青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第53話 迷いと真実と嘘

 地球に戻ってきてからの週明け。超ちゃんが言っていた一週間後の月曜日。今日は朝一番から3-Aの教室に尋ねて行って、超ちゃんを呼び出すつもりでいる。これまで超包子に通ったりしたけれど、ただご飯を食べるくらいで他には世間話しか出来なかった。

 

「むしろ、超包子の準備中に流れを無視して拉致したくなるな」

「もう、フロウくんてば。そんな気にはならないよ」

「黒幕だったら殴ってでもつれて来いよ?」

「そんな事しないってば。それじゃぁ行ってくるね」

「おう、気をつけてな」

 

 争ってるわけでもないんだから穏便にね。武力解決は出来る限り奥の手。折角話し合える相手が居るんだから、応じてくれて居る以上はこちらもそんな事したくないからね。

 それに万が一を考えて、保健室には精神系の魔法を浄化する香や、精霊を感知する結界を造る事にしてる。交渉のカードをちらつかせる訳じゃないんだけど、仮に超ちゃんが幻術や精神操作を使ったり使われたりしてもこれで防止と解除ができるからね。

 でももし、本当に操られてるって考えたら背後に居るのは誰になるのかな。流れ的にはMM元老院議員がすっごく怪しいんだけど、地球の人を操ってまでネギくんをどうにかしようって、いくらなんでも考え難いよねぇ。それをするくらいなら最初から魔法先生や生徒とか、麻帆良外の魔法使い支部の人員を使うだろうし。

 

「おはようございます。シルヴィア先生」

「え!? あ、おはよう、ザジちゃん。珍しいね?」

 

 うわ、吃驚した。普段全然喋らない子で無表情なのに、凄く柔らかくニッコリって言うのかな、普段の姿から想像も付かない可愛らしい笑顔だね。と言うか、なんで凱旋門に繋がってる空中ブランコから降りてきたんだろう……。凄く大きいけれど、もしかしてこれって実物大なのかな。

 

「学園祭の準備期間ですから」

「そうだね。うん、皆気合い入ってるよね」

 

 あれ、なんでこんなにナチュラルにザジちゃんと会話してるんだろう。私この子に何かしたかな。千雨ちゃんから話を聞いた事もないし、ネギくんが関わった魔法生徒や候補になった生徒ってわけでもないんだし。急にどうしたのかな。

 

「学園際中は彼が来ます。十分に気を付けてください」

「え、彼って?」

「私が言えるのここまでです。よろしかったらサーカスも見に来てください。そんな暇は無いと思いますけど」

「どう言う事――」

「失礼します」

 

 あ、もう行っちゃった。空中ブランコに次々に飛び移って、あっちこっち飛び回りながらサーカスの宣伝してるんだね。それにしてもどう言う事なんだろう。話の内容だけを考えたら、忠告しに来てくれたって事だよね。う~ん。彼って事は男性だよね。危険な男性が来るって事なのかな。ちょっと結論が出ないけれど、覚えておこう。

 

 

 

 ザジちゃんに言われた事を考えつつ3-Aの教室に向かう。ともかく今は超ちゃんの事を優先だね。ネギくんはもう職員室から出たみたいだったから、教室に行けば――って、なんか騒がしいんだけど。

 

「7800円になります!」

「ええぇぇぇ!?」

 

 え、もう何か模擬店の練習してるのかな。ネギくんを囲んでチャイナドレスに巫女服。メイド服にバニー、シスター、ナ-スって何これ。コスプレのお店を学園祭でやるって事なのかな。

 

「テメェら良く聞け! メイドカフェの真髄ってヤツはなぁ!」

「あれ、千雨ちゃんメイドやるの? あとでエヴァちゃんが大変だと思うよ?」

「シルヴィア!? いつからそこに、ってゆーかエヴァァ!?」

 

 なんか混乱し始めてるね。エヴァちゃんは奥でニヤニヤ見つめてるから、きっと後でメイドさせられるよ。それにしてもエヴァちゃんもああいうの好きだよねぇ。貴族社会の経験の名残なのかな。結構こだわったもの作ったり、従者の人形も礼儀正しく躾てるみたいだし。

 

「シルヴィア先生、助けてくださーーい!」

「保健の先生来たー! これで勝てる!」

「きゃー! かわいいー!」

「え、な、何?」

 

