青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第39話 修学旅行(2日目) 深夜のキスパニック

「そろそろホテルロビーでの点呼時間だね。千雨ちゃんから連絡も無かったし、緊急の連絡もなかったから、今日はみんな無事に過ごせたのかな?」

 

 教員の待機室で時間を確認すると、もう暫くしたらホテルでの集合時間になるところだった。まだ時間に余裕があるのを確認して、脱いでいたスーツの上着を羽織ってから、細かい服装の乱れを正してロビーに向かうために部屋を出る。

 一階まで降りていくと、点呼の為に続々と生徒達が戻って来ているところだった。その中に早く戻ってきたのか、千雨ちゃん達の姿もあった。せっかくだから近付いて、観光先での様子はどうだったかを聞こうとすると、何でか知らないけど随分と疲れた顔が目に入った。

 

「皆お帰りなさい。楽しかった?」

「ただいま……。なかなかに大変だったよ……。無駄に疲れた」

「ふん、もどかしいだけだったぞ。そんな事より茶々丸。きちんと撮影したか?」

「はい、マスター。問題ありません」

「え?何か起きたの?念話か何か入れてくれれば良かったのに」

「ネギ先生を見たら分かる……」

「ネギくん?放心してるけど、どう言う事かな?」

 

 ネギくんは放心と言うか……。時々ゴロゴロ転がって奇声を上げてるんだけど?う~ん。でも、連絡を入れて来る程の事は起きなかったんだよね?本当に何があったんだろう?

 

 そのネギの余りの奇態に、クラスメイト達が続々と声をかけていく姿があった。

 

「ネ、ネギ先生?どうされたんですの?」

「い、いやあの、別に何も!誰も別に僕に告ったりなんか――」

「え!?こ、告った!?」

「えー!?そ、それホント!?誰なのネギ君!?」

「いえ、あの、僕、ここっくああのーーーーー!」

 

 そのまま完全にパニック状態になり、どこかに走って行ってしまった。

 

 え、誰かネギくんに告白したの?ネギくんって10歳だよね?そう言えば数え年だっけ。と言う事は今9歳かな?本当に誰だろう……。

 

 考えている内に、委員長をはじめネギくんに詰め寄っていた面々もどこかへ走っていく。その様子を唖然と見ていると、横から声をかけられた。

 

「宮崎さんです。しっかりと録画しました」

「え?告白したのってのどかちゃんだったんだ?しかも録画してたの?」

「ハイ」

「そ、そう……」

「まて茶々丸。何故そっちなんだ?」

「マスターの指示通りのものも問題なく撮影してあります」

「む……そ、そうか」

 

 そ、そっか~。ネギくんも魔法関係で頭いっぱいのところにいきなり告白されちゃって、それであのパニック状態だったんだね~。

 それにしてものどかちゃんかぁ~。あの子も委員長みたいに子供の方が好きだったのかな?

 でも実際3~4歳差だし、大人になればそうでもないから子供好き……って訳でもないよね?

 

「まぁ、他は何も無かったよ。エヴァがうるさかったくらいで」

「どこがだ?説明してやっただけだろう?」

「お前は綾瀬か?なんであんなに詳しい内容を話し続けられるんだよ」

「当たり前だろう?私が何百年古都巡りをしていると思ってるんだ?」

「あぁそうかよ……」

 

 えーと……。い、いつも通りだったて事で良いのかな?

 エヴァちゃんが全力を尽くせって言ってたのは茶々丸ちゃんに色々教育してたんだね……。

 

 

 

 それから夜が更けていき、木乃香ちゃんと刹那ちゃんの約束の時間が迫ってきた。今の時刻は就寝時間の少し手前。一般生徒たちが外に出て居る時間だと魔法を隠すのが難しくなってしまうから、就寝時間後にこっそりと仮契約の儀式を行うことになっていた。そんな中、教員同士の打ち合わせで集まっているところだった。

 

「新田先生。そろそろ就寝時間の見回りですけど、どうしましょうか?」

「昨日は静かでしたが今日もそうとは限らないでしょう。そうですな、私は点呼後に大回りに各階を回りましょうか。シルヴィア先生は各部屋の就寝時間の点呼をお願いします」

「わかりました。それじゃ行って来ますね」

 

 そして新田先生たちと話し合いの後、各部屋の点呼へ向かうと――。

 

「もう就寝時間ですよ~。ちゃんと全員居ますか?」

「はーい!居るよ先生~」

 

