青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第42話 修学旅行(3日目) 水の夜想曲

「見つけた! あそこから強い魔力が!」

「で、でも……! 何よこれ!」

「鬼の軍勢……ですか」

「遅かったね、ネギ・スプリングフィールドとその仲間達」

 

 学園長に連絡を取ったネギ達は、飛び去る悪魔を追いかけて林を駆け抜けていた。しばらく走り続けるとやがて大きな湖が見えてくる。しかし湖の前には、黒く巨大な存在感を持つ者達がいた。彼らは闇に属する鬼の軍勢。先に進む者を阻むかの如く居座っていた。

 大小様々と言えど、湖面までおよそその数五百体。とても三人で倒せる数に見えず、そして肝心の白髪半眼の少年は、湖面の祭壇を背に宙に浮かんでいた。

 

「兄貴! きっとあの白髪の野郎が木乃香姉さんの魔力で召喚しまくったんだ!」

「くぅ……。ここは僕が雷の暴風で一直線に活路を開きます! アスナさんは僕と一緒に杖に乗って、刹那さんは飛んで付いて来て貰えますか?」

「ちょっと待ってよネギ! こんな数……行く前に捕まるわ!」

「相手の中に烏族や大槍の巨鬼も居ます! 対策が無くては的になります!」

「待てやネギ! 姉ちゃん達も!」

「「「!?」」」

 

 鬼の軍勢に慄きながらも必死で相談をしていると、唐突に背後から第三者の声が聞こえた。思わず振り向くと、そこには関西呪術協会の千本鳥居で戦った狗族(オオカミ男)の少年、犬上小太郎が居た。敵の追っ手に挟まれた事に動揺する間も惜しみ、慌てて武器を構えて戦闘体制を取る。

 

「君はまた邪魔をするの!?」

「くっ! 今更敵が一人増えようが!」

「まずいぜ兄貴!」

「敵や無い! もう俺らの任務は終わっとるんや!」

「え!? ど、どう言う事!?」

「詳しくは言えんが、長の娘の覚悟を見届けるんが俺らの任務やったんや! 本山に入った時点で任務は終わっとる! あの白髪が暴走しとるんや!」

「お、お嬢様の!?」

「え、じゃぁ最初から敵じゃ無かったって事なの!?」

「今そんな事言っとる場合や無い! 関西呪術協会の仲間全員石にして砕く言うて、千草姉ちゃんは逆らえへんのや! このままやと大鬼神を復活させられてまう!」

「え、でも、どうするのよ!? 手が足りないわよ!?」

「そろそろ相談は終わったかい? それじゃ彼らを頼んだよ」

「「「「え!?」」」」

 

 小太郎の言葉が終わると、白髪半目の少年が待ちくたびれたとばかりに口を挟む。彼の進軍開始の宣言にハッと我に返り振り向くと、すでに鬼の行軍が始まったところだった。

 鬼たちは体格の良い者を先頭に、大剣や棍棒、長槍などの獲物を構えゆっくりと確実に迫ってくる。また飛行能力のある妖魔や呪術の心得のある妖弧など、前後のバランスの取れた鬼の軍隊とも呼べる程の規模だった。

 

「あ……!」

「こ、こっち来るわよ!」

「まずい!」

 

ガァァァン――!

 

 ネギ達がたった四人でその規模を迎えようとした時、突如として乾いた音が場に鳴り響く。そのまま連続して放たれる何かは、正確に長槍の鬼や飛行能力のある妖魔など、白髪半目の少年に近付く為には厄介な存在へと吸い込まれていく。

 その何かの正体は一発の銃弾。ただしそれは退魔の効力を負荷したものであり、打ち抜かれた鬼は現世での身体を保つ事が出来ずに送還されていく。

 

「やぁ刹那。この仕事の助っ人料はツケで良いよ」

「それでは手が足りれば良いでござるかな?」

「あのデカイの本物アルか~? 強そうアルね♪」

「龍宮さん!? 長瀬さんに古菲(クー・フェイ)さんも!?」

「な、なな、なんで!? その銃って本物!?」

「何やこの姉ちゃん達! 味方か!?」

「わ、私が連絡したです!」

「夕映さん!?」

 

 突然の助っ人に慌てるネギ達だったが、何事かと問いかけると、助っ人に来た彼女達の後ろから頭一つ小さな影が出てくる。彼女こそ関西呪術協会で、石化の煙から唯一逃れた人物であった。

