チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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魔剣レヴァンティン

 時が過ぎるのは早いものである。

 全中三連覇を終えたあの夜から数ヵ月後、目の前に広がる桜並木には満開の花弁が咲き乱れていた。

 期待に胸ふくらませているのは新入生達だけではなく、この道を歩く全ての生徒達に違いない。

 そんな中、五人の青年がその様子を眺めていた。

 

 「さて、今日からここが僕達の王城となるわけだが」

 

 何か質問は? そう言ってのけるのはキセキ世代リーダーの赤司だ。

 真新しい制服を実に様になっており、一種の貫録を匂わせる程だった。

 

 「だりぃ」

 「って、この坂道を毎日上るんすか?」

 「めんどくさいー」

 

 口々に文句を述べるのは青峰、黄瀬、紫原である。

 三人とも勝手なことを言っているが、既にばっちりと制服を着込み、登校する気は満々で会った。

 

 「いいトレーニングになるじゃないか。 何よりこの桜並木が美しい」

 

 歩道の両側に並んで植えられた桜並木に挟まれるようして、海のような蒼穹な空が広がっていた。

 その風景に思わず、赤司の表情が緩んでいると、背後から溜め息が聞こえた。

 

 「全く、呑気なものだよ。 これからが大変だというのに」

 

 眼鏡を中指で持ち上げたその男――緑間が呆れたように三人を見渡す。

 そんな彼も青峰達と同様に制服を着て、今日のラッキーアイテムであるバラの花を胸元のポケットに突き刺していた。

 

 「あ、何だかんだ言ってここまでついてきた緑間っちじゃないっすか」

 「眼鏡、そこ車道だぞ?」

 「ツンデレー」

 

 三者三様の反応とツッコミに、緑間の顔が微かに赤く染める。

 黄瀬の言った通り、緑間も赤司の計画に乗ることになったのだ。

 つまりは、『べ、別に、お前のためじゃないんだよっ!』現象である。

 

 「まあ、寂しかったんっすよね? あの日から学校での休み時間は赤司っちの計画ばっかり話してたから」

 「時々、こっちの様子を見てたしな」

 「ツンデレー」

 

 たたみかけるような言葉という波に打ち付けられ、ついに我慢が出来なくなった緑間が大声を上げる。

 

 「五月蠅いのだよっ!! もう入学式まで時間がないのだよっ!!」

 「ええーなんかそれダルイっすよ」

 「おい、黄瀬、暇だから体育館で1on1でもやろうぜ」

 「ツンデレー」

 「こ、こいつら」

 

 柳に風、暖簾に腕押し。

 まるで気にした様子のなく、全く反省の色を見せない三人に、緑間は自分の選択が間違えた気がした。

 しかし、ここで緑間に思ってもない援軍が現れる。

 先程まで桜並木を満足そうに眺めていた赤司である。

 

 「まあ、待て真太郎」

 

 緑間の肩を叩き、青黄紫の前に立った赤司に、三人は黙って見守る。

 流石は帝光中学バスケ部で主将を任された男である。

 緑間と違い、一瞬で色者トリオを黙らした。

 

 「先に言っておくが、サボりと遅刻は僕が許さない。 お前達には僕の新入生代表の挨拶を聞く必要がある」

 

 威厳のある声。

 その言葉に、普段はフリーダムな青峰も黙るしかない。

 赤司の発言に、今思い出したという様子で黄瀬が声を上げる。

 

 「そう言えば、赤司っち。 学年トップだったんすよね……眼鏡かけてないのに」

 「眼鏡は関係ないのだよっ! これは視力の補正をするものなのだよっ!」

 

 黄瀬の言葉に、異常なまでに反応した緑間が何故か眼鏡を上げ下げしながら黄瀬に食いつく。

 赤司に学力が負けたことが悔しいらしい。

 ちなみに点数順でいえば、赤、緑と続き、黄と紫がどっこいどっこいで、青がヤバかった。 どれくらいヤバいかと言うと中学留年するほどに。

 頼みの桃井がいないため、入試には赤司達の協力が不可欠だったは言うまでもない。

 

 「ということだ。 さっさと行くぞ」

 

 黄瀬に緑間が絡んでいる間に、赤司は高校への坂道を歩き出す。

 そんな彼を追った青峰が少し神妙な顔つきで赤司に尋ねる。

 

 「待て、一つだけ聞きたいことはある」

 「なんだい大輝」

 

 呼ばれて後ろに振り返った赤司を見て、青峰が目を細めて呟く。

 

 「赤司。 なんでお前、片方の目の色が変わってんだ?」

 「ふ、格好良いだろう?」

 

 人はソレをオッドアイと呼ぶ。

 カラーコンタクトをはめて満足げに笑みを浮かべる赤司に、流石の青峰も黙り込むしかなかった。

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 『黒田帝興高校』 体育教師山田五郎は、年期六年目で初めての興奮に身を躍らせていた。

 山田五郎の人生は至って目立つものではなかった。

 高校時代にバスケ部に所属した山田は、最後の年のインターハイ地区予選の第二回戦で敗退した後、地元の体育会系大学に入学した。

 その後、特に滞ることなく卒業し、無事地元の高校へと赴任したのだったが、そこで彼を待ち受けていたのは現代教育の現場だった。

 熱血教師なんて化石のようなもので、教師は皆自身に与えられた仕事だけをこなすロボットのような存在であった。

 生徒も生徒でモンスターペアレントという武器を手にし、それでいて特に変化のない日常に身を投じていた。

 山田もその一例であり、大学時代に思い描いた情熱を五年前に捨て去った身であり、明日は日曜日だから風俗に行こう、と考える一般的な教師にまでなり下がっていた。

 

 縺れそうになる足をどうにか立て直し、山田は放課後の廊下を走る。

 

 キセキの世代。

 

 去年全中三連覇の偉業を成し遂げた帝光中学のバスケ部のレギュラーを務めていた五人のことを指す。

 十年に一人の逸材と呼ばれた彼等のプレーは、唯一の趣味であり、バスケ部顧問でもある山田も何度か試合会場に足を運び、目にしたことがある。

 

 その凄まじさには嫉妬や怒りなどの感情は昇華し、ただ感動を覚えてしまった。

 あんな奴らがうちにもいれば、洛山高校にも勝てるかもしれないという妄想を何度も夢見ていた。

 だが、その妄想は現実と化した。

 あのキセキの世代の五人がこの高校に入学したのである。

 朝から校長と興奮を語り合ったほどに。

 

 息は絶え、心臓の音が聞こえた気がした。

 だが、体育館の扉を見た時、それらはすべて吹き飛んだ。

 

 あの扉の向こうにキセキの世代がいる。

 

 興奮に振るえる手で扉を開けた山田を迎えたのは、キセキの世代の中心、赤司征十郎の言葉である。

 

 「今日から僕がキャプテンをやろう。 そしてこれからは僕の指示に従ってもらう」

 

 自信と貫録に満ちたその姿に身体の一部が立ち上がった。




短いのは仕様。

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