私達は、超ちゃんの物量と戦略。そして、未知の技術になす術も無く破れた。
学園祭の三日目。学園の中にまだ居るかもしれない悪魔を警戒しようとしていた私達だけど、朝から姿が見えないネギくん達の捜索にも翻弄される事になった。けれど、どれだけ探してもネギくん達の姿は無かった。学園の中も、学園の外でも見つけ出す事が出来なかった。
そして迎える十九時。『学園関係者』の魔法先生と生徒達が警戒する中で、突然に現れたロボットの大部隊による強襲。図書館島の湖から上陸した彼らと、遅れてそれに続く巨大な機械化鬼神兵。慌てて対応しようとした魔法先生達は、渦を巻く漆黒の球体に飲み込まれて消えてしまった。
それに続けてロボット達の銃口が私達に向けられた。さらにそのタイミングで、世界樹周辺にもロボットの軍団と機械化鬼神兵が現れたと言う念話が麻衣ちゃん達から入った。私達は引き返す間もなく、超ちゃんの用意した大部隊に翻弄されていく。その中で、何百発もの漆黒の銃弾が集中的に撃ち出され、千雨ちゃんが飲み込まれて消えるのが見えた。
世界樹周辺に降り立った機械化鬼神兵と、学園の周囲に陣取ったものはそれぞれ三体づつ。彼らの姿は何も知らない一般人達に、魔法の存在を知らしめるには十分の迫力と現実感を備えていた。それ以前に突如として現れたロボットの軍団によって、学園は完全に混乱状態になっていた。
地上の混乱をフロウくん達に任せて、世界樹周辺はその場に居たエヴァちゃんと夕映ちゃん達に任せる。遥か上空の飛行船の上に居る超ちゃん達を見つけた私は、二対の翼を広げて闇色の障壁を纏いながら姿を隠し、全力で空に向かって羽ばたいた。
「超ちゃん! 皆を、千雨ちゃん達をどこに消したの! それに、その儀式型魔法陣は!?」
「フフフ。心配する事はないヨ。皆は三時間後の未来に飛ばした」
未来に? と言う事は、千雨ちゃんも学園の先生達も一先ずは無事って事だね。けど、超ちゃんを止められない私じゃ……。でもまだ、葉加瀬ちゃんがやっている儀式型魔法陣を妨害する事が出来るなら!
「残念だがもう遅い! 私の勝ちネ!」
喜びが隠し切れない口元が緩んだ表情で超ちゃんは高々に宣言をした。でもまだ、諦めるわけには行かない。葉加瀬ちゃんを拘束して魔法陣を破壊すれば!
「風の精霊101柱! 縛鎖となり 敵を捕らえ――」
「無駄だヨ! ハカセや私を捕らえたとしても、既に必要な詠唱は終わてるネ!」
「――っ!?」
突然に、一瞬身が震える程の巨大な魔力を直ぐ近くから感じた。魔力を感じた方向に視線を送ると、世界樹から膨大な魔力が吸い上げられていく。
いくら何でも、あれだけの魔力量が吸い上げられるのはおかしい。世界樹の余剰分の魔力だけじゃなくて、世界樹を保てる分だけを残して、まるで根こそぎ奪われていくかのように見える。
魔力を吸い上げられた世界樹は、発光を停止して普段の状態に戻っていく。もしかしたら、私が知っている状態よりも弱々しいかもしれない。
吸い上げられた魔力は、そのまま空で渦を巻きながら凝縮されていく。その直後、まるで花火の様に弾けて世界中に広がっていく様子が見えた。
魔力を散らすにも儀式型魔法陣に捕らわれて、その膨大な量を直ぐに阻止する事は出来なかった。
「これで願いが叶う。私達の――」
「超ちゃん……」
心の奥から込み上げるものがあるのか、うっすらと涙を浮かべて呟く姿が印象的だった。けれども、次の瞬間にありえないものを見て、私達は現実に引き戻された。
「なっ! こ、これはっ!?」
超ちゃんの姿が、その輪郭がぼやけていく。存在が薄く半透明になりながら、驚愕の表情に包まれた姿がそこにあった。
