青と赤の神造世界   作:綾宮琴葉

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 時系列は超戦の途中から、シルヴィアの視点です。上下編になります。


第78話 学園祭(3日目) 世界樹防衛の裏側で(上)

「ふむ……。なかなかやりおるのう」

「何言ってんだジジイ。超は確かに素人じゃねぇが、熟練者でもない。お前が本気でやれば終わるだろ?」

「ふぉっふぉっふぉ。そのまんま返すぞい。しかし時間の問題じゃろうな、例のタイムマシンも壊れたようじゃからのう」

「そうだね……」

 

 そんな気の入ってない相槌を呟いて、五千メートルの空の上から、千メートル程下にある飛行船の戦いを見下ろした。どちらと言えば、手が出せない事に憤りを感じながら見守って居たわけだけど……。もうそろそろ決着が付く頃だと思う。

 フロウくんと学園長の様子を見ると……日本酒片手に完全に観戦モードに入っていて、宴もたけなわなんて言葉が浮かんだ。

 

 それでもフロウ君達が言うように、超ちゃんの『カシオペア』を使った戦術はかなり厄介だと思う。実際に対処しようと思ったら、攻撃される気配を感じる経験や直感が必須になってくる。おまけに瞬間移動と言うか時間停止で、どれもが実体であって実体じゃないというおまけ付き。

 もし、私が相手をする場合を考えたら……。体術は二人ほど得意じゃないから、全方位での防御魔法の展開と感知系魔法の展開。それに加えて広域殲滅魔法や誘導系の魔法が有効なんじゃないかって思う。それでも勘頼りだし、時間を止めて懐に入り込まれたらどこまで有効なのか怪しいかもしれない。

 

「後は事後処理じゃな。お主等の所の長谷川君が上手い事してくれたからのう。ネギ君のゲームイベントと合わせて隠蔽は何とかなりそうじゃ」

「くっくっく。千雨のヤツ、相当焦ってたな。後で俺がからかうってのは分かってだろうに」

「もう、フロウくんてば。程々にしてあげてね? 今回の立役者なんだし、実際に千雨ちゃん達が頑張ってくれなかったらどうなってたか分からなかったよ?」

「分かってるって、動画の流出はさせねぇけど、あれの永久保存はしとく」

「それじゃ、意味無いってば……。まったく、もうっ」

 

 なんてやり取りをして既に和気藹々とした雰囲気になっていた中で突然、急に軽い脱力感を覚えたと思ったら、巨大な魔力が膨れ上がる気配が下の飛行船から立ち上がった。

 

『――アデアット! 魔力供給(シム・トゥア・パルス)!』

 

「えっ!?」

「何じゃとっ!?」

「ちっ、奥の手がありやがったか。ボロボロだがまだやる気らしいな」

 

 改めて遠視の魔法、身体強化――この場合は視力――などをそれぞれが使って超ちゃんに注目すると、飛行船の上で這い蹲りながらも立ち上がり、ネギくんの渾身の一撃を受けた事をまるで感じさせない闘志を瞳に灯して、まだまだ諦めていないと感じさせる姿を見せていた。

 それと同時に唱えられた契約執行の呪文と、姿を現したアーティファクトにも驚かされてしまった。だって超ちゃん向かう魔力の流れは、私からの契約ラインを証明するものだったから。そして”それ”が出来る理由を考えると、身震いがする程の驚愕が私の中で渦巻いていた。

 

 その理由は、たとえ未来であっても、私は超ちゃんと仮契約を結んだという事実。つまり過去を変える為に、世界そのものを変えるほどの大事を、未来の私達は承認した。と言う事になる。

 

 その事を考えると、自分自身の未来の行動が信じられなかった。だってそれは、とても身勝手な事だから。超ちゃんの運命を変えただけじゃなくて、過去――私達から見たら現代――の人の運命を大きく巻き込んで改変している事なのだから。それじゃ……あの神様と、私達に悪意を持ってこの世界に転生させた神様と同じ、とても傲慢な事なのだから。

 

「おいっシルヴィア! しっかりしろ!」

「ふ、フロウくん……?」

 

 気が付けばすぐ目の前に来ていたフロウくんが真剣な瞳で私に向かっていて、それと同時に両肩を掴んで激しく体を揺さぶっていた。

 

(落ち着け! 起こるべくして起きてんだっ! これは、学園祭イベントだ!)

