青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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第68話 学園祭(2日目) 心の在り方

「戻ってきたか。丁度良い、もうじき決勝が始まるぞ」

「ただいま。ネギくんは無事決勝まで進めたんだね」

「あぁ、苦戦はしていたがなんとかな。それで学園長のジジイは?」

「タカミチくんとガンドルフィーニ先生がチーム分けして対応するみたい。ネギくんは放任。それから超ちゃんを捕まえたら話がしたいみたい」

「ふむ……。どうやらジジイはよっぽど責任を取りたいらしいな」

 

 それはちょっと酷いんじゃないかな? 何だかその言い方だと、ネギくんが超ちゃんの魔法を公開する作戦に負けて、学園長が作戦責任を負うって決め切ってる様に聞こえるよ。

 成功されちゃうと人事じゃないから、手伝う所は手伝わないと不味いと思うんだけどね。

 

 とりあえずもう決勝みたいだし、ここで超ちゃんが出て来たら確保に向かうのが良いね。もし出てこなかったとしたら、学園の魔法先生達のローラー作戦や探査魔法を使って結果待ち。場合によっては、茶々丸ちゃんか葉加瀬ちゃんから聞き出すような手段になるかもしれない……。

 

「先生の相手ってアイツだよな? あのドヘンタイ」

「え、どういう事?」

「二回戦で戦ったヤツだよ。ネギ先生に用があるって言ってたんだが、変身魔法を覚えて子供なりませんか? ってしつこく聞いて来てさ。しかも、シルヴィアとの仮契約の事も知ってるっぽい」

 

 何だろうその人……。千雨ちゃんがそう言うからには、ただの子供好きってわけじゃないと思うんだけど、私達の事を知ってるのはおかしいね。仮契約の特殊効果を漏らした事は無いし、知っている人も限られる。そうすると相手の能力や種族、魂の質なんかを調べられたって事なんだと思うけど。

 でも、エヴァちゃんはあのフードの人の事を知っていたみたいだし……。本当に誰なんだろう。エヴァちゃんが警戒していないって事は、私達にとって危険な相手では無いって事だと思うんだけどね

 

「それにしてもメチャクチャ人が増えたな。立見席も満員だし、屋根の上まで居るぞ」

「そうですね。のどか達と一緒にハルナや他のクラスメイトも居るようです。ですがそれよりも、あのフードの人です。水煙の中ではっきり解りませんが、声質が何度か変化しているようでした」

「あれはアーティファクト『イノチノシヘン・半生の書』。紅き翼≪アラルブラ≫のアルビレオ・イマによる記録再現だ」

「あ~、なるほど。どこかで聞いた声だと思ったら、アルビレオさんだったんだね」

「えっ、それって先生の親父さんの仲間って事か? 道理で伝えたい事があるとか何とか言ってたのか」

 

 そうだね。きっと半生の書の能力で何か残しておいたって事かな? もしかして紅き翼のメンバーからメッセージがあるとか? でもこんな所でそんなものを使ったら、一般人に全部バレるから止めて欲しいんだけどね。

 せっかくフードを被ってるんだから、そのまま顔を隠して変身して欲しいんだけど……。

 

 あれ? でももしかして、あの姿はナギさん? フードマントを被ったままだけど、記録する時に偶然その姿だった。なんて都合良くはないよね? あ、でも逆ならあるかもね。

 

「ナギ、か……。あの馬鹿め、死んだ振りなどせずに直接出てくれば良いものを」

「そう言えばネギくんと六年前に会ってるんだよね。意識の上ではまだ生まれていないって言ってるから、記録したのは十年以上前って事かな」

「そうなるな。ただ、ぼーやが四歳の頃には表に出られない何かがあった。と言うことだろう。もっとも、ここでそれを言う様な気が利いた事はするまい。あの馬鹿は」

「エヴァちゃん。なんだか棘があるよ?」

「フン。馬鹿は馬鹿で十分だ」

 

 うーん、エヴァちゃん気付いてるかな? かなり意識してるって事。昔、戦争の時、突っ掛かって行って意外と楽しかったのかなぁ。

 そんなフロウくんみたいな理由で気に入ってたりはしないと思うんだけど。それとも、ネギくんの事を心配してたりするのかな?

