青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第64話 学園祭(2日目) まほら武道会の悪魔(下)

「ふむ、終わったか」

「そうだね。本当に無事で良かったよ」

 

 思わずホッと息が漏れたけど、本当に良かった。拘束具らしい物も外す気が無かったみたいだし、そこは助かったかな。

 でも、試合の内容はちょっと不味いね。明らかに一般人の裏の達人って言っても誤魔化せるかぎりぎり。認識阻害の学園結界があるから何とかショーで収まってるけれど、インターネットで外部に漏らされたら不味いかな。

 

「シルヴィア、ノーパ使うからバッグ貸してくれ」

「千雨ちゃん、お腹は大丈夫?」

「あぁ。衝撃だけで痛めた所もなさそうだ。ありがとな」

「うん、無事で良かったよ。それにしてもちょっと目立っちゃったから、この後気をつけてね?」

「分かってる。それとこのデータは、さっきの試合のセリフを記録してある。後で学園長とかあっちの偉い人にでも渡してやってくれ」

「うん、ありがとう」

 

 それにしてもICレコーダーって使えたんだ。これでネギくんを狙った刺客が来たって証拠にはなるね。音声だけだから決定的ではないけれど、十分何かの役に立つと思う。

 ネギくんの試合は次の次だね。その時も何か情報が有れば良いんだけれど……。

 

「ところで終盤の老紳士のパンチですが、あれは常人が受けたら即死なのでは無いでしょうか?」

「あぁ。ぼーやなら虫の息だな。だがタカミチのパンチでも同じ事になるだろう」

「でもさ、ある程度避けれそうなくらいには育てたんでしょ?」

「さぁな。生真面目なぼーやだ、本番でどこまでやれる事やら」

「この試合の次ですね。あの怪しいマントの方は一般人ですか?」

 

 マントの人? あのクウネル・サンダースって人かな。何だか変な感じがする人だね。何かを隠している感じがするし、一般人じゃないかもね。

 

 

 

『カウンター気味の右掌底が、クリーンヒットォー!』

 

「あっという間でしたね」

 

 マントの人の相手は一般人の武術家で、楓ちゃんの時と同じく一撃。それでも、激しく何発も打ち込まれて何もダメージが無いって事は、確実に魔法使いか何か裏側の人だね。

 

「相手が悪すぎたな。アレと当たるとは」

「次は千雨ちゃんとだけど……また魔法関係者なんだね」

「ふふふ。良い修行じゃないか。アレはなかなか性質が悪い」

「エヴァちゃん、何か気付いたの?」

「あぁ。だが黙っておいてやれ。聞けば逃げ出すぞ」

「それは言わない方がかわいそうだと思うよ?」

「知らん。死ぬ事は無いだろう。それよりぼーやだぞ」

 

 うん。それはそうなんだけど、そんな言い方したら心配になるじゃない。大丈夫だと、思うんだけどね。

 けど、今は次の試合が問題。なんと言ってもネギくんの試合だからね。千雨ちゃんも心配だけれど、こればかりは頑張って貰わないと、ネギくんの立場が困った事になるかもしれない。かなり緊張しているみたいだけど、ここはちょっと死ぬ気で頑張ってもらいたいかな。

 

 

 

『いよいよ第五試合! 広域指導員デスメガネ・高畑! 一方は噂の子供先生! 結果は火を見るより明らかではないでしょうかー?』

 

「ネギ先生に勝算はあるのでしょうか? 私個人としてはのどかの手前、良い所を見せてあげて欲しいのですが」

「タカミチくんのパンチをどれだけ避けれるかだね。瞬動は出来るみたいだから、かき乱せれば良いんだけど。結局は接近しないと難しいね」

 

『それでは、第五試合ファイト!』

 

 試合の開始直後、何か吹っ切れた顔をしたネギくんが、魔法障壁を張りながら瞬動で突撃。

 タカミチくんのパンチを風の楯で防御しながら、素早く懐に潜り込んで右腕の正拳付き。タカミチくんはあっさりガードしたけれど、小柄な身体を生かして足の動きを制限する様に踏み込む。

