諄く格好付けた痛々しい描写の極みでは御座いますが、ご一読頂けますと幸いに存じます。
本作は戦闘要素を、物語中に於ける2or3/10程度の比率を目指しております(叶えられるとは言ってない)。また、人物や思考や環境の変化を皆様にお楽しみ頂けるよう書いて行く所存で御座います。
微かに射し込む陽光だけが燈となる、仄暗い鬱蒼とした森の中。
整備の一切なされていない、道と呼ぶ事も憚られる道を、一人の男が緩慢な足取りで歩いていた。
深編笠を深く被り、黒い指輪のような物を五指其々に装着し、黒い半着と黒い馬乗袴という黒装束に身を包んだ、その特異な風貌。長い黒髪と編笠の目に遮られながらも、僅かながらその血走った双眸を覗かせている。簡素に形容するのであれば、唯一言、異質と言う他に無かろう。腰に差した一振りの刀が、尚の事それを際立たせている。
「……いないな」
乾くような暑気に、しかし男は何ら気怠げな声色ではなく、只酷く小さな声でそう呟いた。
周囲に木霊するのは、踏み締める草花の音と野鳥の囀りのみ。それらにさえ、男の呟きは呑まれて宙に消える。剣客に酷似した姿とは裏腹に、その声色や一挙一動には覇気が見受けられない。如何なる目的が有って、斯様な深い森に一人入っているのかは知れないが、腰の刀も或いは見せ掛けの飾りであろうか。僅かに光沢を帯びたそれは黒叩き塗の鉄鞘、鞘の全長からから察するに刃渡り大凡2尺4寸、二本目釘に目貫は燻んだ百足図、鍔の形状は角鍔で笄は無し。全体的に使い込まれたような形跡も有り、その実用性を重視された拵えも相俟って、お世辞にも美術的な価値があるようなものとも、所持欲を満たすものとも思えない。即ち商品でも無ければひけらかす為の物でもなく、やはり持つ理由としては、虚仮威しか実用に他ならないと言えた。
「そろそろ……時間も押してる事だ」
男は、帯の中に仕込んであった、銀色の古めかしい懐中時計を取り出す。12時の位置に有る竜頭は、白い組紐によって帯と結着していた。こちこちと小気味良い音を鳴らし続ける文字盤を一瞥すれば、時針は既にローマ数字の9と10の半ば丁度を指している。既に、と言うのも、男が森に立ち入ってから、いつしか30分が経過していたからだ。当初の予定では、20分程で用を済ませて、早々に去る予定だったと言うのに、未だその用事が終える兆しは見えない。小さな溜息を零し、男は懐中時計を戻した。
「仕方無——」
すると、不意に何を思ったか、男が先程と同じく小さな独言を洩らし、無心で動かしていた足を止める。理由こそ知れないが、その編笠の粗い箇所から窺うこと能う眼は、今までよりも一際大きく見開かれていた。何はともあれ、愈愈もって彼の周囲の音は、鳥の囀りのみとなる。しかし、彼の耳朶を打つ音と言うならば、それは鳥の囀りのみに留まらない。丁度独言を中断した時から、その新たな音を男は確かに聞いていた。
「……有難いな、彼方からお出迎えして下さった」
髪と笠で真面に顔など見えないが、その相貌が忽ちに笑みを浮かべた事は、きっと誰であっても解せるだろう。くつくつと、堪え切れずと言わんばかりの笑みが、その歪めた口元から発せられているのだから。そうしている内に、段々と何かしらの音が近づいて来ていた。草木を分ける音の大きさからして、人間と同等或いはそれ以上の大きさ。更にその数は一つではなく、二つ三つ四つと重なっているようだった。音の近付いてくる速度は並大抵ではなく、一般の成人した男が全力で走るよりも、その倍は早いだろう。更に音は近づいてくる。全ての音が一直線に男に向かっているからには、その目的は確実に彼だろう。残り30米、20米、10米と。凄まじい脚力で駆け寄ってきたその影は、木々に覆い隠された薄闇の先であろうとも、男の目には確と映っていた。輩は、そこから数歩進んで、5米程の距離まで詰めた地点で止まる。
「なんだ、人間一匹ぽっちではないか」
枝葉をその身体で押し退けて、男の眼前に姿を現したのは、二体の怪物と一体の異形。顔が焼け爛れた人間などを揶揄する意味での言葉ではなく、それは確かに怪物に異形と呼べる者達だった。男から見て右の怪物は、本来必要ではない上下の顎に牙を生え揃えた、首から下は筋骨隆々なる人間、上のみが茶色の大きな蛇の頭となっている蛇人。左に怪物は、刃のように鋭く大鉈のように厚く巨大な顎肢を持ち、血のように赤い体色を呈する巨大な蜈蚣。そして殊更目を引く中央に佇む異形、それは一見人間のようにも見える。と言うよりかは、一部を隠せば、単に燻んだ赤い髪をした齢10かそこらの少女でしかない。しかしその下半身は人間のそれではなく、少女の状態のみが、髪と同じく燻んだ赤色の、巨大な蟻の頭部から生えているという、正に異形と呼ぶに相応しい姿であった。蜈蚣が宣った言葉に、蟻の少女は深い笑みを浮かべた。
