青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第54話 確かめる真実

「はぁ!? 超が転生者ってそれマジで言ってんのか?」

「うん、そうらしいんだけどね」

 

 超ちゃんとの話をした日の夜。再び皆で話し合いをするために集まった。茶々丸ちゃんには前と同じように撮影しないようにエヴァちゃんが命令して、超ちゃんの真偽を問う形になっている。

 みんな信じられないような顔をしているけれど、超ちゃんがやって見せた魔法。それに魔法が使えないからこそ科学力。それを一般的に見て、何世代も先に進んでいる麻帆良学園で磨いたってなると、まだ理解しやすい話なんだよね。

 

「『枷』は『魔法が使えない』って身体みたい。実際に魔法を詠唱したら、精霊は動くんだけどそのまま何も起きないの。魔力のラインが一切動かなかったんだよね」

「ふむ。詠唱が出来ないタカミチと違い、ラインそのものが動かないのは異常だ。一概に嘘と言い切れんな。それに高い科学力か。それならば説明がつくか?」

 

 茶々丸ちゃんを造った科学力は、現代科学で説明が付かないからね。前世から先端の科学に触れていて、それを下地に麻帆良大学工学部とかで勉強したって言うのなら、一応納得できる説明になるんだけど……。同じ3-A葉加瀬ちゃんも科学に関してはものすごく頭がいいからねぇ。

 後は可能性で考えたら、その辺りが転生で手に入れた力だったって可能性もありえるんだよね。

 

「それから魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫出身って言ったな? それで魔法が使えないのはかなりのハンデだ。だからってあっちで科学を学んだのはおかしい。せいぜい戦闘艦や情報端末だぜ? 確かに地球の一般的な科学よりも進んでるが、電子精霊頼りな部分が多い。それなのにあいつの持ってる科学力は、メガロや学術都市のアリアドネーよりも確実に進んでいる」

「じゃぁマジであいつ転生してきてんのか? なんか言った方が良いのか?」

「放っておけ。あいつは一人でやってきたと言ってるんだ。わざわざ構う必要も無い。本人もそう言ったんだろう?」

「うん。そうなんだよね……」

「そう言っても気にしてるじゃねぇか。あいつはクラスじゃ一般人のフリしてっけど、こっち側になんだよな? しかもシルヴィア寄りの」

 

 うん、確かに気になるんだけどね。それに折角だからもっと仲良くできればって思うんだけど、本人から大丈夫だって言われちゃうと、どうしようもないんだよね。きっと今までも色んな事を自分の力で乗り越えてきたんだと思う。でも、もしもの時は相談しに来るって言ってくれたし、これ以上は踏み込めないかな……。

 

「そうか? シルヴィアが気にしないんなら、別に良いんだけどよ」

「俺も気になるな。ただし、本当の事か。と言う意味だ」

「超ちゃんが嘘ついてるって思う?」

「本当の事を言っていない可能性だってある。それに一週間先延ばしにしたのは何のためだ? 超包子の準備だったら普段からしてるはずだ。それを理由にするのはその間に何かしてたんじゃねぇのか?」

 

 確かにそれは気になるんだけどね。準備って言い切られちゃえばそれまでの事だし、調べても前に言っていたみたいに仕入れとか当日の超包子の予定くらいしか出ない気がするんだよね。

 本当に何かをしようとしているのなら、超包子の名前を使わないだろうし、もっと隠れて何かをすると思う。でも、もしかしたら……。

 

「念のため調べてみてくれるかな? もう余り時間が無いんだけど、クルトくんも何か掴んでたのかもしれないし。疑いたくは無いんだけどね」

「良いぜ。先週の動きから洗ってみるか。だがあまり期待するなよ? 本当に何かをするなら巧妙に隠されてるだろうからな」

「うん。分かったよ。それから前に言っていたネギくんの話。タカミチくんとの試合だけは録画してくれる事になったんだけどね。茶々丸ちゃんならジャミングの中で録画出来るって本当?」

