青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第62話 学園祭(1日目) 予選終了。本戦に向けて

「シルヴィア先生~、夕映~、こんばんは~」

「こんばんはです」

「こんばんは木乃香ちゃん。あれ、刹那ちゃんは?」

「超さんの事が気になるから、参加して様子見るゆーてました」

「そうなんだ? それにしても3-A関係者だらけだね」

 

 ざっと見た感じ、本当に知り合いだけで本戦になりそうだね。でもきっとネギくんを狙った侵入者がどこかに居るはずだし、夕映ちゃんに確認してもらおうかな。こっちに気付かれても困るから、とりあえず結界を作っておいた方が良いね。

 まずウェストポーチからから一つ目。魔力漏れ防止の結界を作るための媒体。それから二つ目、これは通じるか怪しいけれど、認識阻害の結界のための媒体。

 私達が立っている場所を大き目に一回りさせて円で閉じる。そのまま魔力を通して……うん、完成かな。

 

「今のは何をしたのです?」

「こっちに気付かれない様にしようと思ってね。夕映ちゃん、選手の中に例の人は居るかな?」

「なるほど。そういう事ですか」

「何かあったん?」

「うん、ちょっと外部の魔法使いが入り込んでるみたいでね。木乃香ちゃんも注意してね?」

「そうなん? 分かったで~」

「それじゃ目で追って探してもらえるかな? 多分こっちには気付かれないと思うんだけど、あまり凝視しちゃうと良くないと思う」

「はいです」

 

 それにしても穏やかじゃないね。いきなり魔法使いって相手に聞くものじゃないし、外部の人間なら尚更。麻帆良が魔法使いの隠れ場所になってるのは、裏側の世界では公然の事実。

 だからって、あからさまに問いかけてくるのはマナー違反。何を考えてたんだろうその人。

 

「難しいですね。あまりに人が多くて……」

「ゆっくりで良いよ。居ないならそれでも良いからね」

「はいです」

 

 結構真剣な表情だね。声も硬いし、それだけ夕映ちゃんも危機感を感じたって事なのかな。

 

「すみません、見つかりませんでした。しかし、やたらと屈強な男性が多いですね。それでも一般人でしょうか。やはりと言うか古菲さんが目立ちますね」

「古ちゃんは秋のウルティマホラチャンピオンだからね」

「そやね。でっかい人が空飛んでるんは、なかなか見れへんよ」

 

 クーちゃんは中国武術研究会の部長を務めてるし、魔法を知らない一般人としてはかなり上位に入る部類。中学生の女の子が到達している域としては、ありえないと思うんだけどね。そこはまぁ、A組だからって言われちゃったらそこまでだけど。

 それはともかく、気も魔力も一切使えないのに、体術だけで大の大人が舞台の外まで飛んでいくのは豪快だね。もし裏側に関わる事があったら、タカミチくんクラスになれるかもしれない。

 

 後目立っているのは、明日菜ちゃんと刹那ちゃん。そしてネギくんと小太郎くんだね。一般人じゃまず相手にならないし、中武研みたいに有名な部活動に所属しているわけじゃないから、注目の的になってる。和美ちゃんもこぞってアナウンスしてるし、どうしても目立つね。

 

 いまは格闘だけで凌げるレベルだけれど、この子達同士が当たったらそうはいかない。目立っちゃった分、どうしても注目されるから、魔法っぽいのは使わないでなるべく隠して欲しいところなんだけれど……。

 でも超ちゃんは、魔法を使うってあからさまに宣伝してたんだよね。魔法関係者から見たらひやひやしただろうし。それに実況もわざと注目させるような不自然な話し方。超ちゃんの狙いを確かめて、もう一度話をしてみないとだめかな?

 

『おーっと、番狂わせかー!? ゴスロリ少女が屈強な男性を手玉にとっているー!』

 

 千雨ちゃんの試合? ネギくんたちに注目してた視線が移動してる。何か嫌な予感が……。

 

「長谷川さん、ですよね? 何だかすごい顔をして睨んでますが……」

「千雨ちゃんは目立ちたくないからって変装してたけど、認識阻害使ってもあんな風に実況されたら気付かれちゃうよね」

 

『それもそのはず! 知る人ぞ知る、あのネットアイドルちうたんだー!』

 

 何だか随分和美ちゃんのテンションが高いね……。もしかして千雨ちゃんが、昔何をしていたのか知ってたのかな? どんどん周りの視線も集まってるし、凄く嫌そうな顔してるよ。

 