「フフッ……。時の重みと言うヤツか。これは困ったネ」
段々と消えていくその姿に、『タイムパラドックス』と超ちゃんが呟いていた言葉を思い出した。多分、あの魔法陣の完成が決定的な分岐点。魔法が公開される事で、超ちゃんが生まれない世界が出来上がったのかもしれない。
何か、何か超ちゃんを助ける手は無いのか。考えるよりも先に、手を差し出してその身を捕まえようと羽ばたいていた。
「手を、早くっ!」
「無理……ネ」
「超ちゃんっ!」
超ちゃんはとても優しい笑顔浮かべたけれど、その瞳には苦しさが確実に現れていた。そしていくら手を伸ばしても、その手を掴む事が出来ずに空しく空を切る。
「ハカ――! 一っ――後――が――!」
「え!? ごめん超ちゃん、聞こえない! 声が、聞こえないの!」
プツリと糸が切れるように倒れた葉加瀬ちゃんの直ぐ横で、聞き取れない声の響きを残して、超ちゃんの姿が消えていく。何も出来なかった。触れる事も、説得する事も、戦う事も。
そして世界は、超ちゃん達の『強制認識魔法』によって、魔法の存在を現実に認知する事になった。
私達が学園の騒動を治める間に、世界中では悲劇が始まっていた。
茶々丸ちゃんのプログラムによって破壊された学園結界を修復して、認識阻害で全体を覆っても、既に魔法を認知した一般人と生徒達には何の効果も無かった。
それだけじゃなく麻帆良学園の『学園関係者』達は、魔法の露見を止められなかったとして、メガロメセンブリア元老院から重罰が与えられる事になった。基本的に全ての『学園関係者』は本国に送還。幹部クラスにはオコジョへの強制変身の上で、収容所への禁固刑もあった。
さらにはマスコミによる学園祭の動画の追及や、麻帆良学園の生徒に詰め寄る光景が日常になってしまった。当然、まほら武道会参加者への執拗な取材が目立って、うっかり口を滑らす魔法生徒や一般の気の使い手のインタビュー等によって混乱を極めていく。
そして、最悪の事態が起きる。世界中に点在する魔法団体の一部が一般人に対して宣戦布告。個人で一国の軍隊を殲滅できる魔法部隊に、なす術も無く占領される国まで現れる。こうして世界は文字通り混乱に包まれ始めた。
「くそ、超のヤツ! あんだけしておいて消えるとか冗談じゃねぇぞ!」
「ぼやいても今はしょうがないよ。私達だって秘匿はしていても、この調子だといつどうなるか分からないから対策していかないと」
まほら武道会で正体を隠していた千雨ちゃんだけど、ネット上では大炎上。本人の特定はまだされては居ないものの、科学での骨格解析や昔からのファンの検証で、見つかってしまうのは時間の問題だった。
「申し訳ありません。タグ付けはされているものの、超の技術が無ければ削除が追いつきません。現在アクセス遮断を急いでいますが、なにぶん装置自体も消滅するとは思いませんでしたので……」
「あ、いや。茶々丸を責めてるわけじゃねぇんだ。あー、くそ……」
学園祭で超ちゃんが存在していた事実が消滅していくと共に、茶々丸ちゃん自身にもその影響が及んでいた。
未来の技術を使った機械のパーツが消失して、エヴァちゃんの【人形遣い≪ドールマスター≫】の技術に合わせた部分だけが残って、機械が少し混じっただけの魔法人形になってしまった。茶々丸ちゃんと言う個が残った分だけ、まだ良かったって言えるんだけど……。
「つってもやる事やるしかねぇだろ? 超だけじゃなく消えたネギ坊主たちの問題もある。あいつらが戻ってこられたらタイムマシンがあるからな」
「ぼーやか。ダイオラマ球に未来へ飛ばしたと張り紙があったが、どれだけ先の事やら」
