チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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名槍ガ・ボー

 後半、ついに現れたキセキの世代五人に対し、一気に会場のボルテージが上がっていくのを誠凛は感じていた。

 そんな空気に呑まれようとする部員達に、伊月と日向が前に出る。

 

 「こうなったら死ぬ気で喰らい尽くすしかないな」

 「全員死ぬ気でいくぞっ!!」

 

 日向の檄と共に、誠凛は再び力を取り戻し、コートへと戻る。

 最強の怪物を討ち果たす為に。

 

 そして隣では、赤司達黒帝も既に臨戦態勢に入っていた。

 『獅子搏兎』。

 帝光時代に学んだ赤司達のバスケ理念の一つである。

 前半試合に出ていなかった三人も、既に鋭い眼光が宿っていた。

 そんな彼らの一人である、黄瀬に赤司は声をかける。

 

 「さて、まずは予定通りいくぞ。 涼太」

 「気が乗らないっすけど、まあ赤司っちには逆らわないようにするっすよ」

 

 赤司の指示は黄瀬にとって気にいらないものだったが、リーダーの指示には従うつもりであった。

 黄瀬は、赤司の指示通り、誠凛の支柱である日向のマークについた。

 

 「っ!? 意外だな。 緑間がつくと思ったんだが?」

 「あー赤司っちの指示っす。 まずは相手の柱から圧し折れって言われましたから」

 

 赤司からのパスを受けとった黄瀬は日向の前でゆっくりとドリブルをし始め――

 

 「何?」

 「まあ、紫っち風に言うならば捻りつぶすってことっすよ」

 

 そして――動いた。

 『鏡の中の貴方』

 『変則(フォームレス)ドライブ』+『雷神ドライブ』

 

 黄瀬が選んだ技は青峰の変則ドライブと洛山の葉山の超高速ドライブを合わせた超速無軌道ドライブであった。

 青峰の『無限疾走』には劣るものの、間違いなく高校最速級のドリブルに、日向は反応すらできずその場で置き去れた。

 だが、黄瀬の攻撃はまだ終わらない。

 むしろ、これからが本番である。

 

 『誇りの強奪(プライドスナッチ)

 

 「なっ?!」

 「これはっ」

 「日向君のっ!!」

 

 誠凛がざわめく中、黄瀬はスリーポイントシュートを決めて、得点差を2点差へと縮めた。

 

 「次はそっちの番っすよ」

 「やろー挑発のつもりかよ」

 

 そしてボールは誠凛ボールとなり、伊月を中心としたラン&ガンで一気に黒帝コートへと侵入する。

 

 「させないよ」

 「くっ」

 

 伊月の前に赤司がさえぎり、その侵攻を防ぐ。

 黒子には緑間が、水戸部には紫原が、火神には青峰と黄瀬がついていた。

 『鷹の眼』で一瞬のうちに反応した伊月は、唯一マークがついていない日向にパスを送る。

 

 そのパスは絶妙なタイミングで日向に渡り、そしてスリーポイントシュートチャンスだった。

 

 「よしっ! 日向君フリーっ!!」

 

 そのプレーに思わずリコが声を上げる中、唯一黒子だけが今の一連のプレーに違和感を感じていた。

 そして赤司のあくどい笑みを見たその時、全てを理解した。

 

 「っ!! キャプテンっ!!」

 

 黒子の制止も空しく、ボールは日向の手から放たれる。

 弧を描いたボールはそのままリングに向かい―――リングに触れることすらなく、そのまま地面へと落下する。

 

 「な、にっ?」

 「日向がエアーボール?!」

 

 日向のあり得ないミスに撃った本人も同様に、誠凛に動揺が走る。

 それは火神も同様であり、リバウンドを遅れたタイミングでしてしまった。

 

 「はい、御苦労さまー」

 

 エアーボールしたボールを紫原がきっちりとリバウンドすると、そのまま動揺する誠凛に構うことなく緑間へとパスを送る。

 

