チートが過ぎる黒子のバスケ   作:康頼

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聖剣デュランダル

 赤司による赤司のための秘密訓練が始まって二週間。

 青峰は、いつものように体育館に向かうと、ここ最近の日課である紫原との1ON1を行う。

 紫原に不満があるわけがないが、流石にこの二週間ぶっ通しでやりあえば、青峰でも飽きてくるのだ。

 

 「おい、紫原。 赤司達はどこにいきやがった?」

 「さぁー?」

 

 のそのそとゴール下に向かう紫原に尋ねてみるが、二週間前と同じ答えが返ってきた。

 どうやら赤司、緑間、黄瀬の三人で何かをしているようだが、青峰の耳にはその情報は入ってこなかった。

 

 「ちっ、今日は止めにするか」

 「サボったらあとで赤ちんが説教らしいよー」

 「くそがっ」

 

 入学の際に赤司に貸しを作ったせいで、ますます頭が上がらなくなった青峰は練習を再開する。

 飽きたといえ、相手は高校最強のセンターであり、最強の盾でもある紫原である。

 練習開始三分ほどで、青峰は一瞬で先ほどの出来事を忘れると、目の前の好敵手との一戦を楽しんでいた。

 紫原も紫原で、赤司の命には忠実であるため、青峰の相手を買って出るハメになっていた。

 

 「まあ、峰ちんを潰すのも楽しいし、ね」

 「ぬかせっ!?」

 

 好戦的な表情で見下ろしてくる紫原に向かって、青峰も不敵な笑みを浮かべる。

 何十回もの1ON1を繰り返すこと三時間。

 窓の外は既に真っ暗闇で、日が完全に落ちていた。

 赤司達はもう来ないだろうと、青峰が紫原と協力して後片付けをしていると、突然体育館の扉が開いた。

 

 「待たせたな」

 

 颯爽とした歩みで体育館に入ってくる男、言わずと知れたここ最近練習に現れなかった赤司様である。

 その背後には黄瀬と緑間も立っており、全身汗まみれになっていた。

 

 「おい、赤司。 人にサボるなって言っておいといて自分がサボるとはいい度胸だな?」

 

 久しぶりに現れた赤司が全く悪そびれない態度だったので、思わず青峰が噛みつこうと近づくと、突然横から手が突き出されて歩みを止められた。

 

 「青峰っちっ! 勝負っすっ!!」

 「はぁ? 何言ってんだお前?」

 

 割り込んできた黄瀬の言葉に、青峰は眼を細めると、赤司が自信満々な表情を浮かべて答える。

 

 「ふ、涼太はお前は倒すために厳しい修行に耐えてきたんだ。 その成果を今ここで見せよう」

 「……こいつ、大丈夫か?」

 「あまり触れないでやってくれ。 どうやら二徹しているらしいのだよ」

 

 気疲れしているのか、緑間のため息は普段以上に深く、視点も定まっていなかった。

 いや、緑間や赤司だけではない。 黄瀬の眼もかなり充血していた。

 青峰の視線に、黄瀬は何か気がついたのか、普段の華麗なスマイル―――に程遠い無様な面で親指を立てる。

 

 「徹夜明けっす!!」

 「知らねぇよ馬鹿」

 

 馬鹿二人の相手が面倒くさくなったのか、青峰は黄瀬と赤司の脇をすり抜けていくが、突然肩を掴まれる。

 力強く握られた肩からの痛みに、思わず舌打ちをついた青峰は、自分の肩を持つ緑間を睨みつける。

 

 「何の真似だ」

 「さっさと1ON1をやるのだよ。 そして俺たちを解放しろ」

 

 鬼気迫る表情の緑間の眼もよく見てみると真っ赤に充血しており、その姿に流石の青峰も気後れしてしまう。

 眼の前には眼を充血させた阿呆三人が立ち塞がり、唯一味方になりそうな紫原は片付けたボールを取りに行っている。

 故に青峰の取れる手段はただ一つ。

 

 「上等だ……ひねりつぶしてやるよ」

 

 黄瀬涼太を倒すだけである。

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 最初に攻め手になったのは黄瀬である。

 センターサークル内でボールをつく黄瀬の姿を一瞬たりとも見逃さないように、青峰は睨みつけるように見て、姿勢を落とす。

 紫原との練習により、体は万全とはいえないが、それは黄瀬も同じである。

 完璧に潰す、青峰が足に力を加えたその時、黄瀬が飛んだ。

 流れるようなフォームから放たれたボールは体育館の屋根に向かって飛んでいく。

 そして、そのまま大きく弧を描き、リングネットを揺らした。

 

 「なっ」

 

 一歩もその場から動くことができなかった青峰は、呆然とその光景を眺めるしかなかった。

 アレと同一のシュートは、青峰も腐るほど見てきた。

 間違いなく、そのシュートフォームは緑間真太郎の伝家の宝刀ロングレンジシュートに間違いはなかった。

 コピーしたのか?!

 だが同時に疑問が生まれる。

 黄瀬のコピー能力は、キセキ世代のモノは使えない。

 

 「次は青峰っちの番っすよ」

 

 そう言ってボールを拾いに行く黄瀬の表情は自信に充ち溢れていた。

 

 「なるほど、どういうわけか知らねぇが、緑間の技を模倣できるみてぇだな」

 

 確かに驚き、その能力の厄介さにも脅威を覚えた。

 しかし、青峰がやることは変わらない。

 自分のスタイルを貫き、目の前の敵をぶち抜くのみである。

 黄瀬からボールを投げ渡された青峰は、手加減なしの全開でコートを駆ける。

 その行動を呼んでいたのか、黄瀬の反応は早かった。

 素早いケアで詰め寄ると、高速の右手が、青峰のボールへと伸びる。

 それをターンしてかわすと、そのままツーポイントエリアへと切り込んだ青峰は大きく跳躍する。

 まるで鳥のように羽ばたいた青峰は、そのままダンクを決めようとするが、一瞬のうちに回り込んでいた黄瀬の手により、ボールを弾かれた。

 あまりの圧力に、青峰は後ろへ跳ね飛ばされるように着地すると、しびれる右手を振る。

 

 ―――完全に力負けしていた。

 あの状況で、青峰は今まで黄瀬に負けたことはない。

 いや、正確に言うとあそこまで青峰を吹き飛ばすことができる人間は一人しかいない。

 紫原敦のブロック。

 最強の盾といわれる男のプレーに類似――いや、完全に紫原と同等の圧力だった。

 先程まで対峙していた青峰には、黄瀬のプレーの脅威さが理解できた。

 

 「黄瀬、てめぇ……」

 「青峰っち、行くっすよ」

 

 攻守を入れ替わり、再び攻勢となった黄瀬が青峰に迫る。

 その動きは今までの黄瀬の動きとはまるで別物で、そして青峰本人が一番理解しているスタイルだった。

 変幻自在のドリブル。 まさにそれは青峰大輝だけのオンリーワンスキルだった。

 動揺する青峰に、黄瀬は切れ味のあるクロスオーバーでそのディフェンスを抜きにかかる。

 しかし、青峰の動きゆえに、本人(あおみね)には容易に読み切れた。

 素早く進行方向を塞いだ青峰は、神速の反応で黄瀬からボールを奪おうとしたその時―――突然、膝下が崩れた。

 『アンクルブレイク』赤司の十八番であった。

 

 「マジかっ」

 

 一度崩れてしまったら、黄瀬を止めることができない。

 青峰は、黄瀬がゴールリングにボールを叩きつける光景を、尻餅をついてみるしかなかった。

 


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