 それはまるでタカミチくんに絡みつく様な姿で、連続して中国拳法の攻撃を繰り返していく。

 

「だがあれではタカミチのガードは崩せん。まだまだ一撃が軽い」

「高畑先生はそんなに防御力が高いのですか?」

「そうだね。正面からさっきの老紳士の決め手を受けても余裕があると思うよ」

「そうですか……。あっ! 何か狙っているです!」

 

 あれは……。無詠唱で雷の矢かな。作った数は五矢。右腕の周りで待機状態にしているから、多分打ち込みと同時に発射だと思うんだけれど、出来れば一般人に見えない様に、打撃と同時に出して欲しいかなぁ。

 タカミチくんは……。なんだか楽しそうだね。正面から受け止めるつもりかな?

 

「あの馬鹿の事だ。尻尾振って待っているぞ。もっとも、受け止めてもらわなければ困るのだがな」

「これも茶番なのですか?」

「まぁ見ているがいい。雷系の使い方はなかなか上手いぞ」

 

 雷系はそれ特有の感電効果があるからね。魔力ダメージだけじゃなくて、痺れや火傷、硬直させる目的で打撃に乗せるのは魔法戦士型として有りだと思う。

 雷の投擲とかの中級魔法なんかは、その場に縫い止める足止め魔法そのものだからね。

 

「ふむ、正面から受けたか」

「あの、場外の水面まで吹き飛んでいったのですが……」

「大丈夫だよ、タカミチくん丈夫だし。夕映ちゃんだって、魔法障壁が強くなればアレくらい平気で受け止められるよ」

「それは何と言うか……。そうですね、ネギ先生に負けてられません」

 

『何だ今のはー! ネギ選手の凄い一撃がヒットー! て言うか高畑選手は無事なのかー!?』

 

「レジストもされているな。どうするぼーや?」

「魔法が使えれば追い討ちで、何十本か矢を撃つ所でしょうが、場外で待たれると辛いですね」

「そうだね。でもタカミチくんも、水の上で立つのはちょっと止めてほしいかな」

「後で釘でも刺しておくか。ぼーやとの試合に夢中になり過ぎても困る」

 

 気持ちは分かるんだけどね。出来るだけ一般人に目立たないでいて欲しいから、普通に泳ぐか瞬動で早く戻ってきて欲しかったかな。

 

「やれやれ。ネギ君、そんなものかね? それでは君の故郷に眠る者達も救われないぞ?」

「な、何ですか貴方は!? いきなり何を!」

「む……。アイツか」

「動き出したみたいだけど……」

 

 それにしても突然だね。呆れが交じった侮蔑に近い声。出したのはあの老紳士だね。でもそれってネギくんの記憶の六年前の話だよね? どうして突然に?

 

(千雨ちゃん、録音は出来てる?)

(あぁ、ちゃんと出来てる! こんなチャンス逃すかよ!)

 

「さて、何をしてくれるのか」

「まさか、ネギ先生の村の関係者なのですか!?」

「落ち着け。今は奴の言葉が先だ。何を言ってくれるのか見ものではないか」

 

 選手の待機場所から一歩踏み出して、ネギくんに向かう視線。当たり前だけれど、そんな事をすれば試合は中断しちゃうし、周りからも注目されている。

 ここで魔法関係の事を言われたら困るけれど、何か重要な事を話すかもしれないから、簡単に取り押さえる事もできないね。

 

「ふぅ……。やれやれ、もっと君は出来る少年だと思ったのだがね。その程度であれば、あの雪の日。君も眠りに付いていた方が良かったのではないか?」

「…………貴方は、何を! 何を知っているんですか!?」

「私はね、若者の生長した姿を見るのが趣味でね。私に君の実力を見せて欲しいのだよ」

「言葉の意味が分かりません! 僕の質問に答えてください!」

「ふむ。先に質問をしたのは私だったと思うのだがな。それとも、実力で聞き出す自信が無いのかね?」

「……良いですよ。後悔しないでください」

 

