青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第66話 学園祭(2日目) まほら武道会の裏側

「ここにも居ないみたいだね……」

 

 今は龍宮神社の周囲にある林の中。あれから神社の中をくまなく探してみたけれど、超ちゃんの姿どころか、関係者の姿すらどこにも無かった。痕跡くらいあれば良いと思ったんだけど、控え室の係員も、医療スタッフも、皆雇われていた人で誰も居場所を知らなかった。

 こうなったら龍宮神社を中心に、周辺を探索魔法で探した方が良いかもしれない。超ちゃんの居場所が分かれば、エヴァちゃんの影の転移魔法も……。あっ! そうだ、もしかして。

 

 今の私には『グランドマスターキー』がある。あれの『リロケート』だったら、直接超ちゃんの所に飛べるかもしれない。

 

「本を呼び出して……。この感覚も久しぶりだね」

 

 私の奥底にあるものを意識して呼びかける。以前の魔力で編まれた本とは違うもの。自分の奥の中にある何かと繋がっているとハッキリ感じるその本を呼び出す。

 

 本を呼び出して最初のページ。いつも通りに説明書と書かれたふざけたページをめくり、説明書きを飛ばしていく。白紙のページがしばらく続いた後に『グランドマスターキー』のページを発見。これは、もしかしなくても最後から探した方が早かったかもしれない。多分真ん中のページはただの『マスターキー』で、最後の方が重要な鍵になっているんだと思う。

 

 そのまま『グランドマスターキー』のページから実物を召還すると、銀色の粒子を帯びながら実体になって現れた。それ両手で握って縦に持ち、超ちゃんの居場所へ飛べるか試す。

 

「それじゃ、やってみようかな。――リロケート 超ちゃんの側に シルヴィア・A・アニミレス」

 

 ……やっぱり、何も起こらないかぁ。この前みたいに場所のイメージがハッキリしていないし、魔力の流れも出来ていない。鍵はただ銀色の粒子を出しているだけで、前みたいに溢れ出て来る感じもしない。

 呪文を詠唱しても、明確な居場所が分からなければ何にもならないって事だね。それじゃ、やっぱり普通に探索魔法かな?

 

「集まって影の精霊達……。超ちゃんの居場所を探すために、私に力を貸して……」

 

 闇に属する影の精霊達を、私の特殊能力で集めて探す。影は隅々まで侵食して、ありとあらゆるところまで入り込んでいけるから、探索をする時はこの方法が一番確実に分かる。

 

「――見つけた!」

 

 再び鍵を両手で握り締めて、もう一度転移魔法を試みる。

 

「リロケート 龍宮神社内、左側の高灯篭三階・コンピュータ室中央 シルヴィア・A・アニミレス!」

 

 場所は龍宮神社の中。とは言っても舞台の真横に有る高灯篭の中にある部屋。ものの見事に灯台下暗しの場所だね。正面からの進入口は無いけど、影の感触からすると地下から入れたみたい。

 

 もちろん、今度は明確に場所がイメージできる。きちんと鍵から銀色の光が放たれて、体の周囲を何週も囲んでオーロラ状になる。私を飲み込んだ光は、指定場所へと一瞬で送り届ける。

 視界が切り変わった次の瞬間、目の前には少し慌てた顔の超ちゃんと、驚いた目をした真名ちゃんが居た。

 

「これは驚いたよ。先生はどんな魔法を使ったんだい?」

「それは私のセリフかな? 吃驚したよ。真名ちゃんは超ちゃんのお手伝いをしているの?」

「仕事だよ。もっとも、超の計画に賛同した上で、だけどね」

「そうなんだ……」

 

 少し悲しいかな。どんな理由があるにしろ、魔法を公開すれば世界中で混乱が起きる。

 きっと想像もしていなかった様な大規模な暴動や、信じられない様な事態に発展する負の可能性が大き過ぎる。それを分かった上で協力してるのかな?

