青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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本日の連投はここまでになります。

ここはちょっと雰囲気を出す練習をしてみた話です。移転に当たってあまり手直しはしませんでした。
何故かと言うと調子に乗って手直しし過ぎてしまい、この作品全体の雰囲気から外れてしまったからです。
没稿は勿体無かったので活動報告で投稿します。そちらは完全な三人称です。


第48話 弟子入り週間(3) 渦巻く陰謀

 大小様々な円柱形の塔が立ち並んだ魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫の大都市メガロメセンブリア。そのとある高級ホテルのフロントに向かう、貴族階級らしい少女が居た。

 

「ようそこレディ。本日はどのようなご用件で?」

「ごきげんよう。今日は友人に会いに来ましたの。59階の90番ルームは空いているかしら?」

「申し訳ございません。当ホテルにその様なルーム番号は存在いたしません。失礼ですが部屋をお間違えではありませんか?」

 

 フロントは淀む事無く笑顔でそう答える。しかしその言葉を聞いても少女は微笑を絶やさず、一切の戸惑いを見せなかった。少女はしばらく視線を合わせると、一品物と思われる良質のポシェットを引き寄せ、中から1枚のカードを取り出す。それをフロントに見せると、一瞬顔付きが変わる。

 

「失礼いたしました。どうぞこちらへ。レディ」

「ありがとう」

 

 そうしてフロントから案内されて、99階5番プライベートルームへ通される。プライベートルーム入り口の両脇には、MM騎士団の鎧が佇んでいた。

 

 

 

「お久ぶりですね。ようこそいらっしゃいました」

「まぁ、言葉が足りないのではなくて? ここは1日でも早く会いたかった、と仰る所ではないかしら?」

「いやはや、貴女も人が悪い。ではこちらの部屋へどうぞ? レディ」

「ええ、よろしくてよ」

 

 一度その姿に苦笑して、互いに人の悪い笑みを浮かべ合う。呼び込んだ彼こそは、20年前の戦争の舞台であるオスティアの現総督クルト・ゲーデルだった。

 そして少女。優雅な仕草でドレスを纏い、完璧に演技のスイッチを入れたフロウが居た。

 

「さて、ここまでくればもう良いでしょう。その演技を見ていては笑いが止まらなくて困ります」

「よく言うぜ。お前はいつも笑顔だろ?」

 

 互いに皮肉りながら、仲の良い数年来の友人の様に語りだす。造作も無い話を繰り返してから、先に本題に入ったのは、クルトの方だった。

 

「実はですね。元老院の老害どもの一部が、ネギ君達の力試しをしたいと言い出したのですよ」

「ほう?何をするつもりだ?」

「それがですね。麻帆良学園に悪魔を召還して送り込もうと考えて居るらしく。困ったものです」

「悪魔? 腕試しでか?」

「ええ、しかし貴女方の機嫌を損ねてネギ君を有害判定。そのまま処分は困ると言い出したかと思えば、紅き翼≪アラルブラ≫の名前を出せば問題が無いと日和見まで居る始末。これはいけません」

 

 そう言いながら全く困った顔を見せず、むしろにっこりと微笑んでみせる。

 それはまったくその通りだ。試したい。けど怖いから手を出したくない? それならいっそ派手にやってくれた方がよほど可愛げがある。そんな事を考えながら、面白くないと考える。

 

「麻帆良の学園結界。世界樹の結界。悪意を感知する結界。その上多岐に渡る実力者とマギステル・マギ候補まで居て、多重防護の要塞となった現在の麻帆良には進入は不可能だと。まったく情けない」

「それで? 結論はどうなんだ?」

「いっそのこと許可を取ってやりましょう。との事らしいのですが」

 

 いかがですか。と満面の笑みを見せる。

 それがまるで完璧である。とばかりに机上の空論を口に出す。

 