 不味い。ネギくんが挑発で完全に相手を見失ってる。ネギくんから制御の外れた魔力が噴出し始めたし、最悪の事も考えなくちゃいけないかもしれない。

 もしここで暴走されたら、一般人を巻き込んでの大事になっちゃう。全員捕まえて記憶削除なんて最終手段はしたくないし、何とかネギくんを――。

 

「ネギ君っ!!」

「た、タカミチ!?」

 

 会場中に響く様に怒鳴りつけたタカミチくんの大声。今のでネギくんは正気に戻ったように見える。噴出していた魔力も収まったし、瞳に浮かんでいた暗い影も消えてくれたね。

 

「ネギ君。今は試合中だよ」

「で、でも!」

「彼はネギ君の本気を見たいと言っているんだ。千雨君の試合でも彼は拳で語れと言っていたじゃないか。彼はきっとそういう人なんだ。だから、君の気持ちは僕が受け止めよう。全力でかかっておいで」

 

 タカミチくんが、少し本気になったね。さっきまでのバトルショーみたいな雰囲気じゃなくて、密度の濃い気を纏った戦闘になり始めてる。なんだかフロウくんが好きそうな空気だねぇ。

 ネギくんは……。一応落ち着いたかな。吹き荒れてた魔力をちゃんと制御して、タカミチくんにぶつかる覚悟も決めた様に見える。

 

「分かったよタカミチ。それに、貴方も約束してくれますか?」

「勿論だとも。さぁ」

 

 老紳士の言葉に頷いたネギくんが、最初よりもキレの良い動きでタカミチくんに食いついていく。故郷の人の事で、気持ちがより引き締まった感じかな。

 

「何だあれは? 随分と人の良い悪魔だな」

「ネギくん実力を見たいって部分は本音なんじゃないかな? 召喚された目的みたいだし」

「あの、ですが。まだ高畑先生は本気ではありませんよね?」

「当然だ。タカミチが殺る気なら十秒も持たん。……む、本気を出すようだな」

「あれは……もしかして、千雨さんがやっていたものと同じ?」

「そうだね。千雨ちゃんの感掛法は、タカミチくんを意識してるからね」

 

 感掛法は魔法が使えない場合、特に近接戦闘でのアドバンテージが大きいからね。身体強化、状態耐性に環境への適応力。後衛の魔法使いタイプでも、近接をしなくちゃいけない時もある。今後の生き残りもかけて、千雨ちゃんに向いてる事は色々と取り込んできたからね。

 

「ここからがタカミチの真骨頂だ。ぼーやはどこまで避け切れるかな?」

「その上でどこまで攻め込めるかだね。虚空瞬動は一応成功してるんだよね?」

「あまり成功しないがな。見ろ、始まったぞ」

 

 舞台では咸卦法で巨大な気を纏ったタカミチくんが、大砲の様な一撃を何発も打っている。一撃で舞台の床を陥没させてるけど、あれは人が寝そべって隠れられるくらいの深さだね。一応、手加減はしているみたい。

 ネギくんは……。必死で逃げてるけれど、かなり焦ってるね。目に怯えと真剣な気持ちが映り出て、葛藤してる感じ。何とか体術と瞬動で逃げ回ってるけれど……。

 

「これは不味いかな。タカミチくんに着地点も読まれ始めてる」

「そんなのは初めから分かっている。タカミチが馬鹿をやってる間に叩きのめせば良かったものを」

「大降りの一撃と、小技で近づけない様にされてますね。これでは逃げ道が……」

「あるな、空だ。だが、ぼーやが出来るかどうか」

「それはネギくんも分かってるんじゃないのかな。ほら、何か気付き始めたみたいだよ」

 

『これは高畑選手のすさまじい一撃! ネギ選手は必死に逃げ回りましたが……あれ? なんとネギ選手が消えた! 舞台から消えましたー!』

 

