ファンタジーな魔法って言わなかったっけ?   作:いつのせキノン

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【前回までのあらすじ】

 闇の書の起動により、防衛システム『ナハトヴァール』が動き出す。その攻撃性は、これまで取り込んだ輪廻メグルの経験値と、内部に侵入した記憶の欠片たちの浸食によって“怒り”の感情を獲得。より苛烈に、より過激な思考回路を獲得するに至り、『(もだ)(いか)るナハトヴァール』と化した。彼は自ら溢れ出す黒い泥でもって大地を上書きし、徐々に浸食を開始する。
 その一方、闇の書の起動に巻き込まれ反応が消えた高町なのはのバイタルをキャッチしたアースラ乗組員たちは、彼女が見覚えのある白い炎を纏いながら祈る姿を目撃する。果たしてその祈りは何のための、そして、誰のためのものなのか。

 誰一人として理解の及ばぬ人智を超えた光景に、誰もが絶句する他になかった。








ターニング・ポイント

 

 

 

 

 

 

 まず感じたのは、重力。

 全身をくまなく縛り付ける鎖のように。

 指先までの感覚すら曖昧で、ちっとも動けなかった。

 

 くぐもった音が、微かに脳裏に反響していた。

 

 まるで水の中のよう。

 

 息が苦しい。

 思わず、大きく吸い込もうとして、喉に違和感が絡まって咳き込んだ。酷く砂っぽくて、口に入れていい味ではない。

 

 目を開けているのだろうか。

 焦点が定まらない。

 

 かすかに白く、光が見える。

 暗闇の隙間から射し込む白い光だ。

 

 うつ伏せから、何とか身体を捻って仰向けに。

 どく、どく、と。自分の鼓動がうるさいほど聞こえる。

 

 しばらくは、それが音のすべてだった。

 

 

 

 肩でしていた息が落ち着いてきて、倦怠感が幾分か消えていった。指先も、ようやく感覚が戻ってくる。

 

 固く、粉っぽい、冷たい床。

 小石のような、砂利のような。

 指の腹を撫でる感触と、薄暗い天井の景色。

 

 首を微かに巡らせると、視界の端には階段が見えた。

 折り返し階段の踊り場には、崩落した瓦礫が所狭しと鎮座している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じ、地震……ッ!?』

 

 

 

 アリシアが、狼狽しながら声を発した。

 

 

 

『ひぃっ……!?』

 

 

 

 すずかが顔を真っ青にして、()()を見てしまった。

 

 

 

『こっちッ、速くッ!!』

 

 

 

 暗転。

 

 

 

 逃げるように、廊下を駆け抜け、階段を駆け降りる。

 

 

 

 一段飛ばして、また一段。

 手すりを掴んで、急旋回。

 足を踏み出して、もう一歩。

 

 

 

『アリサちゃん、危ない――――ッ!?』

 

 

 

 下から、すずかが血相を変えて叫んだ。

 

 

 

 ハッ、と、真上を見上げる。

 

 

 

 瓦礫の濁流。

 

 

 

 刹那に、背中を叩く衝撃。

 

 

 

 肩越しになびく金髪が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、りしあ……すずか……?」

 

 フラッシュバックする記憶が脳裏をよぎる。

 

「へんじ、して――ぅッ!?」

 

 起き上がろうと手をついて、激痛が脳天まで駆け抜けた。

 右腕が軋むような鋭い痛み。思わず身をよじり、その痛みに固まった。

 

 左手は、辛うじてか無事らしい。

 歯を食いしばり、頭と左腕を支えに、何とか身を起こした。

 

 蛍光灯はとっくに落ちていて、光は全くない。

 バチッ、と。割れた非常口プレート裏から、プラグが火花を吐き出した。

 

「……さむ……」

 

 コチコチと、歯の奥から音がする。

 身体中が震えている。

 

 気温だけではない。

 未知の現象、無音の空間、孤独の時間。

 ありとあらゆる不安が、底知れぬ恐怖で絶望を押し付けてくる。

 震えを止めようと歯を食いしばったところで、芯から凍える悪寒はとどまるところを知らない。

 痛む右腕を抱えて蹲るしかできなかった。

 そうでもしないと、凍り付くように息が止まってしまいそうで……。

 

 

 

 カツーン、と。

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

 音がした。

 小石が一つ、地面を打つような。

 その音はずっと真っ直ぐ、一本の廊下の方から聞こえた。

 