「くっ! はははは! 許可を取れば良いってか! そいつら生きてる価値が無いな! それで? クルト。お前はどうしたい?」

「要は彼は使える。そう老害どもに示せば良い。何か良い機会はありませんか?」

「そうだな。修学旅行の件があってからエヴァに弟子入りを申し込んで来たからな。時間さえ経てばそれなりのレベルには行けるはずだぜ?」

「ほぅ。しかし時間が足りない。彼をそこまで育てられますか? 見たところ、現時点ではあのお弟子さんはおろか、タカミチにすら勝てないのでは?」

 

 クルトの言葉にその通りだと感じる。千雨は時間をかけてじっくりと育て上げたからこそ今のレベルがある。ネギ坊主には時間が無いからな。ダイオラマ球に数年放り込むって手もあるが、さすがにそれはマズイ。

 

「ところで、超鈴音という少女をご存知ですか?」

「何? ……何でそこで超の名前が出てくる? あいつがどんな小細工をしてるんだ?」

「もう暫くすると麻帆良で学園祭がありますね。そしてかの英雄ナギ・スプリングフィールド。彼が優勝を果たした『まほら武道会』。近年は形骸化した小さな大会ですね。どうやらそれを復活させようとしていましてね」

「ふむ。で? それに出させて実力を示せば良いって? 無理だろ。20年前と形骸化した今じゃ話にならねぇ。達人クラスなんて出てこねぇぞ?」

「ならば出せば良い。出せる人材が居るではありませんか?」

「それは千雨やタカミチとかって話しか? まぁ、タカミチだけに勝とうと思えば何とかなるんじゃねぇか? 上手く魔法を使えばな」

「ええ。ですのでそこはよろしくお願いしますよ?」

 

 茶番劇を演じろと? 思わずその言葉に笑みがこぼれる。こいつも役者だなと思いながら一般人被害を考えて、無差別に悪魔を呼ばれるよりはマシだと結論を出す。同時に超鈴音の考えを想像して、面白くなりそうだとも考えていた。

 

「いいぜ。タカミチにはそれとなく言っておいてやる。下手に悪魔に襲われるよりはマシだろう? ってな。老害どもの悪質さはアイツも身に染みてるだろうからな。千雨は強制参加だ。くくく」

「助かります。それで、そちらからは何かありますか?」

「完全なる世界≪コズモエンテレケイア≫。奴らが動いてる」

「何ですって!? それはどこで!?」

 

 焦りと怒りを含んだ顔を見て、急に良い顔になったと感じていた。クルトは元紅き翼の一員。奴らは因縁の相手であり、スパイの傀儡議員に踊らされた経験もある。しかしこの反応を見る限り、今回の事は知らない事だったかと判断する。

 

「麻帆良の修学旅行の時だ。ネギ坊主どもが危ない時にシルヴィアとエヴァが撃退した」

「それは……。要らぬ借りを作りましたかね?」

「気にすんなよ。そうだな、もし何か情報があったら知らせて欲しい」

「えぇそれはもちろん。しかし奴らの残党がまだ居たとは」

「『リライト』に気をつけろ。奴らの使う原子分解魔法≪ディスインテグレイト≫だ」

「……どこでそんな情報を?」

「さすがにそれは言えねぇな? お前だって言えない事が有るだろう?」

「ははは。これは一本取られましたね。ではお互い手の内を明かすと言う事でいかがです?」

「よく言うぜ? 言う気も無いくせにな? ついでに聞くが『造物主』って聞いた事は?」

 

 その言葉を聞くと、一瞬だが明らかに表情が固まるのが見えた。その表情に何か知って居ると感じるが、恐らく簡単に口を割らないだろう。取引材料も無く自分達の秘密を引き合いに出す理由もない。 麻帆良の交渉も意味がないため、今ここで聞き出す事は出来ないだろう。

 