「十分さ。ここ最近は、人間共も怯えて来なくなったろう?あるだけ有難いと思おうよ」
少女の言葉に、蛇人は何を話すでもなく、その長い首を上下に振る。男はこの輩の正体こそ知らないものの、ある程度どういった存在であるかは既知だった。
「しかし、命知らずな奴もいたものだよねぇ。幾ら朝っぱらとはいえ、妖怪は動けない訳じゃないんだよ?」
蟻の少女が、容姿通りの幼さが残る高い声で、嘲るような口振りでそう男に言い放つ。
そう、この輩は『妖怪』という古来より存在する種族である。不可思議な出来事に対する人間の想像力がそれを『妖怪』の仕業とし、その『解釈』が次第に定着する事で『俗信』となり、それらが『書承』され『伝承』と化して、次第にそれらに対する恐怖が形を成した者達を起源とするとされる。
時代を経る毎に人間は増え、増えた人間達の想像力は進化を遂げ、それに比例して何かに対する恐怖が新たに生まれ、新たに生まれた恐怖から妖怪がまた生まれる。欲に塗れたその目で男を捉えているこの輩こそ、そういった存在なのだ。
「彼奴め、恐怖で声も出せんか。詰まらんなぁ、叫んで貰った方が良いのだが」
「良い趣味してるねぇ、全く。ま、あたしも同意見だけどさ」
蜈蚣の妖怪が、未だ逃げる素振りさえも見せず立ち尽くす男に、侮蔑の念を隠す事もなく嘲笑した。
それに続き、蟻の少女もまた追従して嗤う。蛇人はそれに対して何も言わず、只々男の方を向いている。輩が目に宿す感情は、これより無慈悲に、何ら思われる所も無く食い散らかされていく人間への、無力に対する蔑み。それに、目の前に用意されたご馳走への食欲であった。その内の、ただ一匹を除けば、ではあるが。
「——叫びね。そんなに聞きたい?」
不意に、今迄妖怪達を前に何一つ喋らなかった男は、その時漸く口を開いた。
凛、と。宛ら、辺鄙な家屋の風鈴が鳴り響いたかのように、下衆な笑い声が木霊する森の中に、男のその言葉が広がった。声色は平常。声量は通常。然れど、その高が一声。その高が一声が、一瞬でこの熱暑に見舞われる森の中を、氷室に仕立て上げた。否、それは正確ではない。男の周辺の生物が、延いて三体の妖怪達が、そうなったかのような錯覚を受けたのだ。先程まで囀っていた鳥達は一斉に飛び立ち、妖怪達の嗤う声はいつしか途絶えていた。後に訪れた僅かな間の静寂を破ったのは、意外にもその状況を作り出した男自身。
「叫びを聞きたい、か。そうか、そうか……ふふ、そうか。いや、結構、結構な事だね。大いに結構。咎めはしない。うん、咎めない。はは」
譫言を一人呟き一人笑う。異質だった。そして、その声は酷く愉悦に浸っているようだった。
これが、今し方放った一言の底知れぬ何かさえ無ければ妖怪達は、只単に死への恐怖で気が狂った、と判断を下すだろう。しかし、この男は何かが違う。今迄泣き叫び、命乞いをし、糧となっていった人間達とは、何かが違う。男に対して漸く奇妙なものを感じ取った妖怪達は、警戒心を露わにした。
そんな中でと言うと、男は妖怪三体の反応を一瞥すると、編笠から見える血走った目を細め、徐に左手を微かに宙へ上げる。脱力したままの腕を、鈍重に、だらりと。
「此方も、目的はそれなんだから」
刹那。蛇人がその凶悪な大顎を開け、凄まじい速度で男に迫らせた。
男の言葉から蛇人が攻撃へと移るのに要した時間など、果たしてどれだけのものであっただろうか。
当人達には、不思議とそれまでの時間はそう短く感じられなかった。所謂走馬灯などに似た事象であろう。ならば実際の所、蛇人が男の|危険性
「嗚呼、そう急くなよ」
——五つの光の筋が、木々の間から射し込む陽光に煌めいた。
「…………は?」
ぐしゃり、と。確かに軋む音を立てたが、然しその発生源は男の骨肉ではない。男の背後に生えていた、新緑が生い茂る樹木であった。歯茎に沿って見事に生え揃った、蛇人の鋭利かつ細かな牙は、樹木を軋ませる程の咬合力を持っていたらしい。しかし、それは可笑しいのだ。人間では反応さえ困難な速度での、増して不意打ちじみたあの攻撃。それをあの油断さえ感じられた脱力状態で、男が一切攻撃を受ける事なく避けるなど、可笑しいのだ。
「っ……何、が」
