チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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仕事、忙しすぎる……
もやし精神のおかげで、ぶっ倒れて入院しました。


宝刀チドリ

 月日は流れる。

 地区予選を制した赤司達は、次なる決戦の舞台である江ノ島へと向かっていた。

 地区予選を圧倒的な強さで制したとはいえ、黒田帝興高校はまだ新鋭である。

 バスケ部の予算も限られており、最も安くつくバスと電車の移動で神奈川へと向かうことになった。

 青峰などはその決定には不満を唱えていたが、赤司の

 

 「なら走っていくか?」

 

 という鶴の一言で沈黙した。

 と言っても東京までは飛行機を使っているのだから、特に過酷な旅路でもなかった。

 

 「ようやくだな」

 

 窓の外の景色を眺めていた青峰が突然赤司達の耳に入るような声で呟く。

 その言葉は、新たな強敵を求めてではない。

 袂を分かった相棒との対戦を、ただ楽しみにしていた。

 しかし、楽しみにしているのは青峰だけではなかった。

 

 「しかし、赤司っち。 東京三大王者との練習試合に何か意味でもあったんすか?」

 

 青峰と同様に窓の外を眺めていた黄瀬が、首をかしげながら訪ねてきた。

 赤司達は先日、東京の三大王者である正邦高校、秀徳高校、泉真館高校との合同練習試合を行っていた。

 三校とも、洛山高校ほどの力はなかったが、それでも王者を名乗る地力は持っていた。

 しかし結果は全て250対0。 赤司達の圧倒的な勝利であった。

 それゆえに黄瀬は、あの三試合の意味を見いだせなかったのだろう。

 その疑問に赤司は答えることにした。

 

 「そうだね。 まず一つは、テツヤへのメッセージかな」

 

 東京代表に選ばれた黒子のいる誠凛高校は、この三校全てと対戦している。

 いずれも勝利を収めてきたが、全て接戦であった。

 ゆえに赤司は圧倒的な力を見せつけることで、間接的なメッセージを送ったのであった。

 この程度では僕達には勝てないぞ、と。

 

 「そして、もう一つは、だ。 涼太、古武術バスケは完璧に模倣したかい?」

 「え? まあ、とりあえず言われた通り目ぼしい選手の得意プレーは完璧に再現できるっすよ」

 

 赤司の言葉に、黄瀬は何でもないように答える。

 古武術バスケ――それが東京三大王者の一つである正邦高校の強みであった。

 武術の動きを取り入れたことにより、体の疲労のロスを防ぐ役割があるらしい。

 体力の消耗が激しい『鏡の中の貴方』を使う黄瀬には、それなりに意味のある技術だった。

 

 「ふむ、しかし、その意味はあったなのかだよ」

 「ぶっちゃけ、あの古武術バスケって俺たちからすれば無意味だろ?」

 

 が、同時に緑間と青峰の言う通りであることも確かだった。

 彼らは既に並みのプレーヤーではない。

 自身のオンリースタイルを確立した超越者である。

 

 「それになんか、アイツきもかったしねー」

 

 菓子をぼりぼりと食らう平常運転の紫原が思い出したかのように口を開く。

 そんな紫原に同調するように、黄瀬も正邦高校一年の選手を思い出す。

 

 「ああ、津川だった――すかね? 最初、やけに絡んできてウザかったすけど」

 「黄瀬に第一クォーターで20点入れられて、ベンチで号泣してたがな」

 

 黄瀬に緑間、そして紫原、青峰も忘れているが、津川は黄瀬と戦ったことがあった。

 バスケを始めて間もない黄瀬をほぼ封じ込めた津川は、間違いなく強敵だっただろう。

 が、それも昔の話である。

 今の黄瀬は間違いなく最強選手の一人。

 強敵だった程度の選手が抑えられるほど甘い存在ではなかった。

 

 「黄瀬ちんって結構、Sだよねー。 そのあと、ハゲをコピった古武術バスケで瞬殺したんだから」

 「ちょっ!! それは赤司っちの指示っすよ!!」

 

 どS疑惑が出始めた黄瀬は慌てて言い訳を開始するが、間違いなくその試合を見ていたものは断言するほどの嫌がらせだった。

 第二クォーターで完全にベンチから出てこれなくなった津川もそうだが、他の正邦高校レギュラーも少なくない動揺が走っていた。

 特に三年間、血が滲むようにして習得した技術を、十分程で盗まれ、超えられでもすれば誰だって動揺するだろう。

 勿論、被害があったのは正邦高校だけではなく、秀徳高校や泉真館高校も少なくないダメージを負っていた。

 だが、それを描いた張本人は何でもないように口を開く。

 

 「まあ、いいじゃないか。 それに本当の意味は火種を消すことだよ」

 「火種だと?」

 

 赤司の考えが理解できない青峰は、思わず顔を顰めて答えた。

 

 「ああ、各地の完膚なきまで潰すことで、僕達の最強を示しているだけさ」

 「はいはい、最強乙」

 「やっぱり赤司っちは生粋のドS王子っすね!!」

 「そこに痺れるー憧れるー」

 

 煽るような三者三様の反応に、赤司も満更でもなさそうにニヤつくとと立ち上がる。

 

 「ははは、愚民どもめ。 僕の言うことは絶対だ」

 

 最近キャラが暴走気味の赤司は、高笑いしそうなほどの楽しそうな笑みを浮かべていた。

 ちなみに忘れているようだが、ここは電車の中。

 満員に近いその中での奇行は、注目の的である。

 

 「……赤司は昨日、何の漫画を読んだのだよ。 ところで赤司」

 「ん? 何だ真太郎」

 

 そんな四人から少しだけ離れた位置を陣取った緑間が、ちらちらと赤司の方――正確には右手にあるものに視線を落とす。

 

 「何故、鋏を持っているのだよ?」

 「ふむ、そろそろ髪でも切ろうと思ってね」

 

 刃がむき出しになっている鋏を赤司は開いたり閉じたりとせわしく動かしていた。

 食い入るように鋏を見るその姿はまさに危険人物である。

 

 「いや、そこは素直に床屋か美容室に行けよ」

 「そもそも外出して、自分の手で鋏を使って髪を切る発想が新しすぎるっすよ」

 「そこに痺れるー憧れるー」

 

 再び煽る三人に、機嫌を良くする赤司、その四人を見て呆れたように笑う緑間。

 しかし、そんな悪ふざけのような時も終わる。

 車内放送が鳴る。

 次の最寄り駅は目的地である。

 

 「……さて、まずは頂点だ」

 

 先程までの笑みは消え、怖いほどまでに真剣な赤司が口を開く。

 高校最強。

 その称号を手に入れるために。

 

 赤司の言葉に残る四人は静かに闘志を燃やして頷いた。


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