「問題ありません。出力も可能です」

「そっか。それじゃよろしくね?」

「はい。解りました」

 

 これで録画データをフロウくんから、クルトくんに渡してもらえば良いよね。後はフロウくんが気になってる点。もし超ちゃんが本当に嘘をついてるんだったら、嘘をつくだけの意味があるはず。今はまだ話せないって事かな。それとも、話したくないのかな。

 

「あと麻衣。超の知識通りに大発光が早いのか?」

「……そうですねー。魔力の充実度が高い感じはします。収束が追いつかなくなってるから、今年は放出になっちゃうと思いますよ」

「それなら学園祭中は皆で見回りしないとね」

「気にするなよ? 俺達全員の問題だからな?」

「……はい。ありがとうござます」

 

 自然放出された魔力は、何かのはずみで使われちゃったりしたら困るからね。

 麻帆良学園は世界樹を囲まない様にって契約をして設計しているけど、世界樹が見える広場とか近い部分には影響が出ちゃうからね。

 

「千雨ちゃん。学園祭の間、表向きは予備保健委員って事で登録出しておくからね? 裏向きは魔法使いとして見回りになるけど、大丈夫だよね?」

「そうだな。クラスの出し物で文句を言われるかもしれねぇけど、準備を大幅に手伝うって事で何とかなると思う」

「最悪ネギ坊主でもダシにしたら良い。それで黙る奴らも居るだろ?」

「先生ねぇ。逆に追い掛け回されそうだな」

「それから森の結界かな。強めにかけておけばほとんど大丈夫だと思うけど?」

「森は俺が回っておこう。面白い相手が来てもそれはそれで良いからな」

「後はレイニーデイが言っていた男だよな?」

 

 そう……。これがサッパリ分からないんだよね。超ちゃんの事は一度保留で良いと思うんだけど、今度は別の情報が出ちゃったし。ザジちゃんは普段ぜんぜん喋る子じゃないのに、急に警告してくるなんてね。

 

「あの無表情の曲芸やら手品をしてる奴か。誰か何か知ってるか? 俺は知らないぞ」

「あいつ自身については心配ない。むしろ放っておけ」

「エヴァちゃん知ってるの?」

「あぁ。だがアイツは道楽者みたいなものだ。気にする事は無い」

「それで良いのかよ? クラスにまた変なのが増えるとか勘弁してくれよ」

「何だ千雨。まだ割り切ってなかったのか?」

「割り切っちゃいるんだが。……心の平穏くらい求めさせてくれ」

「と、とりあえずはさ、その男性だよね? エヴァちゃん何か思い当たらない?」

 

 ザジちゃんの事を知ってるなら、エヴァちゃんは何か知ってるって事なんじゃないのかな。皆もなにか同じように感じてるみたいだし。えっと……アンジェちゃんは何も知りませんって顔してるけれど大丈夫なのそれで……。

 

「そうだな。ほぼ間違いなくメガロの元老共が召喚した悪魔が来る。どんな形か分からんが、学祭中の浮かれた空気に紛れ込むのだろう」

「どうしてそう言い切れるの?」

「ザジ・レイニーデイの信用度が高いからだよ。それに奴らが悪魔を使う理由も分かったからな」

「何、どう言う事だ?」

「今日の修行の後の事だ。ぼーやが神楽坂明日菜にパートナーとしてきちんと話をしたいと言い出してな。意識同調の魔法を使ったので、宮崎のどかのアーティファクト『いどのえにっき』で覗いてやったんだ。かなりの事が解ったぞ」

「あんなもん取り上げるなよ。相っ変わらず性格わりーな」

「フフフ♪ ほめ言葉と受け取っておこう。その話の内容だが――」

 

 

 

 始まりは六年前の冬の事だ。場所はウェールズの山奥の小さな村。一般的には知られていないが、ここにいる住民はすべて魔法使い。そしてぼーや、つまりネギ・スプリングフィールドもここの出身者だ。もっとも、本人にとっては楽しい思い出のある幼い日々と言うよりは、憎しみと屈辱にまみれた地獄のような記憶だ。