 

「なるほどネ。あの鍵を獲た時点で、こうなる可能性を否定出来なかたネ。迂闊だたヨ」

「ねぇ超ちゃん。もう一度お話しても良いかな?」

「構わないヨ。出来れば仲間になってくれると嬉しいネ」

「それはちょっと無理じゃないかな? 私は先生として、超ちゃんを叱りに来たんだ。大人しく叱られてくれないかな?」

「それはチョット無理な相談ネ♪」

 

 ニッコリと笑う超ちゃんに穏やかな笑みで応える。けれども私の中では、もう警戒から最終通告に切り替わっている。

 超ちゃんが魔法を公開した先に何をしたいのか。その理由は知らなくてはいけないと思うけれど、今ここで止める必要があるのは間違いない。超ちゃんが未来で何を見たのか、魔法を公開しないといけない理由があるのか。それを聞くのは止めてからでも遅くは無いはず。

 

 いつも通りに笑う超ちゃんに、警戒を怠らずに話しかける。どうにも隙だらけだけど、直ぐ側に真名ちゃんが居る事で、迂闊には飛びかかれない、

 

「ねぇ超ちゃん、どうして魔法を公開したいのかな? 返答しだいでは、超ちゃんを捕まえないといけないんだよね」

「逆に聞こうカ。どうして魔法を公開しないのかナ?」

「また言葉遊び? 話しをしてくれるんじゃなかったの?」

「アハハ、仕方がないネ。では話すが、魔法は脅威とされてる分野ネ。しかし、正しく使えばあらゆる人を救う万能薬になるヨ。それを公開しない手は無いんじゃないかナ? 医療に携わるシルヴィアさんなら良く解ると思うのだがネ?」

 

 確かそれはそう。でも、それはあくまで正負の中の一面。それをしたら医療のバランスは崩れるし、闇医者なんかもきっと増える。仮に私が魔法薬で人を救えたとしても、薬にも限りがある。

 それだけじゃなくて、回復魔法があるのなら、攻撃魔法もあるって考えに行き着くのは直ぐだと思う。実際にそっちを先に使って怯える人なんかも増えちゃうよね

 

「一つ公開すれば、芋づる式に他の魔法にも行き着くよね? 攻撃魔法や幻術系で悪さをする人も出るだろうし、未知の技術に恐怖が先立つんじゃないのかな?」

「もちろんそれに対しての手は尽くすネ。今後三十年の準備は整えてあるヨ」

「それは……。超ちゃんが世界を一人で管理するって意味かな? まず、他の魔法関係者の協力は仰げないと思うよ?」

「手厳しいネ。だが、そのつもりだヨ」

「でも、それは――」

 

 どう考えても、完全な管理は不可能。もし、それを実行する手足があったとしても、世界中で一気に足並みをそろえてやらないと、まともな管理どころかあっさりと反乱が起きると思う。

 それに、その方法はあの傲慢な神様と同じ事なんだよね。好き勝手に決めて、世界を崩して、自分は調整しながら見守る。どんな理由があっても、それはして良い事じゃないと思う。

 

「ごめん超ちゃん。私にはそれを認める事は出来ないかな」

「とても残念だヨ」

「悪いけど、ネット上のデータ消してもらえないかな? 超ちゃんなら出来るよね?」

「出来てもやらないヨ。私の計画はもう始まているからネ♪」

 

 その言葉と同時に、軽く足を肩幅に開いて臨戦態勢を取り始める。……戦うつもりなんだね。それなら悪いけれど、拘束させてもらうよ。

 右の指先を超ちゃんに向けて、風の精霊を呼び込む。素早く魔力を練り上げて、狙いのままに拘束の矢を撃ち込む。

 

「痛いのは我慢してね? 風の精霊11柱 縛鎖となり 敵を捕らえて 魔法の射手・戒めの風矢!」

 

 部屋の中をガタガタと揺らして、鋭く密度の高い風が走り抜ける。一斉に飛び出した風の矢は鞭の様にしなって曲がり、超ちゃんの周りを囲んで捕らえようとする。

 けれども、それらは超ちゃんの周囲を包み込むだけで、拘束しようする対象を見失っているかのように動かなかった。

 

「え、あれ?」

「どうしたネ。シルヴィアさんは私を拘束するんじゃなかたカ?」

 

 拘束できなかった風の矢は、そのまま対象を見失ったかの様にぐるぐると回ってから消えていく。

 これは、明らかにおかしい。魔法障壁で逸らしたわけでもなくて、何かの魔導具を使ったそぶりも無い。しかも超ちゃんは魔力の伝達が出来ないし、精霊が動いた気配も無い。端的に言えば、ありえないって事になるね。