 

「なぁシルヴィア」

「どうしたの?」

「あのアーティファクトって記録条件は何なんだ?」

「ごめんね、知らないんだ。ただ、相手の能力と外見。それに記憶や知識を本にして記録する、プライバシーの欠片も無い能力ってのは分かるよ」

「マジか……。試合中に記録されてたら泣くぞ……」

「それは大丈夫だと思うよ? 相手の全部を盗むような能力なんて、のどかちゃんの『いどの絵日記』みたいに相手の本名程度じゃ使えないと思う」

「そ、そうか。それならまぁ……」

 

 それにしてもネギくんは頑張るね。能力の差は圧倒的。いくら無詠唱で13矢が打てて、虚空瞬動が使えても、相手は大戦の英雄。ちょっとした魔法だけでも魔力が桁違いだし、体術でもその魔力で出力が大きい。

 もしエヴァちゃんみたいに、合気道を極めていたならまた違うと思うんだけど、良い様に遊ばれている感じがするね。でも、ネギくんは凄く嬉しそう……。ずっと捜し求めていたお父さんが、今目の前に居るのが楽しくてしょうがない。ずっとこうして戦っていたいって感じがする。でも何だか、バトルマニアに目覚めてしまいそうで怖いかもしれない。

 

「しっかし、先生もよく頑張るな。いくらなんでもアイツ無理ゲーだろ。全力でやってもどうにもならなそうだったからな」

「そんなのはシルヴィアから魔力のラインを開いて、幻影が消えるまで大魔法を撃ち続ければ良い。その内保てなくなるぞ」

「それじゃ超ちゃんの計画通りじゃない。ナギくんも遊んでないで、ちょっとは考えてくれると嬉しいんだけどなぁ」

「無理だな。あの馬鹿に期待するだけ無駄だ」

 

 暫くすると決勝戦も終わりが見えてきた。どれだけの技や魔法を使っても、英雄と呼ばれたナギさんには届かない。それは分かっていても最後の最後まで食い付いて、全身で呼吸を整えながら倒れこむネギくんの姿。その様子に会場はしんと静まって、最後のカウントダウンに注目が集まっている。

 

「ふん、終わりか。もう少し粘って見せても良いものを」

「そんな事言ったって、今のネギくんじゃ厳しいよ? そう言えば声はかけなくて良いの?」

「何でだ? あの馬鹿に言う事など何も無いぞ?」

「そ、そう? 結構気にかけてた気がしたんだけど……」

 

 カウントダウンが終わると、会場からは惜しみの無い拍手が響いて、ネギくん達の健闘を称えるようだった。

 ナギさんは、アルビレオさんのアーティファクトの制限時間がもう残されていないと告げてから、最後に「元気に育て」なんてお父さんらしい事を言ったかと思えば、「カッコイイ父親を追いかけるのは程々にしろ、お前はおまえ自身になれ」と少し苦言にも似た忠告をして消えていった。

 

 

 

『それでは皆様! これより表彰式の方へ移らせて頂きます!』

 

「いよいよ、だね……」

「そうだな。今度は私も見に行くとしよう」

 

 全ての試合が終わって、ついに表彰式。私達の予想通りと言うか、当たり前かもしれないけど、超ちゃんが会場に出てきた。

 勿論それだけじゃなくて、龍宮神社の周りには魔法先生や生徒達が囲んでいる。見たところ超ちゃん一人の様子だし、何かの防御手段があったとしても、この状態で逃げられるとはとてもじゃないけど思えないんだよね……。

 

「てか、マスコミがすげぇな」

「確かにそうですね。やらせではないかと詰め寄っていますが、ネギ先生もそこで魔力を込めた大ジャンプなどではなく、普通に逃げて欲しいものです」

「まだまだって事だろ。てか私らも隠れた方が良くねぇか?」

「隠れるというより、超ちゃんを追った方が良いね」

「そうだな。アンジェ、チャチャゼロと戻っていろ。私が奴の最後を見とってやろう。ふふふ」

「はーい。お姉ちゃん楽しそうだね~?」

「ナンダ、殺レネェノカヨ」

「当たり前だ、せっかく骨のある相手だからな。見ものではないか」

「もう、楽しんでる場合じゃないんだけど……」

 