 そしてこれがその再現。ぼーやの頭の中にある記憶を、アーティファクト『いどのえにっき』で覗いて記録したものだ。

 

『ネギ、貴方のお父さんはね。スーパーマンみたいな人だったのよ』

『スーパーマン?』

『そう、ピンチになったら現れる』

『フン。じゃが奴は死んだ……』

『スタンさん。そんな言い方しなくても』

『お姉ちゃん。死んだって?』

『もう、会えない、って事よ……』

 

 これが幼い時の記憶。その冒頭に当たる部分だ。父、ナギ・スプリングフィールドはこの当時から死亡したものとみなされている。近くにいるのは姉のネカネ・スプリングフィールド。それからナギを良く知っているらしい老人だな。この頃のぼーやは今とは違う意味で悪ガキだったらしい。

 子供なんぞ皆悪ガキだなんて思うなよ。ここが魔法使いの村だと言う事を忘れてもらっては困る。ぼーやは『ピンチになったら現れる』という姉の言葉を真に受けてな、自分がピンチになるように魔法で悪戯をしては怒られ、果ては無茶な事へと昇華して行った。その様がこれだ。

 

『ね、ネギが倒れたって!? どう言う事ですか!』

『大丈夫だよネカネ。熱は出てるが問題ない』

『まったく、あいつに似た悪ガキじゃわい』

『もう、何であんなに無茶をしたの?』

『だって。ピンチになったら、お父さんが助けに来てくれるって思って……』

『バカ! もう、こんな事しないで。うぅ、ひっく。』

『ごめんなさいお姉ちゃん。もうしないから。泣かないで』

 

 この頃はまだ良い。どこにでもある子供を叱り付ける姉の図だ。ここに居る大人たちもこれから始まる悲劇なんて想像もしていないだろうよ。なんだかんだと言ってナギ・スプリングフィールドを慕うものたちや縁のある者達が住んでいた村だ。そこにネギ・スプリングフィールドという餌がいる。どんなに隠れていたとしても限界はいつか来るものだ。

 そう、英雄とは何だ。神職者か。聖者か。まさか無条件に助けてくれる善人などと思うなよ。戦争の勝者だ。二十年前にあった大分裂戦争。亜人がその殆どを占めるヘラス帝国。同様に人間が殆どを占めるメセンブリーナ連合。どこで恨みを買ったかなんて数える方が馬鹿げている。そして何処かの誰かが、何らかの思惑で悪魔をけしかけた。

 

『あら、何かしらあれ。――えっ!? 村が燃えている!?』

 

 辺りは全てが焦土。残った家も全て焼き払われて朽ち始めている。そんな村の様子をあわてて見に来たのが姉のネカネだ。そして一人、近くの湖に偶然出かけていた事で難を逃れた子供の頃のぼーやも居る。

 

『ネカネお姉ちゃーん! おじさーん。――おじ、さん?』

 

 ぼーやの困惑も当然の事だ。何しろ村は全滅。焼き払われた後に残っていたものは石化した人間の姿。どこまで行けども石像。見るもの全てが信じられなかっただろう。どれだけの恐怖と絶望があったのかぼーやの態度が示してくれている。

 

『う、うぅ。これって僕がピンチになったらって思ったから? ピンチになったらお父さんが来てくれるって思ったから? ――僕が、あんな事思ったから!』

 

 どれだけ泣き叫ぼうがこの状況ではぼーやの命も風前の灯。だが、ぼーやは生きている。今現在この麻帆良でな。ならばぼーやが命を拾う出来事があったはずだ。この時のぼーやの周囲は悪魔たちの巣窟。召還され使い魔となり、主の命によってただただ破壊をするだけの獣の巣だ。まず勝ち目は無い。恐怖で足が竦んだだろう。逃げようにも道はどこにも無かっただろう。だがそれを、たった一人で圧倒した馬鹿が居た。もう分かるだろう。英雄、ナギ・スプリングフィールドだ。

 

『――来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!』

 

