青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第57話 学園祭(1日目) 昼間の出会い(下)

「その言葉、待っていたヨ!」

 

 え、これって、鵬法璽≪エンノモス・アエトスフラーギス≫。何でそんな封印指定魔法具を持ってるの。あれは魂に影響が出る契約魔法具だから、取引で使うのはかなり危険なんだけれど。

 

「フェイト様! お体に影響は!?」

「いや、大丈夫だ。ただの質問だからね」

「超ちゃん。そんな魔法具どこで手に入れたの?」

「勿論、裏の世界ネ。それじゃ質問は何かナ?」

「では最初の質問だ。超鈴音、君は何者だい? どこの誰なのか、正確に答えて欲しい」

「火星人だと言ったはずだがネ?」

「答えになっていないよ。正確に」

「未来から来た火星人ネ。そこに居るネギ坊主の子孫だヨ。母方の血は薄いから期待されても困るヨ♪」

「え、未来!? だって超ちゃ――」

 

 思わず言葉が止まってしまった。それほどの強い視線。

 さっきの栞ちゃんの目じゃないけれど、これ以上言うのは駄目だと訴えてくる強烈な瞳。そうかと思えば悲しみがあるような辛そうな瞳。

 

 いったい、超ちゃんは未来――で、良いのかな。そこで何を体験したっていうの。

 

「確かめ様が無いね。そうだとすれば確かに納得は出来る。だが信憑性が低すぎるよ」

「そうだと思うヨ。しかし私にはこれ以上の答は無い。次はシルヴィアさんの番ネ」

「しょうがない。質問が悪かったと思う事にする。それで【癒しの銀翼】質問は?」

「ちょ、ちょっと考えさせて!」

 

 質問は三つ。するのは私がフェイトくん達に疑問に思ってる事。

 

 でもさっきの『リライト』で、いくつか分かった事があるかもしれない。あれは原子分解魔法じゃない。でも、それに近い命の危険性があるってこと。そして私に対して何を期待しているのか。こればかりは『リライト』がはっきりしないと分からないんだよね。

 

 後はどうして『完全なる世界』に所属しているのか。フェイトくんが一体何者なのか。栞ちゃんって従者が居る以上、使い魔って線は薄い気がするんだけれどね。

 あと、何のためにリョウメンスクナノカミを復活させたのか。疑問点ばかりだね。あ、忘れてたけれど、ネギくんにも何かを期待してるよね。これも何のことか分からないし……。とりあえず今は。

 

「『リライト』。あれは何。私に協力させてどんな価値が見出せたの?」

「やはりそれか。そうだね、あれは世界を救うための魔法。報われぬ魂を楽園に導く魔法。そのはずだった。けれども、まだ分からないが、新しい可能性が見られたのかもしれない」

「新しい可能性……? それって――」

「そこまでですわ。質問は交互に一個づつ。貴女の番は終わりました」

「え、うん。そう、だね……」

 

 あれ、もしかして私、この子になんか嫌われてたりするのかな。何か刺々しい様な気がするんだけれど。もしかしてさっき叩いちゃったから? だからってあれで嫌われるのは筋違いだと思うんだけれどなぁ。

 

「それじゃ次だ。超鈴音。君が未来人で僕らを知って居るならば、何のためにここに居る?」

「わざわざ聞く事カ? 世界を救うためネ。そして私達が生きるためだヨ♪」

「えっ? 超ちゃんそれって。フェイトくんと同じって事?」

「手段は違うが、結論は同じだヨ」

「なるほど。先程の答えの信憑性が上がったと言う訳か。そして敵である可能性も。さて、次だよ【癒しの銀翼】」

「フェイトさん。自分がテルティウムと呼ばれるのがイヤなのに、シルヴィアさんは名前で呼ばないのは失礼じゃないカ?」

「……それは失礼したね。改めて聞こう。シルヴィアさん。質問は?」

 

 本当に困ったなぁ。なんだか下手な質問が出来ない空気だし。余計に突っ込んで聞くと栞ちゃんが横槍を入れてきそうだし。

 それでも本当に重要なのは『リライト』なんだよね。この魔法が世界を救うって事で、超ちゃんは世界を救いに過去に戻ってきた。でもそれだと、未来では世界が不幸な事態になったって事になる。

 あれ、そもそも世界を救うって何の世界だろう。この世界、ネギくんが主人公として生きている世界。超ちゃんが未来で生きている未来の世界。これはどっちも同じだよね。つまり、超ちゃんは世界が滅んだから過去に戻ってきた。え、じゃあ、このままだとこの世界は滅びる!?