「え? ネギ先生はどこに!?」

「上だ。大振りの一撃の後に、一か八か虚空瞬動で飛び上がったようだ。だが、もう一度成功しなくては終わりだな」

「そうだね。狙い撃ちにされちゃうから、考えてはいると思うよ」

 

 空を見上げると、ネギくんが空中で光の11矢を待機させているのが見える。エヴァちゃんの修行で身に着けた、今出せる無詠唱の限界本数だね。一緒に風の楯も作ったからタカミチくんの一撃を無効化するつもりかな。

 

「来い! ネギ君!」

「行くよ! タカミチ!」

 

 タカミチくんは、言葉と共に、空に向かって打ち出した大降りの一撃。あれなら観客や舞台を気にせず全力に近い一撃が出せるね。

 ネギくんは魔法を纏った打撃と風の楯。それも一度に限りかなり大きな一撃でも防ぎきれる、風花風障壁を使って相殺するつもりだね。あれならタカミチくんのパンチを凌ぎ切って、自分の攻撃を当てられるかもしれない。

 

「(――魔法の射手! 収束・光の11矢!)桜華崩拳ーー!」

 

 ネギくんの虚空瞬動がちゃんと成功してるね。本番に強いタイプなのかもしれない。

 タカミチくんの技を出した後の硬直状態を狙って懐に飛び込んで、落下の速度と右腕に絡みついた収束の矢が大きなダメージになってる。タカミチくんの防御を真正面から突き破った感じかな。

 

「き、決まりでしょうか?」

「どうかな? タカミチなら余裕で立っても不思議ではない」

「でもそろそろ時間だよね。十五分以内に立ち上がったらメール投票だよ?」

「あっ! 高畑先生が起き上がったです!」

 

 けれどもタカミチくんはギブアップを宣言。上体を起こすのがやっとで、舞台を陥没させた一撃は、タカミチくんに十分なダメージを与えたみたい。後に響かないと良いんだけどね。

 それにしても、タカミチくんがさじ加減を測っていたのはあるんだろうけど、ネギくんは凄く頑張ったと思う。防御を貫けるくらい成長したのは、素直に驚きだね。

 

「何とか勝ったね。大分譲ってもらったみたいだけど」

「タカミチもフロウから聞いていたからだろう? ずっと目の前で待ち構えていたからな」

「私の目からは大分遠い世界に見えます。ネギ先生とも大分実力差があるのですね」

 

 ひょっとして、夕映ちゃんから見てネギくんが目標になり始めてる? のどかちゃんの事も有るし、ネギくんが夕映ちゃんに認めてもらえるのは、ある意味大変かもしれないね。

 何はともあれ、これでクルトくんとの仕事の目処が立ったかな。観客からも惜しみの無い拍手が送られているし、ネギくんの可能性も見れたから、茶々丸ちゃんに頼んだ録画はなかなか良い出来になってるかもしれないね。これで学園祭の問題の一つは解決かな。

 

 あとは……あの人が何かをしないか。ってところなんだけれど。

 

「やれば出来るではないか。私としては、もっと荒々しいものかと思っていたのだがね」

 

 やっぱり、ネギくんと話しはじめたね。

 

「……貴方は、何を知っているんですか?」

「着いて来たまえ。ここでは目立つ。神社の中で伝えようか」

「…………分かりました」

 

 強く握る音が聞こえてくるくらい、きつく握り締めた拳と、影のある瞳でネギくんが付いて行く。

 これはちょっと、不味いかもしれない。明日菜ちゃんたちも付いて行ってるし、無事に済めば良いけれど。

 

「あ、のどかがいっしょに! すみませんシルヴィア先生、着いて来て頂けますか!?」

「うん。分かったよ。ごめん千雨ちゃんパソコン返すよ?」

「あ、マテ! このICレコーダー持ってってくれ! 電源は入ってる!」

「分かった!」

 

 

 

「な、何をするんですかいきなり!」

 

 遅かった!? ネギくんは――。無事、みたいだね。明日菜ちゃんやのどかちゃんも何かをされた様子は無いし、あの老紳士がネギくんをまた挑発しただけかな?