 あ、でも……。今になってだけど、あの女神様の言葉が頭の中で気になってきた。

 

『良いのよ。楽しんで生きなさい♪』

 

 何て言っていたけど、私に余裕が無いように見えたのかな。私は、皆と生きている日常は大切にしているし、それなりに楽しんでいると思う。食事時の何気ない会話とか、エヴァちゃん達の服の話を聞いたり、フロウくんが修行の話でちょっと暴走して千雨ちゃんが怒ったり。最近はネギくんもエヴァちゃんにしごかれて、それに加わり気味だけどね。

 でも、そんなに詰まらないというか、楽しんで生きていない様に見えたのかな? 今の状況は、超ちゃんの事も有るし、楽しんでいる場合じゃないって事は確かなんだけど……。

 

 う~ん。考えても答えは出ないし、今は追いかけないと。表彰式が終わってから神社の方に入って行ったから、今頃は魔法先生達が追いかけてるはず。

 きっとタカミチくんとガンドルフィーニ先生達が足止めをしていると思うから、合流して超ちゃんを確保出来れば良いんだけど……。

 

 

 

「やあ、高畑先生。皆さんもお揃いで、お仕事ご苦労様ネ」

 

 超ちゃんを追いかけて龍宮神社奥の回廊にやってくると、タカミチくんを先頭に、複数の魔法先生たちに囲まれているところだった。

 

「オヤ? シルヴィアさんにエヴァンジェリンさんまで来たカ。これは困たネ」

「職員室まで来てもらおうか超君。いくらか話を聞かせてもらえないかな?」

 

 この状況でも超ちゃんは人懐っこい笑みを浮かべたままで、リラックスして余裕の表情が浮かんでいる。それどころか、時々不敵な目付きで挑発する様な態度。この状況でも、捕まらないで逃げられる確信がある様にも見える。

 

「この子は危険です! 魔法の存在を公表するなんてとんでもない!」

「では逆に聞こうカ。貴方達はどうして世界に自分達の存在を隠しているのかナ? 例えば、今回の様に大きな力を持つ個人がいると分かれば、その秘密は人間社会に危険だと言えないカ?」

 

 また、超ちゃんの話術だね。ガンドルフィーニ先生を随分と挑発して感情を煽っているけれど、その視線はずっとタカミチくんや私達を捕らえてる。

 確かにこの場で確実に確保できそうな人は、タカミチくんやエヴァちゃんだと思うけど……。でも何かを期待して、狙って感情を煽ってる気もする。魔法を公開する危険を理解しろって事だろうけれど、魔法先生達だってそれは分かってるはずなんだよね。

 

「ほう。それで、貴様は公開した先に何を見ている? やるからには目的があるのだろう?」

「貴女の事だ。予想は付いているんじゃないかナ?」

「超ちゃん。まさか戦争でも起こす気?」

「そんな事はしないヨ。起きたとしても対策は取てあるネ。だから皆さんは心配する必要はないヨ」

「ふざけないで欲しい! そんな楽観的な考えで、何かあったときの責任が取れると言うのか!」

「対策は取てあると言ったネ♪」

「ならば試してやろう。簡単に逃げられると思うなよ?」

 

 言葉を言い切ると同時に、エヴァちゃんの指先が僅かに動いた。多分、あれは糸繰りの術だと思うけど、見えたのは一瞬。超ちゃんがいる回廊を全方向から囲って、完全に逃げ場を封じている。

 断ち切ろうにも魔力か気が無ければ切り裂けないし、超ちゃんにこの包囲網を抜けるのはまず無理。出来るとしたら科学兵器だろうけど……。まさか茶々丸ちゃんの使ってるレーザーとかを携帯して……。あ、でも、葉加瀬ちゃんだったらそれくらい作るかもしれないね。

 

「ふむ……。指先が動かんな。何をした?」

「何もしていないヨ?」

「ほぅ、面白い」

 

 エヴァちゃんも動けなくなった!? 超ちゃんを魔力や気で捕らえようとすると動けなくなると言う事? それとも、エヴァちゃんも何かの制約をかけられた? でもいつの間にそんな事をしたんだろう。私が超ちゃんに気付かない間にされたのならともかく、学園祭中に接点が無かったエヴァちゃんが一体何処で?

