「皆集まったね。フロウくんが魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫で調べてきてくれた事もあるんだけど、ネギくんが京都で持ち帰ってきた地図の事で、私も気になる事があるんだ」
「すみません。私が居てもよろしいのでしょうか?」
「かまわん。だが録音も撮影も禁止だ。内容も洩らすなよ?」
了解しましたマスター。と続ける茶々丸ちゃん。今は世界樹近くの私の家で、ここ居るのは『管理者』の身内だけ。ネギくんたちはエヴァちゃんの別荘から帰ったはず。はずって言うのは、修行に熱が入っていたせいでまだ続けているかもって事。ナギさんとドラゴンの事で気合が入っていたみたいだから否定できないかな。それはともかく、あっちで何の情報を調べてきたのか。それが重要だね。
「あっちで会って来たのは主にクルトだ。一言で言えば、麻帆良学園に悪魔を召喚してネギ坊主にけしかけるって話を聞いてきた」
それはまた穏やかじゃないね。皆思い思いに神妙な顔をしてるけれど、幾らメセンブリーナ連合の政治家でも、そんな事をしたら色んな罪に問われちゃうよ?
「なぁ、クルトってあのメガネの怪しい政治家だろ。なんでそんな事するんだ?」
「もっともな話しだ。普通ならやる意味は無いからな。実際にやろうとしていたのは腐りきったMM元老院の奴だ。ネギ坊主にけしかけて実力を測るつもりで居たらしい」
「え、何で悪魔なの? 普通に実力者を使ったり、日頃の調査とかで良いんじゃないの?」
「さぁな。だがそれが俺達にバレて、ネギ坊主は害悪だって認定されるのが怖いらしい」
とりあえず修行に入ったネギくんにそんな事をするつもりは無いんだけど、どうして悪魔なんだろう。魔族の人ってだけで軽蔑するつもりは無いし、召喚主と契約で色々するのはある意味しょうがないけれど、ここで麻帆良学園に連れてくる意味が無いよね?
それに悪意の結界に反応すれば直ぐに分かるし、デメリットしか考えられないよ。
「自業自得ではないか。その元老を害悪として潰せば良い。それで終わりだ。そもそもこちらに手を出す前にそんなのは潰してしまえ」
「それはクルトの仕事だ。汚職事件としてな。問題はその先にある。結果的にネギ坊主の実力を見たいって、英雄妄信者や政治家が居るわけだ。そいつらを全部潰すわけにはいかないだろう?」
「うん、そうだね。つまりネギくんが実力を付けて居るって見せれば良いよね?」
フロウくんがそうだと肯定してから、ゆっくりと千雨ちゃんに向かって視線を送る。すっごく意味深な目で見つめてるから、否応でも千雨ちゃんに実力を測る役目を頼みたいって、そう見えるんだけど大丈夫かな。
千雨ちゃんも絶対に嫌だ!って顔をして身体全体で拒否の姿勢を表してるけどね。うーん、でも本当に魔族の人が来るってなったら一般人とのトラブルを避ける意味も込めて、それよりましな案を出した方が良いのは間違いないね。千雨ちゃんがやるにしても修行結果の報告書を出すにしても、他のやり方はあるよね。
「そんな政治家の目に付く様な記録に残ってたまるかよ」
「心配するな千雨。やるのはタカミチだ。俺からやるように伝えておく」
「え、タカミチくんなの!?」
ちょっとそれだと実力差があり過ぎないかな。タカミチくんは一人で普通に軍隊とかを相手に出来るはずだし、それは千雨ちゃんだって同じなんだけど、もっと無理な選択になっていないかな。
でも確かに千雨ちゃんを政治家の目に晒すって言うのは確かに反対だね。私達がここで安住するために管理者って隠れ蓑を使ってるんだから、裏では筒抜けでも表立ってわざわざ目立つことはないよね。
「ちょっと待てフロウ。高畑先生でも十分実力差があるじゃねぇか。どうやって勝つんだよ」
「だから鍛えてやってんだろ。なぁエヴァ?」
「なるほど。タカミチは魔法が使えない。そこを突けと言うわけか?」
「あぁ、それもある。ついでに舞台は学園祭の『まほら武道会』だ。当然ナギとも比較されるだろうからな」
「オイ、それもっと無理じゃねぇか」
麻帆良の学園祭を利用するって事は、魔法詠唱無しでネギくんにハンデが掛かるよね。タカミチくんだって派手な大技は使えなくなるけれど、結局不利なのはネギくんじゃないのかな。
「ある意味茶番だな。別に勝てって言うんじゃない。実力を示せば良い」
「フン、そう言う事か。タカミチなら真正面から受けるだろうからな」
確かにそうかもしれない。それに憧れの人の息子。タカミチくんに事情を伝えておけば、ネギくんの今の実力を真正面から受け止めて、どれだけ今のネギくんに力があるのかを示してくれる、打って付けの人物かもしれないね。
「それから千雨。お前強制参加な。俺達は見学してるから」
「はぁ!? なんだそれ。断っても無理そうなんだが理由くらい教えろよ」
「『まほら武道会』主催者が超鈴音だ。ハッキリ言って怪しい」
