約半年ぶりの更新になります。大変、お待たせしました!!
この半年近く色々あったんですが、それは後書きで……。
ようやく今回から第2章が始まります!!
それからタイトルですが、お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。とある海外刑事ドラマのパロディになります。
それではどうぞ!
第7話 「ルール厳守の武偵バッジ」
-斎藤宅 6:00 a.m.-
ついにIS学園に転校する日がやってきた。
こんな状況にも関わらず、前日にグッスリ眠れた自分の胆力を褒めてやりたい。朔哉は本気でそう思っていた。
武偵高を去ってから約2ヵ月。不思議なことに誠一郎に呼び出されて以降、これと言って変わったことは無かった。テレビをつけても、織斑一夏に関するニュースや報道はしつこいくらいに放送されているが、朔哉に関する情報はほとんど流れていない。千冬が尽力してくれたお陰なのか、それとも単に世論が朔哉に関して無関心であるのか……。自分自身でも分からないが、後者であるなら少しばかり悲しいところだった。
寝間着のまま階段を降りて洗面所に入る。冷たい水で顔を洗うと、リビングへ向かった。
「おはよう朔哉。眠れたか?」
真臣は既に起きて、キッチンでオムレツを作っていた。卵の焼ける良い匂いが部屋中に立ち込める。
「うん、まあね。コーヒー飲む?」
「ああ、貰おうかな」
「了解」
朔哉がコーヒーを淹れていると、やがて朝食が出来上がった。献立はオムレツにサラダ。玄米入りの飯に手作りのオニオングラタンスープ。
父は下手なシェフよりも料理が上手い。刑事を辞めて店でも出した方が儲かるのではないかといつも思う。口には出さないが……。
「じゃあ、食べようか」
「うん」
しっかり食べて一日を乗り切ろうと決め、朔哉は席についた。
「じゃあ、俺はそろそろ行くからさ」
「ああ、行ってらっしゃい」
食事の後、細身のスーツに着替えた真臣は玄関に向かい、後片付けをしていた朔哉も彼を見送る。自分が家に居る時は必ず父の見送りは欠かさないようにしていた。考えたくはないが父の仕事上、その挨拶が最後になってしまうかもしれない。
「今日は多分遅くなる。お前も女の子達と楽しく飯食ってこい」
ニヤリと笑った真臣に朔哉は苦笑いで返した。
「初日でそんなに仲良くなれないだろ……」
「いいや、分からんぞ? せいぜい楽しめ16歳!」
そう言って朔哉の肩をバシッと叩いた真臣は「あ、そうだ」と思い出したように呟くと、壁のフックに掛かっている鍵―――――あの夜、渡したのと同じ物―――――を朔哉に手渡した。
「転校祝いだ。好きに使え」
「……え!? いやでも、あのバイク……」
朔哉は躊躇いがちにキーを返そうとするが、真臣はその手を押し戻す。
「俺はもうほとんど乗らないからな。売って他人の手に渡るより、お前に乗ってもらう方が良いよ」
そう言って寂しそうに笑った父を見て、キーを握る手に力が入った。
「……ありがとう」
「じゃあ、行ってくる。お前も気をつけてな」
「うん、行ってらっしゃい」
父を見送ると、朔哉も部屋に戻り身支度を始める。早起きはしたが自分もあまりのんびりはしてられない。ドアの前に置いてあった紙袋を憂鬱そうに手に取った。
「……これはあまり着たくないよなぁ」
紙袋の中で綺麗に畳まれているIS学園の制服を覗き込んで溜め息を吐いた。
お世辞にも格好良いとは言えない、武偵高のブレザーが格段にマシに見える。こんなものを着て、町を練り歩いたり、電車やバスに乗った日には目立って仕方がないだろう。特に自分は世界で2人しか居ない男性IS操縦者だ。せっかく千冬が自分に関する情報を規制してくれたのに、自ら名乗り出るに等しい愚行は避けたい。
(学園に着いたらトイレで着替えればいいか。誰も文句は言わないだろう……)
去年、
そして身支度を整えると1階の和室まで行き、仏壇に置かれている2枚の写真に向かって手を合わせた。
「行って来ます……母さん、
……………………。
もちろん返事はしてくれない。だが2人の顔を見ると安心出来た。