 自然と、視界はそっちを見ていた。

 

 天井が崩れ落ちて、穴が空いている。

 その穴からは微かに光が差し込んでいて、砂埃が舞う様がよく見えた。

 

 その、少し手前。

 少女が一人、仰向けに倒れていた。

 僅かな光が、その顔を照らす。

 

「すっ、す、すずかっ……!!」

 

 極寒の最中を思わせる悪寒に、呂律すらまともに回らない。

 ふらつきながら立ち上がって、時折転びそうになる。

 でも、目の前の親友を放っておくことはできなかった。

 

 すぐ横に膝を着いて、横たわるすずかを見下ろして、しばし固まる。どうすればいいのか、一瞬わからなかった。

 見よう見まねで、首元に指先を当てた。

 まだ体温は温かくて、脈拍も感じ取れる。

 呼吸も、胸は浅く上下していた。

 

 生きている。

 

「は、ぁ、良かった……良かったぁ……」

 

 幸い、出血は見当たらない。

 微かな擦り傷や打撲の痕は見えるが、致命傷に見えるものは無かった。

 

 そっと、すずかの手を握る。

 間違いなく、温かな親友の手だった。

 

「ん、…………う……?」

「っ、すずか、大丈夫なの……っ!?」

 

 ふと、左手が握り返される感触。

 すずかが呻き、薄く目を開けた。

 

「ぁ、アリサ、ちゃん…………良かった、無事、だったんだ……ね……」

「な、なにを言ってるのよっ、無事に決まってるじゃない……ッ!! すずかこそっ、頭打ってたりは……!?」

「大丈夫、だよ……ちょっと、びっくりして、……気絶、しちゃった……」

 

 まだ少し、覚醒しきってはいない。

 微睡みと戦うように、すずかはしばし視線をさ迷わせ、それからゆっくりと起き上がった。そっと、その背を左腕で支える。

 

「……ありがとう、アリサちゃん。ちょっと、目が覚めてきたかも。……えっと、アリシアちゃんは……?」

「っ……、わかんないわ……アタシも、さっき目が覚めたばっかりで……アリシアは見てないの……」

 

 記憶をひっくり返して思い出す。

 得体の知れない()()から逃げるように階段を駆け下りて、前にはすずかが、後ろにはアリシアがいた。

 天井が崩落して、それから……、

 

「アリサちゃんとアリシアちゃんが、一緒に飛び降りて来たのは、わたしも覚えてるよ。咄嗟に受け止めようとして……、その後は……?」

 

 アリシアが、背中を押してくれたのは、覚えている。

 2人まとめて階段から転げ落ちて来るのは、すずかが目撃している。踊り場天井の崩落に巻き込まれたというのは考えにくい。

 普通なら、2人の近くにいると予想できるが、反して辺りには人影が見えない。

 

「アリシアーッ!! いるなら返事してーっ!!」

「アリシアちゃーんっ!!」

 

 何度か呼びかけるが、音は暗闇に吸い込まれるばかりで、返答は一向に帰って来なかった。

 

「どうしよう……病院の人たちも全然いないし……」

「なのはとフェイトは屋上に行ったっきり、はやても消えちゃうし……もう何がどうなって……ッ!!」

 

 少しずつだが、思考が回り始める。

 すると、次々と不可解なことが頭の中で渦を巻き始めた。

 

 はやてが苦しみ始めて、

 その傍らにあった分厚い本が宙に浮いて、

 急に紫色のおどろおどろしいモノが溢れかえったかと思えば、

 逃げた矢先に建物の崩落に巻き込まれ、

 アリシアの姿まで見失ってしまった。

 

 わからない。何もかもが、わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いまっ、今、輪廻って言った!? それ、“輪廻”って、“輪廻メグル”!?』

 

 

 

『ほ、ほら、すずかちゃんが前送ってくれた写真……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い返す。

 

 はやては知っていた。

 

 アリシアも知っていた。

 

 フェイトも知っていた。

 

 なのはも知っていた。

 

 

 

 思い出せ。

 

 

 

 八神はやての青ざめた顔。

 

 

 

 ちりちりと、脳髄が燃えるように、頭の奥が熱い。

 

 

 

 知っているはず。知っていなければいけない。

 

 あの場で少年の不在に違和感を抱けなかった。

 

 

 

 なぜ?