べちゃり、と。その数秒後に瑞々しい音を立てて、赤く粘り気の見受けられる液体が周囲一面に、慈雨の如く降る。言わずもがな、それは血液であった。ではその血は何処に、そして何方の方に散ったのか。何方のものかと言えば、それは男の出血ではないらしい。彼は自らの胴を食いちぎらんとした大顎に、擦り傷一つ与えられてはいなかった。対象を食む事も無かった大顎は、今も男の背後の樹木に喰らい付いている。抑、男は避けたような挙動も見せてはいないし、かと言ってあのような簡易な攻撃を、蛇人が外したとも考え難い。では、一体その出血は何方のもので、何故蛇人は攻撃を外したのか。その解ならば、蛇人の身体が如実に示していた。
「……何だ、何が起きた?」
蜈蚣の絞り出すような声は、同時に蟻の少女の心情も代弁している。二人して目を向けた、蛇人が立っていたはずのその場所に。その場所には、つい先程まで存在しなかった、紅血に塗れた人間の四肢が転がっていたのだ。では蛇人の胴はどのようになっているかと言えば、それは凄絶なものであった。切断面から見える白い芯のような物は、人間と同じ部位である事を考慮するなら、肩甲骨や肩甲上腕関節や肩鎖関節と呼ばれる骨となる。脚部の切断面は、二人からも、男からも見えない。地面に接着する形では、よもや現状確認する方法も無い。肩口から覗く極微小な筋繊維と、溢れ出る血の奔流だけが、只男の仕業である事を表す。しかし、それならば如何してこの距離を置いて、刀を抜く事もなく、蛇人の頑強な身体を断ち切ることが出来たのか。
「何で、切れてるの……?」
彼等は曲がりなりにも人食いの妖怪であるから、幾らそのような光景を見た所で、吐き気を催す程気分を悪くする事はない。だが、その心情は不安と別の何かが渦巻き、状態で言えば最悪に近いと言えた。真に気分を害する所以は偏に眼前の、黒い指輪のようなものを装着した右手を、威圧するかのように突き出す男にある。四肢の捥げた蛇人は、今も尚気に喰らい付いていた。そうでもしなければ、その木を音が鳴る程必死に噛み続けねば、その激痛に堪えられないからか。男はそんな、達磨から伸びた蛇人の首に凭れ掛かり、薄く笑う。
「簡単な事じゃないかな?四肢を切れば、支えは無くなる。支えが無ければ、狙いは逸れる。なんで切れてるかと言っても、妖怪は頑強だけど切れない訳じゃないだろ」
違う。蜈蚣と蟻の少女が考えているのは、切る事の出来た訳とは言っても、彼の言った事とは違う。妖怪達が何よりも解せなかったのは、切った方法なのだ。それを察していないのか、敢えてそういうように装っているのか、それを表情から窺おうにも深編笠に阻まれて、詳らかに知る事叶わない。
「さて、さっき言ったっけか。此方は叫びを|聞く
その言葉は、先程の蛇人が攻撃する切っ掛けにもなった、あの底冷えするような冷たさを孕んでいた。余りに突飛で、妖怪らにとって非現実的過ぎたその現実は、その脅威に対しての反応を極僅かに遅れさせる。若しくは男が笠を外していれば、妖怪達にとって事象は好転していただろうか。
笠の奥で、張り裂けんばかりに口元を三日月が如く歪めた貌と、血走った双眼に宿す感情を、妖怪側が察せていたならば。
「何方からにしようかぁぁぁはは」
乾いた地面が爆ぜる音を聞いた時には、二体の意識は既に男へと向けられる。しかし、敵が動き出しから始めた行動など、一体どれ程の意味があると言うのか。そう今迄の意趣返しの思いを露わに、嘲笑う声を洩らしながら男は駆け出していた。左手を後ろに向け、何かを引っ張っているような奇妙な姿のまま。何が狙いか、蛇人にどのような術を使ったのか、そもそもあれは人間なのか。意味の分からないままであれ、僅かに早く迎撃行動を取る事が出来たのは蜈蚣の方だった。蟻の少女と蜈蚣の間に、直線的に駆ける男に対するは、蜈蚣の巨大な顎肢。黄味を帯びたそれは、持ち主の巨躯にそぐう長大な、それこそ人間大の男など挟まれれば引き裂かれるであろう事は、容易に想像出来る凶器である。
「図に乗るなよ小僧ォ!」
巨大な顎肢が丁度人間を挟み込める程に開かれ、待ち受ける形で蜈蚣は臨戦態勢に移っていた。
5米の距離を尋常ならざる脚力で以って、即座に互いの間合いまで詰め寄った男。その猛進の勢いを利用し、一対の顎肢で挟もうとするのではなく、内の一本による斬撃を狙う。小さく高い風切り音を鳴らして、暴風のように風を受けている男に、その巨躯を蛇宛らに鎌首を擡げ、顎肢の刃を強く大きく横に薙いだ。狙った斬撃箇所は腹部。跳び避ける事も、屈み避ける事も出来ない中途半端な高度のそれは、顎肢による最も避け難い攻撃であった。黄味がかった死神の振るう大鎌、そう呼ぶ事さえ憚られない顎肢が今、水平に男の右脇腹へと放たれる。