仏壇から離れると障子を閉める。玄関で靴を履き、戸締りを確認。
ガレージに向かうと、そこには黒いカバーに覆われた一台のバイクが停められていた。朔哉がカバーを取ると、その姿が明らかになる。
『HONDA CB400SF』
真っ赤なカラーリングのそれは、型こそ少々古いが新品同様の輝きを放っていた。
元々、このバイクは真臣が母・
朔哉達もそれなりに大きくなり手が掛からなくなった頃、両親はまた昔のようにデートをしようと話し合っていた。その時の2人は本当に楽しそうで、自分達だけの世界にいるようだったのを覚えている。
厳しくも優しかった母が1人の少女のように話しているのを見た朔哉は、母をそんな表情に出来る父を恥ずかしくも誇らしく思っていた。
しかし、このバイクに2人が一緒に乗る機会は訪れなかった。父が仕事で忙しくしている間にどんどん月日は流れていき……ある日突然、母はこの世を去ってしまった。2人の夢は叶わなかったのだ。
「…………」
ヒンヤリとした赤いボディーに手を置いて感慨深げに目を閉じる。
「……よし、行くか」
バイクを外まで転がすと、シャッターを閉めてヘルメットを被る。差し込んだキーを回そうとした、その時だった。
「おはようございます。朔哉さん」
不意に呼び止められ、声がした方を振り返る。
そこには武偵高のセーラー服を着た、一人の小柄な少女が佇んでいた。青みがかったショートヘアーにガラス細工のような鳶色の瞳。無表情で何を考えているかは朔哉自身にも分からないが、人形のように端正な顔立ち。頭にはオレンジ色のヘッドホンを付けている。無口を貫いているが、それでも見とれるほどの美少女だった。街を歩けば多くの男が振り返り、声を掛けられても不思議ではないだろう。
肩に掛けている
―――――ドラグノフ狙撃銃。
AK-47を元にした古いライフルだ。しかし耐久性と信頼性に優れ、悪環境でも故障しない。それでも改造はかなりしているらしいが、それは彼女の狙撃の腕があってこそだ。彼女に命を助けられた武偵は数多い。もちろん自分自信も幾度となく救われた。
焦点の合っていない目で朔哉の姿を捉えたその少女は―――――
「レキさん?」
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶり……。いや、こんな朝早くにどうしたんだ?」
「…………」
返事は無い。彼女は無表情のまま、メットを脱いだ朔哉の目をジッと見つめてくる。
「……もしかして、見送りに来てくれたのか?」
今のはあくまで”そうだったらいいな”という朔哉の願望だ。だが、感情に乏しい彼女にそのような意図があるとは思えない。冗談交じりに「ロボットなのではないか?」と言われるような少女に。
しかし予想に反して、彼女はコクりと頷いた。武偵高に居た頃に何度か
「そうか……ありがとうな」
「いえ、お気になさらず」
「…………」
「…………」
しばらくの間、お互いに無言が続く。これは……中々に気まずいものだった。やはり自分には女の子と上手く会話するスキルといったものが乏しいらしい。
何を話せばいいのだろう。世間話? 彼女と? 話題は?
普段は考えないような内容が、グルグルと頭の中を駆け巡る。しかし、沈黙に終止符を打ったのは意外にも彼女だった。
「気をつけてください朔哉さん。あなたに……嫌な風が吹き始めている」
”風”。レキがよく口にする言葉だ。『風が言っている』『風に命じられた』など。最初は誰かのコードネームなのではと思ったが、どうやら違うらしい。
「えーっと……嫌な予感がするって解釈でいいのか?」
コクりと再び頷いた彼女の瞳はいつも以上に虚ろであり、不安に駆られるのには十分だった。
「わ、分かった。君がそう言うなら」
気に留めておくよと言うと、朔哉自身も気になることを聞いてみた。
「俺の方からも質問いいか?」
「何でしょう?」
無表情のまま首を傾げた彼女に向けて続ける。
「そのヘッドホンさ、何の音楽聴いてんの?」
「音楽ではありません」
「じゃあ、ラジオ?」
フルフルと首を横に振る。それ以外に何があるのだろう?
