっちゃ怪しいじゃねーか!もしかしてさっきの魔法は!?」

「ちょっとまって、それじゃ!?」

「奴は西からのスパイって事なんじゃねーか!?ヤバイっすよ兄貴!」

 

 そのまま去っていく桜咲刹那を、一人と一匹は険しい顔つきで見ていた

 

 

 

 

 

 

 その頃3-Aの座席では。

 

「桜咲の奴、行っちまったけど良かったのか?」

「知らん。近衛には防御の呪符を渡していた様だ。勝手にやるだろう」

「そうなのか?前よりは護衛らしくなったんだな」

「ええ、お嬢様には防御系を優先的にお渡ししています。」

 

 噂をしていると当の桜咲が戻ってきた。って、なんだか随分と良い笑顔をしてるんだが、本当に大丈夫か?この前もだよな?

 

「桜咲。術者は捕まえたのか?」

「いいえ、遠距離から式神を使っていました。そちらを対処しようとした場でネギ先生が追いかけて来ましたから、そのまま親書を回収してもらいました」

「それって、術者があんただって勘違いされてねぇか?」

「……え?そ、そうでしょうか?」

「良いんじゃないか?京都でぼーやが慌てふためく姿が楽しみだ」

「良いのかよ、それ……」

 

 て言うかなんだ?エヴァの奴、妙に先生に突っかかるな?先生の親父さんと会った事があるのは聞いたが、何か恨みでもあんのかよ?それとも底意地が悪いだけか?まぁ私もフォローしてやる気は無いんだが……。

 

「それにしても長谷川さん。随分とエヴァンジェリンさん達と仲が良かったのですね。驚きました」

「まぁ、ガキの頃からの付き合いだからなぁ……。色々あったよ。本当に」

「そ、そうでしたか」

 

 マジでな。何回死に掛けたか分かったもんじゃねぇよ。エヴァに比べればガキの頃に出会ったやつなんて本気で可愛いもんだ。何だかな、私も大分こっち側の思考に慣れちまってるな。

 って、マテ。自分でこっち側とか言ってる時点で終わってるじゃねぇかよ。

 

「ねぇお姉ちゃん。清水の舞台から飛び降りる?」

「そうだな。おい千雨。お前飛び降りて見せろ」

「……やらねーよ」

「マスター。千雨さんも危険ですのでおやめください」

「だからやらねぇって……」

 

 その後は目立った妨害は無く京都駅に到着した。桜咲が近衛を気にしていたが、それと同じくらいネギ先生の事も気にして何度もチラチラと見ていた。

 て言うか、あれじゃエヴァの予想通り変に疑われるだろうな……。

 

 

 

 そして京都の清水寺。

 そこではいかにも修学旅行という雰囲気に包まれた、とても騒がしい団体がいた。

 

「きょーとぉー!」

「これが噂の飛び降りるアレ!誰か飛び降りれっ!」

「では拙者が……!」

「おやめなさい!」

 

 こいつらテンション高すぎだろ!?

 て言うか長瀬のやつ、忍者とか隠す気ねぇよな?

 

「おい千雨!お前が飛び降りないから先を越されたじゃないか!早く飛び降りろ!」

「降りねぇよ!誰が飛ぶかよ!」

「テンション高いネ」

「うんうん。高いね~」

「そうそうここから先に進むと恋占いで女性に大人気の地主神社があるです」

「ではネギ先生一緒に……」

「あ、ネギ君私も~」

 

 ぐ……。なんで私が3-Aみたいなテンションにされなきゃいけねぇんだよ。いや、ここで変な事に巻き込まれないだけましなのか?さすがにこんな所で一般人巻き込んで襲って来たりはしねぇよな?

 

「いい所だねぇカモ君」

「あぁそうだな。だが兄貴。ここはもう敵の本拠地だぜ!?刹那って奴も敵のスパイかもって件、忘れてねぇか?」

「証拠も無いのに疑っちゃダメだよカモ君。もう少し様子を見よう?」

 

 なんかこう言う展開どこかで見たことあるぞ?ネギ先生、見事に桜咲の事疑い始めてるじゃねぇか。それでもカモのヤツの言葉をあっさり鵜呑みにしない分、いくらか成長したのか?どうなんだ先生?