 

「ふむ、ではこれはどうかね」

 

 ネギくんを確かめる様な連打。さっきの非難の声は、いきなり襲い掛かったって事なのかな?

 千雨ちゃんの試合の時みたいに、そこそこ重い一撃だけれど、タカミチくんとの試合の成果なのかな。それとも高速パンチに耐性が付いたのか、魔法障壁と両腕できちんとガードが出来てるね。

 

「な、何ですか突然! 話をしてくれるんじゃないんですか!」

「うむ。しかしタダで教えるとは言ってはおらんよ」

「へー。何やおっちゃん、アンタおもろそうやな」

「ほぅ、やるかね?」

「だ、ダメだよ小太郎君!」

 

 ここまで来てまた挑発。一体何がしたいんだろうこの人は。ひょっとして、さっきみたいにネギ君の暗い部分を引き出すのが目的? この老紳士がネギ君の村の何かに関係している。その事はもう間違いなさそうだけれど、そこまでして一体何がしたいの?

 

「シルヴィア。手を出すなよ?」

「――っ! エヴァちゃん?」

 

 糸で作られた魔法の格子? 入り口に張られて、破れば進めるけど……。

 

「奴はぼーやの獲物だ。今、お前が手を出してはぼーやは成長しないぞ?」

「獲物って……。まぁネギくんにとっては、当時の加害者ならば、絶対に許せない相手だっていうのは分かるんだけどね」

「まぁ、見ていろ。面白いものが見れるかもしれん。それに良い修行だ」

「なんだかそれ免罪符みたいになってるね。最悪の時は手は出すよ?」

「本当にギリギリまでは手を出すなよ?」

「あ、でも。のどかが……」

 

 不安そうにしている夕映ちゃんの背中に手を置いて、大丈夫だと小声で聞かせながらさする。エヴァちゃんも夕映ちゃんの事は察してくれたみたいで、小さく頷くと何とか落ち着いた様に見える。

 

「教えてください! 貴方は何を知っているんですか!」

「ふむ、まぁ良いだろう。まずは挨拶といこうか。私はヘルマン、しがない没落貴族だよ。縁あって六年前のあの日。あの場に居合わせた者の一人だ」

「何やアンタ、やっぱネギの事知ってるんか?」

「えぇ!? でもあの、ネギの記憶には居なかったわよね!?」

「生き残った村の皆は全員知っています! 貴方は一体誰なんですか?!」

「ふむ、では忘れているのではないのかね?」

「そんなはずはありません!」

 

 何だろうこの人、本当に性格が悪い。ネギくんにとっての悲劇をまるで愉快に見ていたような。

 

「あの時からどれだけ成長しているか、これでも楽しみにしていたのだがね」

「どう言う事ですか!? 村の事はしっかり覚えています!」

「そんなはずは無い、確かに居たとも。それとも忘れたいだけかね?」

「いい加減にしてください!」

「ふむ。まさかとは思うが、あの日の記憶から逃げているのかな?」

「ち、違います! ちゃんと答えてください!」

「よかろう。では、少し待ちたまえ」

 

 あっ、リングを片方外した! エヴァちゃん……。まだこれでも手を出すなって言うんだね。

 

 封印具を懐に入れてから、被っていた帽子で顔を覆い隠す。……何だろう、何かゾクゾクと気持ち悪い感じがする。これは何? 本当に何か分からないけれど、あまり気分の良いものではない何か。

 一体何が……。あ、老紳士の顔が!? 全体は黒い球体で、耳元まで割れる巨大な口と牙。光る発光体の目に捩れ曲がった左右の大角。これは、間違いない。……魔族の人だ。

 

「あ……」

「はっはっは。どうかね? 確かに居ただろう。君自身の仇だよ、ネギ君?」

「ああぁぁぁぁぁぁ!!」

「ネギッ!?」

 

 暴走!? ネギくんの魔力が完全に制御を外れて噴き出してる。ここが神社の中で良かったかもしれない。もしもの時でも、一般人に見られないで対処できる。

 