 3-Aの1班から順番に各部屋を回っていくと、廊下を歩いている超ちゃんが居た。

 

「超ちゃん。もう就寝時間だよ?」

「アイヤ~。シルヴィアさんには敵わないネ。ちょっと厨房にお願いしていただけだヨ」

「また肉まん?程ほどにね?あと、一応先生だからね?」

「そうだったネ。それじゃおやすみなさい先生♪」

「はい、おやすみ~」

 

 そう言って自分の部屋に戻っていく超ちゃんを見届けて次の部屋に。

 

「こんばんは、皆居るかな~?」

「うん、皆居るわよ」

「おるで~」

 

 木乃香ちゃんが居る部屋だったので、一瞬目を合わせてアイコンタクト。軽く頷くのが見てから人数を確認して部屋を出ようとすると、なんだかそわそわした姿を見せるのどかちゃんと夕映ちゃんが見えた。

 

「のどかちゃんと夕映ちゃんは大丈夫?なんだか、そわそわしてるけど?」

「え、え~と~」

「大丈夫です。シルヴィア先生。問題ありませんです!」

「そ、そう?それじゃ、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさいです」

 

 何だか様子が変だったけれど……?

 うーん、気にし過ぎてもしょうがないし、最後の6班の部屋かな。

 

「こんばんは。皆準備は大丈夫?」

「あぁ。ちゃんと仮契約の魔法書も、鑑定の魔法書もあるぞ。使い切りのやつな」

「ふん。こんなまどろっこしい方法などせずに、直接関西呪術協会に乗り込んで宣言でもしてやればいいんだ」

「もう、それは木乃香ちゃんたちが決める事でしょ?エヴァちゃん、ちゃんと効果を見届けてあげてね?」

「む……。まぁ良い。分かったよ」

「うん。それじゃ皆おやすみ。また明日ね」

「あぁ、おやすみ」

「おやすみなさーい」

 

 うん、これで大丈夫だよね?木乃香ちゃん達の仮契約はエヴァちゃんならきちんと間違えずにやってくれると思う。

 後は点呼後だから、新田先生に見つからなければ大丈夫かな。

 

 そのまま各部屋を回って点呼は終了。その脚で教員の個人部屋にいる新田先生に報告。今夜はこれ以上仕事がなかったので割り当てられた個室に向かった。しかしその時、ホテル内である計画が起きている事を知らずにいた。

 

 

 

 

 

 

 そして就寝時刻を過ぎた深夜。とある個室でノートパソコンのバックライトの明かりを受ける一人の少女の姿があった。その口元に対して丁度良い高さでマイクが固定され、今その計画を口にするところだった。

 

『修学旅行特別企画!くちびる争奪!修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦!』

 

 少女がそう宣言すると3-Aの宿泊部屋では、拍手や応援など隠れた大騒ぎが起こる!

 

『教員個室に居るネギ先生に最初にアタックできるのは誰だ!?見事奪った参加者は豪華賞品をゲット!各自、麻帆良レストランの食券は賭け終わったー!?オッズはこれだーー!』

 

 ホテル内のカメラと備え付きテレビ。それぞれに割り込んで放送をする朝倉和美こと、麻帆良のパパラッチ。彼女によるカモと仮契約カード大量ゲット作戦が秘密裏に開始されていた。

 

 彼女は夕方にネギ先生の魔法を目撃してしまい、一時は秘密を教えないと公表すると凄んだもののネギ先生の秘密を守る事を約束。

 しかしながらその使い魔のカモと結託し、ホテル全体を囲む大魔法陣を描き上げ、キスをすれば無差別に仮契約完了という、危険極まりない計画を行っていた。

 

 

 

 その頃、木乃香が抜け出した5班の部屋では。

 

「ゆ、ゆえ~~~」

「まったく。せっかくのどかが告白した日にこんなイベントをするなんて……」

「いいよー。これはゲームなんだし……」

 

 ゲームの参加に気が引けているのどかに対して、夕映は優しい顔つきでありながらも明確な意思を持って不参加はダメだと答えた。ネギ先生は自分が知る限りではきちんとした紳士的な対応が出来る、最もまともな部類の男性であり、真剣に恋愛をするつもりならばこの場を逃す事は無いと。

 

「ゆ、ゆえ……」

「絶対勝ってのどかにキスさせてあげますよ。行くです!」

「う、うんー」

 

 そうしてネギ先生とのキスを狙う、一組のハンターが誕生した。

 

 

 