「とても迷惑そうな顔をしています。ですが周囲の歓声の大きさを見るに、認識阻害のせいで逆にそうだと感じなくなってるのでしょうか?」

「うーん、一般人から見たらこの場に適した様に見えるから、案外そう見えてるかもね?」

 

 これは後で千雨ちゃん荒れそうだなぁ。目立つのは大っ嫌いだから、後でフォローしておかないと。 あれは絶対、今すぐにでも帰りたい顔だよ。もしかして、こうなるのが分かっててやってたりするのかな。

 とりあえずもうF組の予選はおしまいだね、タカミチくんが残るのは実力的に確実だし、千雨ちゃんとちょうど二人だから、ぶつかり合いにならなくて良かったよ。

 

「……はぁ」

「お疲れ様、大丈夫だよ? 他の試合が凄く目立ってるからさ。ほら、クーちゃんとか。ネギくんとかもね? それにこの辺りは結界張ってるからさ?」

「あぁ……。ありがと。でも後ろに隠れさせてくれ」

「う、うん」

 

 うわぁ、頭うな垂れてるし、両肩も落としてものすごく落ち込んでる。ここまで気落ちしてるのは見た事がないかもしれない。本当に大丈夫かな?

 あ、でも何かブツブツ言いながら考え込んでるね。直ぐに神社の影に隠れちゃったけれど、何か気になる事もあったのかな。

 

「大丈夫なのでしょうか?」

「た、多分? 後でもう一度フォローしておくよ。夕映ちゃんは侵入者の方を気にしてもらえるかな?」

「あ、はい。そうでした」

 

 そろそろ人数も減ってきたからね。魔法使いの侵入者がいるのなら、確実に予選は突破できる実力があるはず。悪魔だったらなおさらの事だね。

 それにしても3-A関係者が多いなぁ。確かに特殊な才能を集めたクラスなのは間違いないと思うんだけれど、悪目立ちになってきてる気がするね。

 

「あっ、居ましたです! あの黒いコートの老紳士!」

「え、どこ?」

「第八試合会場です!」

「あのがっしりとした外国人かな? この時期には不自然な格好だね」

「はいです」

 

 本当に場違いだね。それに服装と本人のスタイルもまるで合ってない。たぶんあれはボクシングとかそういう動きのはず。それなのにベルト留めの上着に皮のコート。皮手袋もしてるし、あれじゃ動きを阻害してるだけだよね。

 あれ、でもあの両手首にある白いリングは? なんだか魔法関係者にしては妙に動きが遅いし、一般人のボクサーって言っても違和感が無いレベル。気も使っているかどうかってくらいだし……。

 

「ねぇ夕映ちゃん、あの老紳士は腕にリングなんて着けてた?」

「えっ? 分からなかったです。あの時は必死だったので、そこまでは良く見ていませんでした」

「もしかして封印具じゃねーのか? 魔力抑えて進入してきたって考えたらつじつま会うだろ」

「千雨ちゃん復活したの?」

「あぁ。魔法がバレたわけじゃねーし。いつまでもこんなんでへこんでらんねぇよ」

「それにしても封印ですか。私がネギ先生との試合の前に付けていた、黒いリングと同じような物と考えるべきでは?」

「そうだね。それで結界に反応がなかったんだと思う」

「て事は本物かもしれねぇって事か」

 

 もし本物の悪魔で、封印措置を受けてるって考えたらかなり危険な存在かもしれない。解除方法は分からないけど、解除できる前提じゃないと契約なんてしないはず。確実に試合に出るだろうから、試合中は気をつけてもらわないと。

 それに夕映ちゃんもこのまま放っておけない。相手が本物だったら、他の一般人と一緒にいたり、夕映ちゃん一人で居るのは危険。今夜はエヴァちゃんの家にでも、泊まってもらった方が良いかもしれない。

 

「ねぇ夕映ちゃん。今夜はエヴァちゃんの家に泊まってもらえるかな?」

「え、何故ですか?」

「ちょっと危険かもしれない。あの老紳士の事が解決するまで、私たちと行動してた方が良いと思うの。良いかな?」

「のどか達は大丈夫なのでしょうか?」

「うん、直接話をしたのは夕映ちゃんだからね。多分ネギくんくらいしか影響は無いと思うよ」

「それもそれで心配なのですが、確かに私がのどかと居れば逆効果ですね。わかりました」

 

『皆様お疲れ様です! 本戦出場者十六名が決定しました!』

 

 これで全部の予選が終了だね。やっぱり老紳士もしっかり残ってる。和美ちゃんが本戦の説明を始めてくれたけれど、トーナメント方式なんだね。出場枠は抽選かぁ。ネギくんとタカミチくんの試合は当たるようになってもらわないと困るんだけどね。