「いやはやそれは何ですか? 名前からするに好事家でしょうか?」

「そうか知らねぇか。ただ俺達から見てそいつは敵だ。それだけは言っておくぜ?」

「ほう。これはまた随分と可哀想なお方だ。貴女方に敵認定されるなど、恐ろしくて私には出来かねませんね」

「嘘付け。敵だと思ったら、笑顔で切り捨てるだろ、お前。まぁこれくらいだな」

「おや、そうですか? 随分と過大評価を頂いている様で光栄ですね。それにしても良い時間を過ごせました。本日はご満足いただけましたかレディ?」

「あら? それだけですの? 言葉が足りないのではなくて?」

「これは手厳しい。それでは彼の事、よろしくお願いします」

「ええ、良くってよ」

 

 そうして怪しい笑みを交わしながら、一つの密談が終わりを迎えた。ここまでのフロウの行動は内も外も演技が多い。何かとスキャンダルに弱い権力者との密談の為、姿や仕草を偽る彼女達の常套手段だった。

 

 

 

 

 

 

 ちょうどその頃、エヴァの別荘では急な寒気を覚えた千雨の姿があった。

 

「――う!?」

「千雨ちゃん? どうかしたの?」

「いや、何か寒気が? 何なんだ?」

「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。別に何ともねぇよ」

「そう? 別荘の中は穏やかだけど、外は梅雨時だからね~」

 

 何だ? 何か凄く嫌な予感がしたんだが? ……気のせいか。風邪って訳じゃ、ねぇよな?

 

「夕映ちゃんも風邪には気をつけてね?」

「はいです」

「そういえば綾瀬?」

「はい、何でしょうか?」

「この前学校で魔法の事聞いてきた時なんだけどよ、あれ何て言うつもりだったんだ?」

 

 無闇にこっち側に来れば、死亡フラグ立てるだけだからな。とりあえず折れるものなら折ろうと思ったんだが。エヴァが見事に立て直したからなぁ。

 

「あの時ですか。あれは修学旅行で『身の振り方を考えておいた方が良い』と言われた事です。同時に『魔法に関わらなければ記憶を消される』とも。あの言い方だと魔法に関わる事は前提である。と聞こえるのです」

「あ~……。確かにな。あの場に居た時点で決まっちまった様なもんだしなぁ」

 

 夕映は千雨に視線を合わせると、やがて水を得た魚の様に一気その考えを語り始めた。

 

「元々この学園には七不思議の様に言われる事が多々あります。その中でも特に有名なのは世界樹でしょうか。魔法使いがこの学校を作った事が解った今、いえ、知らなかった時でさえも私達の周りには余りにも魔法使いが多すぎます。これは驚くべき事です。龍宮さん長瀬さん古菲さんも、一般人であってもかけ離れた能力を持っています。この学園に関わっているものだけが突出した力があるのです。いえ、むしろこれはもはや偶然で済まされないレベル。ならば集めたと考えるのが妥当でしょうか。ならばこれだけの力を集める理由もあるのではないでしょうか? ならば私は、図書館島のあの魔法の本を始め、厳重なトラップやゴーレム。巨大な世界樹。これらの不思議を、真実を、私は知りたいのです!」

 

 一呼吸の間に捲くし立てる様に言葉を続ける。語るその眼は輝きに溢れ、拳を強く握り締めそのまま高く持ち上げる。余りにも饒舌に、一度で語り尽くした綾瀬の答弁に、一瞬場が静まる。

 場の空気が変わった事に気が付いたのか、夕映はハッとして縮こまり顔を赤くする。

 

「綾瀬……。お前、凄いな。そこまで行くと関心を通り越して呆れるぞ?」

「あっ! す、すみません。悪い癖だと言われていたのですが、つい興奮して」

「夕映ちゃんって熱心なんだねぇ~。でも程々にしないとダメだよ? 私達から見ても危険な事だって沢山あるんだからね?」

「ハイです。その為にも今は、魔法の力は必要かつ早急な手段だと思うのです!」

 