「鈍い」
しかし、蛇人の不意打ちさえも涼しげにいなし、剰え妙技によるものか、間合いの外から妖怪の頑強な四肢を切断した男である。振るわれた顎肢は、男の身体に触れる直前、下方より放たれた彼の掌底打により弾き上げられていた。蜈蚣の攻撃は、殊タイミングという点に於いては完璧と言える。相手を不用意に近付けながら半身の両断を狙う事はせず、顎肢の端のみで腹に深く抉る。その目的に沿った、速度も角度も絶妙な攻撃であった。現に、完全にかち上げる事叶わなかった顎肢は、軌道を急激に上方へ修正されながらも、男の額を一文字に切り開いていた事だろう。男がそうなる瞬間、首を左に曲げて避けていなければ、という若しもの話ではあるが。
「さて、お前はどうかな?」
「ぬぅ!?」
掻い潜られたことで、顎肢という大きな武器を一時的に失い、無防備な胴を曝す事となった蜈蚣。
妖怪というのは総じて、常人を容易く捻り殺せるような種族である。蜈蚣もまた歴とした妖怪であり、その巨躯を支えるに値する長く太い歩肢も、一見して刺突が為の武器たり得るものだった。しかし、既に男と蜈蚣は、男が少し手を伸ばせば届く程に肉薄している。その為、却ってその長大な歩肢という武器は、度が過ぎた近距離故に使えなかったのだ。或いは、蜈蚣という生物の身体に存在する欠点を、男が意図して突いたのか。顎肢を空振ったからには、もう一度先程と同程度の距離を取り、適切な間合いを保たねばならない。だがこの男が、殺気を絶え間無く発し続けるこの男が、そんな時間を悠長にも待っていてくれる筈など無かった。
「全部ぶち撒けろ」
上がりきったままの掌底打に使った手を、今度は強く、皮膚の音さえ立てる程に、強く握り締める。
蜈蚣が身体の構造上、零距離では本来の実力を発揮出来ないのに対し、今現在の男の間合いは、人間にとっては最適であった。丁度蜈蚣の胴に手を伸ばし触れた瞬間こそが、最も素手での打突に於いて威力を発揮するような距離だからだ。ならば、後にすべき事は決まっている。その握り締めている骨張った無骨な拳を、蜈蚣の黄色を呈する胴へ打ち込むのみ。本来そう硬くもない百足の身体だが、この妖怪たる蜈蚣はその限りではない。人間の扱う槍や刀などといった武器でさえ、易々とは通す事なき鉄のような身体である。増して、男は今からその身体に、素手の一撃を叩き込もうと言うのだ。馬鹿げているという他ない。
「ぶち撒けられるのは、貴様の血肉だろうよ」
抑、妖怪とは決まって長寿な生物である。それ故、自己の攻撃の特徴も、その弱点も、それなりの時間を過ごした妖怪であれば、皆知っているものだ。そしてこの蜈蚣もまた、その一体である。
「お」
蜈蚣は初めから、全て故意に行動していたのだ。顎肢による攻撃が避けられる事も、胴を無様にも晒す事も承知の上で。刹那、拳を脇腹まで持って行き、今にも打突を放たんとしていた男の身体を、何かが背後から抑えつける。不思議に思い男が其方に目をやれば、それは自らの背から脚の背面まで、満遍なく押し付けられた蜈蚣の歩肢であった。そのまま男は幾多の歩肢に押し込まれ、蜈蚣の黄色い胴へと強く抑え付けられるのを、両手足で胴を突き放すように押す事で耐える。其処で、漸く男は理解した。蜈蚣の歩肢は、確かに武器にもなり得るもの。しかしそれ故、その殺傷用の武器としての側面にのみ目が行ってしまった。即ち、他に考えられる用法、獲物を捕縛する用途を悟るのを、その側面が阻害していたのだ。
「貴様のような生きの良い獲物は久々なのでな」
下卑た声でそう宣うと同時に、突然蜈蚣の胴に、縦の亀裂が走った。生々しい音と共に、次第にその亀裂は、綺麗に左右へと拡張されていく。その中から姿を表したものを見て、さしもの男も笠の中で顔を顰めたのか、笑みが消える。広がり行く亀裂の内部から、段々と姿を表したそれは、悍ましいの一言に尽きた。亀裂の左右両側に沿うように生えた、粘液が糸を引く鋭い歯。赤黒い内臓のようなその内部は、人間の口を縦にして移植したかの如き様態である。詰まる所、それこそが蜈蚣の持つ捕食器官の一つなのだろう。蜈蚣の頭部自体は、南瓜よりも一回り大きい程度のもの。それでは、人間などといった大型の生物を食らう際、無駄な時間が生じてしまう。それの効率化の為に、こうして男一人を丁度収容出来る程度の口も出来たのか。