 

「抽選ねぇ。ネギ先生と高畑先生は先に枠決まってるんじゃねぇか?」

「うん。ある程度はそうだと思う。あ、張り出されたよ!」

 

 神社の壁に貼られた大きなロール紙を見ると、三回戦までのトーナメントだね。トーナメントの組み合わせは――。

 

 

第一試合 佐倉愛衣 VS 小太郎

 

第二試合 長瀬楓 VS 中村達也

 

第三試合 黒ちうさま VS ブラックジェントル

 

第四試合 大豪院ポチ VS クウネル・サンダース

 

第五試合 ネギ・スプリングフィールド VS タカミチ・T・高畑

 

第六試合 田中サン VS 高音・D・グッドマン

 

第七試合 神楽坂明日菜 VS 桜咲刹那

 

第八試合 龍宮真名 VS 古菲

 

 

「何だよ黒ちうさまって。もしかしなくても私か? 超のヤツ本当に別名にしてんじゃねぇか」

「千雨ちゃん、それよりもブラックジェントルって、どう考えてもあの老紳士じゃない?」

「マジで? 初戦から悪魔紳士が相手とか仕組まれすぎだろ?」

「他の対戦も3-Aの身内同士が多いですね。やはり作為的に感じます」

 

 そうだね。ネギくんがタカミチくんと当たって慌ててるけど、それは我慢してもらって。他の対戦も何だか怪しい組み合わせが多い。

 確率と言えばそれまでなんだけどね。とにかく一度家に集まって、話をした方が良いかもしれない。

 

「千雨ちゃん、夕映ちゃん。エヴァちゃんの家まで行こうと思うから付いて来てくれる? あと木乃香ちゃんはなるべく刹那ちゃんといるか、関西呪術協会の人と居て警戒しててね?」

「あぁ。超の話ってのも気になるしな」

「はい。分かったです」

「分かったで~」

 

 そうしてその場は解散。 皆に念話を入れて、これからエヴァちゃんの家に集合してもらう事になった。私は夕映ちゃんと一緒に寮まで行って、泊まる準備をしてもらってから向かった。

 

 

 

 そして早々とエヴァちゃんの家に到着。到着した所で申し訳ないんだけど、夕映ちゃんはダイオラマ球の中に入ってもらった。

 入るのを渋ったんだけど『グランドマスターキー』とかの話をするんだよね。これはまだ私たち『管理者』だけで話したい事だし、今はまだ言えない事だってなんとか納得してもらえた。

 

「なんだ、結局悪魔らしい奴は来たのか。しかも千雨が対戦相手とはな。フフフ。良い機会じゃないか。元老の奴等に実力差でも見せ付けてやれ」

「簡単に言うなよ。本当に悪魔で、封印具っぽいの外してきたら笑えねぇぞ?」

「その時はその時だ。大人しく食らってやる義理はなかろう?」

 

 まず外す可能性は無いって考えて良いかな。外せば確実に学園結界が感知するだろうし、私達の網にも引っかかる。それに一般人を巻き込むような相手だったら、学園全体で本気で動くと思うし、どう考えてもただの自殺行為。よほど何かが起きない限り封印状態のままだと思う。そうかと言って、具体的に何を封印しているのかって所は問題なんだけれどね。

 

「まぁ良いじゃねぇか。そこで潰せば終わりだぜ? あと『鍵』の話しだろ?」

 

 そうだね、鍵を出せって促してるし。意識を集中して、本の形にイメージ……。私の目の前、心臓の辺りから空中に浮き出す波紋。そこからゆっくりと全体像を現す本を両手で受け取る。

 後はページをめくって、『グランドマスターキー』を召喚。昔の本みたいなただ光る訳じゃなくて、銀色の粒子を振りまきながら出てくる。うーん、やっぱりと言うか訝しげな目で見られてるね。

 

「何だそれは? 昔の鍵とは違うな」

「……? ホントですねー。パワーアップしたんですかー」

「こう言うのをパワーアップって言うのかな? 取りあえずこれが『グランドマスターキー』。今朝保健室で超ちゃんと話をしたくて会ったんだけど、その時にフェイトくんとその従者の栞ちゃんにも会ってね。お互いに色々話し合って、その結果譲ってもらったんだ」

 

 それから今朝の出来事を説明。どう考えても怪しいって見られるのは分かるんだけど、それなりにちゃんと取引とかがあった結果なんだし、あんまり怪しがられても困るんだよね。

 