 そしてここは私達に任せて先に進めと言い出す。ネギは鬼の軍と彼女らを見比べてとても無理だと、自分達も一緒に戦うと言い出すが、刹那によってそれは否定された。

 

「ネギ先生。龍宮とは退魔等の仕事を共にする仲です。今はお嬢様を!」

「熱くなって大局を見誤ってはいかんでござるよ」

「そうアル! こんな人達なら大歓迎アルよ!」

 

 そのまま前衛の長瀬楓と古菲が先陣を切り、龍宮真名が後衛となって次々と鬼達を薙ぎ払い、中央から鬼の軍勢が削ぎ落とされていく。

 

「皆さん……! ありがとうざいます!」

 

 彼女らのサポートを受けて隙間の出来た中央へと飛び込んでいくネギ達。魔力を纏いながら自身の背丈ほどある杖に跨るネギと、それぞれの獲物を構えて突き進む明日菜と刹那。そしてそれを追いかけていく小太郎。こうして真夜中の大決戦が始まった。

 

 そしてこの戦いが始まった時点から数分の時を遡る。修学旅行先のホテルではネギ達の身代りに用意された式神を見て、考察するシルヴィア達の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「ん~。ネギくん達戻って来なかったけど、身代わりの式神が出されてたね。詠春さんが手を打ってくれたのかな?」

「あの人数が消えたら大騒ぎだしなぁ。そうなんじゃねぇか?」

 

 パッと見た感じ、間違いなく本人に見える式神を話の種にして居ると、突然に部屋に携帯電話が鳴り響いた。今はもう深夜だし、こんな時間に電話してくるなんてちょっと非常識だよね? 誰らかかって来たのかな。

 

「何だうるさい。どこのどいつだ?」

「えぇっと……」

 

 本当に誰だろう? って、フロウくん!? こんな時間に一体どうしたんだろう?

「フロウくんだ。どうかしたのかな?」

「出れば解るだろ? まぁ、何となく予想は付くな。どうせぼーや絡みじゃないのか?」

「うーん。とりあえず出てみるよ」

 

 フロウくんは今、麻帆良に残ってるんだよね。普通はこんな時間に連絡なんてしてこないし、まさか、暇つぶしなんて……。フロウくんならありえるかも? でも、やっぱり緊急事態って考えた方が良いかな? 一体どんな用事なのか、ちょっと心配になるね。

 

『よぉシルヴィア。面白い話がある』

「……こんばんは、フロウくん。嫌な予感しかしないよ?」

 

 嫌な予感がしながら通話ボタンを押すと、少し愉快そうな感情が篭ったフロウくんの声が聞こえてきた。と言うか、やっぱり何か厄介事だね。

 

『依頼の話しだ。良く聞けよ? 関西呪術協会が壊滅したそうだ』

「え!? か、壊滅って!? 詠春さんは?」

『石化魔法で眠らされたそうだ。それでジジイがネギ坊主をサポートして、関西呪術協を助けてやってくれってよ。報酬ももぎ取ってある』

「……はぁ。分かったよ。そっちの事は任せたから、私達は救援に行くね?」

『おう。任された。それじゃぁな』

 

 通話を切ってから軽く溜息――と言っても、内心は随分重い――を吐いてから、フロウくんの電話の内容をもう一度考えてみる。

 それにしても、何でフロウくんは楽しそうだったのかな!? 普通に緊急事態じゃない! まったく、学園長と一体どんな話をしたんだろう。って考え込んでてもしょうがないよね? 関西呪術協会がそんな状態じゃ京都の守りが無くなってるのも同じだし、ネギくんもそれだけの事が出来る相手じゃ荷が重いよね?