 雷の斧は上位古代語魔法だ。その威力の割には詠唱も短く使い勝手が良い。まぁ、喰われる魔力は推して知れ。これで悪魔の一体が倒された。雷撃の魔法で一撃とは情けない限りだが、この馬鹿の馬鹿魔力ならば仕方がないだろう。一斉に襲い掛かってもこの様だ。拳や脚に込められた魔力も並みのものではない。この男にとっては悪魔の軍勢などその辺の雑兵と変わりないという事だ。

 

『――来れ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風!』

 

 これでトドメだ。一般魔法使いの雷の暴風は、精々が数mの雷の竜巻を直線に打ち出す。ところがこの馬鹿が使うと直径数十mになる。これでは化け物と呼ばれる悪魔も形無しではないか。まさに不条理の塊。実際ここで再起不能になった悪魔や封印されたものなど数え切れなかっただろう。

 その後は助かった一部のものを治療して、ボーヤに形見といって自分の杖を渡し、今日に至るというわけだ。実際、ぼーやが京都で石化魔法を使うあの男とであった時の目を覚えているか。激しい怒りと憎悪を秘めた目だ。あの時、永久石化の魔法を使われていれば、今頃まともには居られなかっただろうな。

 

 

 

 

 

 

「つまりネギ坊主のトラウマを抉る作戦ってわけか? あいつらマジで腐ってるな」

「そんな事があったんだね……。それにネギくんがお父さんを追いかけて必死になってるのは、生きてるって確信してるからなんだね」

「笑えねーな。人生ハードモード過ぎだろ」

 

 永久石化かぁ。あれはさすがに治療薬だけじゃ治らないね。悪魔独特の固有能力だったり、そもそもなんで永遠に石化しているのかとか、それでも生きてる人の状態とか不明瞭な点が多すぎるんだよね。それにこれはネギくんが挑む人生の課題。私が手を出す問題とも言えないし。

 

「そういう訳だ。学園祭では悪魔にも気を付けろ。ぼーやがいきなり暴走でもしてくれたら面倒だ。……知った事でもないがな」

「なんだ? 弟子なのに気になら無いのかよ?」

「ハッ! シルヴィアじゃないんだ。私はそこまで優しくないさ。尤も身内に手を出すというなら容赦はしてやらんがな」

「千雨ちゃんもだよ? もし石化魔法を使う悪魔だったら気をつけてね?」

「えっ? あぁ、その先生の記憶の中にあった、石化のブレス魔法に気を付けるんだろ? さすがに学園祭の中でそんな派手な事は無いと思いたいんだが」

「まぁ何があるか分からないからな。気を付けるに越した事は無いぜ?」

 

 学園祭中、私達はある程度個別に動く事になると思う。フォロー出来る範囲も限られてくるし、すぐに駆けつけられない場合もあるかもしれない。最大の敵は悪魔になのかもしれないけど、どんなことがあったとしても、出来る限り怪我人が出ずに終わってほしい。京都での事件みたいに犠牲者だらけになって欲しくないからね。

 

「それじゃこんな所かな。みんな良い?」

「あぁ、まぁ武道会は適当に――。いや頑張れば良いんだろ? 頼むから睨むなよ」

「くくく。素直にそう言えよ。何年付き合ってると思ってるんだ」

「もう、フロウくんたら。格闘大会とかホント好きだよね」

「まったくだ。何回こいつの被害にあった事か……」

 

 もう間も無く学園祭が始まる。私たちに出来るのは準備をして待ち構える事。万が一石化能力を持つ悪魔がやってきて、永久石化なんて使われたら大惨事になってしまうから、出来る限りの警戒をして動かなくちゃいけない。

 そして超ちゃんの事。転生者なんてどの世界からみても異様な話だけれど、現実に存在する私たちがそれを肯定している。それを名乗った超ちゃんを、私は気にせずには居られなかった。




 今回の投稿はここまでです。
 56話と57話は加筆して改訂が終わっているのですが、55話が納得がいっていないので、そちらを書き上げてから1度にまとめて投稿したいと思います。

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