「がく、えん、さい?」

 

 念話で伝えて来たフロウくんの配慮に何の事か一瞬の判断が出来なくて、ぼそぼそと断片的にしか声が出なかった。超ちゃんとの間に起きた責任と自戒の念の大きさに捕らわれながら、私が硬直していて良い事じゃないと考えを切り替えて、落ち込んでいた思考を立て直す。

 そう、ここでの問題は、超ちゃんがどうしてそこまでするのか。そして、何で未来の私が超ちゃんと契約したのか。最終的に、どうしてそれが世界を救う事になるのか。

 あの時の第三保健室で、フェイトくん達との話し合いで超ちゃんに何が繋がったのか、そっちの方が重要なのだから。

 

(ジジイに原作とか何とか聞かれるのはマズイからな。とりあえずこっちだ)

(あっ、そう……だね。それに――)

(……シルヴィアさんっ!)

「――まっ!? (麻衣ちゃん、急にどうしたの?)」

 

 フロウくんと念話の魔法の波長を合わせていた中で、更に麻衣ちゃんからも念話が届いた。慌てて一瞬声が漏れたけれど、直ぐに念話に切り替えて返事をする。

 けれどもその声に乗せられた麻衣ちゃんの思念は、普段のちょっと引っ込み思案な感じじゃなくて、本当に切羽詰った様子が分かるくらいの慌てた口調だった。いつに無い早口で、驚ろ私の方が脅かされてしまうくらい。

 

(……魔力が吸い取られてます! そ、それにこれ止まらないんですよっ! 何ですかこれっー!)

(麻衣ちゃん落ち着いて。こんな時は深呼吸だよ)

(肺なんて無いですってばー!)

(何だ、意外に結構余裕あるな。てか麻衣からもか、あのヤロウ……)

 

 面白いものを見つけた。そんな言葉が似合う獰猛な笑みと楽しそうな声で、フロウくんが呟いた。その表情を見て、きっと後でいろんな事を超ちゃんにするんだろうなって思ったけれど、悪いけどそこは自業自得という事で納得して貰おうかな。

 それよりも、こんな状態で皆を放っておくわけには行かない。私と麻衣ちゃんから二重の魔力供給だなんて制御も大変だろうし、質も量も扱いきれないと思う。生身……と言うか多分、超ちゃんは仮契約で半精霊化してると思うんだけど、攻撃力の大きさや暴発の危険を考えると、超ちゃん自身だけじゃなくて周りの人も危険だと思う。そう考えてから慌てつつも千雨ちゃんに念話を送って、飛行船周囲に居るメンバーにも警戒をしてもらう事にする。

 

(シルヴィア! とにかく超を止めるぞ! カードの事は後から聞くしかない!)

 

 千雨ちゃんから帰ってきた念話に、超ちゃんの事をお願いすると返事をして、一度肩の力を抜いて軽く深呼吸。それからフロウくん達の方に向き直って話を戻そうと思うと、学園長が厄介な事になったと言いたそうに重い声を発してきた。

 

「いかんのう。事が大きくなって来たわい」

「学園長……。超ちゃんの事は……」

「それは『管理者』としての執行かのう? それとも、契約者としてかのう?」

「……っ!」

 

 その言葉を浴びせられて、「やっぱり気付かれた」そんな思いが頭の中に過ぎる。私からの魔力供給の流れは超ちゃんに向かったし――千雨ちゃんに向かった分もあるけれど――探知系魔法を使わなくてもばれる程の魔力量だったから、学園長位の実力者になれば気付かない方がおかしい。

 けどそれより、世界樹からの魔力供給を怪しまれる方が不味い。ここで超ちゃんを私の仮契約者として認めるのは簡単。でもカードの記入名という絶対的な証拠はないし、あるのは魔力を”吸われた”と言う結果だけ。だから、誤魔化せるところは誤魔化した方が良いかもしれない。……なんてちょっとあくどいかなと思いつつ、麻衣ちゃんと超ちゃんを守る為にも必要な事だと飲み込んだ。

 

「言っておくが、超鈴音は『学園関係者』ではないぞい? もちろん、こちらが指示したり操ったりした一般人でもない」

「おいジジイ」

「なんじゃい、見た目幼女」

「……っ、痛み分けで良いな?」

 

 珍しく強気と言うか攻勢の学園長にちょっと驚いたけど、お酒が入った事も有ってちょっと箍が緩んでいるのかもしれない。二人とも仲が良いなぁなんて思いつつ気を引き締めて、私達の公的な立場を現状と照らし合わせて考える。

 私達と学園との契約は殆どが『学園関係者』に対してのもの。言ってみれば彼らの上役でもあるメガロメセンブリア議会や元老院、それと魔法世界(ムンドゥス・マギクス)にある魔法使い本部からの干渉を想定して作ったもの。私達の居場所を守る為に、同時に動く事が出来ない世界樹を守る為にも、そうやって公正な取引以外での干渉を禁じている。