 

「ちょっと待ってね。私はこの世界が好きだよ。皆が居て、家族が居て。時々嫌な気持ちの人がいて、争いや差別とかが無くなる訳じゃないのは分かってる。それでも、この世界を救いたい。滅ぼしたくないって思ってる人が揃って喧嘩腰で話す事はおかしいんじゃないのかな。フェイトくんにとって世界ってそんなに救えないものなの? 私がやらなくちゃいけない事は、『グレートグランドマスターキー』を所有して世界を生かす事。だからもし、何かフェイトくんが知っていることがあれば、私はそれを知りたい」

 

 これは私にとっての真実。今、私達はこの世界で間違いなく生きている。滅ぼしたいと思わない。そして大切な人達を守るためにも、少しでも情報が欲しい。

 

「シルヴィアさん。それは言い過ぎネ。そんな情報は出してはダメだヨ」

「でも超ちゃん。皆が世界を救いたいって思うのに、方法が違うから協力しないって言うのは、おかしいと思うけど?」

「なるほど。いくつか謎が解けたよ。やはり貴女は重要な位置にいる様だ」

 

 何だろう、少しだけフェイトくんの物腰が柔らかくなったような気がする。

 栞ちゃんは相変わらずこっちを睨んでる様な感じなんだけどね。前に見た時の無表情で半目の冷めた視線より、ちょっとだけ熱が入ったように見えるんだよね。

 

「質問に答えよう。二つ目は悲しい現実だ。だが貴女はやはり期待できる。それを覆してくれる事を期待するよ」

「世界が悲しい現実……?」

「そう、そして三つ目『グレートグランドマスターキー』を”僕は”持っていない。あれを所有するというのは僕達にとって大きな意味がある」

「大きな意味? それは――」

「質問は三個まで。これでおしまいだよ」

「オヤ、ルール違反だヨ? 交互に三個と言ていたネ。自分で言い出して破るのカ?」

「貴女、それは揚げ足取りですわ!」

「良いのかナ? こちらには鵬法璽があるのだがネ。一声かければ、勝手にその口が質問に答えるヨ」

 

 なんかまた超ちゃんが悪役っぽくなってきたんだけれど、大丈夫かなぁ。しかもその質問するのって私だよね。すごく、質問しにくいんだけれど。

 

「質問のとり方を契約した覚えは無いけれどね。でも良いよ、素直に認めよう。それじゃ僕の番だ」

「それは駄目ネ。ルールを破ったんだから代償は必要だヨ、”テルティウム”さん?」

「超ちゃん、それは止めようよ……」

「シルヴィアさん。貴女のお人好しは貴重だが、相手が敵だと言うのを忘れていないカ? 相手の弱点を突くのは基本中の基本ネ♪」

 

 ううう、超ちゃんがフロウくんに見えてきた。ほら、栞ちゃんものすごく睨んでるってば。いくらなんでもやり過ぎって言葉があるんだからさ……。

 せっかく少しでも和解出来そうな空気があったんだから、そう言うのはやめて欲しかったんだけど。

 

「分かった。鍵をもう一本渡そう。その代わりと言っては何だけど、僕の質問に一つ答えて欲しい」

「ホウ、それは殊勝な心がけネ」

「え、うん。良いけれど、そんなに鍵を出して大丈夫なの?」

「フェイト様。それでは後で、その……」

「大丈夫だよ栞さん。どうせ余っているのだし、それに……」

 

 え、なんだろう。聞こえない。凄く小さな声で何かを栞ちゃんに言ったみたいだけれど、小さすぎて聞き取れなかった。栞ちゃんは何かちょっとうれしそうな顔をしてるし、一体なんて言ったんだろう。

 

「では最後の質問だ。超鈴音。君は誰の力になる?」

「私はネギ坊主の子孫だからネ。彼の味方だヨ♪ 今はネ」

「そう。ではシルヴィアさん。僕からの質問だ」

「私に、答えられる事なら」

「もし、世界を滅ぼすしか世界を救えなかったら、貴女はどうやって世界を救う?」

「世界を?」

「そう、世界」

 