 

「とりあえず、相手の確認かな? 伝え聞きだけど、石化魔法で関西呪術協会が壊滅させられたって。治療薬は必須だね。持って来て良かったよ」

「そうだな。近衛木乃香を攫ったとなると利用価値は魔力だ。何かに使われていると考えるのが筋だろう」

「て事は何か? 化け物か大量の召喚魔とかが待ち構えてるってオチじゃねーのか?」

「ハッ! 何を言う? 殲滅戦はそれこそお手の物だろう? アーティファクトを使うか戦略規模の大魔法でも打ち込んでやれば良いさ」

「マスター。超鈴音の装備リストで、複数の特殊弾を確認済みです。状況に合わせて使用出来ます」

「そうか。各種準備しておけ」

「了解しました。マスター」

「いきなりそんな物騒な事しないで、状況を確認しないとね? でも千雨ちゃんはアーティファクトを準備しておいた方が間違いないと思うよ?」

「あぁ、まぁそうだろうな。魔法衣も出しておくよ」

 

 うん、とりあえずは上空から現状の確認かな? 詠春さんが負けたって事だから、相手はかなりのレベルって事だよね。油断してて石化されちゃっても困るし、きっちり見極めないと。

 

「良し。とりあえず行くぞ。アンジェ。チャチャゼロと大人しく待っているんだぞ」

「大丈夫だよお姉ちゃん。私でもこのホテルくらい守れるよ~」

「て言うか普通に守られてる真祖ってどんなだよ……」

「千雨。貴様何か言ったか!?」

「……何でもゴザイマセン」

「ほら、皆行こう? 準備は良い?」

 

 そのままホテルにアンジェちゃん達に残ってもらって、認識阻害の結界と身代りの準備。瀬流彦先生が魔法先生だから生徒達の事は見てくれると思うけど、関西呪術協が壊滅するレベルだから、最悪はアンジェちゃん達に頼む事になるかもしれないね。あ、でも、何かあったら後でエヴァちゃんが怖いなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 そして例の湖の上空には翼で飛行するシルヴィアに、漆黒のマントを蝙蝠の翼にしたエヴァ。それに続いて、飛行媒体の杖に座った私が居る。そのまま湖の周りを観察すると、大量に召喚された鬼と、3-Aのクラスメイト達の姿が有った。

 

「何だあの子鬼の集団は。それに龍宮真名。長瀬楓。古菲か……。なんで綾瀬夕映も居るんだ?」

「いつもの巻き込まれだろ? 昼間の自由行動で先生達について行ってたじゃねーか」

「そっか~。ネギくんは罪作りだね~。千雨ちゃんは夕映ちゃんの隣の席だったよね? 助けに行ってあげようよ?」

「はぁ? 私がか? 綾瀬をこっち側に関わらせちまって良いのか?」

「良いも何も既にこっち側だな。見てしまった以上放っておかれないだろう」

「はぁ……。分かったよ。シルヴィア達は湖の方の先生達を頼む」

「うん、行って来るね」

「あぁ、精々驚かせてやって来い。ふふ♪」

 

 まったく、エヴァは何で性格悪い言い方しかできねぇんだ? シルヴィアとの付き合いが何百年も有るんだから、ちょっとは丸くならねぇのかよ。むしろ逆か? 丸すぎてああなったのか? まぁ、とりあえずやるか。エヴァの事気にしてたってあの鬼達が居なくなるわけでもねぇからな。

 

 よし……。それじゃアーティファクト――テティスの腕輪――に意識を集中。空気中の水分・水の精霊を意識して、把握する。私は水で周囲は手足。水の流れを自分の認識に……。

 支配の範囲にデフォルトで湖が入り込んでるな。これなら余裕か? 拡げても良いんだが……。拡げすぎると魔力使い果たしてだるくなるんだよな……。感覚が広がるって言うのか?何て言うか、変なところで水と相性が良すぎるのも困りものだよな。

 

 そのまま意識を集中し続けて小雨を降らせ始める。振り出した事を確認すると、湖や地下水に干渉して少しずつ水分を鬼の集団の足元に集めていく。

 準備を整えた所で飛行媒体の組み立て杖を折りたたみ、そのまま風の魔法をクッションに音も無く地上に落ちる。下りた所で林に隠れて戦況を見守っていた綾瀬に話しかけた。突然に話しかけられた事に夕映はびくりと身体を震わすが、良く見知った隣席の人物の顔に気付くと、慌てて警告の声を上げた。

 

「は、長谷川さん!? 何故ここに? いえ、それよりもここは危険です!」

「そんな事は分かってるって。だからここに居るんだよ」

「――っ!? ど、どう言う事です? まさか、貴女も!?」

「……ファンタジーな世界だろ? だがな、イヤでも現実なんだ」

「現……実……。ですか」

「まぁな。それで綾瀬はどうする? とりあえずもうすぐ危険は無くなるぞ?」

「どうとは!? それに危険が無くなるとは何故です!?」

「こういうものを見ちまった後の、身の振り方を考えておいた方が良い。……って意味だ。ちなみに一般人に戻る方法は、イヤでも記憶消去しかないそうだ。それだけなんだよ。覚えておけ」