そっか、それで茶々丸ちゃんの撮影と録音機能を停止してもらったって事なんだ。超ちゃんに聴かれたら本格的に不味いって事だね。超ちゃんの事は友達……って言ったら変だけど、私はそう思ってる。書面上は私達『管理者』と契約上のパートナーって事になるけれど、まず相手を信用しない事には何も始まらないからね。でも今回は疑って掛かるって話しだし、ここで学園祭と原作の何かが絡まってくるのかな。あまり疑いたくは無いんだけどね……。
「ねぇ、それって超ちゃんが主催の必要が有るのな。原作の修正力とかで、しなくちゃいけない事態に無理やりなってたりしない?」
「この場合、関係していようが無かろうがあまり関係は無いな。要はぼーやがタカミチと渡り合えるだけの実力が付けば良いのだろう? どうせ起きるのなら徹底的に鍛えてやろう。フフ♪」
もしかしてエヴァちゃんの嗜虐心に火が点いちゃったかな。ネギくん頑張ってね……。それでも一般人がいて魔法が使えなくて、体術だけで勝つって厳しいよね。無詠唱魔法や、戦いの歌を完璧にしてもらって、あとは瞬動・虚空瞬動かな。
出来ればタカミチくんの攻撃を避けきる技術力と応用力。後は拳圧を逸らせるようになって貰いたいところだけどね。
「それで、参加して調べてくれば良いのかよ?」
「ああ。出来る限り面白くなるようにな?」
「結局それかよ! そんな理由で出る気になるか!」
「フロウくん。他にもちゃんと有るんじゃないの? それだけじゃ千雨ちゃんも納得しないよ?」
「勿論だ。何があるか分からないから戦力の分散も必要になる。タカミチは居るがネギ坊主に集中してもらいたい。それに俺らが出たんじゃ相手も警戒しちまうからな」
「ほう。つまりお前は、元老院の奴が何かを仕掛けて来ると?」
「奴らとは限らないがな。どの道何かが起こるのは分かってんだ。警戒は必要だぜ?」
そう、だね……。ナギさんの手掛かりって情報が出たタイミングで関連するように始まる『まほら武道会』。京都でネギくんが地図を手に入れるタイミングが分かっていたって事は無いと思うけれど、超ちゃんが大会を開いた事と、ネギくんのプロバガンダ的な計画も絡んで来てる。何かが起きるって言うのなら警戒しておくしかないよね。
「……解った。とりあえず服作るか」
「え、何で? コスプレ大会でもするの?」
「やらねぇって。あ、いや、ある事はあるんだが。それは置いといてだな。昔の私ならそっち優先だっただろうしな。まぁ格闘大会に出なくちゃいけないってんなら、顔を隠せて私だって分からない服でも作るかなって」
「ほう、では私も作るか。ここはやはり黒しかなかろう?」
「何でまた勝手に決めてんだよ! 私の好きにやらせろよ。何でいつも……」
それにしても、ネギくんが来てからは本当に騒動が多いね。主人公だから当たり前といえば当たり前なんだけれど、最初のエヴァちゃんとの依頼に始まって、修学旅行のフェイトくんの事。今回の超ちゃんの事。私たちは情報が足りないからいつも後手に回っちゃう……。今回は超ちゃんの事が分かってるんだから、直接話を聞きに行くのが良いのかな?
あ、忘れそうになったけど、ナギくんの手掛かりが麻帆良の図書館島地下にあるのなら、後で学園長に未登録の魔法使いが居るって確認もしないといけないかな。
「それからもう一つ話しがある。完全なる世界≪コズモエンテレケイア≫と『造物主』の話しだ」
「何か情報があったのかよ?」
「それがサッパリ無い。と言いたい所だが、クルトは何か知ってるな。だが簡単に言える内容じゃないらしい。口を割らなかった」
「フン。お得意の色仕掛けは通用しなかったか?」
「あいつにそんなの通じるかよ? 場所が場所だから正装しただけだぜ」
「なぁ、せめて『リライト』の無効化とか聞けなかったのか? こっそりやられるとスゲェ怖いぞ?」
「無い。避けろ」
「あぁ、そうかよ」
それにしても世界を滅ぼそうとしてた組織が原子分解魔法≪ディスインテグレイト≫なんて使えるなら、リョウメンスクナノカミなんて必要ないよね。何で復活させたんだろう。
世界そのものを救うために鬼神が関係あるように思えないし。もしかしてフェイトくんってあの時の女神様と関係あるのかな。でももしそうだったなら、本人が何か言って来るだろうし『リライト』に執着するのも不自然。知らないって事はこの世界に元から生きてる人って事だよね。
「あ、コラ! 何でもうデザインし始めてんだよ。しかも真っ黒じゃねぇか! 無駄なフリルやレースも多いだろ!?」
「貴様こそ何故わからん! ええい、甘ロリなんて描いてるんじゃない!」
「いつも思い通りになるって思ってんじゃねぇよ! 私が着るんだぞ!? 自分でやる!」
「くっくっく。良いだろう。取り入れないのであれば、作った先から全て焼き尽くしてくれる! さぁ作ってみるが良い!」
「ちょっテメェそこまでするか!? 私に決定権は無いのかよ!?」
「あるわけが無かろう!? まだ気付いていなかったのか!?」
「お前らいい加減にしろ、シルヴィアが一人で悩みこんでるぞ」
「「あっ!?」」
でもエヴァちゃんはフェイトくんを人形か使い魔かもしれないって言ってたよね。そうだとしたら、フェイトくんは主人を救いたいって事なのかな。それならそう言えば良いのに言わなかった。相手を言えないって事……?