 

「ねぇ超ちゃん。魔法、使えないんじゃなかったの?」

「ウム。使えないヨ。だから私は何もしていないネ」

「真名ちゃん何かした?」

「いいや。私は見ていただけだよ」

 

 本当におかしいね……。真名ちゃんが幻術を仕掛けたわけでもなさそうだし、何か別の動作をしたようにも見えなかった。

 何よりも、真名ちゃん自身がありえないものを見たような顔をしている。真名ちゃんは半魔族だし、精霊の動きがおかしいって思ったはず。

 

「お、シルヴィアさん。千雨さんの試合が始まるよ。ちょうど良かたネ。観戦して行くと良いヨ?」

「おしゃべりしながら?」

「ウム。お友達と無言で居るのはツラいヨ?」

「うん、まぁそうだね。でも、口が上手いなら説明してくれると嬉しいかな?」

「お褒めに預かり光栄ネ。それに応えて一つだけ私の計画を話そうカ」

「良いの?」

「構わないヨ。私の計画の本番は明日の十九時頃だヨ。それまでは大会以上は何もしないネ」

「それまでに対策しろって言ってる?」

「ウム。フェアじゃないからネ」

 

 何か分からない方法で私の魔法を防いでいる上に、タイムマシンまで使うんだもの。その時点でとてもフェアじゃないと思うんだけどね。

 明日、とは言うけれど。それはもう準備が完全に整う時間って意味だよね。逆にそれまでに捕まえられないと、何が起きるか解らないし、何をされたのかも解らない。

 

 とにかく、千雨ちゃんの試合も心配だけど、今は超ちゃんからも目が話せない。これは厄介な事になっちゃったなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 トーナメント二回戦の第一試合、長瀬と小太郎はあっさり長瀬の勝ち。実力差もあるから当然だな。どっちも分身術の使い手だけど、長瀬の方が質も量も倍以上の差がある

 まぁそんな事よりも、このフード男がヤバイ。何だか妙に強い相手というか、明らかに高畑先生以外の強いメンバーに当たってるよな?

 

『さぁトーナメント二回戦第二試合! 一回戦では凄い蹴りを見せてくれた、戦うネットアイドル黒ちうさま! 対するは拳法家を一撃で終わらせた、謎フードマントのクウネル・サンダース選手です!』

 

 さてと、やっぱここはカゲタロウみたいに即効で実力を測りに行かないと無理だよな? 明らかにさっきの紳士よりも強そうだ。

 それにフードで顔を隠してるのが明らかに怪しい……。

 

「はぁ……」

「何だあんた。人の顔見るなりいきなり溜息とか失礼だろ」

 

 それにしても、マジでコイツ誰だ。まさかカゲタロウの中身って事は無いだろうけどよ、顔を見られちゃ困るって事だよな? もしかして、こいつも侵入者だとか言わねぇよな?

 

「一つ、質問させて頂いて構いませんか?」

「何だよ? 内容によっちゃ聞かねぇぞ?」

「どうして……どうして子供の時に、会えなかったのでしょうか。実に、残念です」

「はぁ?」

「貴女の趣味の話です。どうせなら小さなままでいた方が、色々と出来たのではありませんか?」

「なんだそりゃ?」

「もっと早く、人間をやめてくだされば良かったのに。はぁ……」

「――なっ!?」

 

 こいつホントに誰だ!? 私が半分人間やめてるのはシルヴィア達以外は誰も知らないはず。もしかして、知らない間に探査魔法か何か使われたか?

 この会場に上がってから使われた様子は無い……。魔力も精霊の動きも無かった。て事は、前々からこいつ知ってやがったな?

 

「今からでも遅くありません。変身魔法を覚えませんか?」

「悪いがそんな趣味はねぇな。それよりもあんた何者だ? 一応試合なんだがな?」

「おっとそうでした。つい趣味の話しに没頭してしまい。もう一度お聞ききしますが――」

「やらない。あんた何者だ?」

 

 本っ当に変なやつだな。からかってるのは分かるんだが、どうも半分本気っぽい。それに嘘だったとしてもこいつの実力とは関係なさそうだ。おどけた雰囲気で人をからかう姿勢は、こいつの常套手段なのか?