 そう言われても私が答えられるのは、「世界を滅ぼしたくない」って事。甘い答えかもしれないけれど、誰だって好き好んで滅びたくは無いだろうし、私も滅ぼしたくない。

 こんな質問をするって事は、フェイトくんが滅ぼすしか方法が無いって悩んでいるからだよね。と言うことは、二つ目に答えてくれた悲しい現実に繋がる話になるって事なのかな。もしそうだとしても、私はやっぱり滅ぼしたくない。だから。

 

「私は滅ぼさない方法を見つけたい。さっきも言ったけれど、この世界には大切な人達が居るの。助けられるものを見逃して滅ぼさせたりしない。フェイトくんが言う悲しい現実が何の事か分からないけど。滅ぼさないで救う」

「甘いね。それじゃ救えないよ」

「そうかもしれないけど、だからって滅ぼすのは良く無いと思うよ?」

 

 そんなに、突き刺さる程の視線を送ってこなくても良いとは思うんだけどね。私だって、全部が全部救えるって思ってるわけじゃないよ。それでも、目に見える人や任された生徒達。大切な皆がいるからね。

 

「二人ともそんなに見詰め合て、さては惚れたカ?」

「なっ! フェイト様! この女が良いのですか!?」

「え、ちょっと超ちゃん! 栞ちゃんも! 何でそんな話しになるの!?」

「……それは、不幸な結末があったとしても救えると?」

「それは、不幸にしたくないから、救いたいって。フェイトくんはそう思ってるんじゃないの?」

「…………そうかもね」

 

 え、今なんて言ったの。また、小さな声で聞こえなかった。

 

「これで僕の質問は終わりだ。鍵を渡そう。そして世界を救う可能性の一欠片を、貴女に渡そう」

 

 もう一本、さっきの黒い鍵。柄だけで1mを優に超えた姿は同じだけれど、何か、分からないけれど何かが違うものだって感じる。これは何だろう。見た目は『マスターキー』って呼んでいた鍵にしか見えないんだけれど。

 

「『グランドマスターキー』先程のものよりランクが一つ上に当たるものだ」

「これは、フェイトくんにとって重要なものなんじゃないの?」

「フェイト様。本当に、よろしいのですか?」

「構わないよ。それにこれはセクンドゥムのもので所有者は居ない。余らせた可能性ほど無駄なものは無いからね。とは言っても責任を負う事を忘れないで欲しい」

「ありがとう。それは勿論だよ。私だって何もしないまま、え、あれ――」

 

 視界が、歪む。鍵を受け取った瞬間、やっぱり身体の中から”何か”が抜け出す感覚。さっきよりも強く引っ張られる。どうしよう、こんなの、この身体になって初めて。力が抜けて……。だめ、意識がたもてな――。

 

「シルヴィアさん!? 何をしたネ!」

「何もしていないよ? 鍵を渡しただけだ」

「しかし……。こ、これは!?」

 

 ゆっくりと光る。柔らかな銀色に。仰向けに倒れたまま心臓の辺りから、波紋の様に揺らいで一冊の本が浮かび上がる。やがて本と『グランドマスターキー』は、共鳴するかの様に互いに銀色の光に包まれ始める。

 

「何だこれハ! 何が起きてるカ!?」

「そんな事は僕が聞きたいね」

 

 

 

 

 

 

 何かに触れる感触。柔らかな暖かい光に包まれて、ぼんやりとした意識が目覚める。視界には目一杯の青空。とてもとても暖かくて、このまま吸い込まれていきそうな。

 

「え……?」

 

 触れた感触は、芝生だよね。ずっと続いている平原。見渡す限りの空。

 

「それに、泉があって……。うそ!?」

 

 まさか、私死んだ!? ちょっと待って、何でいきなりここに居るの!? 体は人間だった時のもの? それとも……。あ、天使になってからの身体だ。少し落ち着いて見れば銀色の髪が目に入るし、翼を出してみれば良かったんだね。本当に焦ったよ。

 でも、どうしてこんなところに居るんだろう。最後に意識があったのは、フェイトくんから鍵を渡してもらった時だよね。

 

「ハロ~シルヴィアちゃん♪ 元気してた? 三日振りくらいかしら?」

「え、えぇぇ! なんで女神様が!? 私は麻帆良にいたんじゃ?」

 