「マジで未来は主人公様の手の中かよ。はぁ……」
私達には学園に残っている『学園関係者』と協力して、魔法の秘匿の対策を強化して行くのが手一杯だった。それと共にネギくん達の帰りを待って、直ぐに対応するための作戦を練る事しか出来なかった。
「よし、三日目ね! どうするのネギ!」
「あ、えぇと……」
「ほらほらネギ君! リーダーらしくビシッと決めてよ!」
「その、夕方まで何もする事が無いかもしれません」
「あ、あら?」
「ちょっと、ちょっとー。気が抜けちゃったじゃない」
「す、すみません。とりあえず様子を見に行ってみましょうか」
「そうよね。ここに居てもしょうがないし」
世界樹に続く森の側にあるマスターの家を出て、開けた道を通り学園に向かう。ちょっとした雑談を交えながら歩いていると、何故か好奇の目線を向けられている事に気がついた。
しかもそれだけじゃない。学園祭三日目のはずなのに、イベントの看板や横断幕、模擬店も何もないし、あれだけ大々的に行っていたパレードも何もしていない。
「あ、あれ?」
「何か変ね? ステージとか、どこ行ったのかしら?」
「兄貴、何かおかしくねぇか? これじゃまるで平日だぜ?」
確かにおかしい。学園祭の活気もないし、道行く人の雰囲気も昨日と違う。僕達は、何か知らない場所に来てしまったような、言葉に言い表せない不安を感じる。それが積もりに積もって寒気を感じる程に……。
「これはもしや……。拙者達は、はめられたかもしれぬでござるよ」
「楓、何か気付いたか?」
「どないしたん?」
「お? 何やら沢山来るアルヨ?」
古老師が示した方に顔を向けると、A組の皆さんが一斉に押し寄せてくる姿が見えた。随分と心配しているような顔だけど、好奇心が混ざった視線も感じる。理由は分からないけどその事に強烈な違和感を覚えた。
「ネギくーーん! どこ行ってたの~?」
「ネギ先生! 心配いたしましたわ!」
「皆さん! いいんちょさん! どうしたんですか?」
「どうしたも何もないよー。それより~」
「ねぇねぇ、ネギくんが魔法使いってホントなの!?」
「「「えっ!?」」」
思わず、何人かの声が被ってしまった。まき絵さん達が魔法使いと口に出すと、続いて生徒の皆さんが声を揃えて魔法使いと言い始める。しかも一人ではなくて全員。その追求の激しさに、まるで悪夢を見ている様な絶望感があった。
アスナさんやのどかさんも、木乃香さん達も皆、クラスメイト達から詰め寄られてうろたえるばかりで収まりそうもない。僕は、先生としてこの場を治めないとって分かっているけれど、余りにも予想外の事態と魔法がばれているショックで、上手く言葉を出す事ができなかった。
「先生。ちょっとこっち来い」
「千雨さん! 良かった、これって一体――」
「良いから早く! エゴ・ルク プルウィア ファートゥム 大気よ 水よ 白霧となれ 彼の者等に 一時の安息を 眠りの霧」
突然に眠りの魔法を唱えて皆さんを次々と眠らせる。そうしてそのまま何か魔法薬を使って暗示、あるいは記憶操作をしている様子だった。
「千雨さん!? 何してるんですか!」
「そんな事言ってる場合じゃねぇよ! 早くこっち来い!」
「「「はいっ!」」」
驚きが抜けないまま、来た道を戻ってマスターの家を通り過ぎて更に進む。それどころか入ってはいけないと言われている、世界樹の森の入り口に連れて行かれる。
千雨さんは周囲に誰も居ない事を確認すると、突然巨大な水の球体を作り出して、僕達全員を覆ってしまった。僕も、皆さんも突然の事態に驚いたけれど、次の瞬間、目の前には世界樹と一軒の家があった。
「ま、魔法が、世界中にばれた!?」