 とにかく相手のペースに飲まれたらマズイ。手も足も出ないまま……。あれ? 何でこんな本気になってんだ。普通に負けたら良くねぇか? コイツが侵入者だったとしてもレベルが違うのは分かってる。となると、こいつの情報を出来るだけ引き出して、無事に負けた方が良いよな?

 

「クウネル・サンダースと申します。クウネルと気軽にお呼び下さい」

「じゃぁサンダースさん。何が目的だよ」

「…………はぁ」

「……オイ、コラテメェ!」

 

 ちゃんと名前呼んだだろうが! しかも気軽にどうぞとか言っといて、さらっと無視してんじゃねぇよ! どう見ても人を食ってる態度にしか見えねぇぞ!

 くそ、だからと言って普通に攻めてどうにかなる相手か? 伝わってくる気配が、シルヴィアとかエヴァクラスなんだよな……。どうやって絶えながら情報聞き出すか……。

 

「クウネル・サンダースさんよ」

「はい、何でしょうか?」

「一つだけ聞かせろ。あんた侵入者か?」

「答えなくてはいけませんか?」

「出来れば答えて欲しいところだな」

「では、取引と行きましょうか。貴女が勝てば、正直に私の目的を話しましょう。ただし、貴女が負ければ……」

「子供になれってか? ドヘンタイだなアンタ。そんな分の悪い賭けに乗るかよ」

「では、勝っても負けても正直にお話しましょう。その代わり……」

「やらねぇ!」

「フフフ、それは残念です。ですが、私は決勝戦に進まなくてはならないのです。彼の為にね」

 

 彼って誰だ? トーナメントに残ってる男子は、もうネギ先生だけだよな? て事はまた先生狙いか。つくづく人気者だな。

 それに侵入者じゃないってホントか? とにかく少しでも実力を測るしかねぇな……。

 

 右手に気。左手に魔力。それぞれを制御して合成。観客の目は気になるけれど、そんなこと言ってる場合じゃねぇ。咸卦の気を全力で込めて、蹴り飛ばす!

 

「ほう……。ですが届きますか?」

「なに? ――っ!?」

 

 突然に身体が重くなって、視界が真っ黒に染まった。みしみしと何か分からない重圧を受けて、舞台そのものに胴体から飛び込む形で押さえ付けられてる。

 これはマジでやばい! 指先から足先まで身体中が悲鳴を上げてるし、重圧で日傘も潰れた。呼吸も苦しくなって来たし、何よりも痛テェ! 指一本持ち上がらねぇし、感掛法使った後じゃなかったらマジで潰れてたぞこれ!

 

『これは一体何が起きたのかー!? 黒ちうさま選手がいきなり倒れて、舞台がへこんだー! クウネル選手の技でしょうかー!』

 

「……ぐ、くく」

「おっと、やりすぎましたか?」

 

 チクショウ、精霊囮を作る暇も無かった。発動から発生まで一瞬とか魔法理論無視かよ! しかもいつ詠唱したんだよコレ。

 あ、呪文詠唱禁止だったか。そんな事よりも、考えてたらマジで潰れるな。ここが水場でホント助かった。舞台下からテティスの腕輪で水を呼び込み、自分の下に水溜りを作る。そのまま飛びこんで転移魔法を組み……あ、ぐ、うぅ……。精神集中が、キツイ。いけるか? けど、やらなきゃ潰れるな。こんのぉぉ!

 

 気合で精神を集中。なんとか水を操作して、水の精霊を使ったワープゲートを広げて飛び込む。そのまま遥か上空の雲の中に水場を繋げると、数メートルの大きなクレーターが出来上がっているのが見える。

 あれはどう見ても目立ったな……。このままじゃマズイから、舞台を隠す必要がある。空中で素早く魔力を練り上げて、風の魔力球を作りだす。その全部を使って、舞台の四辺を囲う様なイメージを纏める。

 

「(――魔法の射手! 風の31矢!)全部水に飛び込め!」

 

 そのまま狙いを定めて風の矢を発射。一斉に突き進む風の矢をコントロールして、舞台の周囲に着弾させる。風の矢は水場に当たると、豪快な水飛沫を上げて舞台を狙った通りに隠した。

 それを確認してから、もう一撃与えるために精神を集中。今度は私自身の分身だ。これでどれが本体か掴ませないまま、接近して思いっきり蹴り飛ばしてやる。

 

「(水精召喚 槍を持つ戦乙女 21柱!)行け!」

 

 水飛沫が止まない内に、水浸しになった舞台に水の分身体を召喚。周りは全部水だし、視界も遮られて簡単にはやられないはずだ。

 水の分身体は、私の命令通りに全部一斉に突撃させる。いくら何でも――なっ!?