「先ずは頭を食らって、残った物言わぬ肉塊を持ち帰るとしよう」
「っ……」
すると、急激に男の背にかかる圧力が増した。幸い、男が手を付いている箇所は、捕食器官の外側であった為に、腕に始まり身体毎持っていかれる事もない。しかし、その歩肢一本一本から掛けられる重圧は、確実に男の体力を削る上、何より身体を粉砕せんとしていた。背面の骨の軋む音を体内から聞いた男は悟る。このままでは、直に体力が尽きるか圧で骨を砕かれ、押し込まれた先で捕食されると。少なくとも先程からその殺し合いに息を呑んでいた蟻の少女は、男が現状を打破する方法など有りはしないと見ていた。素人目且つ一般的に考えれば、正にその通りである。しかし、確かにダメージを受けているとは言え、男は今も尚蜈蚣の歩肢による圧迫に耐えているのだ。よもや左様な彼に、一般的な見解などが適うものであろうか。
「——ふふ、はははは」
不意に、笑い声が響いた。その声は愉悦に浸っている事が手に取るように分かる程、酷く楽しげである。この状況から察するならば、それは獲物を屠らんとする蜈蚣か、或いはその様子を眺め楽しむ蟻の少女か。否、それは何方のものでもなかった。心の臓を鷲掴みにされ、微かに力を込められたかのような。そんな筆舌に尽くしがたい、冷たくのしかかるような重圧を放ったのは、今正に絶体絶命の危機に陥っている筈の男その人であった。身の毛も弥立つ程に悍ましく、そして得体の知れない思念が綯い交ぜになったその嗤う声により、再び森を氷室と化した。
「……お前みたいな奴がいたとはね。いや、知らなかったよ。良い勉強になった」
くつくつと、無邪気に。未知を前に目を輝かせる稚児の如く、嗤う。木々のざわめきさえも、今この瞬間は何ら寂静と変わりなかった。この世全ての音が、只一人の人間が発する声に、蝕み侵されているかのような錯覚に蟻の少女は陥る。しかし蜈蚣は、決して男の異様な雰囲気にも怯む事はなかった。
「冥土の土産には十分か?」
「嗚呼、十分だね。冥土に行かずに貰う土産というのも、何だか申し訳ないけど」
減らず口を、と蜈蚣は男の狂言を一蹴する。歩肢より伝わる骨の軋む感覚を鑑みるに、男の骨は後数分と保たない程に消耗していた。であれば、このまま男を圧迫してさえいれば、後は待っていれば全て終わる。ふと蛇人の方を一瞥した限りでは、妖怪の生命力を考えれば当然だが、まだ生きているらしい。予想以上の使い手ではあったが、所詮人間と妖怪である。『数の利に加え、基礎能力自体に差が有るとなっては、寧ろ男は十分に善戦したと言って良いだろう』。だが蜈蚣は、長く生きた存在であるが故に、強靭な肉体を生まれ持ったが為に、そうした危機感の鈍化が生じてしまったのだ。
そして、未だ妖怪の中では赤子同然の蟻の少女。彼女は若い。だからこそ、未だ危機感を鈍らせる程の力を持っても、年月を経てもいないからこそ、その不安を抱く事ができたのだ。
「——なら、試してみるか」
「ぉ」
刹那、蜈蚣の胴節の黒い背面に、硬度の高い物を無理矢理に打ち破ったような音と共に、何かが生えた。五叉に分岐した細い何かが、背から縦に並んで、土壌より芽を出した草木のように。箇所は頭部に近く、生えたソレは暗緑色の液体に塗れている。一目見て、粘着質なものであると理解するのも容易い。生え際に糸を引き、ほんの前にも聞いた気のする瑞々しい音がして、その腥さが蟻の少女の鼻腔を擽る。ソレは何であるか、蟻の少女は咄嗟に理解する事ができなかった。出来なかった、と言うには語弊があるやもしれない。理解する事を頭の中で何かが拒み、理解をする事を選ばなかったと言うべきだった。
「そら」
そして、弾けた。薄い鉄板を無造作に引き裂くように。ぎちぎちと、蜈蚣の甲冑の如き黒く艶のある背が、身体の中央を通った。暗緑色の粘り気が有る液体が、蜈蚣の体から、薄い色の肉から迸る。裂け目は丁度口に似た形状を曝し、実際にその断面には鋭い歯が生え揃っていた。
「——え?」
余りにも、その少女にとって認めたくない、認知したくはない光景が、却って彼女にその現状を把握させる。蜈蚣の背に生えていたソレは、裂け目から見えたその狂喜に口を歪める、男が伸ばした手であった。そして、悟る。背から生えたモノこそが、あの男が突っ込んだ手であった事を。であれば、この状況は全て説明がつく。実に分かり易い、単純明快な事だった。男は、体を押し込まれるよりも早く、蜈蚣の胴についた口を手で貫く。そして、余りに突飛なその行動と激痛に蜈蚣が静止した一瞬。その一瞬で、男は蜈蚣の体を口に沿って引き裂いたという事だったのだ。