「風の音です」
「あ、ああ……そうですか……」
気の抜けた返事をした朔哉の口調も思わず敬語になってしまった。
レキは門の前に停まっている
「それでは」
それだけ言うと朔哉の返事も待たずに、
◇
「でかいな……」
これがIS学園に到着後、朔哉の口から放たれた記念すべき第一声。武偵高も一般校と比べると大きい方だが、此処は桁が違う。
校門前の守衛に生徒手帳を見せ、駐車場の場所を聞く。無愛想な中年男性の守衛は一言「あっち」とだけ答えると、すぐに警備室に引っ込んでしまった。
指定された場所にバイクを停めるとメットだけを持ち、近くのトイレ―――――ありがたいことに男子トイレもあった―――――で制服に着替える。
先日、千冬から連絡があった。登校時間の一時間ほど前に職員室まで来るようにとのこと。
途中、草むしりをしていた用務員と思われる男性に道を尋ねつつ、やっとの思いで職員室前まで辿り着く。
「失礼します、斎藤朔哉です。織斑先生はいらっしゃいますか?」
そう言って室内に入るが……誰も居ない。電気が付いているということは機能はしているはずなのだが……。
しかし、要らぬ不安だったようだ。物陰から目的の人物が顔を出す。コーヒーカップをデスクの上に置くと、彼女はこちらに近づいてきた。
「おはようございます」
「うむ、おはよう。電話では何度か話したが、こうして会うのは約2ヶ月ぶりか」
「そうですね」
挨拶を済ませると千冬が「む?」と声を上げる。彼女の視線は朔哉の手に握られているヘルメットへと向けられていた。
「バイクで来たのかね?」
「ええ、電車代も馬鹿にならないんで。マズかったですか?」
「いや……まあ良いだろう。怪我だけはしてくれるなよ?」
「分かりました」
「それより、どうだ? ここは」
ニヤリと笑う千冬は、何処と無く
「まだ来たばっかなんで、何とも……」
「フッ。まあ、確かにな。よし行くぞ」
ついてこい、と言うと千冬は朔哉を連れて歩き出した。
「どこへ?」
「学園長室だ」
目的地に到着するまで、それ程時間は掛からなかった。千冬がドアをノックすると「どうぞ」という凛とした声が聞こえる。朔哉は深呼吸の後で彼女に続き入室した。
「失礼します。織斑です」
「失礼します」
部屋の両端には教師陣と思われる女性たちが何人も並んでいた。これが千冬以外の教師が職員室に居なかった理由らしい。興味深そうに朔哉を見ている彼女達は、全員が全員美人だった。気のせいかどうかは分からないが、室内の空気が甘い。剣道の試合以外で、こんなにも大勢に……しかも女性に注目されるのは生まれて初めてだ。しかし、緊張しているのを悟られないように落ち着いて挨拶をする。
「初めまして。本日よりIS学園に転校することになりました。斎藤朔哉です」
「自己紹介ありがとう、斎藤君。初めまして、私がIS学園長の
武偵高の校長室よりも豪奢な部屋で木製のデスクに座っていたのは、眼鏡をかけた中年の女性だった。歳相応の顔付きだが、恐らく若かりし頃は彼女も美人だったのだろう。
「さっそくですが、時間があまり無いので単刀直入に言います。斎藤君は転校だと思ってるみたいですが、実は少し違います」
「違う……とは?」
「あなたが入るクラスは織斑先生の1年1組になります」
「……は?」
時が止まった気がした。朔哉の頭がおかしくなってなければ、自分は今月から高2のはずなんだが……。
「1年……? 2年ではなくて?」
「はい」
「失礼ですが……もしかして俺が早生まれだから、そう思われているのですか? 俺は16歳ですが、2月生まれなので……」
「……」
「……ち、違うんですか?」
違うらしい。
京子曰く、朔哉はISのことを何も知らない。そんな人間をいきなり2年に入れても基礎が全くなっていないので、授業に付いていけなくなると判断したとの事。
それは事実なので仕方ないが……留年のような扱いは朔哉を憂鬱にさせるには十分過ぎる出来事だった。普段は表情に思考が表れづらい彼も、今は何を考えているかは一目瞭然だろう。
京子もそれを感じたのか、苦笑いを浮かべながら朔哉を宥めた。
「斎藤君、そんな顔をしないでください。あなたに朗報があります。IS学園はこれまで通りあなたに武偵免許の保持を認めます」
武偵法では、DAライセンスの剥奪権は
しかし、ありがたいことだ。ここは文句を垂れず、素直に頭を下げるのが賢い選択だろう。
「それは……ありがとうございます」
「ただし、条件があります」
「……条件?」
京子が朔哉に提示した条件は以下の3つだった。
・銃は常に携帯すること
・しかし学園内での無許可での発砲は厳禁
・学園内でIS関連外の事件が起きた場合は無償でそれを引き受けること
(ようするに、タダ働きかよ……。好き勝手言ってくれるぜ)
警察や自衛隊とは違い、武偵は装備や弾薬は全て自己で負担しなければならない。しかも、朔哉のような
「あなたは武偵である以前にこの学園の生徒です。学園内でISの無断展開が禁じられているのと同様のことを守ってくれれば、何の問題もありません。しかし、一線を越えるのなら追求します」
先程とは打って変わった真剣な表情で京子が言った。成る程、彼女の言っていることは間違い無く正しい。だが、朔哉にも譲れない一線はある。
