また遅くなってしまいました……。本当に申し訳ないです汗
さて今回はようやく物語が動き始めます!
それではどうぞ!
「そういえば……再来週に行われるクラス対抗戦に出場する代表者を決めないとな」
帰りのHR。やっと解放されるとホットしていたところ、その話は持ち上がった。
クラス対抗戦。
参考書にも書いてあったIS学園で行われる、その年の最初の行事。クラスの代表者として選ばれた者は4月半ばのISのクラス対抗戦に出場することになる。
「代表者は対抗戦に出るだけではない。生徒会の会議に出席したり、委員会からの連絡事項などをクラスに伝えるなど……まあクラス長みたいなものだ。誰かいないか? 自薦他薦は問わないぞ?」
クラス長。朔哉はやったことが無い。何というか……人前に立つのはあまり得意じゃないのだ。そもそも小学生時代は転校の繰り返しで、武偵高に入った後もそんな事をやるキャラではなかった。
「はいっ! 織斑君を推薦します!」
「私もそれが良いと思います!」
「賛成!」
「せっかくの男の子だもんねっ! 盛り上げないと!」
数人の女子が、その代表に織斑一夏を推す。
盛り上げるのは大変結構なことだが、彼がクラス代表になったら対抗戦にも出ることになるのだ。別のクラスは恐らく、代表候補生や企業直属の専用機持ちなど優秀な人間が務めるのだろう。
だが先程の様子から察するに彼は朔哉と同様、ISのことに関してはド素人なはず……。普通に考えれば、勝負にもならないのではないか? 彼女たちはそれを分かってるのか? こう言ってはなんだが、素人がプロに勝てるとは考えられない。それはどの分野でも同じだろう。
「え、俺!?」
一夏が素っ頓狂な声を上げる。それはそうだ。いくら何でも不憫だ。彼だって納得できないだろう。
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?」
「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな―――――」
どんどん進んでしまう状況に一夏は慌てて抗議するが、教壇の上に立つ千冬は彼の言葉を遮った。
「残念だが、他薦された者に拒否権はない。選ばれた以上は覚悟しろ」
「そ、そんな……! なら俺は……俺は……そうだ! 俺は朔哉を推薦する!」
一夏は立ち上がると後ろを振り返り……何と朔哉を指差した。
「…………は!?」
朔哉の表情が驚愕に染まる。自分の方を指差しながら、立ち上がった一夏をギロリと睨み付けた。
この野郎……会って間もない人間を身代わりにしやがった。一体どういう了見だ?
完全に予想外だった。まさか自身にまで火の粉が降りかかってくるなんて……!
一夏と目が合う。朔哉は変わらず、目の前の元凶を睨み続けたまま。すると彼は気まずそうに目を逸らして、座ってしまった。
織斑一夏……。最初は良い奴かもと思ったが、考え直す必要があるかもしれない。千冬からは仲良くしてやってくれと言われた。しかし、3時間目の件も含めて初日からこれでは……。
「斎藤君も悪くないんだけど……ちょっとね……」
「目付き怖いし……華がないよね……」
先程、一夏を推薦していた女子達がヒソヒソ声で何やら囁きあっている。自分には聞こえないように言っているつもりなのだろうが小声になっていない。はっきり言って丸聞こえだ。
華がない? そんなことは自分が一番よく分かっている。
だが、どうしたものか……。どうやってこの場を切り抜ける?