 なんで、ネギくん中等部の女子の制服着てるのかな。もしかして、そう言う趣味があった……なんて事は無いよね。3-Aの子達も色々着替えてるし、無理やり着せ替え人形にさせられてるって考えた方が自然かなぁ。でも、だれかれ構わず次々に着替えさせてるし、流石にこれは暴走過ぎだよ。ちょっと押さえておかないと止まりそうにないね。

 

「皆それくらいにしようね。千雨ちゃんもコスプレ大会は後にして、騒いでると新田先生呼びますよー」

「ち、違う! これはその。学園際中の出し物が決まらないとかで、大会に出るわけじゃ――」

「コラァーーーー! 何を騒いどるかーー!」

「ぎゃああーー、新田来たーー!」

「ばかもーーん!」

 

 あ、遅かった。流石にこれだけ騒いでたら、周りのクラスの先生もおかしいって思うよね。うん、流石新田先生。生徒を鎮める手際も怒るのも手馴れてるね。それにしても何だか良く分からないんだけど、コスプレの喫茶店を開くって事なのかな。さっき会計の練習もしていたみたいだし。

 

「シルヴィア先生ももっと早く止めてください! まったく!」

「あ、す、すみません、あまりの事に放心してしまって」

「それで、3-Aには何かありましたかな?」

「ええちょっと。保健室で面談をしたい子がいて。それで来たんですけど」

「ご指名カ? シルヴィア先生♪」

「うん、話がしたいんだけど大丈夫かな? 良かったら、放課後に第三保健室まで来てくれる?」

「問題ないヨ。放課後一番に行くネ」

 

 そうして約束を取り付けて一段落。まだ新田先生が怒っていたから千雨ちゃんが助けてくれとばかりに見ていたけど、私にもどうにもならないので「ごめんね」と、念話で謝ると諦めた様な顔をしていた。

 

 

 

 放課後になる少し前、薬品棚から小さなアロマポットを取り出して、今回行う清浄化の香のための魔法薬を垂らす。そのまま火を入れると少しづつ蒸発を始めて、保健室の中が静けさに満ちた清浄な空間になった。それから部屋の四隅に、精霊探知の結界の基点になる魔石を配置。狭い空間で魔法薬を使ったら干渉してしまうから、今回の場合は別々の媒体を使っている。

 そして保健室の椅子に座って一息。これから超ちゃんの真意を聴かなくちゃいけないから、どうしても緊張するね。放課後一番に来るって言っていたから、すぐに来てくれるとは思うんだけど、待つときって何て言うか、遅く感じちゃうものなんだよね。

 そのまま超ちゃんを待ち始めて数分。ゆっくりと足音が近付いてきて、扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「私ネ。呼び出されて来たが、ノックする意味はあるかナ?」

「う~ん。無いかな? 気にしないで入って」

「ではお邪魔するヨ♪」

 

 超ちゃんの様子はいつも通りにニッコリって言葉が似合う笑顔。特にこれと言って隠してる様子も見せないけれど、これが演技だったら怖いね。エヴァちゃんと茶々丸ちゃんとの契約の時とかに、ふとした瞬間の真剣な顔を見たことがあるから、本当はとっても鋭い子だって分かるんだよね。

 

「いらっしゃい超ちゃん」

「やぁシルヴィアさん。今朝はお騒がせしてしまたネ。おや、これはアロマポットの香りカ? さすが保健室。気を使てるネ。わざわざ呼び出したから準備してたカナ?」

「そうだね。こっちから呼び出したんだもの。どうぞ座って?」

 

 何か変な事はないかじっくりと見るものの本当にいつもどおりの様子。ごく普通の動作で椅子に座ったし、本当にただ面談に来ただけって感じだね。もし何かあるのなら凄く余裕があるようにしか見えないよ。あんまり警戒したりしたく無いんだけれど、これじゃ逆に疑っちゃうよ。

 

「イヤ~、それは気を使ってもらてありがたいヨ。それで本題は何かナ? 茶々丸は特に問題なかたと思うのだがネ?」

 

 いきなり本題だね。まるで世間話をするような声と目線だけど、もし超ちゃんが何か学園祭で何かを企んでいるなら、もしくは操られているのなら、ここで何か少しでも情報を集めておかないと。

 そのままストレートに聞いてもきっとちゃんと答えてくれないよね。「『まほら武道会』で悪い事してますか」なんて聞いてもきっと教えてくれないだろうし、ちょっと側面から聞いたほうが良いかな。

 

「超ちゃんはさ。今度の麻帆良学園際で、何か新しい事始めたりする?」

「オヤ、何で知てるカ? まだ秘密のプロジェクトだヨ。これは困たヨ♪」

「えっ!?」

 