 

 会っているのに。

 話しているのに。

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………嘘……なんで、忘れて……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチン、と。

 

 

 

 

 

 

 将棋の駒が置かれた音がする。

 

 

 

 

 

 どうする? と。

 その少年は、記憶の中で、静かに目を閉じて、雰囲気で問いかけてくる。

 

 

 

 

 盤を挟んだ対面に座る、同い年の男の子。

 

 

 

 

 

「あ、ああっ……!!」

 

 

 

 

 

 図書館で、彼を見かけた。

 

 車椅子を押して、彼の元へと歩み寄った。

 

 

 

 忘れるはずもない。忘れるワケがない。()()()()()()()()()()()ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……メグルくんが……、いなく、なっちゃって……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主を失った教室の机。

 

 誰かの荷物が入っている棚。

 

 テープが貼られて開けられない下駄箱。

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 その日、まるで最初から居なかったかのように存在を消してしまった、少年がひとり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふたりは、初めてその存在を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『C分隊、行動不能!!』

『A分隊全滅、至急回収を――ッ!!』

『こちらL分隊、負傷者が――――ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 

 

 盤面から3つ、駒が弾かれる。

 

 

 

『結界構築完了しました!! これより援護に向かいます!!』

『結界の劣化が早すぎる!! 維持に人数が足りません!!』

 

 

 

 追加投入できる戦力は最悪値。状況の好転は見込めない。

 

 

 

「G分隊はW分隊と合流、その間にK分隊が正面から注意を引くんだ!! J分隊は僕の元に!!」

 

 

 

 クロノ・ハラオウンに迷いは許されない。

 刻一刻と移り変わる戦況に余計な思考は使えない。

 

 腰のベルト、カードホルダーに収められたデュランダルのフチを、親指でそっとなぞった。

 

 切り札は、これしかない。

 

 眼下で闇の書の暴走体の周りを飛ぶ隊員たちを見下ろし、乾いた唇をなめる。

 

 暴走体は秩序のない獣だ。

 駄々をこねるように破壊を振りまく。

 地団駄を踏むだけで大地を捲り、津波を引き起こす。

 背中から無数の蛇を生やして、その蛇一匹一匹の鼻先から放たれる砲撃魔法。威力も高く、即死ではないが、当たれば重傷は免れない。

 

 そして、目下のところ暴走体を中心に広がる謎の領域。

 結界魔法により浸食を防いでいるものの、長くは保たないだろう。

 分隊の砲撃魔法は当たっても効いている素振りはない。ただ、暴走体は、鬱陶しいと言わんばかりに虫を叩き落とす。

 

「火力不足……、」

 

 思わず嘆きが口から漏れる。

 暴走体の巨体そのものが分厚い装甲であり、それを突破して傷をつけたところで、底無しの魔力を贅沢に使った超高速再生が、一瞬で全てをなかったことにしてしまう。

 

 デュランダルならば、その状況を突破できるか?

 

 否。

 

 突破は不可能。

 

 しかし、硬直した戦況に一石を投じることは可能だ。

 エターナルコフィンならば、あの暴走体を丸ごと凍結することができる。動きは止められるだろう。

 

 ()()()()()()()

 動きを止めただけで、暴走体が無くなる訳ではない。

 暴走体を消滅させるにはブレイカー級の魔法か、もしくはアースラのアルカンシェルしかない。

 アルカンシェルの場合、地表に向けて撃つことはできない。威力を考えると大地諸共吹き飛んでしまう。使うならば宇宙空間に暴走体を転送する必要があるだろう。

 その転送魔法も、暴走体の今の巨体では収まりきらない。攻撃魔法で極力小さくしなければ実行は不可能だ。

 

 エターナルコフィンによる魔力消費は、クロノ自身の総魔力量を考えればその大半を食い潰すだろう。立て続けにブレイカー級魔法を行使する程残りはしない。

 

『全分隊に通達、暴走体は陸地から完全に離れ沖合の目標地点に到達っ!! ――――クロノッ!!』

 

 通信でエイミィの声が鼓膜を叩いた。

 

 決断まで、あと刹那。

 

 

 

「総員、ただちに当該区域より退避せよッ!! これより、広域凍結魔法を行使する!! その後、直ちに砲撃魔法の準備をッ!!」

 

 

 

 

 可能性に賭ける。

 

「――――提督、アルカンシェルの準備を。波状砲撃終了後、転送します」

 

