チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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霊刀ドウジキリヤスツナ

 放たれたボールは弧を描き、リングの内側を潜る。

 その光景を実渕――洛山メンバーは立ち尽くした状態で――諦めた。

 完膚なきまでに、手心すらなく、完全完璧にすり潰された。

 ドリブルで敵陣に斬り込もうとも、ハーフラインを越えた瞬間にボールが奪われて、そのままゴールリングに叩きつけられる。

 放ったボールは、全て壁に弾かれたように防がれていく。

 全てを無に帰されたこちらの攻撃と違い、向こうの攻撃は止まることなく怒涛の勢いで、ゴールリングを揺らし続けた。

 一つ、また一つと得点差が積み重なり、そして絶望が体を纏い始める。

 

 ――勝てるはずがない。

 

 ――誰かが言ったことがある。

 インターハイを制するのは、キセキ世代が所属したチームだと。

 ならば、五人全員が揃ったこの人外チームに勝てるものはいるのだろうか?

 

 

 洛山が折れた光景を確認した赤司は、残り僅かの時間が書かれた電光掲示板を見る。

 250対0。

 当初の予定通りだった。

 緑間の放った3Pは全部で20。 そして入った回数も20であった。

 エース青峰はチーム最多の84点を叩き出し、エースの意地を見せた。

 その後に次ぐ黄瀬の66点、紫原20点、赤司に20点であった。

 

 ベンチでは、三年と二年が喜びあい、顧問の山田は咽び泣いていた。

 そんな姿とは対照的に、赤司達は次の戦いを見ていた。

 所詮は地区予選である。

 本番はインターハイだと。

 

 袂を分れた旧友との戦いを、赤司は楽しみにしていた。

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 黒田帝興高校がインターハイ出場を決めたその夜。

 とある東京の高校では、今日も夜遅くまでドリブルの音が聞こえていた。

 

 「テツくん。 赤司君達インターハイ出場を決めたみたいだよ」

 「そうですか」

 

 体育館の扉を開いて現れたマネージャー桃井さつきの報告にも、動じることなく黒子テツヤはシュートを放つ。

 放ったシュートは枠に当たり、そのままゴールリングを外れて地面へと落ちる。

 

 「やっぱり、驚いてないね」

 「はい。 赤司君や青峰君が負けるはずありませんから」

 

 赤司達が向かった京都には絶対王者――であった洛山高校がいるのは黒子も知っていた。

 それでも勝つのは赤司達だと、黒子は旧友たちの力が信じていた。

 

 「きーちゃんからメールきてたけど、皆新技を会得してインターハイに参加するみたいだよ」

 「そうですか。 こちらも用意した甲斐がありましたね」

 

 桃井の言葉は、敵対した者として恐ろしい事実だが、それ以上に嬉しいことでもあった。

 思わず笑みをこぼした黒子は、ゴールリングに向けてシュートを放つ。

 弧を描いたボールは、そのままゴールリングを通過していく。

 その光景に、桃井も満足そうに笑みを溢す。

 

 「どうかな? 『幻影の(ファントム)シュート』の出来は?」

 「六……いや七割ですね。 あとは細かい修正をしていけばいいはずです」

 

 シュートの手応えに、黒子はボールの感触を確かめながら答える。

 一見、普通のシュートのように見えるが、そのシュートフォームは独特であった。

 

 「これも桃井さんのおかげです。 僕一人ではこの答えにはたどり着けませんでした」

 

 この新フォームは間違いなく桃井がいなければ完成しなかっただろう。

 黒子の特性を本人以上に理解した彼女(マネージャー)が存在しなければ。

 そんな黒子の褒め言葉に、桃井は顔を真っ赤にしてその場に座り込む。

 

 「え、そんなテツ君に褒められるなんて、そのなんていうか、お礼というか……」

 

 一人で喜びの極地に浸る桃井を放って黒子がシュート練習を再開しようとした瞬間、体育館の扉が開いた。

 

 「おーい。 黒子、そろそろ上がろうぜ」

 

 現れたのは、赤い髪に野生じみた顔つき、日本人離れした体躯をもつ男。

 彼は黒子の新しい相棒である、火神大我であった。 

 火神大我という新たな光を輝かせること、それが今の黒子の役割であった。

 

 「はい。 火神君」

 

 既に他の部員達は帰っていた。

 黒子は、何処かへと意識を飛ばしている桃井を起こすと、そのまま体育館の後片付けを始める。

 火神にも、手伝ってもらい、体育館の明かりを消した黒子達はそのまま部室へと歩いていく。

 

 「ところでよ、黒子。 お前に貸してもらった漫画、面白かったぜ」

 

 先頭を歩く火神は、突然思い出したかのように、黒子に借りた漫画の感想を口にする。

 面白かったという簡単な感想であったが、黒子には一番うれしい言葉だった。

 

 「そうですかっ!! あの漫画が僕のバスケを始めたきっかけなんですよ!! 帝光時代でも同士は赤司君くらいでしたから、火神君にそう言ってもらえると嬉しいです」

 

 緑間や紫原は興味を示さず、青峰は漫画よりも実地だというノリである。

 唯一愛読して、共に朝まで語り合った赤司とは、個人的な趣味が違った。

 そういう意味では初めての仲間に、黒子は思わず喜びの声をあげてしまうのは無理もない話であった。

 そんな黒子の姿に火神は、眼を丸くさせて驚いていることに黒子が気づくはずがなかった。

 

 「ってことはこの前やってた、2万本シュートってこれの影響か?」

 「はいっ!! 練習は嘘をつかないと思っていますからっ!!」

 

 帝光時代のバスケ部三軍にいた頃は毎日のように読みふけていた。

 赤司や青峰の言葉もそうだが、間違いなく黒子が今もこうしてバスケができるのはこの漫画のおかげだろう。

 だが実際、練習とは大切なことだ。

 不向きにより、上達の差は個人差があれど、それども人は続けることで上達する。

 黒子も昔、赤司にこれほどまでに努力し、結果がでない人間はいないと言われていた。

 その経緯から影となり、パス特化の選手となったのだ。

 だが、それでも黒子はシュート練習を欠かさなかった。

 中学の頃から現在まで、習慣になるほどに。

 

 「火神くん。 勝ちましょう」

 「ああ」

 

 その成果を見せるために、影と光はインターハイの頂点を目指す。 


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