 だから一般人向けには私有地への進入禁止の警告をして、その上で必要なら記憶操作などの処分する。と言う考えでしか対策を取っていない。もちろん、世界樹を狙う魔法関係の侵入者は即座に対処するけれど、一般人の振りをしながら『管理者』の人間である可能性を持つ超ちゃんからの魔力奪取は想定外にも程があった。

 

「フロウくん、学園との契約には一般人、と言うかある意味超ちゃんは侵入者になるのかもしれない……。とにかく規定はされてないけど、世界樹は守らなくちゃいけない」

「あぁ、そうだな」

 

 上手く纏められない言葉で結論を急ぎつつ、『管理者』の代表者として、契約者としても超ちゃんの処断を悪くならないように考える。

 今ならまだ、「魔法を知って利用してやろうと思った一般の科学者」として、ただの一般人と言う事に押し込めてやり過ごせるかもしれない。『学園関係者』側も侵入された上、良いように扱われて魔法をばらされる寸前だった。と言う汚点を内密に済ます事が出来る。これについては千雨ちゃんの機転が助かったかもしれない。あの宣言をカメラに向かってして、その後も詳細を映さない様にヘリコプターを遠ざけてくれて本当に助かったと思う。

 

 後は、今実際にこの現場に居る魔法先生や生徒達の問題。彼らは超ちゃんがここで何をしたのか、その行動が知ってしまっているから、それに対して事件はきちんと収束を向かえて罰を与えた、という結果を示さないといけない。

 私達『管理者』側にも確たる証拠は無いけれど、超ちゃんがこちら側の一員で騒動を起こしたかもしれない。と言う事実は、外部から私達に付け入る隙を生んで都合が悪い。あまり良い手段じゃないけれど、ここはお互いがお互いに黙っていた方が皆幸せな結果になるということ。

 

 けれどもそうやって考えを纏めていたその瞬間に、超ちゃんの言葉が、その核心とも言える決意が聞こえた。聞えてきてしまった。

 

『私が求めるのは、遥か未来まで生きられるはずだった者達の命! 今この時も散っていく報われない魂達! そして救われた我が一族の命! 大切な人のために涙を流したあの人に! 私は必ず過去を変えると誓った! 今この時この時代で、私がやれる事は、残された手段は唯一つ! 願っても、縋っても、希望が無い世界を、それでもあがこうとする者が居る姿を! この場の全てに焼き付ける事! 私を止めたければ言葉などは無意味! ここに来るまでに、全てを費やして来た私の覚悟、止められるものなら止めてみるが良い! ネギ・スプリングフィールド!』

 

「超ちゃんっ!?」

「うぅむ……」

 

 この言葉が超ちゃんの決意なんだ、未来から大きいものを背負ってここに来たんだって考えると、是とも否とも言い表せない何とも言い難い複雑な心を感じてしまった。

 もしかしたら未来の私は、超ちゃんの命を救いたいって言葉を何度も投げかけられて、迷いながらも選択してしまったのかもしれない。

 今、現代のどこかで、誰かの助けを求めている人が居る。それは間違いない事実だけど、でもその全てを救うなんて事が出来ないのも事実。けれど、タカミチくんみたいにNPO法人『悠久の風(AAA)』に参加して、定期的に紛争地域の救護を手伝ったりする方法も有る。それに一般人でも救助や援助を目的に参加するボランティア等が現実に居るわけだから、任せられる部分は任せるしかないと思う。間違っても一人で全てを背負うなんて事は出来ない。

 

「ちょっと良いかのう?」

「学園長?」

 

 珍しく目を見開いた学園長が一度苦い声で唸ってから、少し困ったような声で尋ねてきた。きっと学園長にも、超ちゃんの言葉で思う事があったんだろうなって思いながら返事を送る。

 

「わしからの条件はただ一つ、ネギ君達を助け超君達の話もきっちりと聞く」

「実質”三つ”だろそれ。俺達は血迷った”一般人達”を対処する。本来はそっちの仕事の様な気もするがな」

「学園長、こっちからの要求は今回の事をちゃんとゲームで済ませて『学園関係者』にも箝口令を敷くこと。MM議会や魔法使い本部等の外部に超ちゃん達とその正体を持っていかない、行かせない事。これを飲んでくれるのなら、超ちゃんを連れ立って事の顛末を説明に行くよ」

 

 フロウくんの皮肉交じりに内心、少しの申し訳なさと苦笑いを抑えつつ、真剣な瞳の学園長を正面に見据えて提案をぶつける。

 神妙な空気が流れる中、ぴくりと学園長の長い眉毛が動いて悩むようなそぶりを見せた。学園長はもう一度、唸るような声を上げてから、引かない姿勢で瞳を覗き込んできた。私自身も焦った顔を見せないようにして間を置きながら、軽く微笑んで学園長の目を逸らさずに、見つめ返す事で一歩も引かない姿勢を示し返した。

