今回は、ご覧になる方によっては好き嫌いが分かれるかもしれません。
それをご理解頂いた上で、お読みください。
どうぞ!
※タグの編集を行いました。
IS。正式名称は『インフィニット・ストラトス』
本来は宇宙空間での活躍を目的として開発されたマルチフォーム・スーツだ。開発者は自称「天才科学者」の
8年前に世間を騒がせた「白騎士事件」で当時配備されていた全ての兵器を圧倒的に上回る性能を見せつけ、世界最強兵器としてその名を轟かせた(完全に博士本人による自作自演であり、世間でも薄々気づかれてはいるのだが)。
現在は宇宙での利用よりも軍事目的での活躍に期待がされており、先進国はISの開発、研究に躍起になっている。
ところが、このISという兵器には”女性にしか扱えない”というとんでもない欠陥があり、その現実は強烈な女尊男卑社会へと発展してしまった。
”世界最強の兵器を女性しか動かせない”。
それをどう曲解したのかは知らないが、『男より女の方が強い』と極端な考えをする女性が出てきたのだ。街中を歩けば、女にこき使われている男の姿なんぞはざらである。
そんな世の中で
大企業の令嬢として勉学や習い事など父の教育は厳しかったが、彼女はそれを苦にせず自分を磨くために努力を続けてきた。
薄暗い倉庫の中。
はっきり言って環境は最悪だった。ジメジメと湿気っており、とんでもなく冷たい潮風に身体が震えてしまう。こんな所に長時間、閉じ込められていたら気が狂ってしまうのかもしれない。
数分前に目を覚ました神楽は恐怖心でいっぱいだった。ここはどこなのか? 何故、自分はここに居るのか? そして自分はどうなるのか……。
氷のように冷たい床に座らされた状態で、背後に手を回され縛られている。どうやっても自分の力では解けそうにない。
「やめておきなさい。あなたの力では無理よ。ただ、疲れるだけ」
鉄柱に寄りかかっている女から、ニコニコと笑顔を向けられる。男ならクラっとくるような魅力的な笑顔かもしれないが、神楽にとっては恐怖心が増すだけだ。大きな目から涙が止めどなく流れ続ける。大声で罵倒してやりたいが、口を布で覆われているため睨むことしか出来ない。
「そんな顔しないで? 可愛い顔が台無しよ?」
困ったような口調でそう言った女は手袋をはめた手で、ガス圧式の注射器を取り出す。それで何をするつもりなのか? 中身は何なのか? 女は笑顔を崩さないまま神楽に近づく。ふるふると首を横に振り拒絶の意を表すが、女の動きは止まらない。
カシュッ―――――
「……!」
首筋に注射器を押し付けられると、火傷に近い感覚を覚える。
「おやす……。次に会―――――メキシ……かしら―――――」
自分の元を離れていく女が何かを言っているが、断片的にしか聞き取れない。強烈な睡魔に襲われた神楽の意識は、段々と遠のいていった。
◆
「先輩、どうしますか?」
捕らえた見張りの1人を叩き起こした朔哉と誠一郎は、手錠をかけた状態の彼女を埠頭の端に座らせる。今、ほんの少しの力で蹴飛ばしても、彼女は極寒の海へと真っ逆さまだ。
「お前に任せる。元々、そう決めてたしな」
「……了解です」
朔哉は肩に掛けてるMP5を外し、女の正面にしゃがむと目線を合わせる。これで、幾らか話しやすくなった。
「さてと……時間が無いから、さっさと答えてもらう。この倉庫街のどこかに、あんたらが拉致した女の子がいるはずだ。名前は四十院神楽。今どこにいる?」
「…………」
神楽の写真を見せながら尋問を行うが……何の返事も返ってこない。女はダンマリを決め込んでいる。もちろん、ここまでは想定内だ。
「はぁ……自分たちの状況が分かってないみたいだな」
写真をしまうと、彼女の目を覗き込んだ。鋭い眼光に思わず目を逸らされるが、そんなことは許されない。許す程、朔哉も優しくはない。
「俺の目を見ろ。いいか? 今のところ、お前たちの罪はどんなに重くても、未成年者略取・誘拐罪だ。それに麻薬取引やら銃密輸やらを足しても、女なら5年で出られるだろう。でもな、もしもこんなことやってる内に彼女が殺されてしまったら? あんたら、一気に殺人の共犯にまでグレードアップだぞ。そんなの嫌だろ?」
出来れば、ここらで話してほしい。あまり時間が無いので、出来るだけ優しく諭すように話しかける。
「俺の言ってること分かるよな? 彼女は今、どこにいる?」
「お、教えるわけないでしょ?」
「司法取引で罪軽くするように頼んでやるって言ってもか?」