 

「これでは私は倒せませんよ?」

 

 マジかよ!? 向かってきた分身を素手であしらって、しかも一撃で霧散!? しかも、あれって当たったよな。むしろ貫通してるんだが、それでダメージ無しとか反則にも程があるぞ?

 

「それでは私からも、おや?」

 

『おおーっとー! 激しい水柱だー! 一体何が起こったのかー!?』

 

 試合開始から、ここまで僅かな時間しか経っていない。一般人から見たら、私が倒れてから水柱が上がり、舞台で水が跳ね捲くった様に見えるだろうな。演出装置だって言えば誤魔化せるレベルのはずだ。

 

 それに、既に空中からは移動済みだ。もちろん、感掛の気は練りこんで準備してある。ちょっと覚悟してもらおうか。

 クウネルってヤツを視線に捕らえると同時に、分身体に紛れて突撃。数は減らされたが、相手はこっちを見ていない。けど、確実にイヤな予感がする。冷や汗もんなんだが、見てないだけで確実にコイツは気付いてるよな?

 とにかくそれでもやるしかない。思いっきり右足に感掛の気を集中して、目立つとか目立たないとか関係なく、全力で右足を振り切った蹴りを入れる。喰らえ!

 

 舞台を揺らす激しい轟音と共に、クウネルの身体を舞台に沈める。一応水飛沫に合わせてはみたんだが、思いっきり派手になったな。舞台も壊れてるし。大丈夫かこれ?

 

「うーん……。ヤバイ、か?」

「全くです。それでは隠した意味がありませんよ?」

 

 な、真後ろっ!? コイツいつの間に! ってかダメージ無しかよ、ちくしょう! 今のは悪魔紳士にやった一撃より重いぞ。水の精霊の突撃もあったってのに、何とも無いとかどういう事だよ……。

 

 幻術か? それだったらとっくに霧散してる。コイツの実体が無かったら、分身体に攻撃出来てない。そうしたら、実体があるのに幻術の利点を持ち合わせてる? ムチャクチャじゃねぇか。そんなんじゃ手も足も出ねぇよ。

 けど、一応、聞くだけ聞いてみるか? こいつは会話には応じてくれるみたいだし、何も聞き出せないよりは良いだろう。

 

「なぁあんた。それ、どうやってんだ? 卑怯過ぎだろ?」

「フフフ。教えてほしければ幼じ――」

「断る!」

「それは残念です。……本当に残念です」

「二回も言うな!」

 

 どうする? こいつに勝つ方法が思いつかないんだが。ここで大魔法を使うなんてのは論外だ。それに使ったとしても倒せるとは思えない。いや、もしかしたら幻術の応用なら、大きな魔力でダメージを与えたら消し飛ばせるかも知れねぇが、それじゃ殺人とか言われて騒ぎになっちまう。それ以前に使う方もヤバイ。

 体術で何とかしようにも、実体が無くて触れない。感掛の気を叩き込んでも効果なし。マジでヒドイな。どうしようもねーぞ。

 

「さて、これ以上となると私も少々本気にならざるを得ません」

「だろうな。あんなんで本気だったらとっくに勝ててる。それで? ネギ先生に何の用だよ」

 

 くるりと振り返ってフードの中を覗くと、人の悪そうなニッコリとした笑みが見えた。これって確実に悪役がする笑みじゃねぇか……。エヴァと良い勝負だな。言ったら殴られそうだが。

 

「フフフ。昔の仲間の頼みでしてね。彼の為に用意した言葉があるのですよ」

 

 小声か……。そんなに聞きとられたくないのかよ。

 

