青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第65話 学園祭(2日目) まほら武道会の尋ね人

「石化の呪い……。それに、水……?」

「ほ、ほら、良かったじゃないのネギ! 少しは希望が見えたんじゃないの?」

「え、えぇ。そう、ですね……」

 

 ブツブツと確かめる様に呟くネギくんだけど、やっぱりまだ悪魔との会話のショックが抜けないのか、少し青ざめている様に見えるね。明日菜ちゃん達が励ましているみたいだけど、まだこれから試合があるんだし、このまま悩み込まれるとちょっと困るかな。

 

 ネギくん達がいる本殿の中に入るために、無造作に魔法の糸で作られた格子を引きちぎって、普段よりも優しい声を意識して、祝福の言葉と注意を促した。

 

「おめでとうネギくん。少しだけ進展したみたいだね? でも、まだ試合は残ってるから、気を抜いちゃ駄目だと思うよ?」

「あ、あの。シルヴィア先生?」

「うん、どうかした?」

 

 何か変な事言ったかな? 何も言ってないと思うんだけど……。なんだかネギくん達の青ざめた様な顔が変わっていないし、何か変なものでも食べたのかな?

 

「調子悪いのかな? ドリンク剤でも飲む?」

「いえ! だ、大丈夫です!」

「そう? 明日菜ちゃんは試合前だから、飲むとちょっとずるいかな?」

「そ、そーですね! はい、こ、こわくなんか……」

「えっ?」

「何でもありません!」

「大丈夫です、ありがとうございました。頑張ってみます! あ、マスターもすみませんでした!」

「なんだ。私はついでか?」

「ち、ちち、違います!」

 

 あれ? なんだろう、この変な空気。ネギくんも遠慮なんてしなくて良いのに。明日菜ちゃんもそんなに悪魔が怖かったのかな?

 あ、タカミチくんにも無事勝てたんだし、ちゃんと褒めてあげないとね。褒めて伸ばすのは重要な事だし、あれと面と向かって相対出来た精神力は、タカミチくんの豪殺居合拳で身に付けられた部分もあったんじゃないのかな?

 

「それにしても、ネギくんは頑張ったね。無事にタカミチくんにも勝てておめでとう。それに、あれに面と向かって挑めたのも凄かったと思うよ」

 

 もちろん笑顔で話しかけたんだけど……。なんで引いてるのかな?

 

「は、はい! ありがとうございます! でも僕はまだまだ未熟なんで頑張ります!」

「え? うん。そうだね。頑張ってね?」

「はい!」

 

 何だろう。タカミチくんとの試合で、駄目だった部分をもう反省して取り入れてるって事かな? それに、エヴァちゃん辺りが叱咤するのかと思ったんけど……何も言わないね?

 ちらりとエヴァちゃんを見ても、ニヤニヤしてるだけで意外と機嫌が良さそうに見えるんだよね。どうしたんだろう、珍しい。さっきまで色々文句を言いたそうにしてたのに。

 

「あ、もうすぐ私の試合! じゃ、じゃぁネギ、そう言う事で!」

「えぇ!? アスナさん待ってください!」

 

 そう言えば、もうネギくんの次の試合はやってるのかな? 明日菜ちゃんが慌てて控え室に向かうのは分かるんだけど……。うーん。なんか、変だね? のどかちゃんも夕映ちゃんに何か言いたそうにしてたし。気になるなら聞けば良いと思うんだけどね。

 とりあえず今ここに残ったのは、私とエヴァちゃんと夕映ちゃんの三人。夕映ちゃんに顔を向けると……。なんだか微妙な顔をしてるね。どうしたのかな。

 

「えっと。この状況は何かな?」

「……シルヴィア先生が怒った所を初めて見たからでは無いでしょうか? 私も驚きました」

「私も久しぶりに見たな。殺気も出ていたぞ。まったく、ここしばらくボケたかと思っていたが、何百年ぶりだ?」

「え、そうかな? でもあのやり方は良くないよ。ネギくんをからかって面白がってるんだもの」

「確かにそうですが……。それに本当に帰ったのでしょうか?」

「さぁな。それに証拠は掴んだのだろう? 次に来たら捻り潰せば良い」

「うん。そうだね。踏み潰せば良いよね」

「え?」

「夕映ちゃんどうかした?」

「い、いえ。その……」

 

 合わせていたはずの視線が、ゆらゆらと揺れて顔ごとエヴァちゃんにぐるりと向かった。そのまま二人に少しずつ距離を取られて……。

 というか……何をしてるんだろう? 何だか二人でひそひそ話をしてるけど、何か言いたい事があったら直接聞いて欲しいかな?