 ちょっと待って。意味が分からないよ。さっきまで麻帆良学園の第三保健室に居て、栞ちゃんのあんな大事があって、フェイトくんと超ちゃんと問答してた。間違いなくやってたはず。あの時の鍵の感触は、確実に私の手に残ってるし。

 

「ちゃんと麻帆良にいるわ。精神だけ呼び寄せてみたのよ。ちょっと危ない状態だったし」

「え、危ない?」

「貴女、無意識に『セフィロト・キー』作るんですもの。さすがにあのままだと力が途切れて、しばらく活動が出来なくなるところだったわ」

「でも、あれはもう無いんじゃ!」

「作れるに決まってるじゃない。どうやって最初に渡したって言うのよ。お馬鹿さんねぇ」

 

 あ、それは。うん、そうだけど。そんなにストレートに言わなくても良いんじゃないかな。でも、作れるって私はどうやって作ったんだろう。それに危なかったってどういう事かな。

 

「あら、ストレートで分かりやすいでしょ? それにシルヴィアちゃんの説明書に書いてなかったかしら?」

「心を読まないでください! 書いてなかったと思います!」

「そのほうが早いじゃないの」

「はぁ……。神様ってこんな人ばっかり?」

「言う様になったじゃない。久々に頭叩いてみようかしら?」

「それは要りません! そんな事よりも、本とか鍵とか造物主とか聞きたい事がたくさんあって!」

 

 本当に、ほんとーに、聞きたいことばかりで。少しでも情報が分かれば、皆が色んな人と分かり合えそうなところまで来てる気がするんだよね。

 特にフェイトくん達の立場が理解できれば、もしかしたら今後、ネギくん達との争いが避けられるかもしれないし。今回の学園祭の事だってそう。超ちゃんは結果的に嘘ついてたし。せめて何かちょっとでも情報があれば良いんだけど。

 

「まぁ落ち着きなさい。順に説明するわ。まずは鍵ゲットおめでとう♪ これで新しい本が出来たわ」

「え、また、本?」

「当たり前じゃない? 勿論説明書よ?」

「私はどこかの商品ですか!」

「分かりやすくていいじゃないの♪ それにこれでも貴女の上司なのよ? 放り投げられた世界で進展を向かえたのだから、様子くらい見にくるわよ」

「あ……。ありがとう、ございます……」

「何よ、しんみりしちゃって。昔はもっとはしゃいでたじゃない? もっと適当で良いのよ」

「世界を生かす為って頑張らないといけないのに、適当は駄目なんじゃないですか?」

「良いのよ。楽しんで生きなさい♪」

 

 そこで楽しんでって言われちゃっても困るんだよね。あ、そんなことより『セフィロト・キー』!

 

「せっかちねぇ。とりあえずあれは、もう作るのをやめなさい」

「え、何でですか?」

「貴女って自分の中の力が失われたのに気づいてないのかしら。そうね、それでもしばらくすれば回復するでしょうけれど、本質的に『グレートグランドマスターキー』が無ければ、完全な『セフィロト・キー』は作れないのよ」

「え、じゃぁ、今回のって」

「もともと『セフィロト・キー』は貴女の補助をしていたのよ。貴女は権天使≪アルケー≫。世界の守護者よ。今回は天使としての守護の力を放出したの。でも、力を失う事は危険だから止めなさい。今後『グレートグランドマスターキー』を手に入れるまで『リライト』は禁止よ」

「は、はい。分かりました……」

「ほーんと。暗くなったわねぇ」

「せっかく助けになれる力が持てたって思ったのに、使うなって言われたら、悲しくなります」

「『グランドマスターキー』なら使えるわよ」

 

 え、それって、確かフェイト君が渡してくれた鍵の事だよね。

 最初に渡された『マスターキー』よりも大きな存在感を感じたから、ちょっと違うなぁって思ったんだけれど、グランドって名前が付く分だけ、また違う力が使えるって事なのかな。

 

「それも説明書を読みなさいな。そうね、後は『造物主』があのフェイトって子達の主ってくらいかしら」

「え、今なんて」

「あなたがやるべき事は世界を生かす事。それが最優先よ。気にせず奪いなさい」

「でもそれは!」

「はい、おしまい。がんばってね~♪」

「えぇ!?」

 

 ちょっと待って、まだ聞きたいことがあるのに! 襟首つかんで何を……。え、もしかして、また泉に投げられるの?