 「油断し過ぎなのだよ。 黒子」

 「しまっっ!?」

 

 黒子が気づいた時には、既に緑間はシュート態勢に入っていた。

 そのままジャンプし、緑間が放ったボールは、コートの端から端まで大きく弧を描いて飛び、そしてそのまま誠凛ゴールを射抜いた。

 そこからの黒子の判断は適切だった。

 瞬時に黒子はタイムを取るようにジェスチャすると、その行動に桃井が気づいてリコに伝えた。

 

 そして開始二分で誠凛はタイムを取ることになり、得点は45対44と黒帝リードとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 ベンチに戻った黒子を待っていたのは、不満な顔を浮かべたリコだった。

 貴重なタイムアウトを使ったせいだろう。

 

 「黒子君どういうつもり?」

 「はい、そのことですが、キャプテンに聞きたいことがあります」

 

 時間はあまりない。

 黒子は先程から大人しい日向に声をかけた。

 

 「スリーを放った時、何か違和感を感じましたか?」

 「わからねぇ……あれは外す感じがしなかったような気がする」

 

 そう言って日向は頭を抱えた。

 たった一本のシュートミス。

 だが、日向にもあのミスがその程度のものではないということを感じたのだろう。

 絶望的な予感と共に。

 

 「やっぱり……そうなのかな?」

 「解りません。 ただ確かめるにもキャプテンに何度もスリーを撃ってもらうしかないですけど」

 「何度も撃つ余裕がないよね」

 

 桃井と黒子だけ全てを把握したように相槌をうつ。

 そんな彼らを見て、火神が苛立ったように声をかける。

 

 「って、どういうことだよっ!!」

 「簡潔に言います。 キャプテンのスリーポイントショットが奪われたかもしれません」

 「……どういうこと?」

 

 黒子の言葉に、リコもようやく状況の最悪さが理解できたのだろう。

 顔をしかめて尋ねるリコに、黒子は一連の状況を説明し始めた。

 

 「元・帝光バスケ部灰崎祥吾君のスキル『強奪』を喰らったかもしれません。 彼のプレーは黄瀬君のコピーに似通ったスキルで、ただ灰崎君の方は少し自分流にアレンジし、元の持ち主にそのプレーを見せつけ、相手のリズムを奪い、そのプレーを使えなくするというものです」

 

 能力が似ていたのに相性が最悪だったのは何ともいえない皮肉な話である。

 

 「青峰君達のプレーを完全にコピーできるきーちゃんなら、灰崎君の技を模倣することくらい容易かもしれません」

 「それに準々決勝で、灰崎君がいる福田総合学園と試合をしています。 おそらくその時に完全にものにしたんでしょう」

 

 スコアも281対0で破っていたため、黄瀬は灰崎に圧勝したのだろう。

 素行が悪かったとはいえ、元チームメイトに完全に利用された灰崎を黒子は哀れに思った。

 

 「っていうか、何その凶悪スキル……」

 「マジありえねぇだろ、帝光中……」

 

 小金井と伊月から覇気のない言葉が漏れる。

 そもそも、技を奪うという意味がわからない。

 まるでゲームの世界じゃねぇか、と誰が漏らした。

 

 「対策は……あるの?」

 「わかりません。 灰崎君の技は相手のリズムを奪うことで使えなくすることですから、自分のペースで撃てれば……もしくは」

 「ただ動揺している状態では、悪循環になるだけ、かと」

 

 黒子の予想では、日向のスリーポイントシュート―――だけではなくシュート自体がこの試合では使えなくなるだろう。

 灰崎の能力の逃れ方は、黒子が言ったとおりだったが、誰一人その能力からは逃れた人間はいない。

 中学時代の黄瀬も同様であった。

 

 状況を全て理解したのだろう。

 日向が、顔を上げて答えた。

 

 「わかった……監督、俺を一度下げてくれ」

 「日向君っ!?」

 「もしも、俺がそうなってたら、間違いなく足手纏いになる」

 