 そんなあっさり、言って良いのかな。『まほら武道会』自体、まだ学園祭の項目には載ってなかったよね。いくらなんでもあっさりしゃべり過ぎじゃないのかな。超ちゃんの顔付きはいつもどおりだし、何かを隠してるようにも見えない。悪意がある様にも見えないし、結界の反応も無い。

 どうしよう……。本当に何かするをつもりって事なのかな。それなら今の内に話をつけて対処するか、最悪の場合は拘束しないといけないのか考えちゃうんだけど……。

 

「どうしたネ? そんな怖い顔して。私は今M&Aをしてるだけヨ?」

「え、何でそんな事してるの?」

「簡単な事ネ。『まほら武道会』を知てるカ? これは昔、麻帆良学園で在った伝統的な格闘大会だよ。おっと、シルヴィアさんに聞くのは愚問だたネ。とにかく私は、今ある形骸化した格闘大会をかつての様な猛者の集う大会にしたいだけだヨ」

「どうしてって聞いても良い? 本当に格闘大会をしたいだけ?」

 

 それを聞いただけじゃ判別が付かないなぁ。本当の実力者を集めてショーにするって言うのは、超ちゃんがビジネスとしてやるって言うのなら、文句を言えることでもないし。でも、ただ単に見たいだけならばわざわざ『まほら武道会』って形にする必要はないんだよね。私たち魔法使いの事を知ってる超ちゃんなんだから、見せて欲しいっていわれればエヴァちゃんの別荘に行って見せるとか、何ならタカミチくんでもそれくらいサービスで見せそうな気がするんだけどね。

 

「ところでシルヴィアさんは、転生者と言う言葉を知てるカ?」

「えっ!? ど、どう言う事? なんで超ちゃん――」

 

 何で知ってるの。という疑問をギリギリで飲み込んだ。けど、うろたえたのは確実に見られちゃったね。なんで突然そんな言葉を言い出したんだろう。今は『まほら武道会』の話しをしていたんだよね。でも、超ちゃんがその言葉を知ってるって事は、私達の事を想像以上に把握しているって事なのかな。私達はその事実を学園関係者に話していないし、誰かが超ちゃんに漏らしたとも思えない。

 あっ、フロウくんが面白がって言った可能性はあるかも知れないけど、フロウ君に限ってそんなミスはしないよね。じゃぁ、どうして……。

 

「不思議な顔をしてるネ? それはそうカ。突然こんな言葉を言いだしたら、頭がおかしくなた思うネ。だが心配いらないヨ。私は正常だからネ」

 

 そう言って片目を瞑って愛想笑い。あまりにも平然とした語りと愛嬌のある動作。思わずキョトンとしてしまったけれど、何で急に、そんな事を。

 

「……どうして?」

「もし私が、転生というものを経験してる。と言たらシルヴィアさんはどうするカ?」

 

 震えている自分が分かる。焦っている。自分で分かっているけれど、それがどうしても抑えられない。言葉にならない言葉をつぶやいて、否定したい自分がいる。けど、けれども、目の前の超ちゃんがそんな言葉を、理性的に言うなんて。冗談、だよね。

 

「嘘……だよね」

「私達以外に居るはずが無い、かナ?♪」

 

 今度こそ、心臓が止まるかと思った。えと、心臓が本当にあるのかちょっと分からない体だけれど、比喩じゃなくて本当に止まるほど驚いた。超ちゃんは、”知っている”。どういうわけか分からないけれど、私たちの事をどこかで聞いて知って、その上で接触してきている。

 どうすれば良いのか、分からない。だって、もう、鍵が『セフィロト・キー』が、無い。止められない荒い呼吸で視線を送る。不安に満ちた気持ちだけど、超ちゃんの答えが欲しい。

 

「心配は要らないネ。私が出来なくなた事は『魔法が使えない』と言う事だからネ」

「え!? ま、魔法が使えないって……。それじゃ科学を学んでいるのは……」

「まぁ、そう言う事ネ♪ ほら」

 

 え、携帯杖もってたんだ。と言うか、いまここで魔法を使うって、ちょっと待ってさすがにそんなことされたら警戒するよ。

 

「身構えなくて大丈夫ネ。プラ・クテ ビギナル 火よ灯れ」

「精霊が、動かない?」

 

 今のって知識ときちんとした修行をすれば、誰でも使える基本中の基本だよね。精霊への問いかけ手順も間違ってないし、きちんと精神力を込めてるように見える。それに一瞬だけど、超ちゃんの周りに精霊が集まるのが見えた。