「そんなの普通に言ってやれば良いじゃねぇか」

「それでは面白くないでしょう? せっかくの舞台です。整えてこその価値がある」

「あんた性格悪りぃな」

「よく言われます」

 

 笑顔が怖いタイプだな。澄ました顔からもう一度笑って、悪びれた様子も無い。

 はぁ……。コイツ、マジで性格悪いな。しかも若干殺気飛ばしてきてやがる。これ以上は脅しじゃなくて本気って事か。しょうがねぇ。

 

「さて、降参していただけませんか?」

「最後に確認させてくれ。あんたはシルヴィアの敵か?」

「いいえ」

 

 今度はあっさりかよ。て事はシルヴィアに興味は無いって事か? まぁ、それなら取りあえずは問題ないか。先生には問題あるみたいだけど、先生の関係者の仲間みたいだし、大丈夫だろ。

 

「しょうがねぇな……。朝倉! ギブアップ」

「フフフ。ありがとうございます」

 

『ここでギブアップ宣言ー! 何か良く分からないまま派手に水飛沫が上がる試合でしたが、クウネル選手の勝利!』

 

「――痛っ!」

「おや、あばらを痛めましたか? 直して差し上げますよ。だから――」

「しつけぇ! 自分で治すから良い」

 

 なんか今はマジでコイツに近寄られたくねぇな。とりあえず、性格悪い上に変態だってのは良く分かった。分かり過ぎるくらい良く分かった。

 後は先生の事か。こっち見て心配そうな顔してるが、むしろ先生がコレから心配される身だからな? とりあえず、声くらいかけておいてやるか。

 

「先生。あんた気をつけろ」

「ち、千雨さん大丈夫ですか!?」

「そうよ、さっきあんなに!」

「そんなのはどうでも良い。治療すれば直ぐ治る。それよりアイツも先生に用があるらしい」

「僕に……ですか?」

「あぁ。敵じゃねぇみたいだがな。そんなわけだから長瀬も気をつけろよ。実体が掴めねぇ」

「忠告、ありがたく受け取ったでござる」

 

 意味深にそれだけ告げて、エヴァ達の所へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「千雨さんが無事で安心したかナ?」

「え、うん。それは勿論。大切な家族だからね」

 

 相手のフードの人。実態のある幻術にしてもレベルが違いすぎる。本来ならお遊びのレベルだったこの大会に出てくるべき人じゃない……。千雨ちゃんが無事で本当に良かったよ。

 

「本当にそれだけカ?」

「え? どう言う事?」

「今、シルヴィアさんが感じた事を、忘れないで欲しいヨ」

「超ちゃん……?」

「フフフ。さて、これで失礼するヨ。何度試しても同じだから、止めた方が良いネ」

「逃げられると思ってるの?」

「勿論ネ♪」

 

 瞬動術の要領で足先に魔力を込めて、一気に超ちゃんの後ろに回る。こちらを振り向かない超ちゃんを目の前に捕らえ、同時に拘束をする影の精霊の魔力を瞬間的に編みこみ、両肩から直に掴みとろうとして……掴めなかった。

 さっきと同じく魔力が霧散しただけじゃなく、私の腕の動きが止まって、超ちゃんに触れる事が出来ない。何度力を込めても、拘束しようとする腕はそれ以上進まずに、引く事しかできなかった。

 

「嘘……。何で?」

「だから止めた方が良いと言ったね」

 

 すぐ目の前に居るのに。今目の前で止める事ができるはずなのに。身体が、動かない……。

 

「さて、シルヴィアさん。これが何か解るカ?」

「……スタンガン? 悪いけどそんなのは……。――っ!」

 

 お腹に押し当てられたと思ったその瞬間、私の中に電撃と、言い様が無い不快感が突き抜けていった。電撃のショックと未知の拘束力で、身体の中と頭の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような気持ち悪さで動けなくなる。

 

「う、あ……あぁ……」

「すまないが、これは科学的拘束力がある電撃ネ。一発の使いきりだが、いくら丈夫なシルヴィアさんでも暫くはまともに動けないヨ」

「あ……ま、待って……」

 

 そのまま身体を動かす事ができない数秒の間に、超ちゃん達が部屋から出て行く。直ぐに追いかけたけれども、もう既にどこにも姿が見当たらなかった。


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