 

「ちょっと待って、きゃぁぁぁ!」

 

バッシャァァン!

 

「……戻った、わね。まったく今回は危なかったわ」

 

 崩れ始めた空間の中で女神は考える。今、あの子に知られては困る事実を。だからこそ、もっともらしいベールに包んだ、間違いではない話を聞かせた。何よりも、今はまだ速い。

 

「真実に辿り着いた時、果たしてやれるのかしら」

 

 

 

 

 

 

「――待って! まだ」

「シルヴィアさん! 起きたカ!?」

「えっ! 超ちゃん?」

 

 あれ、ここって保健室だよね。普段から見慣れた机に棚にソファーにベッド。うん、ちゃんと戻ってきてる。なんか、中途半端に話を聞かされちゃったな。

 

「一体何があったネ? 唐突に倒れて心配したヨ?」

「あ、うん。ごめんね。いきなり私の上司が、精神だけを呼んだって言って会ってたんだ」

「それで、その上司は何を? その本の説明はしてくれるのかい?」

「まだ私も内容は分からないんだけどね。ここに確実に、この世界の手がかりがあると思う。きっと大切な事だから、一緒に見てくれるかな?」

「聞くまでも無いネ」

「当然だね。むしろ見る権利があると思うよ」

 

 正直な気持ち、とても緊張する。ここに書かれている内容次第で、この場に居る私達の運命が決まってしまう。超ちゃんもフェイトくん達も、凄く真剣な顔で本を凝視してる。でもきっと、最初のページは目女神様の悪ふざけなんだろうね。それがちょっと申し訳ないかな。

 

「うん。それじゃ開くよ?」

 

 開けばそこには、予想通り『シルヴィアちゃんの取扱説明書♪【世界編】上巻』の文字。

 

 あう……。やっぱりこんなのだよ。もうちょっとまともな事を書けないのかなぁ、あの人は。じゃなかった女神様は。でも世界編って書いてあるね。前とはちょっと違う本。これで少しでも何か分かるのなら良いんだけど。

 

「何だいこれは? ふざけているのか?」

「それは私じゃなくて、上司に言って欲しいかな……。前もそうだったんだよね」

「それより続きネ!」

「う、うん」

 

 

・この本は『神核』とリンクしている。念じると体内にしまう事が出来る。

 

・『マスターキー』を消費して限定的に魔法を使う事が出来る。

 

 第一魔法『リライト』

 世界とリンクする魔法。魂に干渉をする。生命を操作する。

 本格的な使用方法は下巻参照。『グレートグランドマスターキー』とのリンクが必要。

 (※現在はその所有権が無いため、完全な効果を発揮出来ない)

 

・『グランドマスターキー』の魔法を限定的に使う事が出来る。

 

 第二魔法『リロケート』

 世界の位置情報を書き換える魔法。

 使用者の魔力消費によって、物理的距離・魔法法則を無視した転移が可能。

 呪文詠唱は、『リロケート・転移場所・転移者の名前(複数名可能)』

 魔法の使用で鍵を消費する事は無い。

 

・鍵は本の中に挿絵となって収納されている。

 

 現在の所有本数

 『マスターキー』 0本 召還・送還不能。 使用と所有権を委任できる。

 『グランドマスターキー』 1本 召喚・送還可能。 使用と所有権を委任できる。

 『グレートグランドマスターキー』 0本 召還・送還不能。 委任は不可能。

 

・『グレートグランドマスターキー』の所有権を手に入れた時点で下巻に変わる。

 

 

「これって……」

「フフフ。ハハハハハ! これは予想以上ネ! この時代に来た甲斐があったヨ!」

「超ちゃん!?」

「やれやれ。結局、敵対する事になりそうだね」

「フェイトくん。私は、貴方の主と戦う事になると思う。でも、出来れば話し合えれば良いと思ってる。フェイトくんはどうなの?」

「……ここに来た事は無駄ではなかった。それだけだよ」

「それに、『グレートグランドマスターキー』が無ければ、まともな形で『リライト』は使えないみたい。今回のはかなり危険を冒していたんだし、栞ちゃんは身体に気をつけてね?」

「貴女に言われるまでもありませんわ。それから、気安く呼ばないでください!」

「うん、ごめんね。栞さん」

「う。わ、分かれば良いのですわ」

「シルヴィアさん、じゃれあってる場合ではないヨ。明確に彼らとは敵だと分かったのだからね」

 