 

 正義感の強い一部の先生や生徒達は悩むかもしれないけれど、それを押さえ込んで貰わないとお互いに困る。魔法をばらす事無く終わらせて、超ちゃんもきちんと罰したと言う結果を見せれば、ある程度は溜飲も下がると思うんだよね。

 それに今回は事が大きいから解決への貢献者には厚遇の手当てを送るとかして、信賞必罰の精神に則った形を見せれば、この学園の関係者達なら納得してくれるんじゃないかって思う。……エヴァちゃんやフロウくん辺りは、甘いって言うかもしれないけどね。

 

「ふぅ。お主等相手に本気で事を構える方が危険じゃわい。相分かった。説得はわしがしよう」

「ありがとう、学園長。それじゃ私は――」

「気をつけろっ!」

「――えっ!?」

 

 突然に大きな魔力の気配を感じて振り返ってみれば、空中に居る私達に向かって北の空から、巨大なビームのような黒い闇属性の攻撃が放たれていた。

 それに対して、反射的に無詠唱で光の障壁を発生させる。防御魔法で作り出した三メートル四方ほどの障壁に攻撃がぶつかった事で、台風が吹き荒れたような重い音が衝撃音として伝わってくる。

 突然の事で魔法の構成も練りも甘かったから、相殺出来ずに耐え凌ぐ形だったけれども、側に居たフロウくんが下からビームに拳で衝撃を加えて素早く相殺した。

 

「……どこの誰だ? こんなバカな事するヤツは」

「分からない。でも、それよりも今のは……」

 

 交渉中の不意打ちに、若干の怒気を含んだ声でフロウくんが北の方角を睨みつけていた。そうは言っても、普段から不意打ちされる方が悪いなんて言う事もあるんだから、フロウくんが相手を非難するのはどうかと思うんだけどね。

 それはそうと、いくらとっさに張った防御魔法だからと言っても、私が得意な防御系統であっさり押し負けるのはどう考えてもおかしい。つまり強敵がいると言う事。それに――。

 

「きっとこの機会に、学園か私達を狙ってる。……あっ! (千雨ちゃん! 気をつけて!)」

「ちっ! おい、ジジイ!」

「なんじゃ、これ以上の仕事はジジイ虐待じゃぞい? わしだって忙しいんじゃ」

 

 これが一体誰を狙っているものなんか、私なのか学園なのか分からないけれど、真っ向勝負をして魔力が尽きた後のネギくん達を狙われるのは不味い。そう考えてから直ぐに千雨ちゃんに向けて警告だけの短い念話を送る。

 けれども思考に耽る間も無く、更に闇属性の攻撃魔法が放たれてきた。それを冷静に捉えて、今度はきっちりと魔力を練り込んで防御する。

 

「光楯っ! 平面に十層展開!」

 

 楯の展開配置を明確にイメージして、五十センチ程度の円楯を魔力弾が向かってきた北に向かって十個ほど作り上げる。

 積層になった分厚い楯じゃなくて一枚楯を平行二列に五枚ずつ並べて防御する。魔力弾の一つ一つの威力は低いと判断して、その楯で受け止めて相殺させる。

 

「フロウくん! 私は向こうに行くから千雨ちゃん達をお願い!」

「分かった。ジジイは魔法先生達の指示を任せた! 俺は千雨と超達、ついでにネギ坊主どもを回収して連れていく!」

「既にやっとるわい! ネギ君をついでにせんでくれ!」

 

 どうにもさっきのやり取りが癇に障ったのか、棘のある言葉を重ねるフロウくんが学園長と共に下降していく。その姿を確認してから翼に飛行魔法を纏って北の方角へ、世界樹に向かって大急ぎで羽ばたく。

 凄く、嫌な予感がする。そう心の中で苦々しく思いながら、それが実現しない事を祈って飛行魔法を加速して飛んでいった。




 この時点でにじファンでは超とネギ達の裏側のバトル展開でした。ですが掲載当時は事が起こった裏側での処理に、魔法先生や生徒達への対処等がなあなあというか、超鈴音への処罰しか考慮しきれて居なかったので、バトル展開まで間に新規で書き下ろしました。
 シルヴィア達の公的な立場やMM議会等をはじめとする、外部組織から付け込まれる口実の対処等を書き加えたものになります。と言うか原作では、超鈴音関係は全て闇に葬られた感がありますけどね(笑)

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