ぞろぞろと集まるユニフォーム姿の少年達。
彼らは日本各地からこの地に集まった強豪達である。
誰もが必勝を目指し、ただ一つの高みへと昇らんとする。
今日、ここでバスケットボールインターハイが行われるのであった。
「すげぇ、集まりようだな」
あまりの人の数にそう漏らしたのは星りん高校バスケ部主将である日向である。
彼は中学の頃からバスケをやっていたが、こうした機会に恵まれなかった。
そしてそれは彼だけではなく、この場にいる大半の人間がそうであった。
誰もが顔を強張らせ、キョロキョロと周囲を見渡していたが、ただ一人黒子テツヤだけは、誰かを探しているように周囲を見渡していた。
そんな彼に相棒である火神が声をかける。
「なあ、黒子。 さっきからキョロキョロして緊張でもしてんのか」
「いいえ、火神君ほどじゃありませんよ」
黒子を心配するように声をかける火神だが、彼の目元には大きな隈ができていた。
いつものごとくよく寝られなかったようだ。
眼を充血させている火神に、黒子は理由を口にする。
「そろそろ彼らが現れると思ったのですが」
彼ら――とは無論、帝光時代のチームメイトである。
この地で再び出会うことを約束した誓いの相手でもあった。
予選結果を知っているため、現れることは確実だが、それでも今この場で彼らの姿を確認することができなかった。
「おい、黒子、火神。 そろそろ行くぞ」
キャプテンの日向の言葉に、黒子は携帯の時間を見る。
既に受付の時間が迫っており、他のチーム達も全員受付所へと向かっていた。
「ういっす」
「はい」
日向達二年生の後を黒子と火神は追いかける。
会場に入り、二年生達が話している間、黒子は再び会場内を見渡すが、そこに彼らの姿はなかった。
そんな黒子と同様に、マネージャーの桃井も探していたのか、黒子と隣まで近づいてくる。
「きーちゃんや青峰君達はまだ来ていないのかな?」
「恐らく、彼らは目立ちますから」
キセキ世代として顔を売っているという意味でもそうだが、何より個性的な面々である。
どこにいても騒がしいことに違いはなかった。
そう―――こんな感じに、だ。
「ったく、赤司のせいでギリギリになっちまったじゃねぇか」
「待て、勝手に僕のせいにするな。 こうなったのはあの駅員のせいだろう」
「いや、駅員の判断は至極当たり前のことなのだよ」
「まあ、普通にむき出しのハサミを持ち歩いていたら止められるっすよね」
「焦った赤ちんの顔、チョウウケるー」
現れた五人組に、騒がしかった会場が一瞬にして声が消える。
その姿、その声、その雰囲気。
そして、体を纏う覇気はまるで他のプレイヤーと一線を為していた。
そんな彼らに黒子は笑みを浮かべて近づく。
「赤司君」
「ふ、テツヤか。 どうやらこの場所までたどり着いたようだね」
「え、普通に電車に乗れば辿りつくっすよね?」
「黄瀬、恐らくそういう意味ではないのだよ」
「ああ、いつもの赤司病か」
黒子と赤司が対峙すると、周囲の三人も囲むようにして近づいてきた。
黒子はそんな中で、正面に立つ赤司に視線を向ける。
左右違う色の眼。
それは明らかにカラーコンタクトであった。
また中二病が強化されましたか、と黒子はある意味戦慄を覚えながら、視線を逸らすと次に元相棒へと視線を向けた。
「青峰君もお久しぶりです」
「おお、テツ。 元気にやっているか」
「はい。 ―――青峰君……少し変わりましたね」
「ん? そうか?」
「ええ……昔に戻ったそんな感じです」
「まあ……余計なことは考えられなくなったな」
目を逸らして頬をかく青峰の姿に、黒子は少しだけ肩の荷が下りた。
唯一青峰だけ話ができていなかった。