 悪魔紳士の懐まで瞬動で入り込んだネギくんが、普段から想像も付かないほどの魔力と激情を込めて殴りつける。そのまま数mほど殴り飛ばしたけど、あれじゃ密度も質も無いし、ただ勢いよく殴りつけただけ。まったく効いた様子が無いね。

 

「ふははは。良いぞ! ならばこれはどうかね?」

「――がはっ!?」

 

 不味い。ネギくんには千雨ちゃんほどの防御力は無いし、暴走している今のネギくんならなおさら。まともにダメージが入って、神社の壁まで吹き飛ばされてる。

 

「ちょっと、しっかりしなさいよ!」

「おいネギ! 頭冷やせや!」

 

スパーーン!

 

 緊張した最中に、軽快なハリセンの音が鳴り響いた。

 

 なるほどね。明日菜ちゃんのアーティファクトなら魔力を霧散させられる。それで頭を叩けば、ショック療法も合わさって、落ち着きを取り戻せるかもしれない。

 それにしてもさっきのネギくんの目は良くないね。完全に瞳の色は憎悪に染まってた。まるで鬼や悪魔の様な形相だったし、今も自分のした事に驚いて体が震えてるみたい。

 

「バカ! あんた一人で悪魔に突っかかってどうするつもりよ!」

「ネギ先生ー!」

「アホかお前! 正気無くしてどないすんのや!」

 

 すると急に落ち着いた様に、その瞳に理性の色が戻ってくる。

 

「あ、アスナ……さん。のどか、さん。あの、僕……」

「やれやれ。そこで止めてしまうとは勿体無い」

 

 何だろう。この人。ううん、悪魔だよね。どうして、そんなに笑ってられるの? ネギくんがあんなに必死に突き止めようとしている、村の人達の情報を笑って済ませられるの?

 世界を救いたいって命を懸けて危険に飛び出す人だっているのに、ネギくんを挑発して苦しめるのが、そんなに愉快なの? 私は……。貴方の様な悪魔を……。ごめん、エヴァちゃん。口出すよ。

 

「悪魔ヘルマン。貴方はそう名乗ったよね」

「これはこれは【銀の御使い】殿。お初にお目にかかるね」

「貴方はネギくんに情報を教えると約束したんじゃないの? 貴方の様な存在がその約束を違えるの? ただただ挑発を繰り返して、それは召還主から依頼されたから? それとも貴方自身の趣味なのかな?」

「これは手厳しい。確かに、私は彼と約束した。だが、いつ話すとまでは約束した覚えは無いだのがね?」

「そ、そんな! 嘘を付いてたんですか!?」

「勿論話すとも。だが私とて召喚された身。クライアントに満足してもらえなければ帰れないのだよ」

「それで? ネギくんの実力は見たんでしょう? 約束通りに話をして帰れ。悪魔へルマン!」

 

 ざわり――。と、周囲の空気が変わったのが分かった。

 私の何か奥深くから、騒ぎ出してくるものを感じる。周りの皆が寒気の様なものを感じているのが分かるけれど、私は彼を簡単に許せそうには無い。

 

「むぅ……これは手厳しい。ネギ君の実力も見れた事だし確かに帰ろう。と言っても学園結界を誤魔化し大きな術は使えないように拘束されているのでね。すぐに消え去る事は出来ない点は謝罪を――」

「三度は言わないよ? 約束を果たしなさい」

「……分かった。あれの本質は呪いだ。水は氷や空気になる。それがあの解呪のヒントだ。では失礼するよネギ君。いつか治療する手立てが見つかれば良いな」




 ネギvsタカミチは、ほぼ原作通りで、ヘルマンの横槍と決着方法が若干違う程度なので詳しく描写していません。むしろ丸々そのまま書くわけにいきませんから。
 ヘルマンは原作でも好々爺みたいな所があったので、悪魔という性質も含めて、ここではこのように扱いました。永久石化の解呪方法は原作に無いので独自解釈です。簡単かもしれませんが、もし何が言いたいのか分かっても、感想などで書かないでください。

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