 

「全員でかかる。捕まえるぞ!」

 

 今度はタカミチくんを除いた魔法先生たちが一斉に飛びかかる。エヴァちゃんの糸を巧みに避けて、体術や捕縛魔法など色々な拘束方法で迫る。いくら何でもこれなら超ちゃんは……。え、でも何もしないで待ってる? どうしてだろう、そんな簡単に諦めると思えないけど……。

 あれ、今の中華風ドレスの袖から出したものは、ネギくんが持っていたものと同じ時計? まさか!?

 

「では魔法使いの諸君。三日目にお会いしよう」

 

 魔法先生達の手が届く一歩前で、超ちゃんが時計に手をかけてスイッチを押したのが見えた。その瞬間に時計からはまり込む音が鳴って、何の前触れも無く一瞬で超ちゃんの姿が消えた……。

 

「何、消えた!?」

「追跡不能です!」

「バカな!」

 

 超ちゃんに完全に逃げられた? 探査魔法を使う人、周囲を探す人、超ちゃんが居た場所を入念に探す人。でも、何処を探しても何も見つからないって報告してる。

 でもきっと、あの時計を使ったって事は……。

 

「ねぇタカミチくん。超ちゃんの事、どう思う?」

「何かをしているのは間違いないでしょう。でもはっきりとは分からないですね」

「どうやら奴は用意周到の様だ。おそらく、個々に対応策を練ってある」

「超ちゃんが未来から来て、私達の事を知り尽くしているって事かな?」

「未来から? それはどこで聞いたんです?」

「超ちゃん自身からだよ。学園長にも話してあるから、後で確認してもらえるかな?」

「えぇ、分かりました」

 

 まいったなぁ。超ちゃんにどんどん先手を取られちゃう。相手はこっちの情報を完全に握ってるみたいだし、超ちゃんの先手を突ける情報が有れば良いんだけどね。

 

「超ちゃんって、どこに行ったんだと思う? ネギくんと同じ時計使ってたよね?」

「ならば過去か未来だな。どちらの可能性もあるだろう」

 

 未来か過去……。もし、この場所に何時間後かに現れるのなら、罠を仕掛けておいた方が良いかな。過去だったらもう意味は無いけれど、感知式の結界と捕縛陣。それなら……。

 

「ねぇ、エヴァちゃん。超ちゃんが居た場所に、罠を設置しておくのはどうかな?」

「ふむ。ずっと見張っているわけにもいかないからな。それもありだろう」

「じゃぁ、エヴァちゃん捕縛陣を書いてもらえる? 私は魔法薬で継続効果のある感知結界を張っておくから、ここに出てきたら直ぐに分かる様にさ」

「まぁ良いだろう。もっとも、私の魔力対策をされている可能性はあるがな」

 

 何もしないよりはましってところかな? ウェストポーチから魔法薬を取り出して、回廊の周囲に振り撒いて感知式の探査術を仕掛ける。これで数時間先まで、ここに誰かが通れば分かるはず。

 それにエヴァちゃんにも捕縛陣を設置してもらってるから、これで抜け出すなんて言うのはよほどの事じゃない限り無理だと思うんだけどね。

 

「これで良し。深夜までだけど、超ちゃんがこの場に現れたらすぐに分かるよ」

「シルヴィアさん。僕達は一度学園長と話をしてきます。一応ここにも定期的に人を出すようにしますよ」

「うん、タカミチくん達も気をつけてね」

「ええ。それでは」

 

 一通りの検証が終わったタカミチくんと魔法先生達が去っていく。随分と奮闘した先生も居たみたいだけど、何も分からなかった様子だった。

 

「とりあえずいったん戻ろうか? お昼もまだだよね」

「そうだな。私はアンジェと合流する」

「分かったよ。千雨ちゃん達はどうする?」

「私は別に何でも良いよ。て言うか着替えねぇとマスコミがうるさいかもな」

「あはは、ネギくん達囲まれてたものね。夕映ちゃんはどうする?」

「私……ですか」

 

 ここまで夕映ちゃんは殆んど声を上げていなかった。ずっと迷ってたみたいだけど、やっぱり学園長に言われた事気にしてるのかな?

