何この状況……。
「へぇ~。天使の翼ってこんな風になってるのね。一般人に紛れ込んでいても分からないんじゃないかしら?」
わさわさ。
「く、くすぐったいから止めてもらえませんかーー!?」
この人本気触りだよ!
今まで誰も居なかったから触られたこと無かったけれど変な感じ!
「イヤよ。こんなにサラサラした翼なんて、高級な羽ペンでもなかなかお目にかかれないわ」
わさわさわさわ。
くっ!このままじゃ遊ばれて終わってしまう!
絡み付いてるこの人を何とかしないと!って、翼をしまえば良いじゃない!
忘れてたよ私!くすぐったいのを我慢して集中。人の姿に!
「あぁ!」
何ですかその凄く残念そうな顔は。
可愛く膨れても出さないものは出しませんよ!
「と、とりあえず、話を続けてもいいだろうか?」
「ハイ。すみません」
「エイト、離れろ」
「イヤよ」
この人変り身が早過ぎるんじゃないかな?
隊長さんもっと怒ってやってください!
「エイトが先に言ってしまったが、我々としては大きな魔力の原因を味方に引き入れたかった。結果的に1人の女性、いや天使であったというべきか。解ってもらえるだろうが、宗教的・世界的な影響力は計り知れない」
うん、そうだよね。
教会の人とかから見たら、天使様がやってきました!我らに導きを!奇跡の御業を!
とか言われそう。
「我々魔法世界の影響力は、イングランド王国内のメルディアナ学校にある。十字教の影響力もあり、天使としての影響はそれこそ王を抜くものにもなりかねない」
ですよね~。嫌な予感がしたんだ。
ぜったい利用されるよね?
というか、宗教ってこの時代は、かなりの影響力があった様な?
「出来れば我々とメルディアナまで来てほしいのだが、問題は無いだろうか?無ければ向かい正式に協力内容を詰めたい」
無い、よね?信仰集めは必須らしいし、魔法世界の組織とも仲良くなれそう。
次の転生者が生まれてくる1300年頃に魔法世界に行ける様にしてもらえれば良いし、この隊長さんと仲良くなれば利用されないように上手く考えを助けてくれそう。
あとは~?あっ!女神様に作ってもらった家!
「はい、メルディアナってところに行くのは大丈夫です。ただ、私の家が置き去りになってしまうのでそちらをどうにかしたいって思うんですけれど」
「ならば結界魔法で封印を行うと良いだろう」
結界?そんな魔法は私の本に書いてなかったよ?
封印とかもあるんだ。危険なものもありそうだし、色々教えてもらおうかな~?
「えっと、結界とか封印とかの魔法は知らないのですが、どうすればいいのでしょうか?」
そういうと何だか変な顔をされてしまった。
あれ?そんな変なこと言ったかな?
「我々が最初に接触したときに『こおるせかい』の上級殲滅魔法からの封印術を、君が吹き飛ばした連中が唱えていた。結果的に魔法障壁だけで相殺されていたが、君ほどの魔力でなければ今頃まとめて氷の中だ」
ええぇぇ!?あのとき結構ヤバかったんだ。防御魔法の練習をしておいて本当に良かったよ。
氷付けにされたままどうなっていたか分からないものね!
「ともかく家を結界で覆って、認識阻害と影の魔法で隠せば問題ないだろう。君の魔力を楔として打てば封印完了だ」
認識阻害?影で隠すって言うのはなんとなく分かるけれど。
また知らない魔法が出てきたよ。
「すみません、認識阻害って何ですか?」
「認識阻害の魔法は、例えばそこに有る物を無いと思わせたり、違う場所にあると思わせる魔法だ。隠したい物や人、暗示にも使われる」
なるほど~。って暗示とか言われるとマッチョ神を思い出すな~。
でも必要そうだし習っておくだけなら損はなさそうかな。
「分かりました。家まで案内しますから、その魔法を教えてもらえますか?」
「了解した。しかし初めて使う魔法を、一朝一夕で組み合わせる事は普通は無理だ、なので我々が魔法の陣を作る。最終的な魔法の発動と楔打ちの魔力供給だけは君に任せる」
「はい、お願いします」
うん、色々魔法が混ざってるみたいだし。
イメージも出来ないからそこはまかせっきりかな。
魔力を出して楔を打つ?ってだけならちゃんとイメージ出来そうかな。
とりあえず、そろそろ腕を放してもらえませんか?」
「イヤ☆」
星を飛ばされました……。
「えぇと、ここが私の家になります」
私達は場所を移動して、女神様に作ってもらった家の前に居る。
なんか変な目で見られてるんだけれど、どうしたのかな?