才能の開花によりバスケットが嫌いになり始めていた青峰を戻すことが、黒子が彼らと袂を分けた一つの理由であった。
故に嬉しさの半面、どこか悔しさも心の中で感じていた。
「青峰君っ!」
「お、さつきか」
黒子と青峰が久しぶり向き合っていると、青峰の幼馴染である桃井がこちらに駆け寄ってくる。
そんな彼女を見て、二人っきりにしようと思った黒子は、その場からフェードアウトして、挨拶の済ましていない三人の方に歩き出す。
そんな黒子に、いち早く気がついたのは黄瀬である。
「黒子っち、久しぶりっす!!」
にこやかなモデルスマイルを見せる黄瀬に、黒子は―――その脇を通って、残る二人に挨拶した。
「お久しぶりです、緑間君、紫原君」
「久しぶりなのだよ」
「黒ちん、元気だったー?」
黒子の挨拶に、緑間、紫原も答えるようにして手を上げる。
三人共、黄瀬という存在を忘れて―――
「ちょっ!! 黒子っち、今のは流石に酷いっす!!」
「……ああ、黄瀬さん、いたんですね」
「さんづけ?! どんだけ距離が離れているんスか!!」
数か月のうちに、心の距離が凄まじく離れてしまったような黒子の反応に、黄瀬は思わず大声をあげてしまう。
「いや、黄瀬君ならこの程度の扱いでいいかと思いまして」
「ひどっ!! もう、いいっすよ!! そこまで言うなら、俺の新技でけちょんけちょんにしてやるっすから!!」
涙目で宣戦布告を行う黄瀬の姿は、まるで喧嘩に負けた小学生のようであった。
そんな彼の言葉を受け取る小学生のような男がもう一人いた。
「そいつは聞き捨てならねぇな」
割り込んできたのは火神だった。
そんな彼に対しての反応は冷たいものである。
「誰っすか?」
「っていうか、いきなり会話に割り込んでくるなよな」
「まったく非常識な奴なのだよ」
「空気嫁ー」
好戦的な笑みを浮かべて現れた火神に対し、黄、青、緑、紫の非難が飛び交う。
「ちょ、そこまで言うのか、普通!!」
一斉に非難を喰らった火神は圧される気味だったが、彼らに負けじと声を張り上げる。
そんな火神の肩を背後から叩くものがいた。
赤司である。
「ふん、なんだ、その髪の色は。 僕と被っているじゃないか。 とりあえずこの染料剤で染めなおせ」
「ええ……なんだよこいつ……それに渡した染料剤が銀って、普通は黒とか渡すだろ」
突然、強引に手渡された染料剤を握りしめた火神は、キセキの世代の恐ろしさ?をその身で実感した。
「今、手持ちがそれしかないんだ」
「普通は染料剤なんて持ち歩かないっすよね」
「その前に銀髪使用というのが痛々すぎるのだよ」
何故か自信満々に答える赤司に対し、緑間と黄瀬の慣れた突っ込みが入る。
そんな光景を見て、黒子は赤司のぶっ飛び具合を再認識していた。
こうしてだらだらと会話を―――というわけにも行かず、時間は刻一刻と過ぎていた。
携帯を取り出した赤司が、時間を確認して口を開く。
「ふむ、どうやら時間のようだな」
「じゃあな、テツヤ」
受付を終わらしていなかった赤司達は、かけ込むように受付所へと向かっていく。
そんな彼らの後ろ姿を見ながら、火神は疲れたようにため息をつく。
「ったく、アイツラがキセキの世代かよ……まったくふざけた連中だぜ」
「監督さんがいたら、卒倒ものでしたね」
火神の言葉に、黒子は冷や汗を流しながら答える。
五人の成長具合の異常さに。
「彼らは既に奇跡なんていう、あやふやな存在ではなくなっています」
刹那の邂逅。
だが、それでも黒子には理解ができた。
彼らは、数段上に進化しているのだ、と。
「火神君、燃えてきましたね」
「ああ、当たり前だろうがっ」
光と影は、五人の怪物へと立ち向かう。
インターハイの幕が今、開いた。
第一試合
黒田帝興高校 - 桐皇学園高校