 もし私達の方に来たいって考えてるとしたら、色々と教えないといけない。夕映ちゃんには辛い現実も沢山あると思うから、その時はきちんと説明しないといけないね。

 

「ねぇ夕映ちゃん。もしかしてずっと悩んでる?」

「え? いえ、その……。『学園関係者』に所属するメリットが、魔法を学ぶにも、知識を得るにしても、どう考えても無い様な気がしまして。のどかの事は心配ですが、何も一生の別れと言う事ではないですし。シルヴィア先生達が敵対してる訳でもないので……」

「ほぅ。何だ、つまり悪の魔法使いになりたい、と言ってるわけか?」

「えっ!? そ、そういう訳ではないのですが」

 

 何だかエヴァちゃんのそういう態度も久々に見た気がするかも。ニヤリ笑いで口を吊り上げて、夕映ちゃんに睨みを利かせて笑ってる。

 夕映ちゃんが本気でこっちに来るなら私は拒まないけれど、エヴァちゃんは賛成してるって事かな? ネギくんに意地悪したいだけにも見えるんだけど、多分、違うよね?

 

「フフフ。良いだろう、しっかりと鍛え上げてやる。今度は手加減無しでな」

「え、あ、あれで手加減されてたですか!?」

「もう、本当に意地悪なんだから。それに夕映ちゃんがもし本気で考えてるなら、色々問題もあるから良く考えた方が良いよ? 今はとりあえずお昼行かない?」

「そう、ですね。後でお話聞かせてもらえますか?」

「良いよ。ちょっと話せる部分と話せない部分もあるんだけどね。伝えられる事は伝えるよ」

 

 そうしてこの場は一度解散。エヴァちゃん達は家に戻ったし、千雨ちゃんはマスコミ対策に寮に戻って着替えると言うから、夕映ちゃんを連れて、その後一緒にお昼にする事にした。

 

 

 

 

 

 

「ナギ・スプリングフィールド……」

「あれがあの……。何と言う圧倒的な魔力」

「アイツ等久しぶりに見たな。あの野郎は相変わらずみたいだが……」

 

 それにしてもアルビレオ・イマか。ネギ坊主が持っていた地図の『オレノテガカリ』ってのはアレの事だな。あのドラゴンの先に居たって事か? 学園祭が終わったらどうせネギ坊主も呼び出されんだろ。一度顔を出してみても面白そうだ。

 もっとも、邪険にされそうな気はするな。タカミチ辺りを連れて行けばそうでもないか? いや、詠瞬のヤツでも良いな。どうせ夏の事で木乃香と刹那が関わるだろう。

 

「こちらには、気づいて居ない様ですわね」

「…………そうだね」

「何だ? 随分気にかけてやがるな?」

「貴女少しは黙れませんの? それに、品良く出来るのでしたら初めからそうするべきですわ」

「お前喋る口があったのか? だったら相槌くらい言えよ。ずっと俺一人で喋って詰まらねぇだろ」

「うぅ、ああ言えばこう言う……。貴女、口から生まれてきたんじゃありませんの?」

「クックック。案外そうかもな」

 

 まぁ、ドラゴンの卵の殻を破るのは口からだからな。栞の言ってる事も案外間違っちゃいねぇだろ。ホント面白いヤツラだな。

 さて、フェイトのヤツは興味津々って所か? 何も感じないと嘘を付いてるみたいだが、ナギの姿を見た瞬間の表情は確実に違う。渇望ってヤツだな。栞のヤツもその様子には気付いていた。自分を見てくれていない葛藤ってヤツか? まぁ今のコイツに色恋沙汰を理解しろって言っても無理だろうな。