「随分と変わった家ね?何と言うか前衛的?」
「見たことが無い壁ですね。何で出来ているのだろう」
散々な言われようだ……。
別に変な家だと思わないんだけれどね~。これくらい普通じゃない?
リビングとベッドルームとバスルームのちょっと良いホテルみたいな感じ。
一軒家なんだけれど、西洋風だし何かおかしいのかな?
「ふむ。きっと天使から見たらこれが普通なのだろう。封印術をかければ楔を抜くまで出入りは出来なくなる。何か必要なものがあれば今のうちに取り出しておくのをお勧めするが?」
やっぱり変らしい。う~ん、取り出しておく物って言っても本は体に入れてあるし、服は天使様やるなら黒いほうは要らないよね?
「特には無いかな~。無くても困るものはありません。家には生ものもありませんから」
なんかまた変な顔をされてしまった。今度は何だろう?
「ねぇ天使ちゃん。結構上等なドレスを着てるけれど、森を抜けるんだし外套とか無いのかしら?メルディアナへ行くまでに汚れるわよ?」
「あ、このドレスって汚れたりしないんです。家にあるのは色違いだけですから、天使として偉そうにするなら真っ白のこれだけで良いかな~、なんて」
「よ、汚れない!?」
「何でも有りなのね~」
「偉そうに、か。まぁそうだな。ククク……」
むぅ。笑われてしまった。
しかも呆れられている様な?
これじゃ、信仰を集めたり威厳とかには無縁になりそうな予感が!
「問題無いなら魔法の準備だ、セブンは影で覆え!エイトは認識阻害の上乗せを!結界は私が担当する!」
「「了解!」」
そう言ってテキパキと作業を始めてしまった。
どんな手順かも分からないほど手早い様子で、もう終わったのかこちらに近づいてきた。
「それでは仕上げに『魔法発動体』になっているダガーを渡す。ダガーを抜けば魔法は解除されるが、君の魔力ならば他の者は抜けないだろう。何も考えずに思いっきり魔力をこめて、玄関前に突き刺してほしい」
「はい!」
受け取ったダガーに魔力を流しながら、無心でダガーを振り下ろした。
頬に当たる風が心地良い。今私達は、イングランドを目指して空を飛んでいます。
隊長さんたちは町の宿に預けていた荷物を背負って箒に乗っています!
私はホワイト系のフード付き外套を買ってもらいました!
飛ぶ時は翼に当たるからしまってもらったけれどね!
しかし、森を抜けて10kmくらい進んだら町があったなんて……。
森を出たら出たでやっぱり目立つ事になっていたのかな。
町に行ってもこの時代のお金は無いんだよね!
「ふむ、認識阻害の魔法は問題ないようだな」
「あ、はい。大丈夫だと思います」
そう、飛ぶとき明らかに目立つ私に、認識阻害は覚えたほうが良いって教えてもらいました。
基礎だけど、魔力が大きいからひとまず問題は無いそうです。
隊長さん達も認識阻害を使っているから、一緒にいれば相乗効果でまずバレないみたい。
「そろそろイングランド上空だ。他の組織や貴族領の問題もある。集中してメルディアナを目指す!」
「「了解!」」
「はい!」
貴族かぁ~。普通に転生していたら憧れたのかもしれないけれど、今の身体だったらむしろ絶好のターゲットだよね?
天使的な意味も見た目的な意味も。フード生活は必須になりそうだなぁ~。
とりあえず問題が起きる事も無く、無事にメルディアナって所に着きました。
翼を出したままだと目立つという事で、近くの森に下りてフードと外套を装着。
報告の時に天使の姿になってほしいと言われました。
「調査隊帰還しました!」
「コードデルタ!任務ご苦労。してそちらの者は?」
「こちらは謎の魔力を発していた本人です。観測データと本人の確認も取れています。これから内容は詰めますが協力体制をとる約束は取り付けました」
「了解した。会議室を使ってくれ。他には何かあるか?」
「事はメルディアナだけで済みません。現在の最高責任者を会議に呼んでください。後々はメガロメセンブリアとの協議になるでしょう」
「なんと!……責任者には貴官ら以外の護衛も付ける事になるが?」
「問題ありません。むしろ上の立場の目撃者は多いに越したことは無いでしょう」
何だか随分と話が大事になってる気がするんですけれど~?