「馬……鹿、な……」
蜈蚣が二つの口から、同時に暗緑色の体液——即ち血液を噴出させながら、掠れた声で呟く。
そう。その出来事の内容自体は、実に単純明快な事である。只妖怪の体を力任せに縦に割くという、言葉にすれば只それだけの事。然し、それを実行出来た事こそが、正に馬鹿げた事象に他ならない。
妖怪の体を傷付けるならば、持つべき物は頑強な武器である。それが無くては、少なくとも只の人間には、妖怪の体には傷を付ける事さえ難しい。下級妖怪と言われる弱小な妖怪でさえ、人間が鉄製の武器を各々携え、数人がかりで切り穿ち殴り続ければ、漸く死ぬという程。蜈蚣の実力の程こそこの場の誰にも分からないものの、その肉体を、人間が素手で引き裂く事。それはもはや、異常と呼ぶべき事柄であった。
「引き摺り込んで咀嚼するまでに、どれだけの時間が必要だ?腕を突っ込んだ時も、お前は予想だにしていなかったから、即座に反応する事が出来てなかっただろ?その間に腹を裂くくらい、訳ないよ」
妖怪でさえ致命傷と言わざるを得ないその傷により、人体を砕く程の拘束力を失った歩肢を、男は跳ね除けて蜈蚣の抱擁を脱して地へ降り立つ。よもや歩く事さえ儘ならぬ程に脱力した歩肢は、男という支えを失いだらりと垂れた。そして、鎌首を持ち上げていた蜈蚣の体は、一切の動きを見せずに、地へと倒れ伏す。蜈蚣の重量により、細かな砂埃と乾いた茶色の落葉が、豪、と勢い良く宙へ舞った。近場に立っていた蟻の少女にまで届いたその地の揺れは、蜈蚣の体が如何に重厚であるかを暗に表している。それをあの抑え付けられた状態で、尚且つ突っ込んだ腕を、食い千切られるより早く背まで打ち込むなど、よもや人間ではないと考えるべきであった。正しく蟻の少女も、そして崩れ落ちた蜈蚣も、今も尚樹木に喰らい付く蛇人も。最初から、この男を人間ではないと、そう想定するべきだったのだ。
「さて、と。お前はどうするか」
編笠から覗く血走った赤い双眼が、立ち尽くす蟻の少女をへと移る。勝てない。もし歯向かえば殺される。そう悟る事ができたのは、生まれてから未だ百年と経っていない、蟻の少女の危機感が働いたからなのだろう。尤も、それが最初から発動していなくては、よもやこんな時に働いた所で何の意味もない。見方を殺され、自らの命さえも掌握された現状では。蟻の少女は、大いに震える。
少女としての上半身の怯え振りが顕著であるのは勿論の事、蟻としての下半身さえも、男への恐怖に体を震わせていた。妖怪というのは遍く、肉体への攻撃や痛手よりも、精神への攻撃や痛手を恐れ、苦しむものだ。何故なら、妖怪は頑強かつ強靭な身体に加え、高い再生能力を持つが故である。そして、精神に大きく依存する、ある種霊的存在と言っても差し支えない存在だからこそ、その者達は精神への損害を何より恐れていた。その筈なのだが、この男と相対する事に限り、それは違うのだろうか。
「まぁ、良いか。目的は殺戮じゃない」
しかし意外にも、男はその目を直ぐに別の箇所へと移した。此処までしておきながら、今更目的が殺戮ではないなどと、聞いて呆れてしまうが、今下手に男を刺激しては何が起こるか知れない。
それ故蟻の少女は、微かに体を震わせ動かんとする蜈蚣と、縛り付けられたかのように動かない蛇人を見て、刺激しないようその思いをしまい込んだ。脅威となっている男を殺す事が出来れば、抑そうする必要はない。然し、三体の内で最も若く、そして最も非力な蟻の少女では、勝ち目など皆無であろう。
「それじゃあ、話の出来るようになった事だ。早速お前らに聞こうか」
すると、その場で何か行動を起こすわけでもなく、突然男はそう言い放った。その声量は、先程までと比べても小さい、眼前の何者かと話し合う程度のものである。だと言うのにその言は、5米程は離れた蛇人の位置までも届いているだろう。男の言葉には、それだけの何かが含蓄されていたのだから。男から幾度となく発せられている、厭に冷たいその気配が再び放たれた事も相俟って、今までの狂気じみた戦意などは、よもや一片たりとも感じ取れなかった。業火が如き熱狂から、氷室が如き冷酷。正常な人間ではあり得ないほどの豹変が、男の異質さを際立たせる。
「蜘蛛の妖怪だ。蝗のような羽の生えた、茶色い六つ目で、骨のような脚を持つ、二丈程の体躯の。お前らは、其奴を知ってるか?」