 そう言った日向の口元は痙攣しており、悔しさのあまり歯を食いしばっていた。

 その思い、覚悟を受け取り、リコは土田を代わりに投入することに決めたが、多くの問題は残っている。

 

 「しかし、日向抜きであいつらから得点を奪うのは難しいぞ?」

 「ああ、だから俺はなんとしても、シュートを感覚を戻してくる。 それまでは」

 「任せてくれ。 絶対に離されねぇようにする……スよ」

 

 火神は日向の眼を見てしっかりと頷いた。

 そんな火神の肩を日向は叩いてこう言った。

 

 「頼むぜ、エース」

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 タイムアウトは終わり、第二クォーター残り九分。 スコア 45対44で黒帝リードから始まる。

 コートに現れた火神の顔を見て、青峰は感心したように頷き、好戦的な笑みを浮かべる。

 

 「お? なんか気合入った顔してるじゃねぇか?」

 「あ? そんなの当たり前じゃねぇか? てめぇら五人をぶったおさなきゃならねぇンだよ」

 

 「へー、そのやる気だけは認めてやる……と言いたいところだが、お前につくのは俺じゃねぇ」

 

 少し残念そうに言った青峰の後ろから、現れたのは高校最大のプレイヤーだった。

 

 「ふぁ、さて、さっさと捻りつぶすよ」

 

 紫原の迫力にも呑まれることなく、誠凛は攻撃を仕掛ける。

 だが、攻撃の主軸の一人である日向が離脱したことは大きかった。

 強引に放り投げるように土田が放ったシュートは、リングを捉えることなくボードに当たる。

 そして、その下にいたのは紫原と火神である。

 

 「リバウンドッ!!」

 「っ!! こいつ」

 

 二人は同時に跳躍した。

 だが、先にボールに片手が触れたのは紫原である。

 

 「嘘、ここまで歯が立たないなんて」

 「さてと行こうかなー」

 

 『暴神の御手(ゴッドハンド)

 強靭な握力でボールを掴んだ紫原は、着地と同時に誠凛ゴールを目指し、ドリブル突破を仕掛ける。

 

 「あの巨体で、火神君と同じスピード?!」

 「くそっ、やらせるかよ!」

 

 今までパスを出していた紫原の突然の行動に、誠凛は対応を遅れ、ゴール前でディフェンスの壁を作ることができた。

 

 「させるかっ!?」

 「うお、伊月、土田、水戸部に黒子?! 四人がかりだ」

 「火神も後ろからきているぞっ!!」

 

 だが、それでも誠凛は完全に紫原を包囲した。

 パスを出す。

 そう考えた誠凛の考えを、あざ笑うかのように紫原は大きく跳躍した。

 ボールを両手でつかみ、弓のように背を反ると、そのまま溜めた力をゴールリングにぶつけた。

 『超新星(スーパーノヴァ)

 紫原の強大な力を全て叩きつける最強の破壊力を持つ紫原の切り札である。

 ダンプカーのようなダンクの前には、ディフェンスの壁は無意味であった。

 前方の四人を易々と吹き飛ばし、後方の火神すら尻餅をつかせた。

 

 「がっ」

 「ぐぁっ」

 「四人を、いや五人全員を吹き飛ばしたっ!?」

 「人間じゃねぇよってあれっ!?」

 

 観客は、轟音と衝撃に完成をあげるが、この『超新星』という技には一つ大きな欠点があった。

 十中八九。 ゴールを破壊してしまうことである。

 激しい音をたて、崩れるゴールに観客も選手も声を失う。

 

 「嘘でしょ……」

 

 リコがそう漏らしたように、コートで戦っていた誠凛選手も口をあけて惨状を眺めていた。

 そう彼ら五人だけを覗いて。

 

 「ヤバい、いい加減赤ちんに怒られる……」

 「てめぇ、紫原っ!! 何回もゴール壊すんじゃねぇよ!!」

 「そうっすよっ!! 折角の試合が中断されるじゃないっすか?!」

 「インターハイに来て、これで二回目か……そろそろ退場になってもおかしくないな」

 「本当にありそうで怖いのだよ」

 