 

「ね、ねぇ二人とも。そういう事されるとね、微妙に傷付くんだけどなー?」

「だったらその分さっきのヤツにでも叩きつけてやれ。私に聞くな。もしくは綾瀬夕映に直接聞け」

「わ、私ですか!? えぇと、その……。と、とにかく戻りませんか!? まだ試合は残ってるです」

「夕映ちゃーん? ちょっとお話しよっか?」

「わ、私は試合が! 試合が見たいです!」

「諦めろ。これも良い経験だ」

 

 とりあえず夕映ちゃんに、どれだけネギくんの事をお祝いしたいのか、気持ちが分かるまでゆっくりとお話をしていると、試合が終わった高音ちゃんが半裸で泣いて控え室に走り去って行った。

 何だか今日は不思議な事ばかり起こるね?

 

 

 

『さて皆様お待たせしました! 今大会で新たなアイドル誕生か!? メイド女子中学生二人組みの入場です!』

 

「ちょっと待った朝倉ぁ! 何よこれー!」

「いやー、だってあんたら肩書き無いじゃない? ここはちうたんを見習ってさぁ?」

「アイドルの真似とか無理よー!」

 

 アンジェちゃんとチャチャゼロちゃんに席を確保しておいて貰ったところに戻ると、何だか明日菜ちゃん達が揉めている様だった。

 改造エプロンドレスで、フリル満載のメイド服を着た明日菜ちゃんといつものハリセン。それに対して刹那ちゃんは、やっぱりエプロンドレスに、ミニスカ和風のメイド服で高下駄。それに何故かモップを持っていた。

 

 何処からどう見てもこれから試合をするって感じじゃないんだけど、何をしてるんだろうね……。とりあえず、さっきのICレコーダーを千雨ちゃんのパソコンに保存しておいた方が良いかな。でも、勝手に起動したら怒られちゃうかな? うーん、後で謝るしかないかな。証拠は必要だし。

 

「ふむ……。まぁ、発想は悪くない。だが、着物の良さと言うものをだな……」

「エヴァちゃん、注目する所違くないかな? 確かに何をしてるんだろうって思うけれど、可愛い事は可愛いと思うよ?」

「何を言う、どうせ神楽坂明日菜は負けるんだ。それならそうで、もっと着飾ってやるくらいしてやれば良いものを」

「明日菜さんは負け確定なのですね……」

「フフフ。そうとも限りませんよ?」

「だ、誰です!?」

 

 あれ? この人ってさっきエヴァちゃんが、正体を知らない方が良いって言っていた人だよね? 急に声をかけてきたけれど、何か明日菜ちゃんの事を知ってる人なのかな?

 魔法無効化能力者って事もあるから、どこか特殊な環境で育ったか、偶然に学園長の情報網で見つけた子だったんじゃないかって思ったんだけど、この人の関係者? でもこの人の声って、どこかで聴いた覚えがあるんだよね。ちょっと、顔を見せてもらえたりしないかな?

 

「おっと覗いてはいけません。私の正体はヒ・ミ・ツ。と言う事で」

「うーん、どこかで聞いた覚えがあるんだよね」

「そのうち分かりますよ」

「放っておけ。こいつに関わっても碌な事が無い」

「おや、それは心外です。ところでエヴァンジェリン。ここで一つ賭けでもしてみませんか?」

「いらん。さっさと帰れ」

「それは残念。ですがこの試合、黙って帰るわけにはいかないのです」

 

 そういう言い方をされると、明らかに明日菜ちゃんの関係者だって言ってるものなんだけどね。どうもあまり隠す気も無いみたいだし。でも一応、刹那ちゃんにも用はあるって事なのかな?