「長谷川さん……」

「もう一つの質問は、あれは私が全部倒す。そういう事だ。じゃあな」

 

 それだけ告げて鬼の軍勢に向かって静かに歩き出した。……が、そこでふと、ものすごく嫌な予感を覚えた。……あれ? ちょっとマテ。こういう展開ってどこかで見たような? まさか綾瀬にフラグ立ててねぇよな? イヤ、それは……無いだろ!? ……とりあえずあれ倒すか。うん。それから考える。いや、やっぱ忘れるか。

 

 

 

 

 

 

「いや~。なかなか数が多くて骨が折れるでござるな~」

「喋る暇があったらクナイの一つでも投げたらどうだ?」

「まだまだ骨は折れないアルよ!もっと強い奴はいないアルか!?」

 

 歓談しつつも次々と鬼たちを倒し、送還していく。召喚された鬼は確かに多い。そして一般人から見ればその一体ですら致死量の毒になる。しかし彼女達にとって、特に真名と楓にはある種の日常茶飯事だった。

 次々と襲い掛かってくる鬼達の攻撃を、前衛の二人は余裕で回避しながら忍術や中国拳法で鍛えられた拳を叩き込む。後衛の真名とのコンビネーションも合わせて、既に百体以上の鬼が倒されていた。だがそこで、ぽつぽつと雨が降り始めている事に気が付いた。

 

「おや? 雨でござるな。むぅ……。気付いて居るでござるか、真名」

「あぁ。魔力が篭った雨だな。呪術的なものか? ……ん? この雨、服に染みないんだがどう言う事だ?」

「――っ!? 誰か来るアル!」

 

 何かに気付いて突然に後ろを振り返る古菲。そこには黒の中に白いフリルのゴスロリコートのシルエット。普段の髪を纏めてメガネをした地味な表情と違い、髪を下ろしメガネを外した明らかに別人とも言える長谷川千雨が居た。

 

「よう。古は勘が良いな。武術家って奴はやっぱ違うのか?」

「何……? 長谷川だと!?」

「おや長谷川殿。こんな所で奇遇でござるな? ……いつからこちら側に?」

「長谷川出来るアルね!」

「まぁ、小学生の時からどっぷりだ。あんまり気にすんな」

 

 一瞬その不可解な登場に警戒をされるものの、本人だと名乗った千雨は一応の納得を得た。千雨はそのまま周囲を見渡し、鬼の配置を頭に叩き込む。

現在残った鬼はおよそ四百体に満たない程度。その数の多さに思わずエヴァがからかい混じりに言っていた”殲滅戦”が頭を過ぎる。三人と協力すれば軍の一角から削っていける事も明白だが、今は時間がたりない惜しい。前もって準備を重ねていた戦略として、大魔法を使うことを選択した。

 

「それで? 長谷川はどれだけ出来るんだ? この登場の仕方は真打登場だぞ?」

「見たところその服もかなりの一品でござるな。ただの服には到底見えんでござる」

「だからあんまり気にすんなって、とりあえずちょっと離れろ。巻き込まれるぞ」

「何っ!?」

 

 警告の言葉を告げてから彼女達よりも数歩前に出る。そのまま意識を集中して魔法の詠唱に入った。

 

「エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 逆巻け冬の嵐 彼の者等を 渦巻き凪ぎ払え 風花旋風 風衝壁」

 

 すると鬼の軍勢のほぼ真ん中。渦を巻きながら風の精霊が集まり始める。初めはただ凪ぐように、風が鬼達の間を吹き抜ける。しかし突然に急激な回転を始め、そのまま大型の竜巻が発生した。

 その竜巻で中型の鬼でも引きずられて身動きがとれず、行軍の端に居る鬼も風に足を取られていた。さらに小型の鬼にいたっては吹き荒れる風に巻き上げられていた。

 

「……本当に驚いたぞ。今までよくそれだけの魔力を隠していたな」

「褒めても何も出ねーぞ?とりあえずあと二手だな」

「おや、それだけでござるか?」

「おぉー!何するアル!?」

 