「それにしてもあの詭弁のガキは良く分からん。まだ、従者の小娘の方がまともに判断していたように聞こえる。だが、今夏の敵だと言う事も分かったのだから良いだろう」

「ある意味ホッとしたよ。『リライト』で分解されないって事が分かっただけでも助かった」

「うん。私もそれは本当に良かったと思うよ」

「『リロケート』はかなり使い勝手が良いな。シルヴィアの魔力なら行けない場所は無いだろう。後で色々試しておくべきだな」

 

 そうだね『使用者の魔力消費によって、物理的距離・魔法法則を無視した転移が可能』ってところが、どこまで有効なのかきちんと確認しておかないと。いざとなった時の切り札になるかもしれないからね。複数人同時に移動可能って所も大きいよね。

 

「そうなると後は超鈴音か? 正直な所こちらに害が及ばなければ、魔法の公開なんぞどうでも良いんだがな?」

「そういう訳にもいかないんじゃない? 隠れてるからこそ折り合いがついてる部分もあるんだからさ? とにかく明日の試合の様子を見て、もう一度話をしようかなって思ってる」

「変な様子見せたらぶん殴って連れて来いよ。んで、三日目の夜と言わず聞き出せば良い」

「まずはちゃんと話し合い。物騒な事は最終手段だよ」

 

 超ちゃんは話せば分かってくれる子だし、もっときちんと話したいって思うんだよね。何よりも世界と戦うって事が、裏の世界を一般人にばらそうとしてる事とどこが繋がるのか。

 今まで知らなかった大きな力。攻撃魔法だけじゃなくて、治療や幻術に認識阻害なんて知れ渡ったら大事になるはず。

 

「あっそうだ。忘れそうになったけどネギくんの事もあったんだ」

「先生か……。相変わらずネタに尽きなかったけど、どうかしたのか?」

「なんかね、超ちゃんからタイムマシンを借りてるみたい。同じ時間にネギくんが二人居るってのは凄く変な感じだけど、出会っても変に干渉しない方が良いと思うよ」

「そうか? 俺は逆に面白そうだがな?」

 

 止めた方が良いと思うんだよね。理由は簡単、巻き込まれて変な時間に飛ばされたら困るから。ネギくんは持ち主だから、ある程度ここに戻って来れると思うんだけどね。

 でももし、私達の誰か。例えば一日後に移動しちゃったりすると、そのぶん学園祭の警戒網に空白が出来てしまう。それから一日前に戻された場合だと、二人になって混乱の元だからね。

 それを解決したとしても、二人になったもう一人がネギくんを見つけて過去に戻らないと、ずっと二人のままになる。最悪ループし続ける事になるし、下手に干渉して麻衣ちゃんが飛ばされたりすると、何が起きるのか想像も付かないからね。ネギくんはその辺考えて使ってるのかな。

 

「いや、マジで放って置けよ。碌な事ねーぞ。今日だってあんな事……」

「ほう。何があった? 言え」

「言えるか!」

「……千雨さんが、ネギくんにキスされそうになってました」

「マテ、それは言うな!」

「ほぉー。それは面白そうだな。麻衣、詳しく話せよ」

「貴様、興味が無いと言っておいて、宮崎のどかからぼーやを略奪愛か?」

「だからこう言う碌な事にならねーって言ってるじゃねぇか! 関わりたくねーって!」

 

 あぁ、顔そむけて拗ねちゃった。エヴァちゃんもフロウくんもからかいすぎだよ。でも、麻衣ちゃんがそういう事言うなんて珍しいね。何かいつもとちょっと雰囲気が違うし、何かあったのかな?

 それに、確かにネギくんはトラブル体質なんだよね。やっぱりタイムマシンには関わらない方が良いよ。何に巻き込まれるか分からないし。

 

「とりあえず明日の朝一番か。全員で見に行くわけにはいかねぇな。どうする?」

「私は見に行くよ。チケットも何枚か貰ってるからね。それに夕映ちゃんも大衆の中でいっしょに居た方が良いと思うから連れて行くね」

「ならば私も見に行くか。その悪魔とやらがどんな面か拝んでやろう」

「じゃぁ俺は学園を見回るか。そっちは任せたぞ?」

「うん。千雨ちゃん、十分気をつけてね」

「あぁ、真面目にやるよ。さすがに気を抜けそうにねーからな」

 

 これで話し合いはおしまい。終わったからダイオラマ球に行って、夕映ちゃんに明日の事を伝えたら、しばらく修行してから出るって言うから、時間には気をつける様に言って私たちは退散。

 それから後々聞いた話だけれど、深夜にネギくん達がやって来て、武道会開始の直前まで修行をしたいって頑張っていたらしい。




 今回の更新はここまでです。次回は学園祭二日目、まほら武道会本戦になります。

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