青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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移転前、53.5話・閑話(2)に当たる話です。
日記のような形式で、淡々と今回の修学旅行の裏側で起きていた事を語って行きます。


閑話 修学旅行(番外編) ある人の独白

 2002年後半、某月某日。

 

「千草姉さん。報告書回って来ましたで」

「おおきに、そこ置いとき」

 

 どれどれ……って、何やこれ!?木乃香お嬢様が修学旅行で京都と奈良に来はる!?

 これは東のアホ共から取り返すチャンスや!

 近衛の狸ジジイめ!古来より続く伝統を捨てて東に行きおって!

 日本の西洋魔術師の代表にまでなった天狗に一泡吹かしたる!

 

 数日後。

 

「ほな、よろしゅう頼んます」

「ええ、裏から手配まわしときますわ」

 

 とにかく観光地や交通機関の裏手には手を回した!

 これでどこから来はってもこれで潜り込めるわ!後は人員探しや。

 そうやな……。神鳴流の護衛あたりがええやろか?

 

 

 

 2003年2月末。

 

「ちょ!千草姉さん!この報告書見てんか!」

「何ややかましい!どないしたんや!」

 

 ふむふむ……ぶはっ!?お茶吹きかけたやないか!

 お嬢様の先生に西洋魔術師って何の冗談や!高畑先生とやらは拳士やからまだええ。

 今度のは確実に魔法使いやないか!あの狸ジジイ何考えとんのや!

 

 そして再び数日後。

 

「月詠いいます~。神鳴流のご指名ありがとうございます~」

「犬上小太郎や。強い奴とやれたらそれでええ!」

 

 とりあえず神鳴流は雇えた!小太郎は傭兵みたいなもんやから問題ないな。

 これで西洋魔術師のガキ先生に嫌がらせしつつ、お嬢様を取り返すんや!

 

 

 

 2003年4月中旬。

 

 修学旅行の下見もとい安全確認のために近衛詠春を尋ねて来たシルヴィア達。

 その様子を隠形術を使い、隣室に隠れ探っている1人の女術士が居た。

 

「こんにちは詠春さん」

「お久しぶりです、シルヴィアさん。フロウさん」

「よぉ、元気にしてたか?」

 

 誰やあの銀髪の女?長の知り合いか?

 それにしても何やあの緑頭。口の悪い小娘やな。

 

「それで今回の修学旅行の件、私としては問題無いのですが……。木乃香が”帰ってくる”と言う事で、下の者の中には少々やっかみを言う輩が居ましてね」

 

 う、さすがに気付かれとるか……。もっと慎重にせなあかんな。

 

「護衛ってアイツか?竹刀袋持って影から見てるだけのヤツか」

「あえてぶっちゃけるが、役立たずだぜ?あれじゃ千雨でも木乃香を攫えるぞ?」

「長谷川千雨さんでしたか――」

 

 はぁ!?何やっとるん護衛の小娘!役立たずとかホンマ何しとるんや!

 決めた!西洋魔術師と合わせて根性叩き直したる!

 

「なるほど……。もしよければ、一度刹那君と手合わせできませんか?」

「詠春。おまえ、千雨をけしかけろって、言ってるのか?」

 

 うん?話がおかしゅうなって来はったな。

 根性叩き直してくれはるんか?それならそれで歓迎や。

 ウチらと関係ない奴等言うのはいけすかんがお嬢様の安全には代えられへん。

 

「出来れば木乃香には普通の生活を送らせてあげたいのですが……」

「でも学園長は、木乃香ちゃんにはおいおいバラすって言っていたよ?」

「義父がそんな事を……?」

「木乃香が自分でどうするか決めたら、下の奴らだって態度をハッキリするんじゃないのか?英雄の娘で長の娘でもあるんだ、もういい加減知らないじゃ済まない歳だろう?」

 

 ……やっぱり狸ジジイやな。しかし長の気持ちも分かるがその通りや。

 お嬢様が西の舵を取ると本気になってくれはったら、確かに文句を言う奴はおらんやろ。

 

「わかりました。修学旅行での事を見てはっきりと決めたいと思います」

「……手遅れにならないと良いな?」

「対策は練ります。木乃香がどう決めても良い様に対応もすることにします」

 

 あちらさんは帰ったか。それにしても長はホンマに決断しはるんか?どっちや?