 とりあえず今は試合だよね。正道の剣術を学んでいる刹那ちゃんは、最近修行を始めたばかりの明日菜ちゃんにはまず負けないと思うんだけど……。

 

 え、もしかしてあれって感掛法? どうして明日菜ちゃんが? あれのコントロールは千雨ちゃんが年単位でダイオラマ球の中で訓練して、やっとコントロールが出来るようになったのに。

 エヴァちゃんに懐疑的な視線を送ると、軽く首を振って答えてくれた。と言う事は、エヴァちゃんは教えてないって事だね。フロウくんなら面白がって教えそうだけど、一、二ヶ月で出来るようになるものじゃないし、そう考えると操られてるか、もしくは元々出来たって事になるよね。

 

「一般人ではなかった。という事か? ジジイめ、何処から見つけてきたのやら」

「言っても多分口を割らないと思うよ? 契約にかこつけて脅せば言うとは思うけど、危険っていうわけでもないし、とりあえず傍観で良いんじゃないのかな?」

「黙っていたのは気に食わんが……。まぁ良い。ただでさえA組は隠し玉が多いからな」

「あ、あの。桜咲さんの方が優勢に見えるのですが、明日菜さんはあれだけで勝てるのでしょうか? それに、明日菜さんは魔力や気は使えないはずですよね?」

「無理だな、いくら何でも急ごしらえすぎる。あいつ自身も戸惑っているようだ」

「そうだね。ネギくんからの魔力供給でやってきたはずだし不自然だね」

 

 刹那ちゃんの顔付きが、楽しんでいるというよりは段々真剣になってきたね。剣の型だけでじゃ対応できないって判断したみたい。神鳴流の気を纏った技を織り交ぜる様になって来た。

 斬空閃だったかな。剣先から気の斬撃を遠距離に飛ばす技だね。一応周りを気にして、衝撃波に留めているみたいだけど……。感掛の気であっさり消し飛ばされてるね。

 

「刹那ちゃんは別に手を抜いてないよね? 関西の出張所や、エヴァちゃんのダイオラマ球で訓練してたみたいだしさ?」

「だが、若干舞い上がってるな。神楽坂と打ち合うのが楽しいという眼をしている」

「あの、何だか明日菜さんの表情が無くなっているのですが?」

「え!?」

 

 まさか、本当に操られていた? 一瞬、フードマントの人が頭を過ぎったけれど、それよりも今は明日菜ちゃん。夕映ちゃんの指摘に沿って、明日菜ちゃんの顔に目線を送る。

 え、でも。あれは……。表情が無いというよりは、戸惑いとか後悔とか。それに……。

 

「泣いてる?」

「む、気に質が変わった。と言うよりは何だあの力は?」

「明日菜さんのアーティファクトが!」

 

 いきなり咸卦の気の密度が上がった? それに、明日菜ちゃんのアーティファクトがハリセンじゃなくて、片刃で1mを超える大剣に変わってる。

 神鳴流の技も気が散らされてるし、気を込めたモップもあっさり切り裂かれてる。もしかしてあれは……、明日菜ちゃんの魔法無効化能力を、完全に引き出すための強化系アーティファクト?

 

「ちょ、明日菜! 本物はマズイって!」

「危ない、朝倉さん下がって!」

 

 明日菜ちゃんの目は、きっと刹那ちゃんを見ていない。何かに捕らわれたまま大剣を振り続け、感掛の気で勢いまかせに剣を振り回してる。

 けれども、乱暴に振り回す明日菜ちゃんに、刹那ちゃんが素早い動きで横から手足を絡め取って、豪快に宙を舞いながら投げ飛ばした。その衝撃で、上手くアーティファクトも手元から離れたし、無事とは言い難いけど何とか収まったかな?