不意に、そんな問いが投げ掛けられた。お前らというからには、内二体は既に重傷を負った、三体の妖怪達に其々問い掛けているらしい。茶色い六つ目に、蝗のような羽の生えた、身の丈二丈程の蜘蛛妖怪。少なくとも蟻の少女は、そんな妖怪など見た事も聞いた事もない。抑、彼女は生まれてそう生きてもいないのだ。生まれた場所から直近の場所、即ちこの周辺でこそ活動はしているが、その範囲外の事を知る程、彼女はまだ長く生きていない。
「……お前は知らないだろうな。なら、百足と蛇擬き。お前らはどうなんだ?」
人間としての体を半身として持つ故に、他に比べ見切る事もまた容易かったのか。男は直ぐに蟻の少女が当てにならないことを悟ると、今度は惨状の只中にいる二体に声を掛ける。荒目から覗く瞳に彼女は、心なしか憤怒とも落胆とも、狂喜とも殺意ともつかない、男の未だ見せてはいない奇妙な感情を見た気がした。
「…………知……ら、ん」
その問いに蜈蚣は、絞り出すようにそう発する。それが誠か否か、それを知る者は蜈蚣のみである。
然し乍ら男は、何らその言葉に疑問を抱くような様子を見せない。只、這い蹲る百足をじっと、赤い眼を見開いて凝視し続けるのみだった。が、それもほんの十数秒程度の事。ある瞬間から、途端に興味を失った玩具に対するように目の色は変わり、今度は蛇人の方へ向き直る。
「それならお前は……嗚呼、そうか。解いてやらないと、動くのも儘ならないな」
その言葉と共に男は突として、今まで只の一度も大きく動かす事がなかった左手を、今更ぐんと下方へ引きつつ手首を捻った。その直後、蛇人の頭部が急激に咬合力を失う。今し方牙を立てられていたと思われていた樹木から、存外に容易く口を離し、重力に従い地面へと落下した。解いてやる、という言葉に、斯様な状況でありながら、蟻の少女はそれについて疑念を抱く。言葉を察するに、今まで樹木に喰らい付いていたのは、単に男の仕業であったという事だろうか。
「で、お前はどうなんだ?知っているか、知らないのか。行動でも良い。何方か示せ」
蛇人は、力無く樹木の根元に倒れたまま、反応を示さない。数秒、十数秒、数十秒と、幾ら待っても。蟻の少女は、その理由を知っている。決して自らの意思で反応しない訳ではなく、蛇人という妖怪は、人語を話す事ができない類の者である、というだけの事だ。妖怪とは一口に言っても、その種類は多岐に渡る。そもそもが、人間の感情などといった曖昧なものから生み出された者なのだから、個体毎の差異があるのは当然と言えた。
であれば、人語を辛うじて理解する知能があっても、人語を操る程の知能は無い、という妖怪がいる事は不思議でも無かろう。かと言って、蛇人の体は四肢を断ち切られ、確実に重症と言える状態であるので、動く事自体が儘ならない可能性もある。男も漸くその事実を察したのか、溜息を一つ吐いて、徐に蛇人の頭部へと歩み寄った。高々5米の距離なだけに、その移動は僅かな時間で済む。そして、足元に蛇人の頭が触れるまでに、後ほんの一歩や二歩の距離となった頃。何処かで小さく生じた葉擦れの音が、一同の耳朶を同時に打った。
「——おぉっと」
金属音じみた甲高い音が、静けさを一時取り戻していた森の中に響き渡る。音を生じさせたのは、意外にも男ではなかった。現に、男は刀を抜いても、何らかの行動自体を起こしてもいない。その正体は、蛇人のものであった。樹木から解放された蛇人の鋭い大型の歯牙が、弥太郎の足が元あった場所を噛んでいたのだ。森にそぐわぬ金属音は、それの所為だろう。しかし元あった場所と言ったように、蛇人が其処を狙って噛み砕かんとした時には、既にその足は其処には無い。まるでその奇襲を想定済みであったかのように、男は即座に一歩その場から退いていたからだ。
「ははは。ほら、だからお前は拘束しておいた方が良いと思ったんだ。分かってるよ、言葉が話せないんだろ?それを見越して相手が近寄るのを待ってたんだろ?分かりやすいねお前は、はははは」
侮蔑を前面に押し出された男の嘲笑に、蛇人の顔が、微かに歪んだように蟻の少女には映った。どうやら男の読み通りだったらしい。同時に少女は、今の今まで樹木に食いつき続けていたのが拘束である、という読みもまた当たっていたことに気付く。しかし、それならば一体どういった方法で拘束していたというのか。そんな疑問を抱く暇さえも、男は妖怪達に与えようとはしなかった。
男の足を食い千切ろうとするも虚空を噛んだ蛇人の頭を、男は健在の足で踏み躙り、蛇人の頭部の動きを止める。人間の脚力でありながら、その蛇人が押し込まれている地面は深く抉れていた。