「ウソ! じゃぁ、これからどうするのよ!」
家の中に招かれると、シルヴィア先生と、いつか出会ったフロウというドラゴンの人、それから夕映さんが居た。そして僕達が居ない一週間に起きた、驚くべき事態を聞かされた。
「よう。やられたな」
「あ、はい」
「のどか、久しぶりです」
「ゆえ? あの、その……」
「落ち着いてネギくん、のどかちゃん達も。タイムマシンは持ってるよね?」
「はい! あれ……。動いてない!?」
「兄貴! それは世界樹の魔力が充実してる学園祭中にしか使えねぇって説明書に書いてあったぜ! それじゃ『戻れ』ねぇよ!」
「そ、そんな!」
「それなら大丈夫だよ。これから言う話を良く聞いて欲しいの。良いかな?」
だ、大丈夫って言われても、『カシオペア』が動かないこの状況じゃ、もう、打開策がない。
僕達は超さんに対抗する事も出来ずに、負けてしまった。それなのに、シルヴィア先生は何を根拠に大丈夫だって言うんだろう。安心しろって言われても……。
けれど、今この事態では話を聞く以外に解決の道は無い。それだけははっきり分かる。
「世界樹の魔力を使うのなら、これから発光してもらうよ。ただし時間は短いし、世界樹の側まで行かないとダメだけどね」
「ま、気にすんなよ。俺達もやられた口だ。今回はそのタイムマシンで解決できるんじゃないかって事だ。ここ一週間の世界情勢と、超の手口をレポートに纏めてある。これを持って過去に飛べ。でもって何とかしろ」
「その言い方はちょっと無いんじゃないかな?」
「いえ! 超さんの事が分かるなら是非見せてください!」
まだ、希望がここにある! 差し出されたレポートを、少し奪い取るような勢いで受け取って、数十枚に及ぶそれを勢い良く捲って読んでいく。それには超さんの戦略と、ロボット軍団の資料等が書き記されていた。
詳細な内容は、超さんによる学園の占拠の手順。世界樹を囲んだ機械化鬼神兵による魔力増幅と、全世界の人々に魔法を認知させる強制認識魔法の起動。その儀式型魔法陣の場所。更に強制時間跳躍弾による学園の魔法使いの全滅。
そして、その後に起きた『学園関係者』への重罰の内容や、世界中での悲劇。その余りにも凄惨な内容に、レポートに注目している皆の顔が困惑に包まれていくのが分かる。
「世界中への強制認識魔法……。それに強制時間跳躍弾ですか。あの、シルヴィア先生たちには止められなかったんですか?」
「そうだね。千雨ちゃんと夕映ちゃんを除いて、超ちゃんには攻撃や拘束が出来なくされててね。どこかで何か制約をかけられたみたいなんだ」
「え、でも、千雨さんは凄い魔法使いですし、夕映さんだってあんなに頑張ってたのに」
「私は森の中のロボット兵器で手一杯でした。その上で、遥か上空に機械化された鬼神が飛んでいて、気が付かないままに占拠されました……」
「ちなみに私は時間を飛ばされた。あからさまに集中攻撃された上に、何百発も撃ってきて魔法障壁ごと消されたよ」
「そ、そんなに……」
「だからね、ネギくん。今あるレポートと私達がそれを伝えたって情報を、過去の私達に知らせて欲しいの。それは歴史を変える事だけど、今の状態は良くない。それに消えてしまった超ちゃんを救うにはそれしか方法も無いと思うんだ」
「は、はい!」
昨日までの僕ならマスター達の話を聞いても、完全に迷いは吹っ切れていなかったと思う。でも、本当の意味で超さんを助けるには、僕達が『戻って』皆に伝えるしか方法がない。
それに、今世界中で起きている現状は、絶対に超さんが望んだものじゃない。『悲劇の歴史』を回避したいって言っていた超さんを、その悲劇を作る人にしちゃいけない!