 魔法の竜巻の制御を手放してアーティファクトに精神を集中。一度激しく吹き荒れた風は止まる事知らず、鬼達の中で暴れ続ける。そのまま先に降らせて馴染ませた雨で、鬼達の足元から直径が一メートル程度の水球を大量に浮き上がらせた。

 水球は行軍する鬼の空間を満たし、竜巻の中でもアーティファクトの特性で揺らぐ事も無く球の状態を保っている。予め水を準備しておいたものの、広域に渡っていまだ在り続ける鬼を囲む量の水球に、精神力が揺らぎ始める。

 

「全ての水球は竜巻の回転に合わせて渦に!鬼を全部飲み込んで押し流せぇ!」

 

 持たれ掛けそうになる身体を気力で保ちながらそう言い放ち、激しい水流の渦から水竜巻となるイメージを纏め上げる。その瞬間、立て続けに弾けた水球が濁流となって鬼達を飲み込む。そのまま竜巻の回転力と水流、そして水圧に押された鬼達を飲み込んだ巨大な水竜巻が出来上がった。

 

「(良し……。取りあえずこれで鬼達の拘束が完了だな。竜巻に任せて水に意識を持ってかれない分、次の魔法に集中できるか)」

 

「エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ とこしえのやみ えいえんのひょうが!」

 

 更にそこから氷系の大魔法を唱える。およそ百五十フィート(四十六メートル弱)の範囲を凍結するその殲滅魔法は、鬼の軍勢と水竜巻をほぼ絶対零度の冷気で閉ざし、地上から天に向かって立ち昇る氷の柱を作り上げていた。そしてこの魔法固有の、粉砕の術式へ繋がるキーワードを唱える。

 

「全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也 おわるせかい!」

 

パキィィィン!

 

 最後の詠唱を終えた後、氷が砕け散る軽快な音を残して全ての鬼は霧散した。そのあまりにもあっけない結末に拍子抜けし、あるいは感心したのか、三人は感嘆の言葉を口々にしていた。

 その一方で千雨はかなりの精神力を使ったものの、しっかりとした足取りで立っていた。少々よろけたりするのはここでは愛嬌と思って欲しい。

 

「なんだ、これじゃ助っ人は要らなかったな」

「うーん凄かったアルね! 今度手合わせするアルよ!」

「しねぇよ。一般人もいるんだから助っ人に来てやって良かったんじゃねぇか? 私は学園長から依頼が無かったら来てねーよ。それにそんなに余裕でもねぇな」

「何だ、学園公認だったのか。それは分からないはずだ」

「しかしまったく気付かなかったでござる。上手く隠していたでござるなぁ」

「気付かれたくなかったからだよ。まぁ、いつまでもそうも言ってられないから出てきたんだけどな」

 

「(とりあえずこっちは片付いた。後はシルヴィア達とネギ先生の方か。あの二人の事だから心配は要らないと思うが、ネギ先生達はどうなってるか怪しいな)」

 

「勝った……の、ですか?」

「綾瀬か。こっちはもう片付いたけどあっちがまだだな。とりあえずの危険は去ったが――」

 

ヴォォォォォォン!

 

「んな!? 何だこの声!?」

「あっちでござる!」

「まずいな……かなりデカイぞ」

「な……ぁ、ぁぁ……」

 

 突然の地響きの様なくぐもった大声が聞こえてくる。あまりの声の大きさと、感じる魔力に驚き慌てて湖の方を見る。するとそこには四本腕を持ち天を貫くほどの巨大な鬼が、悠々とそびえ立っていた。




 2013年3月18日(月)  記号文字の後にスペースを入力。感想で指摘された脱字を修正しました。
 と言うか、これを書いた時の私は何を思ってたんでしょうか? 一人称と三人称が凄まじく入り乱れていたんですが……。
 とりあえず急拵えで修正をしました。三人称→シルヴィア視点→千雨視点→三人称と動き過ぎなので、後でまた梃入れをするかもしれません。

オリジナル魔法
 風衝壁:任意の位置に発生させて、風に巻き込んで吹き上げるイメージ。
「逆巻け冬の嵐 彼の者等を 渦巻き凪ぎ払え 風花旋風 風衝壁」
 原作の魔法の、自分の周囲に風の壁を作って防御する風障壁と、任意の相手を風の壁に閉じ込める風牢壁を参考にアレンジしたものです。

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