「待ってください! そのような選出は納得いきません!」
朔哉が必死に思案していると、机を思いきり叩く音と共に聞き覚えのある怒声が聞こえてきた。
振り返ると声の主は、先ほど接触したばかりのセシリア・オルコット。
美しいサファイア色の目を釣り上げた彼女は余程、我慢がならなかったらしい。怒り心頭といった様子で続ける。
「大体、男がクラス代表なんて、いい恥さらしですわ! 実力から行っても、一国の代表候補生を務める
それはそうだ。このクラスで一番の実力者は英国代表候補生の彼女だろう。
だが、彼女の怒りはどんどんエスカレートしていく。
「それを物珍しいからという理由だけで、極東の猿にされては困ります! 私はこのような島国まで、IS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
怒りの矛先がおかしな方に向いてきた。その島国がISの開発者と世界最強を生んでいるという紛れもない事実を彼女は忘れているらしい。
しかもIS学園は様々な国から生徒が来ているが、日本人が圧倒的に多いのも事実だ。そして、それはこのクラスも例外ではない。人種差別に国家侮辱。クラスの雰囲気が急激に悪くなってきた。だが彼女はお構いなしに演説を続ける。
「いいですか!? 先ほども申しましたが、クラス代表は実力トップの人間がなるべき。そしてそれは英国の代表候補生にして入試主席合格のこの私、セシリア・オルコットの他にありえませんわ! 私はISの操縦にしても入試で唯一、教官を倒したエリート中のエリートです!」
『クラス代表は実力トップの人間がなるべき』。それは確かに彼女の言う通りだ。”せっかくの男子だから”というだけで、無条件でクラス代表の座を奪われる。それは代表候補生として努力してきた彼女にとって、屈辱以外の何物でもない。
だが、頭に血が上りやすいタチらしい。落ち着いて周囲の様子を見れば、自身の支持率がどれだけ低いか分かるだろうに。
短気な性格に状況把握力の欠如。狙撃手としては致命的だ。
「あれ? 俺も倒したぞ教官」
「……は?」
ところが、ここで一夏が予想外のことを言い出した。何と彼も試験教官を倒したらしい。それに対してセシリアは信じられないといった風に一夏を問い質した。
「あ、あなたも教官を倒したって言うのですか!?」
「ああ。向こうが勝手に突っ込んできて、壁に激突して終了」
(それは勝ったと言っても、倒したとは言わないぞ。……ダメだ、ツッコミが追いつかない)
「私だけと聞きましたが!?」
「女子だけではってオチじゃないのか?」
一夏の返答に驚愕したセシリアは今度は朔哉の方を向いた。
「あ、あなたはどうなのですか!? まさか、あなたも教官を倒したの!?」
「……俺は入試を受けていないんだ」
「へ?」
「斎藤がISを動かしたのは織斑よりも少々後だ。手続きの遅れやら、諸々の事情でコイツは入試を受けられていない」
今まで黙って様子を見ていた千冬が助け舟を出してくれた。
勿論、朔哉にも罪悪感はある。皆は死ぬほど努力して此処にいるのに……自分は入試すら受けていない。
千冬のフォローにセシリアは怒りの矛先を失い、勢いも削がれてしまったらしい。どう反応したら良いか分からずに黙ってしまった。
(よし、このまま収束してくれ……。初日から面倒ごとは嫌なんだよ)
ただでさえ慣れない環境で不安だった。それなのに周囲の人間関係が悪化し、しかも自分まで巻き込まれる事になったら耐えられない! 朔哉は自身の胃に穴が開くことだけは勘弁してほしかった。
「大体、イギリスだって島国だし大してお国自慢無いだろ。世界一マズイ料理で何年覇者だよ」
だが、そんな願いは瞬時に砕け散った。一夏の口から放たれた本日最大の爆弾発言によって……。
―――――神様、俺に何の恨みがあるというのですか?
消えかけの火にガソリンを注ぎ込むような光景に朔哉は思わず天を仰いだ。
今回はこんな感じです。
一夏アンチにする場合、このシーンは一番力を入れなければならない場所だと思いました。
多少のオリ展開を混ぜたため、会話の順番を少し入れ替えています。
もしも『それはルール違反だ』という感想を頂いた場合は書き直しますので、よろしくお願いします。
感想、批評は大歓迎です!
それでは今回も読んでくださってありがとうございました。失礼します。