 赤司達も違う意味で危険さを感じていると、コートで一人倒れている選手がいた。

 

 「っ土田君!?」

 「ごめーんー強くいきすぎたー」

 

 ダンクのブロックの際に足を挫いたのだろう。

 足首を抑えて苦悶の表情を浮かべる土田に、紫原はいつもの軽い感じで謝った。

 そんな紫原に、火神はついにキレた。

 

 「紫原っ!!」

 「よせ、火神っ!!」

 

 殴りかかろうとする火神を必死に水戸部と伊月が抑える。

 そんな火神を見て、赤司はため息を一つつくと紫原に指示を出す。

 

 「敦、彼をベンチまで運んであげなさい」

 「了解ー」

 

 大柄の土田を易々と紫原は抱かかえると、誠凛ベンチに向かって歩き出す。

 ベンチの後ろのブルーシートに、紫原が慎重に土田を寝かせると、近くにいた顔なじみに声をかけた。

 

 「さつきちんー、治療お願いねー」

 「う、うん」

 「あー、あと、次に入れる人間は丈夫なのお願いー。 間違えて捻りつぶしそうだしー」

 

 最後にリコにそう忠告した紫原は、コートへと戻る。

 しかし、コートに戻ってもゴールを修理しているために試合が始まることはない。

 仕方なくベンチに戻った赤司達が談笑をし始めて、数分後。

 ようやく試合は再開された。

 

 連続して行われた選手交代に誠凛のパスワークは乱れていた。

 その隙をつこうとした赤司の前に、ボールを持った黒子が立つ。

 

 「さて、もう終わりにしよう」

 「っまだですっ!!」

 

 流れを切るために、黒子は自分の切り札を使うことにした。

 パスではなくシュートフォームに入った黒子を見て、青峰達――四人は大きく目を見開く。

 ブロック不可の必殺シュート。

 

 「出た『幻影』シュートッ」

 

 誠凛ベンチから一年生の歓声が上がるが、現実は甘くなかった。

 

 「残念だよ、テツヤ」

 

 赤司の眼からは逃れることはできない。

 それは黒子の新技も同様だった。

 

 「僕の『眼』から誰も逃れることができない」

 

 ボールをカットした赤司は素早く、緑間へと回した。

 そこから赤司達の猛攻が始まる。

 青峰が、紫原が、黄瀬が、緑間が、そして赤司自身が攻撃をしかけ続け、第三クォーターが半ばが過ぎていた頃には、誠凛選手は誰もが疲労により肩で息をしていた。

 

 「スコア 74対44。 30点差だっ!!」

 「誠凛、後半に入って無得点のままだっ!!」

 

 水戸部、伊月、小金井の目には諦めが見えていた。

 火神の目には不甲斐なさと怒りが宿していた。

 だが、黒子だけは未だに闘志を燃やし続けていた。

 そんな黒子を、赤司は笑うことなく視界に捉え続けた。

 

 「『幻影』シュート。 流石だよテツヤ。 完成形からまた一つ成長を遂げるとはね……だからこそ、その努力に敬意を称して僕も本気を見せよう。 『天帝』から進化した新たな能力、『天空神の眼(ウラノス・アイ)』と『時空神の眼(クロノス・アイ)』の力を」

 

 黒子を捉えていた赤司の両目が淡く輝いた。

 

 『赤司誠十郎 完全支配(THE・WORLD)への道』




『天空神の眼《ウラノス・アイ》』と『時空神の眼(クロノス・アイ)』の中二臭い名前を思いついたのがこの小説を書いたきっかけでした。
もう少し話の内容を変えるべきか、とも考えましたが最強系で始まり最強系で終わるために、この結末を描くことにしました。
残り二、三話ですが、最後まで見ていただけたら嬉しく思います。

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