 

「キャー!?」

「な、何?またカエルー!?」

「こんな所に落とし穴が!?」

「だ、大丈夫ですかまき絵さん!いいんちょさん!」

 

 眼を瞑って辿り着けば恋が叶うという、恋占いの石の道の途中に罠が仕掛けられていた。

 

「ふむ。またカエルか。西の奴はそんなにカエルが好きなのか?」

「これは妨害っていうか嫌がらせじゃねぇか?罠にしたって手抜き過ぎだろう……」

「精神的ダメージはあるかと思われます」

 

 話し込んでいると桜咲がネギ先生を注意深く見ているのに気が付いた。その視線を感じたネギ先生は使い魔のカモと再び話し込み、何かを確認している様だった。

 

 こら桜咲……。それじゃネギ先生もっと勘違いするぞ?良いのかよ?

 

「あ!あれが音羽の滝~?」

「右から健康・学業・縁むすびです」

「「「左!左ーー!」」」

「お、おまちなさい!」

「む!?美味い!?」

「もう一杯!」

「いっぱい飲めば効くかもー!?」

 

 テンションが昂ぶった3-Aの面々が一斉に左の滝の水に押し迫り飲みだした。しかし、しばらくするとふら付きだし、次々と昏倒していく。

 

「な!?なんだあれ!?」

「ん?酒臭いな。あれじゃないか?」

「周囲から気化したアルコールが検出されています」

 

 騒がしいと言うよりはもはや混乱に近いこの状況の中、滝の上を指差して黙々と語り合うエヴァたち。そこには酒樽が設置されており、その底から延びたホースが音羽の滝に混入されていた。

 その事に気が付いたのか、屋根の上に飛び乗ったネギ先生が大慌てでフォローをしている様だった。気安く魔力で屋根に飛び上がるなんて何を考えてるんだと思いつつ、関西の妨害の手法にも軽く頭痛を覚え始めた。

 

「何かマジで嫌がらせっぽいな……。なんだこれ?」

「ふむ……。安酒だな。つまらん」

「いや、そういう問題じゃねぇだろう?」

「あ、千雨ちゃん。倒れちゃってる子達にこのシロップ薬を飲ませてあげて。魔法の残り香が出ない治癒薬だから」

「え、あぁ分かった」

「ネギ先生。指導員の新田先生に見つからない内に、このお薬を調子の悪い生徒に飲ませてあげてください。皆さーん。手が空いてる人は手伝ってくださいね」

「はい!シルヴィア先生ありがとうございます!」

 

 そうして手分けして治癒薬を飲ませ、自力で起き上がれない生徒は協力してバスに乗せていく。

 

 しかし酒なぁ。エヴァが安酒って言ってたけどあんだけすぐ倒れるってのはどうなんだ?変な薬混ぜられてたら怖ぇな。そういう意味じゃシルヴィアが治療薬もって来たのは正解だったか。

 いやマテよ?エヴァの奴普通に飲んでたな。て事はまぁ、平気なんだろう。

 

 それから集合時間になり、宿泊予定のホテルまでバスで向かった。

 

 

 

 

 

 

 ホテルに着いてから小休止。すでに辺りは夕方となったホテルの休憩場。そこでいかにも悩んでいますという表情のネギが今日の事について考察をしていた。

 

「兄貴!あの刹那って奴の仕業に違いねぇって!」

「うーん、でも……」

「ちょっとネギ、ネギー。酔ってる皆はシルヴィア先生がくれたシロップ薬を飲んで部屋で休んでるわよ。何だか調子が悪いって誤魔化せたけど、一体何があったのよ?」

「じ、実はその――」

 

 そうして学園長からの仕事と、関西呪術協会の話をする。

 

「また魔法の厄介事かぁ~」

「すいませんアスナさん」

「でもあれよね?学園の外なんだし、学園長がまた何かしてるってわけじゃないのよね?」

「そうですね。エヴァンジェリンさんは何だか楽しそうにしてましたし」

「そうよね。なんだか長谷川さんまでテンション高かったし。初めて見たわ」

「え?そうなんですか?」

「うん、いつも関係ない~って、顔してあんまり関わろうとしないのよね」

「あ、兄貴!それよりのこの刹那!って奴の名簿見てくだせい!ほら!」

「え?あれ!?京都なるかみ流?って何?」

「やっぱり奴は京都出身のスパイっすよ!」

「え、でも木乃香だって京都出身よ?最近なんか仲が良いみたいだし」

「「え!?」」

 

 それを聞いてより一層頭を悩ませる3人だった……。


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