 むしろお嬢様が断わりはったら、どないしはるんやろか……。

 

「そこの者。出て来なさい。今なら笑って許しますよ?」

 

 な、き、気付かれた!?アカン!歳食った言うても大戦の英雄や!

 下手な事は出来ん!く……、大人しく出て行くか?

 

「……お呼びでっしゃろか?控えとっただけですえ」

「隠形術の修行ですか?まだまだですね。それにしても最近、西洋魔術師に恨みを持ち、復讐のために木乃香を狙って暗躍するものが居ると聞きます。心当たりはありませんか?」

「何の事でっしゃろ?聞いた事がおまへん」

 

 アカンな……。

 ここで誤魔化しきれへんかったら、計画は終わってまうか?

 

「天ヶ崎千草さん。良い修行があるのですがそちらをやってもらえませんか?」

「はぁ……。どないな事やろか?」

「木乃香に手を出すのも許しましょう。ただし傷つけない事。その力を利用しない事。それからネギ君にも大怪我はさせない事。それを守るのであれば、嫌がらせでも何でもしなさい」

 

 ――っ!?ど、どない言う事や?

 気付かれとるのは分かった。しかしこれは何が言いたいんや?

 

「ネギ君はかのサウザンドマスターの息子。彼にとっても良い修行になるでしょう。木乃香には本気でこちらに踏み込む気があるのか見極める試練になります」

「長。……本当にそれでええんですの?そないな事言いはるんやったら、西洋魔術師のガキども纏めて叩きますえ?」

「先ほど居た彼女。シルヴィアさんと言いますが、彼女とその関係者とお弟子さんにだけは決して手を出さない様に。彼女とのパイプは後々も重要です。それ以外なら一般人を傷つけない常識の範囲でやりなさい」

「……かしこまりました」

「不服そうですね。貴女が両親の事で西洋魔術師を恨んでいるの知っています。ですから今回限りにしなさい。意味は分かりますね?」

「……これっきり手を出すなと?」

「復讐はするな。と言う意味ですよ」

 

 アカン……。これは断れる内容やない。むしろ受けへんかったら二度と手が出せんへん言う事か。

 それならお嬢様がどないにしはるか見極めつつ、任務として大っぴらに西洋魔術師のガキを叩いたる!護衛の小娘も根性直っておらへんかったら同罪や!

 

「その話、お引き受けします。ウチは準備がありますさかい。これにて失礼させて頂きます」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 

 

 長の密命を受けてから数日後。

 

「フェイト・アーウェルンクスです。よろしく」

 

 まさか西洋魔術師を雇う事になるとはな……。

 しかし日本の文化・陰陽道を学びに留学に来たトルコ人?ホンマか?

 まぁ魔力は高いみたいやし、ガキはガキなりに使こうたるか。

 

「なぁ千草姉ちゃん。俺達どうするんや?」

「ウチが奴らが乗っとる新幹線に潜り込んで挑発してくる。あんさん達は一行がこっちに着いてから出番や。それまで大人しゅうしとき」

「つまりまへんな~」

「すぐ出番やさかい、待っとき!」

 

 

 

 修学旅行1日目。

 

 さて、いよいよやな。あの小僧か。英雄の息子はん。覚悟しとき……。

 

『車内販売のご案内をいたします。これから皆様のお席に――』

 

 ワゴンの売り子した隙に仕掛けさせてもろうた。 お手並み拝見や!

 

「キャ、キャー!?」

「カエルー!?」

 

 これくらいでビビんなや。さてお嬢様は……。

 うん?守りの護符を持っとるな。きちんと気も込められとる。護衛の小娘が渡したか?