 でも、超ちゃんからは全く魔力が出てない、と言うか体内魔力と体外魔力の循環が無いように見えるね。もしかして、魔力を使えなかったんじゃなくて、魔力を使うラインが無いって事なのかな。魔力を使う事ができない身体って事なんだ……。これじゃ、タカミチくんの呪文詠唱が出来ない体質より酷いよ。

 

「そんなに暗い顔をしなくても大丈夫だヨ。『まほら武道会』は私が純粋に見たいだけネ。技術の露見を防ぎたい格闘家のために、当日は私の科学の力の粋を集めて、カメラを始めとする映像記録装置は使えない様にジャミングをかけるヨ」

「え、うん。でも、どうして私達の事を?」

「……メガロメセンブリア」

「な、何でその名前を!? あ、でも転生を経験してるなら、原作を知ってるの?」

「知って居るヨ。それに私は魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫出身の火星人ネ。だから本当に心配する事は無いヨ。シルヴィアさんたちの事はあちらの教会で調べたヨ」

「はぁ~。そうだったんだ」

 

 なんだか本当につかれたよ。思わず脱力しちゃうね。一度深呼吸して気持ちを落ち着けないと。何だか無駄に疲れちゃった気がするよ。でも、超ちゃんが悪い事をして無いならこの学園祭は他に何か起きるって事なのかな。もしかして、今朝ザジちゃんが言っていた男性が何かに関わってるのかも。

 

「超ちゃんは、学園祭で何が起きるか知ってるの?」

「世界樹が大発光するくらいかナ。例年より早いヨ」

「え、そうなんだ。あとで確認しておこうかな。そうすると、学園長が何かしてくるかな?」

「シルヴィアさん。あまり油断しない方が良いネ。私が知ていても、シルヴィアさん達の正式な身内では無いのだからネ」

「あぁ、そっか。ごめんね。でも、そうだとしたら何で今まで超ちゃんは何も言ってくれなかったの?」

「言わなくても私は一人で色々やて来てるネ。それにやりすぎもいけないヨ」

「でも、何かあったら相談してね? 超ちゃんの事は友達だと思ってるからさ」

「フフ。その言葉は百人力だヨ♪ いつか頼む時が来たら相談してみるネ」

 

 そっか。そうなるとフロウ君達ともまた相談しないとダメだね。それに世界樹の事で麻衣ちゃんと確認もとらないと。分かった話の分だけ、また調べなくちゃいけない事が増えちゃった。

 

「話しは終わたかナ? 超包子の仕事もあるし、そろそろよろしいカ?」

「うん、そうだね。……あ、ちょっと待って?」

「何かナ? 手短にお願いするネ」

「えっとね、ネギくんとタカミチくんの試合だけ録画って出来るかな? ちょっとメガロメセンブリアの方に出さないと困るんだよね」

「問題無いヨ。茶々丸に録画させるネ。私の技術の粋を詰め込んでいるのだからそれくらいは出来るヨ。それからあちらには良い様にされない様に気をつけると良いネ。私からの忠告だヨ」

「うん、ありがとう。それからごめんね。助かったよ」

「それではまたネ。学際中は是非、超包子をヨロシク頼むヨ♪」

 

 うん、これでネギくんの件は解決だね。あとで茶々丸ちゃんにデータをもらう事にしよう。でも、一般の人が録画できないのに茶々丸ちゃんだけ出来るって言うのはちょっと不思議だね。同じ技術を使ってるって事だからかな。うぅ、元現代人なのに科学のほうが分からないってちょっと微妙じゃないかな。なんだか変に自信をなくしちゃうよ……。

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。いつかは呼ばれると思てたが、中々に焦たヨ。今はまだ真実がバレるわけにはいかないネ。私は一言も、シルヴィアさんの言葉を肯定していないのだがネ。フフフ。

 

「良かったのかい? 先生をこちら側に引き込まなくて」

「かまわないヨ。無理に引き込む必要は無いネ。シルヴィアさんは既に”何も出来ない”」

「おや。それは随分と自信のある言葉だね。何をしたんだい?」

「それはまだ秘密ネ。いずれ分かる時が来るヨ」

 

 本当にすまないネ。だがこれは来るべきのち世界の為。今は恨まれても、必ずやり遂げなくてはならないヨ。悲願でもあるのだからネ。それと後はネギ坊主カ。予想よりも成長速度が早いようだが、どう動くかナ。どちらの結果でも、私は、私達は必ずより良い未来を勝ち取って見せるヨ。


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