 

『は、刃物は禁止されています! 反則により桜咲選手の勝利ー!』

 

 ルールに乗っ取ったのか、機転を利かせてくれたのか、ともかく和美ちゃんの一声で試合はここで終了。大事に至る前に止めてくれた刹那ちゃんに感謝だね。

 

「何だったのでしょうか?」

「ジジイが集めた生徒だ。何かを隠し持っていても不思議ではないな。そう考えると綾瀬夕映。お前だって何かあるのではないか?」

「わ、私がですか!? 何も無いと思うのですが?」

「一般人のクラスなのに妙に能力が高い子が混ざってるからね。千雨ちゃんの事だってあるし」

「まぁどうせジジイの道楽だろう。もし何かあれば逆に利用してやれ」

「は、はぁ……」

 

 そして次の試合は、トーナメント一回戦の最終試合。優勝候補と名高い古ちゃんと、裏側の住人で傭兵の真名ちゃん。一般投票だと古ちゃんの方に軍配が上がっていたけれど、始終、真名ちゃんがマシンガンの様にコインを撃ち出して圧倒。

 そのまま押し切るかと思ったら、ネギくん達の声援もあってか古ちゃんが盛り返して、なんとか懐に潜り込んで気を使った一撃で勝利を収めた。

 

 これでトーナメント一回戦は全部終了。この後は準決勝と決勝戦だね。今の所、大会側から無理に魔法をばらそうとする姿勢は見えなかったけれど……。

 

「随分と手加減していたな。本気でやるなら一瞬だっただろうに。自分が可愛かったか?」

「そんな事は無いと思うよ? 一般人の振りして、今出来る本気だったんじゃないのかな?」

「あの、龍宮さんも高畑先生の様な大技があるのですか? 普段から銃ですし、魔力も気も使っていなかったようですが……」

「……アイツは半魔族だ」

「エヴァちゃん、それって秘密にしてたんじゃないの?」

「え、そうだったのですか?」

「あぁ。だが、命が惜しければ知りたがりは程ほどにして置け」

「は、はいです……」

 

『それでは皆様。休憩の間トーナメント一回戦のハイライトを、ダイジェストでお楽しみください!』

 

「えっ?」

「く、空中に映像が浮かんでます!」

「ほぅ。いよいよか」

 

 大きい……。舞台は確か15mって和美ちゃんが言っていたけれど、それを隠せる大きさのテレビ画面。空間パネルと言うか、劇場のスクリーンって言った方が良いかもしれない。

 舞台の四辺を全部囲んで、観客どころか外からでも見えるくらい巨大なスクリーン。そこに今までの試合の動画が次々と”公開”されている。

 

「……やられたね」

「そうだな。映像の撮り方からして、おそらく茶々丸と左右の灯篭塔辺りか?」

「確か、認識阻害は現実に起きている場合にしか、その効果が無かったはずですよね? 映像の認識阻害は電子精霊でジャミングを使わなければ、ダイレクトに魔法が伝わってしまうのでは?」

「あぁ、その通りだ」

 

 インターネットの方はある種のダミーで、この場で直接見せ付ける。その二段構えの計画だったって事だね。でも、ここまで執拗に魔法を公開するのには、それだけの意味があるはず……。

 

「シルヴィア! ネットにも公開され始めてる! ヤバイぞ!」

「分かってる、私は超ちゃんを探しに行くよ」

「フフ、思いっきり叱ってやれ」

「うん、任せておいて! エヴァちゃんは、超ちゃんが会場に出てきたらお願い。あと夕映ちゃんの事もよろしくね?」

「あぁ、任せておけ」

「頼むシルヴィア! マジで頼む!」

「分かった!」

 

 とにかくまずは大会本部を探す事。テントに超ちゃんはいなかったから、分かりやすい位置としては神社の中の控え室とその周りの部屋かな。

 とにかくローラー作戦でも良いから、学園全土を探す。そう決めて神社の中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……タカミチ・T・高畑。こちらに気付いた様子はありませんでしたわ」

「そう。もしかしたら見逃されているのかもしれない、注意は怠らないように」

「えぇ。ですがどちらかと言えば、必要なのは彼女達と、あの愚か者共の使い魔でしょうか」

「あれか……。随分と遊んでいた様だけど」

 