「……分かりました。ですが、これだけはご理解を」
「なんでしょう?」
「生死に関わる非常事態で瞬時に判断しなくてはならない場合は……その一線を越えるかもしれません」
朔哉の発言と彼の目をじっと見つめる京子に周囲の教師陣から緊張が走る。しかし眼前の少年の表情に嘘は無いと判断したのか、彼女はニコリと笑った。
「……よろしい。では宣誓を」
「せ、宣誓? はあ……」
キョトンとした表情をするも、朔哉は咳払いをして右手を掲げた。
「私、斎藤朔哉は如何なる時も己の知識と能力を十二分に発揮し、この学園の生徒及び武偵として相応しい行動を取る事をここに誓います。平成21年4月2日」
「よろしい」
こんなありきたりな宣誓で良いのだろうかとも思ったが、京子は満足そうに頷いた。
そして教師の一人が武偵高のマークが入ったアタッシュケースを持って来る。
(あれは……)
受け取るというよりも、半ばひったくるようにケースを掴み中を確かめる。中を開くと朔哉の武偵手帳と
……良かった。ISを起動した時のゴタゴタで紛失してしまったのではと不安だったが、きちんと保管してくれていたらしい。朔哉にとってこの銃はただの道具では無い。
「では、そろそろ教室に向かってください。他の生徒達もじきに登校してきます」
「はい、失礼します」
学園長に促され、朔哉は部屋を出る。すると、同じく校長室から出てきた千冬に呼び止められた。
「斎藤、少し待て」
「何でしょう?」
「お前のクラス……1組には私の弟もいる。出来れば、仲良くしてやって欲しい」
「ええ、そのつもりです」
いくら自分がここに来るハメになった元凶とは言え、たった二人しかいない男子なのだ。出来得る限り、良い関係を築きたい。そう伝えると千冬はホッとした顔をする。それは教師ではなく、弟を心配する姉の表情だった。
「ありがとう。では入学式でな」
「はい」
それから教室へ向かうと、生徒の何人かと遭遇し始めた。ヒソヒソと声が聞こえるが、気にしないようにひたすら歩き続ける。1年1組……どうやら、あそこらしい。
教室に入ると、部屋中の全ての視線が自分に集中した。廊下からも多くの生徒が教室を覗いている。世界で2人しかいない、男性IS操縦者の片割れを見たくて仕方がないようだ。
教室内を見渡すが、もう一人の男子、織斑一夏は見当たらない。ということは、まだ来ていないのだろうが……入学式まで、あまり時間が無いが大丈夫なのだろうか?
「彼よ。ISを動かした2人目の男の子って」
「へぇ。おお……背高いね」
「写真よりもカッコいいかも……」
「足、長い……。モデルみたい」
顔には出さないが、朔哉は困惑した。そんなこと言われるのは生まれて初めてなのだ。戸惑いつつも、敵視はされてないみたいで少しは安心する。しかし、だんだんとネガティブな評価が聞こえ始めた。
「でも、目付き悪くない?」
放っておいてほしい。朔哉自身も気にしている。
「ほら、ネットでウワサになってたじゃない。武偵高の生徒だって」
先程の”写真より”という言葉で気付いたが、やはり自分の個人情報は漏れていたらしい。それでも理解してくれる人間もいるようだ。だが、直後に同じ女の子が発した言葉にショックを受けることになる。
「あの目は確実に何人か殺してるよ……」
「だね……」
前言撤回だ。彼女達は武偵法を全く知らないのだろうか? 初日からこれではマズい。3年間ここで頑張るという決心が早くも揺らぎ始める。
視線を受け続けながらも自分の席に付く。やっと一息吐けそうだと思ったら、右隣に座っている女の子が立ち上がり、朔哉の正面に立った。
「あれ……君は……」
綺麗な黒髪を後頭部でお団子にまとめた、おしとやかそうな美少女がそこにいた。彼女の佇まい、雰囲気、表情からは育ちの良さが溢れている。
朔哉はこの子を知っている。いや知ってるも何も、彼女は―――――
IS学園を受験したという話は聞いたが、今の今まですっかり忘れていた。めでたく合格していたどころか、まさか同じクラスで、しかも隣の席だったなんて……。
「お久しぶりです、斎藤さん」
そう言うと、
第2章「2/360」始動。
如何でしたか?
初投稿から既に2年以上が経過してしまいました。
ようやくIS学園での物語が始まりましたが、まだ本編には入ってなかとです……。原作開始は次回からということで許してくだせえ……。
ここからは投稿が遅れてしまった弁明というより、言い訳をさせて頂きます。
遅れてしまった理由は主に就職活動でございます。ですが、おかげで就職先も決まり、今月から社会人の仲間入りを果たせて頂きました。
今後も忙しくなり、投稿がスムーズにいかない事も多々あるかと思いますが、皆様からのご感想や評価は大変、励みになっております。今後も読んでくださると嬉しいです!!
第1章の後書きでも書かせて頂きましたが、この作品は
・原作改変
・一夏&箒アンチ
といった内容となっております。
そういうのは苦手……という方はブラウザバックを推奨させていただきます。
上記にもありますが、感想や評価、ご意見などは大歓迎です!
それでは今回も読んでくださってありがとうございました。失礼します。