 

 しかし完全なる世界≪コズモエンテレケイア≫の構成員が、こんな女子供ってのも不自然だな。よっぽど手が足りないのか、それともコイツがそれだけの実力を持っているのか……。

 体捌きは素人。やるとしてもおそらく後衛型魔法使い。魔法使いの従者≪ミニステル・マギ≫みたいだからな、特殊なアーティファクトで補助型の可能性もある。それもまぁ、 コイツ等と戦う時になったら分かるか。

 

「で? 終わっちまったがお前らどうするんだ?」

「……態々君に教えるとでも?」

「教えるだろ。そんな言い方してんだからな。何か企んでますって言ってるもんだろうが。なぁ栞ちゃん?」

「何も話す事はありません!」

「ククッ、随分嫌われたな。俺はお前みたいのは扱い易くて好きだぜ?」

「……フンっ!」

「こちらにこれ以上手を出さないで欲しい」

「フェイト様?」

「内容は? 対価は?」

 

 手を出すなって事は、何かをする気なのか、何もする気が無いのか。あっさり帰るって事はねぇな。ネギ坊主の事を見て帰る目的もあるだろうが、世界樹の魔力にも興味があるらしい。世界樹に手を出すって事は、学園関係者との間にもいざこざが起きるし、麻衣に手を出すって事にもなるからな。どうするつもりでも、邪魔はさせてもらおう。

 もっとも、コイツ等は超の計画にも多少は興味があるみたいだからな。アイツがどうするかによっても、コイツ等の行動は変わるだろうな。

 

「何を対価に取ると? 一応僕達は客人扱いなんだけどね」

「そ、そうですわ! 滞在身分証だって取ってあるのですから!」

「何を甘い事言ってやがる。シルヴィアを利用しただろう? まぁ、鍵を貰ったからな、不正入国とそれは見逃してやるよ。だが、ここに『完全なる世界』が居るって見逃すのに、お前らは何を払ってくれるんだ?」

「う、フェイト様……」

「……望みは?」

「俺の質問に答えろ。ネギ坊主を、羨ましいと思ったか?」

「どういう意味だい?」

「楽しかったのかって聞いてんだよ。お前は楽しそうだったな、栞ちゃん?」

「「…………」」

 

 黙ったままか? それとも悩んでやがるのか。少なくとも栞の方は、学園祭を素直に楽しんでいたみたいだがな。あっちとこっちじゃ祭りの種類も違うし、やってる内容も魔法を使った派手な事が多いからな。科学やこっちの文化は新鮮に映っただろう。

 

「有り得ない……」

「何がだよ。それが答えか?」

「…………」

「まただんまりか? なぁお前、生きてるのか?」

「……何?」

「主人に命令された人形って立場で満足なのかって聞いてるんだよ。お前を見てると、とてもそうは見えない。人間臭いんだよ。お前は誰だ? フェイトだろ? 人形君か?」

「…………っ」

 

 少し反応したか。もう少しって所だな。ま、お人好しはこのくらいで良いだろう。俺のキャラじゃねぇからな。後は……。案外そこの栞が何とかするんじゃねぇか? まぁ、他の構成員しだいってのもあるかもしれねぇな。

 

「貴女……」

「なんだ栞ちゃん」

「何でも有りません!」

「ククッ……。まぁ良い、大体分かった。見逃してやるから何処にでも行けよ。あぁ、騒ぎだけは起こすなよ? その時はまた相手してやるからな」

「そう……。行くよ、栞さん」

「え、はい。フェイト様」

 

 水のワープゲートで移動か。アイツ、土系じゃなかったのか? まぁ、その時は千雨が干渉できるから問題は無いか。

 まぁ、なかなか有意義な時間だったな。それにしても問題は栞か。人の幻か、変身魔法を纏っていたが、本質の耳長族の亜人部分はそのまま。至って普通。シルヴィアが使った鍵の影響は何だ? 『リライト』の本質が魂への干渉って言うなら何の影響があった? 何処からどう見ても”何も起きていない”ってのが答えだ。まだ情報が足りねぇな、要観察って所か……。


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