「ハッ! そんなことで口を割ると思ってんの?」
…………ダメだ、話にならない。このままじゃ、時間の無駄だと朔哉は判断した。
「そうか……なら仕方ないな」
最後の手段を取るために腰を上げた朔哉は、後ろで腕を組んでいる誠一郎の顔を見る。
「いいですか?」
「……仕方が無い。でも、やりすぎるなよ?」
「了解です」
朔哉は女の内ポケットに手を突っ込むと、ブランド物の財布を引っ張り出す。突然の奇行に彼女は目を丸くして、声を荒げた。
「ちょ、ちょっと何するのよ!」
「見て、分からないか? 成る程、名前は
財布から免許証を取り出すと、財布を彼女の足元に放った。
「こんなの違法よ! 許されると思ってるの!?」
「言わなきゃバレない。数分、待っててください先輩」
「分かった」
女の罵声を背に受けながら、パジェロまで戻ると再び携帯を取り出して、相棒の元へ電話をかける。
「亮、俺だ。データベースで照会してほしい女がいる。名前は
『了解。ああ、さっきの番号だけど……』
「何か、分かったか?」
『収穫無しだね。2つは家族との電話で、もう2つはプリペイドだよ』
「じゃあ、個人特定は難しいな……。そうか、ありがとう。一応、追跡はしてもらえ。無駄かもしれないがな……」
『分かった。頼んでみるよ』
「悪いな」
そう言って、電話を切ろうとした瞬間……朔哉は亮が何気なく言った一言を思い起こした。
「……亮、ちょっと待ってくれ」
『何?』
「さっき、家族との電話って言ったな?」
『うん、そうだけど?』
……ニヤリ。
自分でも分かるくらいに笑みがこぼれる。車の窓をチラリと見ると、かなり邪悪な笑顔に見えた。
(イカンイカン……)
周囲から、その笑みはやめた方がいいと言われていたのを思い出した。いつも通りのキリっとした表情に戻すと、通話を続ける。
「よし……その家族の情報を送ってもらえないか? 写真付きで」
『いいけど……何するの?』
亮の声が一気に不安そうな物に変わったが、朔哉は淡々とした口調で続けた。
「別に? いつも通りだよ」
『はぁ……分かったよ……。今、送るから』
「すまんな」
溜め息を吐いた亮に礼を言うと、電話を切る。それから間もなく、写真付きのメールが送られてきた。
From 不知火亮
件名:ほどほどにね?
(……それは、あの女次第だ)
「何度も言いますが、あいつが戻ってくる前に全部話した方がいいですよ? 脅しとか抜きに」
「あんた達に何も出来るわけないでしょ? 無能な男の分際で!」
嘲るように笑う片倉に対して、誠一郎は哀れむような目を向けていた。これから彼女に何が起きるか、それを考えてしまう。しかし、何度言っても分からないらしい。これ以上は無駄なようだ。
「……忠告したのに」
誠一郎が溜め息混じりに呟くと、彼の後輩が戻ってきた。手にはスマートフォンが握られている。
「先輩、お待たせしました。片倉さん、あんたに選択肢は無い。四十院神楽の居場所を話せ」
「さっき言ったこと、聞こえなかったの?」
こんな状況でも、まだ強気の姿勢を貫いている片倉。ある意味では賞賛すべきなのかもしれない。だが……。
「そうか……なら、質問を変える。問1、あんたの家族は?」
「……は? 何?」
突然、話題を変えた朔哉に片倉は怪訝そうな顔をする。何を聞かれているか、すぐには理解出来ないようだ。
「俺は知ってるぞ?」
朔哉がスマートフォンの画面を起動させると、二人の人物の写真が映し出された。一人は四十代半ばの優しそうな女性で、もう一人は中学生ほどの活発そうな女の子だ。どちらも、片倉とよく似ている。
「母親は有名デパートの営業課長で、妹さんは聖マリアンヌ女学院の3年生。今頃は二人とも家に帰って、夕飯食べ終えたぐらいじゃないか?」
「な……何で……」
自分の家族のことを調べられている。
何をするつもりなのか……? 片倉の顔から見る見る血の気が引いていき、体が震え始めた。しかし、朔哉はお構い無しに話し続ける。
「問2だ。この番号、どこに繋がると思う?」
画面を切り替えると、そこには固定電話の番号が記されている。03から始まるので、都内のどこかだ。
「これはな、あんたらが名乗った鏡高組の番号だよ」
「……え?」
「最近の奴らは微妙だけどさ、鏡高組ってのは古い連中でカタギには手を出さないんだとよ。でしたね、先輩?」
先程、誠一郎に言われたことを聞き返すと、背後で他の見張り(気絶中)の指紋を採取していた彼から返事が返ってきた。