 お嬢様が使われはったんかまだ分からんな。

 それでもこちら側に踏み込んでくはった言う事か?それならそれで希望が持てるな。

 

 そしたら英雄の息子はんは……。はぁ?なんやあれ、親書手に持って奪ってくれ言う事か?

 ……いっそ、奪ったるか?

 

「――行け」

 

 懐から式神用の型紙を取り出す。

 気を込めて投げ放つと実体の有る小鳥の姿となり、あっさりとネギの手から親書を奪った。

 

「あーー!?待てー!」

「兄貴!あれは日本の『式神』!使い魔の魔法だ!」

 

 あ、あっけなさ過ぎや。マヌケ過ぎやろ……。さて、挑戦状でも貼り付けとこか?

 

 

 

 修学旅行1日目の夜。

 

 もう既に旅館の裏に進入済みや。ここに来るんも分かっとったから簡単やったな。

 さて、式神放って様子見や。

 

「キャーー!?」

「お嬢様!?」

「え?こ、木乃香!?」

「せっちゃん!?変なおサルがー!」

 

 ふむ。やはりお嬢様はこちら側のこと認識してはるな。防御符で式神が近づき難こうなっとる。

 って護衛!入り口側に庇うんはアカンやろ!こんな結界符簡単に入れるで。

 

 

 

「……アカン。引き上げや!行くで月詠はん!」

「え~。もうちょっと~」

「置いてくで!?早よ来い!それではお嬢様。またいずれお会いしましょう」

 

 ちっ!あのガキ!思ったよりやるやないか!まだまだ未熟やけど、術の出力がかなり高い!

 それにあの小娘のハリセンは何や?反則過ぎるやろ!

 

「簡単にやられたね」

「……あの変なハリセンの小娘がおらへんかったらもっとやれとったわ!」

 

 く……。新入りの癖にデカイ口叩きおって!

 

 

 

 三日目の昼。ゲームセンター裏で。

 

「小太郎。どないやった?」

「ん~。よー解らへん。殴った方が早いやんやっぱ」

「アホか!お前何のための偵察や!」

「けど姉ちゃん達が本山に行く言うてるのは聞こえたで?」

「何?そんならお嬢様はそれでええか。良し月詠!――っておらへん!どこ行きよった!」

「なんか、白髪の奴が用があるゆーてどこか行って、それに付いてったで?」

「あああ、あのアホー!もうええ!小太郎!先に行った西洋魔術師ども殴って来い!結界は張ったるさかい!思いっきりやれ!」

「おっしゃぁ!そういうのを待ってたんや!行くでー!」

 

 

 

 三日目の夕方過ぎ。

 

「逃げ切られたよ?」

「これで良いんや。お嬢様が裏のことを知って積極的になってくれたのも分かった。あのガキにはまだしたりんがやる事はやった。これで仕事も終わりや」

「それはいけない。まだ貴女には動いてもらわないと」

「……どない言う意味や?」

「リョウメンスクナノカミを復活させる。あれを見てみたいんだ」

「何を言うとるんや!?あれの制御には莫大な力が居る!……まさか!?」

「それじゃ、湖面で準備をしてもらおうか?断れば協会の者を石化して、一体づつ破壊していく。意味は分かるよね?」

 

 ぐ……。アカン。このガキやば過ぎる。目的の為には手段は選らばへん眼や!

 かと言って断れへん……!長は間に合うやろか!?

 仕方が無い。出来る限り遅らせて、儀式の準備するしか無いか……?

 うん?そう言えば小太郎はどこ行ったんや?

 

 

 

 仕方がなくリョウメンスクナノカミ復活の祭壇を奉る。

 祭壇に寝台を設置していると、木乃香を連れたフェイトが帰ってきた。

 

「連れてきたよ」

「むぅー!」

「お嬢様!?く……あんさん」

「口を塞いでいるだけだよ?さぁ、復活の儀式を」

 

 それを聞くと寝台のお嬢様を背に、フェイトに向かって構える。

 アカンな……。少しでも時間稼げるやろか?

