チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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聖剣エクスカリバー

 「皆で同じ高校へ行かないか?」

 

 全中優勝三連覇を終えた夜。

 その祝勝会の席にて、帝光中学バスケットボール部主将・赤司征十郎がいきなりこんなことを言い出した。

 その隣でお茶を啜っていた副部長・緑間真太郎は、突然の赤司の発言に目を細める。

 

 「突然、何を言い出すのだよ」

 

 赤司の奇行、元よりとんでも発言は入部当初から見受けられてはいたが、今回の発言は一層のキナ臭さを緑間は感じていたのである。

 そのことは当の本人も理解していたようで、微かに無表情だった顔を緩めるとポケットから五つの駒を取り出した。

 

 『王将』『金将』『桂馬』『飛車』『角』

 

 一見、意味の無さそうな駒だったが、緑間にはそれが自分達キセキの世代の五人のことだと悟った。

 縦横無尽、変幻自在のトリッキーな動きをプレースタイルとするの青峰大輝は『角』。

 青峰に次ぐ速度を誇り、目にしたプレーを一瞬のうちにその場で再現することが出来る黄瀬涼太が『飛車』。

 『王』に準じ、ゴールポストを守る最強最大のセンター紫原敦が『金将』。

 主将にして最強の駒を操る司令塔、赤司征十郎が名の通り『王将』で、遠距離スリーポイントの跳び道具を持つ自分――緑間が『桂馬』ということなのだろう。

 五つの駒は一つ一つ離れた状態に置いた赤司は、ゆっくりとした口調でその場にいる者達に聞かせるように自分の考えを口にした。

 

 「僕達五人は、どの高校に行ってもレギュラーを取り、そしてお互いに覇権を争うことになるだろう」

 

 それは赤司達にとって当たり前であり、絶対的な真実だった。 もし、この場に高校バスケ部の人間がいたら青筋を立てるに違いないほどの傲慢な発言だったが、周りには赤司達しかいなかった。

 

 「だからと言って僕達五人が再び揃ってしまえば、中学の時と同じようにインターハイ三連覇も容易だろう。 そう欠伸がでるほどに……つまらないほどにね」

 「だから、お前があの時『僕達はここで袂分かち、再びまみえる時を待とう』とか言ったんじゃねぇか?」

 

 赤司の緑間の会話に割って入ったのは、先程までかつ丼を貪っていた青峰である。

 彼の頬には一粒の米粒がついており、凶悪面の表情を和らげるアクセントになっていた。

 そんな青峰を、赤司は諭すようなゆっくりとした口調で話し始める。

 

 「そうだね大輝、まさにその通りだ。 でも考えてほしい、僕達がバラバラに散ったとして、地区予選、そしてインターハイと何処かで巡り合うとする。 しかし優勝した人間でも、恐らくキセキの世代の戦いは二、三回ほどしかないだろう。 ウィンターカップを入れて約五回、三年間でたったの十五回だ。 その間、つまらないチームでの練習に励み、歯応えすらない相手と試合をし続けなければならないんだよ?」

 

 だが、同じチームになれば、間違いなく自分と同等の人間と戦うことができる。

 それは強者との戦いに餓える青峰にとって、甘美たる毒のような誘いだった。

 

 「まあ、大輝がチームメイトとの連携を楽しみたいと言うのなら別れた方がいいかもしれないね。 そうすれば僕達とも戦うことができる」

 

 赤司の言葉に青峰は顔を顰めたまま口を閉じる。

 少ない御馳走か、毎日食べるご飯か。

 どちらを選ぶべきか、と青峰が迷っていると、そこに二人の男が割り込んできた。

 

 「むー、赤ちんの考えでいいよー、めんどくさいし」

 「俺も皆でワイワイできたら楽しいから賛成っす」

 

 面倒くさがり屋の紫原とお気楽思考の黄瀬である。

 

 「だ、そうだ」

 

 二人の返答に赤司は頬を釣り上げると青峰に視線を向ける。

 これでキセキ世代同士で戦う確率が減ったぞ、という意味を込めて。

 段々と組み込まれて行く予定、それが赤司の狙いだとしても青峰には逃れる術がなかった。

 

 「ち、まあいい。 どうせぱっとしねぇところばっかだったしな」

 