 先に行われた試合を思い出したのか、少し考え込んでいる様に見える。敵意を剥き出しにしている少女と、不機嫌だと分かる目付きをしていながら、興味が無いと言う矛盾を抱えた少年。

 本当は興味があるのに、自分がそうであるはずが無いと思い込もうとしている。見る限りはそうとしか見えないが……。

 

「今、この地は恐ろしい魔力溜まりと化しています。抑えているとはいえ、ただでさえ巨大な力を持った者達がいるのに、世界樹の影響をあの者達が見逃すでしょうか?」

「そうだね、ここのゲートが現存していればあちらに送れるけれど……。オスティアとはもう繋がっていないからね」

「こんなにも旧世界≪ムンドゥス・ウェトゥス≫には魔力が溢れていると言うのに……」

「無いもの強請りをしてもしょうがない。それに根本的な解決には至らないよ」

「ですが、私達の――」

「そこまでだ、栞さん。聞かれている」

「――っ!? 何者!」

 

 今頃気付いても遅い。そう言っても、殆ど情報らしい情報が聞けたわけじゃない。それでも、魔力を欲しがっていると聞けただけ運が良かったか? クク……。

 まぁ良い。せっかくだから挨拶といこう。招待していない客だが、イレギュラーとしては大歓迎の相手。それに、アイツの状態がどうなっているのかも興味がある。

 

「どうしたの、おねえちゃん。おかおがこわいよ」

「……子供?」

「何の用だい? “ここ"は子供が来る場所じゃないはずだ」

「あのね、ママがね、パパもね、みつからないの。ぐすっ、うぅ……」

「え、えぇと……フェイト様。どうしましょうか」

「下手な演技はいい。何百年も前から闘技場荒らしと呼ばれている君を知らないわけが無いだろう?」

「ククッ。つまらないヤツだな。もう少し付き合いってものを覚えろ」

「残念だけど、旧世界流のジョークは分からなくてね。用がないのなら帰ってもらえないかい?」

「え、この子が……?」

 

 身長は大して延びてないからな。幻術魔法を使えばそうでもないが、そのまま人間形態ならガキのままだ。こればかりはしょうがないんでな。

 もっとも、闘技場で暴れまくってたのはかなり昔の事だ。それをいちいち覚えてるってのは、奴らの情報網はそれ相応にあるって事だな。それだけじゃねぇな、魔力が無いと困るって事は、何か事を起こす気があるってか? シルヴィアが命を拾った手前、加減はしてやるが容赦をする気はねぇな。

 

「それで? ネギ坊主はどうだ。面白そうか?」

「別に。見る価値も無い」

 

 少し視線を逸らしたか。意識してるってバレバレだぜ? お前がアイツで何をしたいかなんてのは分からねぇが、嘘は良くないな。少し、試してみるか?

 少しだけ殺気を込めてぶつける。少女の方は分からないが、コイツがこれくらいで怯むとは思えないレベルの威圧。さて、どう出るか。

 

「――ひっ!?」

「止めてもらえないかい? この場で争うつもりは無い」

「この場じゃなかったらやるのか? ナギとやった時みたいにか?」

「……何だって?」

「俺の情報網を甘く見るなよ? 表も裏も、人と金と時間をかければそれ相応の事が出来る。それに、情報屋よりも信望者ってのは扱いやすいんだ。そこの小娘みたいにな」

「な!? わたし……は、うぅ……」

「あぁ、そうか。喋れなかったか。それは悪かったな。ククク」

「用件は? それだけなら帰ってもらいたいんだけどね」

 

 ……マジでつまらないヤツだな。もっとも、ラカンのヤツなら直接面識もあるだろうし、俺よりもっと食いつきそうなんだが……。

 まぁ挑発はこの程度で良い。シルヴィアの事も有るからな、後からじわじわ聞いてくるだろう。

 

「用件は二つ。見ていたんだろう? ネギ坊主か? シルヴィアか?」

「それを答える理由があるのかい?」

「ねぇな。もっとも、お前は心に嘘をつけそうにないタイプだ」

「……フェイト様?」

「…………答える義務は無いね」

 