「行動で示せと言って、その結果がこれ、ね」
男の威圧感が、可視化されいるのかという錯覚さえ覚える程に膨れ上がったのだ。怒気ではない。狂気でもない。その感覚は、最初の一言の際に放たれた冷たさとも、蜈蚣に向かって行った際に纏っていた悍ましさとも違う。熱量は感じられない、激情は感じられない、思惟さえ感じられない、虚しさとさえ形容できるような男の圧。或いは、これを妖怪達が勝手に圧と感じ取っているだけなのか。
だが、知っている。彼が抱き、そして無意識の内に放つそれを、蜈蚣と蛇人は知っていた。
そしてその二体に比べ、脅威との遭遇を果たした事の無い蟻の少女は、完全にそれへの恐怖に呑まれ、行動を起こす事も出来ない。初見の脅威として余りにも、男は性質が悪かったのだ。
「結局お前らも、役に立たないか」
今や声を出す事さえ難儀になった蜈蚣、踏み躙られ手足を失い動く事も出来ない蛇人。両者は必死に蟻の少女へと、ある一つの思いを乗せた視線を送っていた。しかし其れは、彼女にとってそう都合の良い、例えば『逃げろ』などという都合の良いものではない。『助けてくれ』と。恐怖など忘れていた筈の妖怪という存在が、人間一人に蹂躙され、剰え生存本能を露わに。死への恐怖を思い起こさせられ、弱り切った体をどうにか逃走の為に動かそうと、小刻みに震わせている。異質な光景だった。
自分よりも長く生きた、それなりの力を持った二体の妖怪。それらがこうも容易く下されるような、妖怪よりも化物らしい人間。それを相手に、如何にして彼女が、この場で二体を助け出す事など出来ただろうか。
「ぅ、あ……」
強い懇願の意が凝縮された視線が、只でさえ男と相対している蟻の少女に重たくのし掛かる。人間としての体も、蟻としての体も、恐れ慄いている。妖怪としては生まれて間も無い彼女には、この状況は八方塞がりや手詰まりと言って差し支え無い。そもそも蟻の少女が人間の肉の味を知ることができたのも、あの二体の助力をどうにかしつつ、お零れを貰う事で叶ったのだ。そんな彼女は、眼前の化物を打ち倒すだけの力を、そしてそれに立ち向かうだけの気概も、持ち合わせてはいなかった。更に言えば、未だ育まれていなかった、と言うべきであろう。新芽が迫る黒風白雨を前にして、一体何が出来ると言うのか。
「もう良い」
出来る事など、有るはずがない。何も出来ず何もせず、只無慈悲にその命を刈り取られるだけだった。たった今、男が両手を振るった時。ばつん、ばつん、ばつん。身の詰まった何かが続々弾ける音と共に、命の芽一つ、草木二つ。男の周りに在ったそれらの生命は、いとも容易く、微塵に刻まれ消え失せていたのだから。五つの光の筋により起こされた黒風、次の瞬間には周囲一帯に降り注いだ暗紅色と暗緑色の白雨。不自然に燦然と輝く太陽の下に、不自然な惨状が生まれた。
「無駄だったか……まぁ、そう期待はして来なかったけど」
何が起きたのか。それを考える者は、誰一人いなかった。唯一周囲に存在する生ある者たる男は、その原理を知っている。自らの手で引き起こしたのが、この惨劇なのだから当然である。
人間数人分はある長い首を、刺身状に細かく切断された蛇人。先程男が開けた胴の裂け目がそのまま広がり、縦に真っ二つに割れた蜈蚣。そして、少女の上半身と蟻の下半身を分断され、生気を宿さぬ恐怖に塗れた面持ちのまま、首を落とされた少女。各々の切断面からは面白い程に鮮血が吹き出し、
つい最近まで続いていた梅雨を男に彷彿とさせた。網を手繰り寄せる動作宛らに諸手を引いた。字面にしても目にしても、それだけの取るに足らない事の筈。ただそれだけで起きた、当人からすれば取るに足らない事象だからか。男は特に何を思うでもなく、小さな溜息を零して、三体の妖怪だった肉塊に背を向けて、何処へともなく歩き出した。
「依頼の方は……薬草自生地域付近の、人食い妖怪の一掃だったな。なら、これで終わりか」
刀の描写は、所詮私という俄かな知識しか持ち合わせていない似非刀好きの考えたものですので、可笑しな点が御座いましたら何分御一報下さいませ……
蜈蚣→長い時(そんなに長くない)
ですので、決して主人公は大妖怪クラスを倒せる実力者ではありません。今回は言わばレアモンス狩りの為の雑魚マラソンみたいなものです。少なくとも本編中では(実力の変動は場合によって御座いますが上限として)、幻想郷内での中の上程度に止めたいと考えております。