 ぶっきらぼうに答える青峰だが、その表情に微かな笑みが零れていたことを赤司は見逃さなかった。

 満場一致。

 自身が描いた未来に赤司は笑みを零す。

 

 「決まりだな」

 「おい、俺はまだ賛成した覚えはないのだよっ!!」

 

 ではなく、唯一の反対意見となって立ち上がった緑間だったが、他のメンバーが揃っている時点で既にこの件は確定事項となっていた。

 故に緑間の発言は、他のメンバーには既に耳に入っていないようで、話を続けるべく黄瀬が赤司に向かって問いかける。

 

 「ところで何処の学校にするとか決めているんっすか?」

 「そうだね。 とりあえずの候補として考えているのは、この東京か、もしくは京都のどちらかの無名校にしようと考えている」

 「ちょっ! 話を聞くのだよっ!!」

 

 黄瀬の質問に、赤司は自分が描く今後のことを語り始める。

 緑間が先程から机を叩いていたとしても、だ。

 

 「京都ー? めんどくさいじゃんー」

 「なぜ無名校なんすか?」

 

 明らかに不満そうな紫原と違い、黄瀬は無名校というところに首を傾げる。

 環境に人材、これらは無名校よりも強豪校の揃っているからである。

 無論、そのことは赤司も考慮の上だった。

 そもそも名将と呼ばれる監督を欲しいと思っても、赤司がいる時点でその意味は半減する。

 有能な人材がいたとしても五人揃っている時点で補欠扱いにしかならない。

 環境に関しては、とりあえず一年目にインターハイを優勝すれば、学校側が勝手にしてくれるだろうと赤司は判断していた。

 

 「僕達五人がいく時点で、強豪だろうが無名校だろうが対して変わりはしない。 結局レギュラーは僕達だからね。 京都は選んだ理由は大輝のためだ」

 「俺のためだと?」

 

 赤司の言葉に青峰が首を傾げる。

 

 「ああ、できるだけ強い相手と戦える考慮さ、京都にはインターハイで無類の強さを誇る洛山高校がある。 地区予選でも毎年戦えるだろうし、近場だと練習試合も汲みやすい」

 

 東京都など出場校の数や質が多い場所でも良かったが、地区予選から洛山と戦えるメリットは十分あった。

 洛山高校には、あの無冠の五将のうち三人が揃っている。

 

 「へぇー、なら少しは楽しめそうだ」

 「でもさ、東京なら動く必要ないんじゃない?」

 

 凶悪な笑みを浮かべる青峰に対し、紫原は普段以上に眠たそうな顔つきで赤司に反論する。

 しかし、これはまだ予定であり、確定ではない。

 

 「まあ、これに関してはゆっくりと五人の意見を出し合って考えよう」

 「だから待つのだよっ!! 俺は一度たりとも賛成した覚えはないのだよっ!」

 

 話は終わりだ、そう言って再び箸を手に持った赤司の目の前に、緑間の手が現れて赤司のかつ丼を奪い去った。

 

 「ええ、緑間っち、ノリ悪いっすよ」

 「ミドチン、流石に人の物を食うのは駄目だと思う」

 「五月蠅いのだよ黄瀬っ! あと紫原は大人しくこれでも食って隅にいるのだよっ!」

 

 非難を上げる黄瀬に大声を上げ、紫原に赤司のかつ丼渡して追い返すことに成功した緑間が、赤司の方に再び向き直る。

 

 「ところでテツはどうするんだ」

 「ああ、あとで僕が直接確認しておくよ。 テツヤは僕達の仲間だからね」

 

 疎遠になったとはいえ、かつての相棒に興味があるのか、何でもないように確認する青峰に、赤司は明日にでも確認すると返答する。

 

 「だっかっらっ! 俺の話をっ聞くのだよっ!!」

 

 緑間の大声と共に監督の怒鳴り声が店内に響き渡った。

 彼等は知らない。

 こんな提案をした赤司のスマホには、チート最強系の二次小説がブックマークに大量に保存されていたことを。

 無名校を選んだ理由。

 それは俺達強ぇっ!! をしたくてたまらなかったからということを。

 こうして運命の歯車は狂い始めたのである。


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