でも『セフィロト・キー』はもう無いんだし、代わりのものだと……思い浮かぶのは『グレートグランドマスターキー』かな。でもそれだと消費したら不味いよね。何だかどんどんこんがらがって行くだけで話が見えてこないよ。
「なぁシルヴィア!? ここは黒だろう!」
「え!? う、うん。エヴァちゃんが黒が良いならそうすれば良いんじゃないかな?」
「エヴァそれは卑怯だぞ! シルヴィア話し聞いてねーじゃねぇか!」
「え、何が。どう言う事?」
「これで決まったな。貴様は主人の言葉を違えるのか?」
「いや、違えるのかって。別に下僕ってわけじゃねぇんだし」
げ、下僕って。そんな風に千雨ちゃんの事を思って無いけど。主人の言葉って言っても、命令に服従しろってわけでもないし……あれ?何か引っかかった。……主人の言葉、従者への命令。それってもしかして――。
「フェイトくんって、世界を救えって命令されている?」
「何? シルヴィア、どこからそんな言葉が出てきた?」
もしフェイトくんが本当に人形や使い魔やだったら。その話で考えていくと、当然『使い魔』として製作した主人が居る。そう考えると、その主人から「世界を救え」って命令があったとしたら当然逆らう事はできなくなる。
また仮定の話になるけれど、主人が『完全なる世界』の構成員で世界を滅ぼす事が本来あるべき立場だとしたら?矛盾する命令を与えられて、立ち行かなくなって居る可能性はあるんじゃないのかな?
「全否定は出来ねぇな。だが世界平和なんて祈るヤツが構成員になるか? 記憶にもねぇぜ」
「う~ん。麻衣ちゃんもアンジェちゃんも、もう他に覚えてないって言ってるしねぇ」
「……役に立てなくてごめんなさい。その辺はさっぱりです」
「アンジェは……って、エヴァの方見っぱなしか。聞くだけ無駄だな」
あれ、いつの間にか三人でデザイン画に没頭してるね……。千雨ちゃんもエヴァちゃんに先を越されないように必至だし、アンジェちゃんはエヴァちゃんのデザインにべったりになって頷いてるし。
「おい千雨、貴様いつの間に型紙を描き上げた!」
「うわ、来るな! あっちいけよ!」
「ふざけるな、せめて黒にしろ!」
「あー、もううぜぇー!」
「千雨ちゃん達……懲りないね」
「あいつらは服に拘りだすと止まらねぇからな。放って置くに限る」
「とりあえずさ。フェイトくんには会えなくても、超ちゃんは居るんだから会って話をしてみるよ。それとナギさんの事だけどさ、学園長が図書館島に隠してたりするのかな?」
「ありえない話じゃねぇが……。行方不明にする意味がねぇ。単純に手掛かりだと思うぜ? 未熟なネギ坊主をプロバガンダとして担ぎ出す事自体が、ナギの居場所が分からねぇからこその手段だ」
なるほどね。それなら一旦保留にして、あとは超ちゃんかな。話をするならこっちの家に呼び出すと警戒されちゃうだろうしやっぱり保健室かな。
「一人で会うのか?」
「うん、そのつもりだよ。超ちゃんは科学力や中国拳法はあるけど、魔法や気は使えないからね。それに友達だと思ってるから、あまり警戒したくもないって言うのもあるんだけど……」
「まぁ、気持ちは分かるがな。今回に限っては重要人物だ。本人がやらなくても操られてたりって場合もあるぜ?」
「それは大丈夫。清浄の香と、精霊の動きを感知する結界を張っておくよ。何かあればそれですぐ分かるからね」
「そこまでやれば問題ないか。だが正面から話してくれると思うなよ?」
「うん、分かってる。」
当面、私は超ちゃん対策に動いて、エヴァちゃんはネギくんの修行かな。フェイトくんの事を今考えても仕方がないみたいだし、対応待ちになっちゃうね。
「あぁもう分かった。分かったからせめて破るな。黒を使う。だからヤメテクダサイ」
「ふん。最初からそう言えば良いものを。無駄に時間をとらせおって」
「お姉ちゃんおめでと~。ちうたんも頑張ってね~」
あ、決着付いたんだ。随分と諦めた顔してるけれど、大丈夫かな?
「千雨。生きろ」
「死んでねぇよ! ちくしょう……」
「あ、あはは」
「今回は好きにやりたかったのに。こうなったら――」
「こうなったら何だ?」
「ナンデモアリマセン……」