 

「……邪魔をするのかい?」

「あぁ、お嬢様の力は使わせへん。やりたければ自分一人で勝手に出して丁重に終え!お札さんお札さん――」

「そう。――ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト 小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ その光我が手に宿し 災いなる眼差しで射よ 石化の邪眼」

「くぅ!ウチらを守っておくれやす!」

 

 詠唱を終えるとフェイトの指先に石化の魔力が集まる。

 指差した千草を目掛け、木乃香に当たらない範囲で放たれた光が、千草の防御をあっさりと突き破り破壊する。札による防御も効果を見せず、そのまま千草の身体を石化していく。

 

「が、うぅ……!お、札さん――」

「遅すぎるよ。おやすみなさい」

 

 さらに札を取り出し構えようとする。

 しかし、光に貫かれた部分から、猛烈な速さで石化が進み意識が薄れていく。

 

 ……あ、かん……お嬢、さ――。

 

 

 

 次に気が付いた瞬間……。

 眼の前には小太郎とお嬢様がおって、西洋魔術師のガキとその仲間に囲まれてた。

 ウチは結局、何も出来へんかった……。

 

 

 

 修学旅行が終わった数日後。

 

「お疲れ様でした。天ヶ崎千草」

「申し訳ありまへん。長。お嬢様の事。約束守れへんでした」

「い、いや、千草姉ちゃん。あのフェイトって奴に一人で立ちむかっとったんやろ!?符術で応酬しとったんやないんか!?」

「小太郎。抵抗してたとしてもな?結果は傷つけとるんや。ウチのミスや。責任は取らなアカン」

「姉ちゃん……」

 

 悔しい……。フェイトの実力は生半可なもんや無かった。

 けれども……。結局西洋魔術師の奴らに解決されてもうた事。

 お嬢様を守れへんかった事も……。

 

「そうですね。ところで今度麻帆良学園都市に京物のアンテナショップが出来るのですが、店員が足りないのです」

「はぁ……?どないな事でっしゃろ?」

「実は学園都市とは、その土地の全てをある銀色の女性が保有していてですね。彼女とのパイプでその土地の一部。そこの独立した雑居ビルを関東より優先的に使わせてもらえる事になりまして、一階に販売店、二階以上は事務所、住居施設、地下の広大な空間と有るのですが……」

 

 ど、どない言う事や?長の命令違反の責任の話ちゃうんか!?

 京物の売り場……?いや、本命は住居や地下の空間?……まさか!?いや、しかし!

 

「ウチなんかで、宜しいんですか?もっとやれる人材はおると思います」

「これは罰ですから。好き好んで関東に長期派遣に行く人間がここには居ないのですよ。そのついでですから。木乃香に『品物の見本』でも見せてあげると喜ぶかもしれませんね」

 

 そんな……。こないな上手い話ありえへん。

 けど、ここで受けへんかったら、先日の恥は雪げへんで!

 

「その命、謹んでお受けいたします。必ず良い品物を売らせて頂きます」

「ええ。任せましたよ」

「なぁなぁ姉ちゃん。それ俺も行って良いんか?ネギと再戦したいんや!」

「お前、ちょっとは空気読めへんのか!」

「構いませんよ。好きにしてください」

「本当か!よっしゃぁ!」

 

 

 

 

 

「千草さん、こんにちはー」

「お勤めご苦労様です」

「お嬢様。呼び捨てで結構です。上に立つものが下のものに敬称はあきまへん」

「そんな事言うても今は先生やし。ウチがそう呼びたいんよ」

 

 長といいお嬢様といい似たもん同士なんは遺伝か?それにしてもこないな環境はホンマにありえへん。

 長……。西の皆見ててや……!ウチが持っとる技術は全てお嬢様に伝えます!

 お嬢様なら必ず大陰陽師として成長してくれはります。やったるで!見てろや東の西洋魔術師ども!


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