「ああ、その通りだな!」
「だそうだ。でも、自分たちのフリをして……組の名前を汚すような奴がいる。今、俺が奴らに電話して『アンタらの名を語ったのは片倉美佳って女だ』なんて言ったらどうなるんだろうな? 半端じゃなくキレるだろう。あいつら、きっと仕返しに来るぞ? でも、いざ報復しようと思ってもお前はこれから檻の中だ。そうなったら、奴らの怒りの矛先はどこへ向かうと思う?」
自分の目を覗き込んでくる朔哉に、片倉はまさか……と首を振った。
「嘘……嘘でしょ!?」
「いいや、その通りだよ。俺でも調べられたんだ。あいつらきっと、お前ん家に乗り込んでくるぞ? 何も知らないお前の家族を狙ってな。母親と妹、デザートは鉛玉になるぜ?」
少し……いや、かなり無茶な話だったかもしれない。それでも効果は絶大だったようだ。朔哉から意地の悪い笑みを向けられた片倉は、家族を奪われる恐怖からかボロボロと涙を流し始める。
「や、やめて! 家族だけは……」
そう言った瞬間、彼女の顔に人差し指が突きつけられる。今まで以上に眼光を鋭くした朔哉が、彼女の言葉を遮った。
「そう、それだよ。今、あんたが言ったこと。四十院神楽の家族はそれと同じ思いを二日間、感じているんだ。そして、その二日間は何週間にも! 何ヶ月にも感じられるんだよ! 分かったなら、さっさと話せ……!」
―――――ポン。
「……?」
段々と声を荒げる朔哉の肩に手が置かれる。振り返ると誠一郎が彼の真横に立っていた。
「……先輩」
「朔哉、そのくらいにしとけ」
「でも……!」
宥めるような口調の誠一郎に朔哉は不満そうな顔をする。あと一押しなのに……。反論しようとした所、予想外の一言をかけられた。
「彼女じゃない。お前だよ」
「……! 分かりました……」
渋々納得すると、再び片倉を見据える。彼女は……未だに震えていた。よく見ると口元が動いている。何かを伝えたいらしい。
「何か、言いたいことでも?」
同じく彼女の異変に気付いた誠一郎が、怪訝そうな顔で尋ねると―――――
「……られてるの」
「はい?」
「家族の場所、知られてるの……」
恐る恐る、そう言った彼女に朔哉は困惑した様子で聞き返した。
「え、誰に……?」
「言えない……言えない……!」
想定外の発言に何と言えば良いのか分からなかった。一瞬、自分たちを騙すための嘘かとも思ったが……彼女の尋常ならざる様子を見ていれば、事実を話していると判断できる。
「上の人間にか……」
納得したように呟いた誠一郎に片倉は何も答えなかったが、コクリと静かに……それでもハッキリと頷いた。
「どういうことですか?」
「よくある話だ。下っ端が口を割らないように、その家族を人質にするんだよ。組織犯罪の常套手段だな」
彼女にとって四十院神楽の場所を吐くことは即ち、家族の死に直結してしまう。つまり観念して居場所を吐いても、朔哉に逆らっても……どちらにしろ、彼女には地獄しか待っていないということだ。朔哉もまさか本気で情報を漏らすなんてことはしないが、目の前の女はそのように解している。
「あんたに幸あれだ……」
先程の勢いを削がれてしまった朔哉は溜め息混じりに呟く。そして自分でも意外な手を取ることになった。
「……分かった。四十院神楽の居場所を話せば、あんたの家族も警察に頼んで保護してもらう。どうだ?」
「本当に……?」
片倉は疑わしげに朔哉の顔を窺う。まあ、先程まで散々自分を脅していた人間から急に助け舟を出されたら、そうなってもおかしくはないが……。
「ああ。
防弾ベストに取り付けた武偵の紋章を指して言うと、自己嫌悪に陥りそうになり苦笑いを浮かべた。
(甘いな……俺も)
犯罪者相手にはドライでいるべきなのに……。
「わ、分かった……分かったわ。話すから………! 四十院神楽は――――――――――」
不安を抱えた様子ではあったが、目の前の女はようやく朔哉たちの知りたい情報を話し始めた。
いかがでしたか?
マズイ……ISの要素がほとんどない気がする……(´ヘ`;)
朔哉のやり方がゲスいと思った方もいらっしゃると思いますが、それなりの理由はあるのでご理解を頂けると嬉しいです。
次回の更新はGW明け以降になりそうですね。
それでは読んでくださって、ありがとうございました!
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