 丁度その計画が進行され始めた頃、個人部屋のネギは妙な寒気を覚えていた。その事に嫌な予感を覚え、もし昨晩のように何者かに襲われたら大変な事になると考え、夜間パトロールに出る事を決意する。そして杖を持ち出して廊下に出ようとするが……。

 

「あ、そうだ刹那さんに貰ったお札で身代わりを作っておこう」

 

 そうして何度か間違えながらも身代わり人形を作る。

 

「お札さんお札さん。僕の代わりに寝ていてくださいね」

「ハイ。代ワリニ寝テイマス」

「よし!これでパトロールに行ける!」

 

 しかしこの時ネギが気付く事無く、命令待ちの失敗作が放置されていた……。

 

 

 

 そして本命の6班の部屋。就寝時間を過ぎて灯りを落とした部屋に、小さなノックの音が響く。周囲を警戒して少し扉を開くと5班の部屋から抜け出してきた近衛の姿があった。

 

「よう、近衛。来たな」

「こんばんは~。せっちゃん、よろしゅうな?」

「は、はい!お嬢様!」

「もう、またお嬢様言う~」

「す、すみません!」

 

 まぁ、仮契約で桜咲が恥ずかしがる気持ちは分かるんだがな。だがそうも言ってられない状況ってのは分かってるのかお二人さん?

 

 エヴァは二人に確認を取りつつ、仮契約の魔法書を開いて内容の説明を行う。魔法書は起動すれば足元に仮契約の魔法陣が浮かび上がると言うもの。近衛を主に桜咲を従者。それで間違いないかと最終確認をしていた。

 

「ええよエヴァちゃん。それでウチとせっちゃんの魔法使いの主従の証明になるんやね。それでウチはカードで念話が出来て、せっちゃんの召還や魔力供給が出来る」

「私も念話が使え、それからお嬢様の魔力供給が受けられ、またアーティファクトの使用が出来る。ですね」

「あぁ、そうだ。どんなものが出るかは主次第だがな」

 

 まぁ仮とはいえこいつらの場合は立場があるからな。私みたいな選択とはまた違った意味で重い選択と言えるのか?神楽坂は一般人だったが二人は最初から関係者だからな。

 

 そして魔法陣を設置しようとした時、唐突に廊下から怒鳴り声が聞こえた。

 

「コラー!就寝時間は過ぎとるぞー!何をやっとるかぁー!」

「やばい!鬼の新田だ!」

「逃げろー!」

「馬鹿もーん!ロビーまで来い!朝まで正座だ!」

「ええぇぇぇぇ!?」

 

 は……?何したんだ?

 就寝時間を過ぎて注意されるのは分かるが、朝まで正座ってどんな怒らせ方だよ?

 

「なぁ?何か起きてんのか?」

「さあな?いつもの様に騒いでいたのではないか?」

「あー、そう言えばなんか今ゲームやっとるんよ。ネギ君のくちびる争奪ゲームとか言っとったで?それのせいやない?」

「ね、ネギ先生のですか?」

「……マジかよ。それで逃げ回ってこのバカ騒ぎか。ネギ先生は相変わらずトラブル体質なんだな」

「騒ぎになる前に早くやってしまえ。そして部屋に戻れ」

「そうやね。せっちゃん良い?」

「は、はい。こ、このちゃん……」

 

 桜咲の了解の言葉を確認するとエヴァが仮契約の魔法陣を起動する。どちらかと言えば硬めの思考をする桜咲は、ぷるぷると振るえて真っ赤になって硬直し始めていた。それとは対象的に近衛は微笑を崩さず、ゆっくりと顔を近づける。

 

「いくでせっちゃん?」

「はは、はい!」

 

 そのままガチガチになった桜咲の肩を、近衛が優しく包み込む様に触れてからその唇にキスをする。するとその瞬間に足元の魔法陣が光り輝き、空中に一枚のカードが舞い降りた。しかし――。

 

「ん~~~~♪」

「むぅ!?むむむ!?んむ~~~~!?」

 

 ちょっと待てぇ、長げぇよ!お前らいつまでキスしてるんだ!こっちまで赤くなってきたじゃねぇか!つーかそもそも、何でこんなに見届けてるんだ?別にじっと見てくても良いだろ!?

 く……。こ、こういう時は別の事を考えてだな……。仮契約ってキスが長い方が効果があるのか?いや違うだろ!そうじゃなくて、えぇとシルヴィアとの時は……。って、ちげぇ!何思い出してんだ!