「ねぇ夕映。夕映は一緒に行かないの?」
「私が戻ってしまえば、あちらに私が二人になってしまいます。それに過去に戻ったのどか達が、私達に知らせてくれると信じているですよ」
「う、うん」
「だから今は行ってください。また、向こうで会いましょう」
のどかさんと夕映さんが、抱き合ってお互いを励ましている姿を見ると、今回の使命の重さを強く実感できた。僕が、違う、僕達が力を合わせて皆を守る。
このままじゃ僕達は魔法世界≪ムンドゥス・マギクス≫に連れて行かれてしまうし、のどかさんと夕映さんを引き離すような事態にしちゃいけない。
それから世界樹付近までやってくると突然、日本の着物を纏った半透明の女性が現れた。
「あ、あの。貴女は?」
「ごめんねネギくん。詳しい事は教えられないんだ。でも、タイムマシンが世界樹の魔力を使うなら、もう使えると思うから見てくれないかな?」
「あ、はい」
少し戸惑いながらも、促されて『カシオペア』を取り出す。すると、さっきまでまったく動いていなかったのに、時計の針が動き出して、使える状態になっているのが分かった。
「う、動いた!?」
「兄貴! これで戻れるぜ!」
「ネギくん。向こうに戻ったら私の家に直ぐ来て。そして『麻衣』って名前を伝えてくれるかな?」
「マイさんですか?」
「うん、これは学園長くらいしか名前しか知らない『管理者』の一員で私達の家族の名前。だから、私達が送り出したという何よりの証明になるからね」
「はい、分かりました! それじゃ皆さん、手を――」
アスナさんにのどかさん、木乃香さんと刹那さんと左手から続けて手を繋いでいき、皆で一列に並ぶ。皆の手が繋がると、世界樹の魔力が急激に高まっていくのが分かった。右手に握り締めた『カシオペア』で、タイムトラベルの準備を始める。
「では、行きます!」
「うん。頼んだからね?」
「はい!」
返事と共に、勢い良く『カシオペア』のスイッチを入れる。すると、時計独特のカチリと歯車がはまり込む音が鳴り響く。
その瞬間、世界樹から魔力が注ぎ込んで来るのが分かった。そのまま『カシオペア』は高濃度の魔力を纏って、バチバチと激しい発光を繰り返す。その魔力の嵐に包み込まれた僕達は、ぐるりと視界が回転するような錯覚の中で世界が一変する。
次の瞬間にはシルヴィア先生達の姿が消えて、世界樹と先生の家だけが目の前にあった。
学園祭三日目の朝。今日はいよいよ超ちゃんの計画の日。ここで失敗すると、世界中で大混乱が予想されるから絶対に気を抜けない。私達に出来る事は少ないかもしれないけれど、やれる事はやらないとね。
まずはエヴァちゃんの家に行って、ネギくん達と合流。ネギくん達の方針を聞いてから、悪魔の事もあるし、夕映ちゃんは世界樹周辺まで下げさせて――。
コンコン
「え、誰?」
今は朝の八時で、こんな時間にノックして来る相手は居ないと思うんだけど……。それにここは『管理者』の領域。エヴァちゃんか夕映ちゃんが来たにしても、二人は夕方まで特訓してるって言っていたし、もしかして千雨ちゃん? でも、それなら声をかけてくるだろうし、いまさら畏まらないよね。
何だかデジャヴを感じるんだけど、まさか……フェイトくんとかじゃないよね?
不思議に思いながらも、警戒しながらドアを開く。すると、思っても居ない人物がそこに居た。
「え、ネギくん?」
「すみませんシルヴィア先生! 立ち入り禁止なのは知っています! けれども、未来からこのレポートと、『マイ』さんって着物を着た半透明の女性の名前を伝えろって、シルヴィア先生に頼まれたんです!」
「ええぇぇ!?」
「何だ、ネギ坊主か。ん? 随分面白い物持ってるな?」
ちょ、ちょっと待って。少し混乱してる。レポートって言われても……。でも、これってフロウくんの字だよね。という事は、これはフロウくんが渡したって事は間違いない?