 だ、ダメだこいつ。なんかエヴァとかと別の意味でダメじゃねぇか? なんつーか、フロウとネギ先生を足して割った様な? ホント、何か危ないかっしいな。

 

「なるほどな。ならば力を付けるのは手っ取り早い手段だ。喜べ綾瀬夕映。修行メニューを倍にしてやろう」

「ば、倍ですか!?」

「ちょ、エヴァ、お前……」

「何だ? 怖気付いたか?」

「い、いいえ! 是非やらせてもらうです!」

「良く言った! それでこそ闇系の魔法使いだ! ふはははは!」

 

 機嫌よく高笑いを上げるエヴァ。その後に不安を感じながらも気合と共に付いて行く。その後を呆然と見守る事しか出来なかった。

 

「なぁ。止めなくて良いのか?」

「でも、夕映ちゃんやる気みたいだし? 私達に出来るのは治療薬の用意とか、ご飯作ったりとかくらいじゃないかな?」

「しかも、闇の魔法使いとかノリノリなんだが良いのかよホントに……」

「う、う~ん……」

「だいぶ障壁が形になってきた! それからもっと手数は増やせ! 闇と影は自分の一部だと思え! チャチャゼロ! 容赦無く砕いてやれ!」

「イエッサー! 御主人!」

「な、なんで障壁が強くなっても壊れるスピードが変わらないですか! 手数なんてすぐ増えないです! く、――風花! 風障壁!」

「ごちゃごちゃ言うな! 今すぐ増やせ」

「無理です~~~」

 

 意外と楽しそうなんだよな。

 エヴァにしろ綾瀬にしろノリノリに見えるんだが、眼の錯覚か?

 

「とりあえずさ。千雨ちゃんの修行に戻ろっか?」

「あぁ。そうだな。やる事山積みだし、呆れて見てる場合でもねぇな……」

 

 それにさっきの何か嫌な予感もあるからな。これからネギ先生や綾瀬も強くなってくならあれだろ? 中ボスとか何かが出てくるとか、漫画のお約束があるんだろ?

 

 あ、ちょっとマテ。フェイトとか言うヤツが既に出てきたっけか?

 まぁ私もアーティファクトの制御とか、1人だけになった場合のための咸卦法の制御力も上げていかねぇとな。

 

 

 

 

 

 

 舞台は再びメガロメセンブリアに戻る。そしてその元老院のとある密室にて、秘密の会合を行う集団が居た。

 

「ちっ。あのオスティアの若造めが。我々こそが元老だと言うのに」

「だがどうする? 本気で『管理者』の機嫌を損ねれば事だぞ?」

「ならば気付かれなければ良い」

「しかしだな、既に代理案として、かの高畑氏との試合を行う提案が来ているのだ。わざわざ危険を冒す必要は無いであろう?」

 

 集団はどこか楽観した様に語り合う。

 しかし、ある議員がここぞとばかりに持論を持ち出した。

 

「これは部下の暴走があったのだ。我々は関与していない」

「ほう? と言うと?」

「我々は悪魔召喚など知らなかった。知らない部下が呼び出したのだ。悪魔は逃げ出した。そして偶然にも武道会の場に出てしまった。どうかね?」

「しかしだな……」

「なに、結果的にかの英雄の息子の力が示せれば良いのだよ。だが、オスティアの若造の案だけでは心もとないでは無いか?」

「ふむ。ならばスケープゴートは用意しよう」

「私は進入手段を確保しようか。悪魔だとバレなければ良いのであろう?」

「では皆、反対意見は無いかな?」

 

 その言葉にそれぞれの顔を見合わせる。

 反対する者はおらず、皆肯定の意思を示していた。

 

「ではその様にしよう。そうだな、あの時の爵位級でも再び呼び出してみるか?」

 

 そうして彼らは会合を終える。

 ネギ・スプリングフィールドの周囲で渦巻く、彼の知らない悪意があった。


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