 選択肢はない。

 氷漬けにした暴走体を可能な限り破壊し、転送可能な状態にまで縮め、その後宇宙空間まで魔法で転送。アルカンシェルにて消滅させる。

 

 転送魔法の行使はクロノがやる。

 専門ではないが、できなくはない。

 ただし、残った魔力で転送できる距離は大気圏を抜けれるかどうか。暴走体が大きければ大きいほど、その距離は縮む。

 

『アルカンシェルの使用許諾――――承認』

 

 地表に近い場合、アルカンシェルの余波が被害を生むだろう。

 

 

 

 だが、あの眼下のバケモノよりはずっといい。

 

 

 

 

 あとは、やるだけ。

 

 

 

「――――悠久なる凍土」

 

 

 

 氷結の杖デュランダルを顕現。スタンバイからアクティブへ。

 

 

 

「――――凍てつく棺のうちにて」

 

 

 

 詠唱開始と同時、リンカーコアから大量の魔力が杖へと注ぎ込まれてゆく。

 

 

 

「――――永遠の眠りを与えよ」

 

 

 

 ごっそりと、魔力を失った。

 

 それは目眩(めまい)だろうか。

 微かに視界が白けたような。

 

 

 

「――――凍てつけ」

 

 

 

 いや、違う。

 口から漏れた吐息が、白く染まった。

 

 デュランダルが淡く光っている。

 

 

 

 寒い。

 

 鼻から息を吸って、その冷たさに震えたくなる。

 

 

 

 それは死の予感だろうか。

 やがて生命は息絶えて。

 冷たく、氷のように眠る。

 

 

 

 永久凍土という名の棺(エターナルコフィン)

 

 

 

 

 

 これならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『         A         』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 果たして、それを目があったと表現していいのかわからなかった。

 

 

 

 

 ただ、背中を駆け抜けた悪寒が、寒さではなく恐怖によるモノだと理解するのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 振り上げたデュランダルを振り下ろす、その瞬間。

 

 

 

 暴走体の頭の上、女のシルエットが、

 

 背から生える無数の蛇たちが、

 

 間違いなくクロノの方を見ていた。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 やがて思い至る未来予測に。

 真っ暗な闇が見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょぉーっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その濃厚な死の闇を振り払ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なン          !?」

 

 自身の声すらかき消され。

 視界が真っ白に染まり上がった。

 

 思わず耳を塞いで、それが意味をなさないと悟っても。

 

 耳鳴りと頭痛が、掌を耳から離そうとさせてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 それからたっぷりと10秒は身動きできなかった。

 恐る恐る目を開け、薄っすらとぼやける視線で遥か下に目を向ける。

 

 そこに先程までの恐怖はなかった。

 

 見れば、暴走体から無数に伸びていた蛇たちは例外なく切り落とされており、巨体を支えていた足は雷に打たれたかのように痙攣し、海辺に伏していた。

 

「……何が……?」

「クロノ、大丈夫? っていうか間に合った?

「っ、フェイ―――…………ト?」

 

 その声は実に聞き馴染みがあった。

 

 自分の名を呼んだのは、確かにフェイト・テスタロッサで。

 振り返れば、そこには確かに彼女がいた。

 

 雷を纏わせ、バチバチと放電させながら。

 空気が一瞬で乾燥し、静電気のようなねっとりとした感覚が顔中を撫でる。

 

「アリシア、もうちょっと出力抑えないと……え、もっと? 結構抑えるの繊細でまだ慣れないんだけど……

 

 その声音は間違いなくフェイトのものだが、アリシアの名を呼んだ次の瞬間、違和感がクロノの中ではっきりとわかった。

 彼女の喋り方というかトーンは、姉のアリシアを思わせるものなのだ。

 

「……アリシアと話してるのか?」

「あ、うん。今は訳あってよくわかんないけどフェイトとわたしが一緒になっちゃってるって言うか? あ、アリシア? 急にしゃべられると困るんだけど……でもこうしないとクロノと話せないよ? それは、そうなんだけど……」

 

 フェイトが喋っているのに、急にアリシアのトーンに切り替わる。

 多重人格かと疑うほどの切り返しっぷりにクロノは舌を巻いた。

 

 ともかく、何やらフェイトとアリシアが一体化している、らしい。原因は不明。

 ただ、フェイトとアリシアは魂を共有する存在だと輪廻メグルが言っていた。それが何かしら作用したのかもしれない。

 