 そりゃそうだ。わざわざ敵になるってヤツに答える方が馬鹿だ。

 けど、ネギと口に出した時の一瞬だが戸惑った視線。そしてシルヴィアの名前を出した時には泳いだ。その反応だけで十分なんだがな? 造物主に仕える使い魔。なんて言ってやがるがどうにも人間臭い。

 

「それじゃ二つ目だ。お前、裏切り者になる気か?」

「ありえないね」

「そうです! フェイト様の崇高な理想を汚すのは許しません!」

「誰もそんな事言ってねぇだろ? だいたい崇高とか言ってんなら、堂々と胸を張って計画を示せ。それが出来ないから、後ろめたいからこそこそしてやがるんだろ?」

「なっ!? そんな事はありません。大体貴女にも――」

「言う必要は無いよ。挑発に乗って言わされては駄目だ」

 

 ふーん。俺にも……か。つまり、この世界のイレギュラーである俺にですら、関係が有るほど規模がデカイと言う事か。

 

「大体分かった。情報ありがとう、栞ちゃん? ククク」

「な、ぐ……。あ、貴女。知っていて!」

「言葉を飲み込むのがやっとか? ただ、これだけは覚えて置けよ。シルヴィアは命の貴賎を選択しない。救えるヤツなら誰だろうと飛んで行く様なお人好しだ。どんな理由かしらねぇが、救われた命は大切にしろよ? 今度自殺するようなまねをしたら、俺が直々に消しに行ってやる」

「う……」

「……それは困るね。栞さん、大人しくしていたほうが良さそうだ」

「は、はい……」

 

 なに? 聞いていた話と大分違うな。コイツは目的のためなら敵でも仲間でも、平気で犠牲にするような印象を受けたんだが……。

 少しだけ前にでて、いつ俺が踏み込んでも庇える位置に居るな……。シルヴィアとの出会いで変わったのか? ククク。コイツらをもう少し眺めていても面白そうだ。

 

「……何のつもりだい?」

 

 警戒する二人をまるっきり無視して、直ぐ横の屋根の上に腰を落ち着ける。多少、武道会場から離れてはいるものの、このくらいの距離なら見るのには問題ないだろう。

 呆れた目をしたフェイトと、うろたえまくってる栞。それを見てるだけでも面白いんだが、やっぱり観戦するのにも、人の意見ってモノが欲しいからな。

 

「まぁ、楽しんでおけ」

「……警戒に値しないと言う事か。それとも、交渉しだいでは手を出さないでもらえるのかい?」

「さぁな」

「あ、貴女。下品ですわよ、こんな所で胡坐をかいて。その……スカートが……見えて」

「はぁ? 俺は男だぞ。それともお前、めくって見たいのか?」

「お、とこ!? ああああ、あなたは!」

「止めた方が良い、彼女の一挙一動は演技だ。人をからかう趣味もある事で有名なんだ。闘技場で彼女の容姿に油断した隙に終わっていた。と言うのも有名だったらしい」

「最低ですわ……」

「何とでも言え。真剣勝負で油断する方が悪い。……それとも栞さん。わたくしが淑女と言うものを教えて差しあげましょうか?」

「……っ! 結構です!」

 

 突然態度をぐるりと変えて、顔付きも仕草も、声質も栞に合わせたそれらしいものにする。すると恥ずかしいのか、怒りが収まらないのか、真っ赤な顔になってそっぽを向かれてしまった。

 

 俺の勝手な見立てだが、こいつらは妙に世界世界と背負い過ぎてる気がする。少しは笑って生きるっていう過ごし方を覚えた方が良いと思うんだがな。

 それに栞は、フェイトのヤツより幾分からかい甲斐が有るように見える。しばらくはコイツらで暇を潰せそうだ。ついでに、もうちょっと世界ってものに未練を持って貰う様に誘導してみるか? ククク……。




 基本的に原作通りの試合は細かい描写をしません。明日菜は原作でもキーキャラクターなので、修学旅行編で、原作よりも少し気持ちがしっかりしている刹那と共に描写しました。

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