それにしても偉い人のやり取りって肩が凝りそうな話し方だよね。
なんだか別の世界の会話に聞こえるよ。
「それでは会議室までご足労願いたい」
「はい」
とりあえず無難に返事をして隊長さんの後を付いていく。
「わしがメルディアナの支部長になる。わざわざヨーロッパの内陸からようこそ」
出た!いかにも魔法使い!って感じのお爺さんが目の前に居ます。
「調査隊も任務ご苦労。して、報告を聞きたい」
「了解しました。まず我々は黒の森と呼ばれる場所にて探索を行い。原因不明の魔力と同じパターンを発する女性との接触に成功しました」
「女性?小柄だとは思っておったが女性だったか。それから?」
やっぱり話し方は仰々しいね~。
もうちょっと軽く話せないのかな?
こんな話し方って、天使様を演じる時は覚えないといけないのかな~?
「はい。他組織と言いますか、冒険者による魔女狩りや名上げ行為を行う集団が、上級殲滅魔法と封印術を行おうとする現場に立ち合わせました。しかし彼女の魔法障壁はその一撃を防ぎきり、即座の反撃による勝利でした」
「ふむ、魔法使いとして十分な実力があるということか」
「本質的な彼女の評価はそこではありません。むしろそこからが本番です」
「む?何があった?」
「シルヴィアさん、準備をたのむ」
「はい」
呼ばれたので外套を脱ぎ、横にくっつく様に立っていたエイトさんに預ける。
なんだか見た目だけで随分注目されてしまってるけれど、正直そこに感心してほしく無いな~。
自分でこの容姿になったんじゃないからね~。
とりあえず集中。翼を出すイメージをとる。天使の姿に――!
「これは!」
「なんと!」
魔法使いのお爺さんも、一緒に居る偉い人も驚いている。
一度私の姿を見たことがある隊長さん達はあまり気にして無いようだ。
訂正。エイトさんだけは視線がおかしい。
むしろじっくり見られてる。今触るのは止めてくださいね?
「……天使。だそうです」
「天使!?」
「馬鹿な!」
やっぱり簡単には認められないよね~。
証明って言っても何か方法は無いかなぁ~?
「彼女の魔力パターンは観測されたものと完全に一致。また魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫の精霊系亜人にも似た魔力ですが明らかに別物。そもそも彼らは魔法世界から出たがりません。また、半透明の銀の翼など聞いたことがありません」
「なるほど、のう……」
「しかし、証拠も無いのに天使とは言えないのではないか?」
偉そうな人が反論してるけれど、その気持ちはわかるよ。
私だって自分がこうなってなければ『天使です』なんて言われても、頭大丈夫ですか?って聞きたくなるものね。
「ふむ、ならば天使らしい力は持っておるか?」
「力?ですか?」
「うむ、我々人間や魔法使い、魔法世界の亜人では出来ない事は無いかの?」
うーん。光の精霊と闇の精霊を集められるとか?
あとは私の本とか。服が汚れないのは魔法で出来たりするのかな?
「彼女には使命があるそうですが……。その関係で何らかの力は無いだろうか?」
やっぱり光の精霊をたくさん集められるってのが良いところかな?
思いつく事を言うだけ言ってみようかな。
「えぇと、光の精霊をとてもたくさん集める事ができます。あとは着ている服が神力でまったく汚れません。あとはちょっと変わった本が取り出せます」
「服の事はここに来る間にまったく汚れず破れない事は確認したが、光の精霊と本というのは初耳だ」
「あ、はい。私は光の精霊をたくさん集められるので魔法も簡単に使えます。本というのは私の使命に関係するものです」
やっぱり無理がある気がするなぁ。
「なるほどの。とりあえず光の精霊を集めてみてくれんか?」
「はい」
それじゃ防御魔法のイメージで。
ただ集まるだけで良いから力を貸してほしい!
「こ、これは!」
「なんと!?」
その瞬間、初めてこの世界に来たときの様に、白い尾を引いた光の玉が視界一面どころか世界を塗り潰すくらい集まっていた。