 

(あれ、千雨ちゃん?何か強力な念話が聞こえた気がするんだけど、何かあったのかな?もしかして木乃香ちゃん達、何か失敗した?)

(――えっ?ち、ちが!何も、何も無い!何も無い!)

(そ、そう?大丈夫?)

(あぁ……。ちゃんと仮契約カードが出てる)

(そっか~。良かったね。それじゃおやすみなさい)

(あぁ……。オヤスミナサイ……)

 

 何でだよ。今なんで念話繋がったんだ、意識しすぎたのか……。

 

「……ぷはっ!お、おおお、お嬢様!?」

「ほら、せっちゃん。また呼び方が戻っとる~」

「いいいい、いえ、そう言う事では無くてデスネ!?」

 

 二人の口付けはまるでディープキスを思わる程で、そしてあまりに長い口付けは周囲を緊張と微妙な空気に包んでいた……。満面の笑みで微笑む近衛に対して、完全に真っ赤に茹で上がった桜咲が狼狽した目で近衛を見返している。

 

「くぅ……。長ぇよ、お前ら……」

「……録画、録画」

「茶々丸?何をしている……?」

「はい。貴重な映像を保存させて頂きました」

「あ~~。まぁ良いからカード確認してみろよ……」

 

 更に真っ赤になっている桜咲を余所に、近衛がカードを手にして確認すると。

 

 

 名前   SACURAZACI SETUNA

 

 称号   翼ある剣士

 

 色調   Nigror(黒)

 

 徳性   justitia(正義)

 

 方位   septentrio(北)

 

 星辰性  Sol(太陽)

 

 

 近衛達が知れる事ではないが、所謂原作と同じステータスのカードがそこにあった。ただし絵柄は違っており、袴姿の烏族の和服で白い翼を広げた姿。そして、夕凪とアーティファクト『建御雷(タケミカズチ)』を持ったものだった。

 

「桜咲。お前も人間じゃなかったのか……」

「今更だな。私は知っていたぞ?気が人間のものとは少々違っていたからな」

「え!?こ、これはその……」

「せっちゃん。ウチは気にせぇへん言うたやん?こんな綺麗な翼なんやし。心配いらへんて」

「まぁ、今更翼の一つや二つで驚かねぇよ……」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ。そういうのはもう見慣れた……。だから気にすんな」

「……はい。ありがとうございます」

 

 そう言うとどこかほっとした様な刹那の表情が見て取れた。

 それから主のカードから従者へカードを複製。アーティファクトを鑑定すると、魔力を纏って刀身の大きさを変えられる石剣だと言う事が分かった。

 確認が済んでカードを受け取った木乃香は、指導教員の新田先生にバレずに自分の班の部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 その頃とある個室では、ゴクリと喉を鳴らしてその様子を凝視しつつも、映像配信は決して忘れない一人の少女が居た。

 

『おぉっとこれはぁぁ!?なんと意外!桜咲刹那の唇が、近衛木乃香によって奪われたー!大穴!大穴かぁー!誰も賭けていなければ食券は親の総取りかー!?』

 

 隠しカメラとテレビによって、無音声だが木乃香たちの濃厚なキスシーンがテレビに映し出され、クラスメイト達の部屋では大騒ぎになっていた。幸いにもその騒乱のおかげでアーティファクトに気付くものは居ない様子だった。

 一方各班の部屋では、朝倉の急な総取り発言に大ブーイングが起こるが、そこでカモが驚愕の事実に気付く。

 

「って言うか朝倉の姉さん!兄貴が5人居るように見えるんだが……」

「……え”!?」

 

 カメラの向こうではネギ先生の失敗の分身札によるキス魔が大量発生し、再び生徒の部屋が盛り上がり、その様子はもはや狂乱。同時に仮契約の失敗カードを量産していた。

 そんな中でも宮崎のどかが本物のネギ先生に出会い、綾瀬夕映の策略によりキスに成功。満足そうに微笑む綾瀬夕映だったが、それは正式な仮契約カードであるという、ある種の危険が確約されていた。

 

『ああああっと、これは本屋の1人勝ちかー!?』

『くぉらーー!朝倉ー!貴様が原因かー!』

『うひぃぃぃ!?』

 

 それから大騒ぎで盛り上がっている間に新田先生に見つかった参加者と朝倉和美は、ネギ先生も含めてロビーで正座を強要され、朝方まで10数人が正座する姿が目撃された……。




 2013年3月18日(月) 38話の変更に合わせて、冒頭の地の文等を改訂しました。

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