とりあえずクロノは感謝してよねっ、わたしたちが間に合ったからよかったけど!! うん、もうちょっと遅かったら、危なかった。気を付けてね」

「……それには感謝しているよ。何があったかは後で聞く。ひとまずは……、アレをどうにかするのが先だ」

「うん……直撃させたけど、あまり効果はないみたい……? そうだね、蛇は割とアッサリだったけど、本体に当たる直前で急激に減衰してた。何かしらバリアでもあるのかも

「……因みに、何を直撃させたんだ?」

純粋な雷をいっぱい。今は勝手に出てくるやつを無理矢理押し付けるのが精一杯かなぁ。……うん。今までよりずっと速くなってるけど、速すぎて制御しきれていないのが現状。止まっていれば、何とか……」

 

 眼下を見やり、再び暴れながら起き上がる暴走体を睨みつける。

 

 クロノの窮地を救ったのは、ただフェイトたちが速く動いた衝撃波と電撃の嵐。

 今の彼女らはいるだけで稲妻を迸らせる存在と化しており、飛び回るだけで雷嵐を顕現させてしまう。

 今もなお身体中が帯電しており、時折バチッと音を立てて稲妻が弾けていた。

 

って言うかそろそろ動き出しそうだけどどうするの?

「やることは単純だ。動きを止めて攻撃、弱ったところを転送魔法で打ち上げ、アルカンシェルで破壊する。拘束は僕がデュランダルを使って実行、転送魔法も得意じゃないが使える。魔力が少ないから、奴の凍結中にできる限り削ってほしいのが本心だ」

「わかった。何とか、やってみる。でもフェイト、アレ以上の火力出そうとすると、わたしたちまた()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()……?」

 

 なんだそれは、と顔を向けて見れば、アリシアが表情に出てきてこう言った。

 

わたしとフェイト、実はさっきまで火星に激突して迷子になってたの。バルディッシュが教えてくれたから気付いたけど、移動が速すぎて地球にいられないみたい

「どういう存在だそれは……」

「わからない……メグルがいたら、わかるかもしれないけど……」

 

 ともかく、光速に近いレベルで移動するがゆえに、地球の重力圏を簡単に突破し、宇宙空間に投げ出されるということになる。

 

出力をセーブしながらじゃないと、戦線にとどまれない。火力は上げたいけど、流石に今度は土星まで行っちゃったらヤバいでしょ? 宇宙空間だと、現在地も把握しづらいから……下手をしたら戻れなくなる、と思う」

「……わかった。なら自分のできる範囲でいい、削ってくれるだけで大助かりだ」

 

 よし、とクロノは内心小さく拳を握る。

 火力枠がひとりプラス。これはかなりの朗報だ。

 手札が増えれば、戦況はこれまでよりずっと良い方へ傾けられる。不安はあるが、先程の手詰まりよりはまだまだマシだ。

 

あ、でもそんなに悲観しなくてもいいんじゃない?

「? それはどういう意味だ?」

ほら、あの炎――――、うん、あれは――――、」

 

 ふと、フェイトとアリシアは、ある方向を指差した。

 

 

 

 

 

 

 そこにはかつて山があったのだろう。

 しかしそこにはもう面影などない。

 

 ひとつ。

 音が響く。

 

 それはひたすらに大きな影。

 

 白き炎の荒野の、その真ん中。

 

 

 

 

 見上げるほどの巨人が、ひとつ。

 

 

 

 

 

 とある神話によれば。

 

 

 

 かつて神なる大地は巨人を産み出した。

 

 

 

 巨神・タイタン。

 

 

 

 その身は星の大地でできていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土も、木も、岩も。

 あらゆる大地が、そこにある。

 

 腕を成し、脚を成し、身体を成し。

 

 

 

 

 

――――オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――

 

 

 

 

 

 高らかに、咆哮する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、何ッ!? 何なの!?」

「わ、あ、アリサちゃんッ!? わたしたち飛んでるよぉっ!?」

 

 その掌に、小さな命がふたつ。

 

 

 

 

 

 

「――――……話を聞いたとは言え、酷い惨状だな……」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 その肩に佇む、少年と少女。

 

 

 

 

 

 その少年は深く被った帽子のつばを摘んで、じっと海辺に横たわるモノを睨み付けた。

 

 

 

 

 

「…………本当に、ロクでもないことをしてくれた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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