それに、未来から? どういう事かな、ネギくん達はエヴァちゃんのところのダイオラマ球に居るはずなんだけど……。それに、麻衣ちゃんの名前をネギくんが知っているのはおかしい。正式な書類に名前は書いてあるけど、まだまだ一教員で、魔法先生としても新任のネギくんじゃありえない。
「シルヴィア、それちょっと貸せ」
「え、うん」
「すみません、信じ難い話だと思うんです。でも、僕達は間違いなく未来から、一週間先の魔法が公開された世界から帰ってきたんです」
「そうだね……。ちょっと混乱したけど、ネギくんが知るはずの無い事を知ってるし、フロウくんのレポートも本物だと思う。それに、超ちゃんとその時計自身が、信憑性を高めてる……」
「……これはヤバイな。戦略的に負けてるぜ」
「そうなの?」
「あぁ、ここの部隊規模を見るだけでもヤバさが分かる。それに、特殊弾も無視出来ないぜ」
普段よりも大分真剣な顔付きで渡されたレポートのページに目を通すと、あまりにも大規模な部隊の概要が書かれていた。
侵攻してきたロボット兵達をざっと数えただけでも約二千体。実質はそれ以上の可能性。それに、機械化された鬼神兵が六体。世界樹を取り囲んで、極大の強制認識魔法を発動するための増幅媒体にされている。他にも強制時間跳躍弾で未来に飛ばされた千雨ちゃんの事や、夕映ちゃんが森のロボットに掛かりっきりになった事。魔法先生と生徒達は真っ先に狙われて、やっぱり未来に飛ばされた事。私達は超ちゃんに直接手が出せないし、儀式を行っていた葉加瀬ちゃん自身の周囲に、強力な魔法障壁が何層にも張られていた事も状況を不利にしていた。
「とりあえず……。作戦を考えないとね。これ全部を出現する前に破壊は難しいだろうし、時間を飛び越えてやってくる可能性もあるよね?」
「どんな場合になっても誤魔化しが必要だな。即座に破壊しても、その破壊行為自体が目立つ」
「あ、あの。それについては、僕に考えがあるんです」
「え? ネギくんアレを対処できるの?」
「いいえ、僕達だけじゃどうしようもないと思うので、学園長にも相談して……。その、学園祭イベントにしちゃおうかと思いまして……」
「ちょっとネギ! どう言う事よ!?」
「ネギくん、本気で言ってるの?」
「はい……。その、軽蔑、しますか?」
難しいところだね。本音じゃ一般人を巻き込むのは絶対に反対。それに倫理的にも良くない。けれど全世界の人に魔法をばらすのと、学園全体を巻き込んで誤魔化して済ませるか……。凄く嫌な天秤だよね。
でもどういうわけか、一般人には武装解除効果のあるビーム兵器しか使用しないって書いてあるから、有効な手段だって分かってしまう。そしてそれっぽい魔導具を一般生徒に使わせる事で、まほら武道会をやらせに貶める。もちろん一般生徒の安全を守るのは最低限で絶対の条件。その上で、超ちゃん達のロボット兵達を無効化出来る何かがあれば……。
「今回ばかりは仕方がないかな。完璧じゃないけど今になっては最善だね。ネギくんはイベント案を煮詰めてくれるかな? 私達も学園長に一般生徒向けの防御アイテムと攻撃用魔法具を探すように相談してみるよ」
「あ、はい。でも、僕は悪い事をしてるんじゃないかって……」
「そうだね、決して最高の仕事じゃないと思う。でも、ネギくんがその気持ちを持っているのなら、決して悪い事じゃないと思うよ」
「そうか? むしろ俺は大賛成だけどな。どっちにしろ誤魔化しが必要な事態だ。アイツにも良い刺激になるだろう。見てればな」
「フロウくん。あいつて誰?」
「後で話す。いまはイベントだろ?」
「はい! 僕、学園長のところに行って来ます!」
「あ、待ってよネギ!」
案が纏まるとネギくんは元気良く駆け出していった。その様子に慌てた明日菜ちゃん達も追いかけていき、嵐が去った様に部屋が静かになった。
「ネギくん達、凄く張り切ってたね。よっぽどあっちが酷かったのかな?」
「どうだろうな。ネギ坊主なりに使命感で燃え上がってんじゃねぇか?」
「そうかなぁ。あ、そう言えばさっきのあいつって誰?」
「フェイトと栞だ。武道会を見に来てたぜ」
「え!? いつの間に?」
「意外と楽しそうだったぞ。本人は否定してたがな。まぁ、大した事じゃない」
「たいした事だと思うよ?」
「とりあえず俺達も準備だ。上空の鬼神兵は俺達が吹っ飛ばせば良い。地上の機械兵は夕映の訓練にちょうど良いだろう」
「そうかもね。千雨ちゃんは集中的に狙われて大変みたいだけど、対処が分かっていれば大きく障壁を張って避けられるし、水球を大量に出しておくのも良いね」
とりあえず私達も対策を練らないとね。ネギくん達がどんなイベントにする気なのかは分からないけど、エヴァちゃんの家に行って話しを伝える所からかな。
にじファンでの掲載時、この話は単純にしてネギ達が戻って来てから細かく書こうか悩みましたが、それだと「ネギま!」原作を知らない人は意味不明になってしいます。それにネギパーティーのメンバーから千雨と夕映が抜けているので、シルヴィア達の協力無しで戻るのはかなり難しいと考えて書きました。