 そうだね……。悲しい事だけど、フェイトくん達の主が造物主だって分かったって事は、とても大きかった。何で女神様が教えてくれたのか分からないけれど、フェイトくん達と争わなくちゃいけないって、きちんと覚悟を決めなくちゃいけない。

 

 覚悟、決められる、かな。あんな、命を懸けた姿を見せられて……。

 

 同じ気持ちで世界を救いたいって言ってるはずの人たちと。戦って、争って、奪わなくちゃいけない。私は、フェイトくん達の救い方をきっと受け入れられない。それはたぶん超ちゃんの回避したい未来につながるだろうし、フェイトくん達の方法は滅びが伴うって悩んでるんだから。

 

「戦うよ。私だって、譲れないものがあるから」

「そうか。分かったよ」

「私も同じネ。私は私の戦いをするヨ」

「超ちゃんは何と戦うというの?」

「世界だヨ♪ シルヴィアさん、楽しみにしていると良いネ♪」

「それじゃ僕はこれで失礼する。鍵を払うだけの価値はあった」

「また、会えるかな?」

「会う事になるだろう。…………期待している」

「えっ! 今なんて、あっ」

 

 また、最後の言葉が聞き取れなかった。突然、水のワープゲートで二人が消えて……。

 

「って、あぁ! 水浸し! 掃除しないと!」

「アハハハ。なかなか困った人だたネ♪ イイヨ。ネギ坊主たちを起こすついでに私がやっておこうカ。シルヴィアさんは少し考える時間を取った方が良いんじゃないカ?」

「うん。ありがとう。……って、超ちゃん何か誤魔化そうとしてない? 超ちゃん嘘ついてたよね!?」

「アイヤー、ばれたカ。仕方ないネ。三日目の夜に話すと約束するヨ。今は見逃してくれないカ?」

「本当に?」

「ウム! 火星人嘘つかないネ!」

「ついてたじゃない。私に転生者だって」

「厳しいネ。だが今回はホントだヨ。何なら鵬法璽で契約しても良いヨ?」

「それはダメ。そこまでしなくても、信じる」

「ありがたいネ。期待には応えるヨ♪」

 

 あれ、そういえばここまで騒がしくしておいて、何でネギくんと明日菜ちゃんはまったく起きないんだろう。ちょっと、見てみようかな……。

 うん、ぐっすり寝てる。使い魔のカモくんも完全に熟睡してるね。ここまで起きないと逆に怪しいよね。もしかして……。

 

「ねぇ超ちゃん。さっきのお茶って……」

「魔法の眠り薬入りだが、どうかしたカ?」

「そ、そんなあっさり認めなくても良いんじゃないかな?」

「火星人、正直に話すヨ!」

「それ、使いどころ違うじゃないの……」

 

 はぁ、もうなんだか初日から疲れちゃったよ。なんだか身体もだるいし、こんな感覚は久しぶりだからある意味新鮮に感じるけれどね。

 それに超ちゃんが言ったように、気持ちを整理したいのも本当。一度家に帰ってゆっくりしてみようかな。

 

「超ちゃん、私一旦家に戻るから、ここお願いしても良いかな」

「構わないヨ。その代わりその鍵の転移魔法、使ってみて欲しいネ」

 

「え? なんでいきなり?」

「アハハ。私が見たいだけネ♪ 魔法が使えない私の憧れだからネ」

「それは嘘じゃないんだよね?」

「この前見せた通りダヨ」

「うん。分かったよ。じゃぁまたね?」

 

 それじゃ、『グランドマスターキー』を手に持って魔法を使う要領で集中。世界樹の前にある家の場所を明確にイメージして、魔力を鍵に伝わせる。……うん、行ける。口で表しにくいけど、感覚的に転移先が見えてくる。

 

「リロケート 世界樹前 シルヴィア・A・アニミレス!」

 

 魔法の詠唱をした側から、鍵から銀色の光が放たれる。光が私の周りで何周も円を描いて、まるでオーロラのように包み込んでから光が消える。するとすぐ目の前に、世界樹の側の私の家があった。




 原作でリロケートを使うシーンが、『グランドマスターキー』しかなかったので、ここでは分類を指定する事にしました。
 詠唱については、原作で「リロケート・名前・二人目の名前」しか言っていなかったので、場所指定を入れたのはオリジナルの解釈です。

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