今回で第一章は終了となります。
予定通りに「朔哉の長い一日」を何話かに纏めました。
前回の投稿後にUAが20000を超えて、お気に入りに登録してくださった方も200名に到達しました!
感想を書いてくださった方、評価を付けてくださった方もありがとうございます!
今後も読んでくださると嬉しいです。
それではどうぞ!
(ええっと……このPICってのが、ISの基本システムで……)
千冬から受け取った、信じられない程分厚い参考書を開いて朔哉は必死で頭を働かせていた。
はっきり言って、内容はあまり理解出来ていない。出てくる単語の中で重要と思われるものにラインマーカーを引き、それを丸暗記するのが精一杯だった。
転入まで約2ヵ月。授業が始まってから「ごめんなさい、全く分かりません」なんてことは許されない。しかし、興味の無い事柄を勉強することは苦痛以外の何物でもなかった。
(げっ、もうすぐ10時か……)
机に置いてある目覚まし時計を見て驚く。つまり夕食を食べてから約3時間、ずっと机に向かっていたことになるのだ。だが一生忘れられない出来事があった今日、朔哉の集中力と疲労は限界に近づいていた。
(今日はもうやめにしよう……)
中途半端な状況で勉強しても、覚えられることなど高が知れてる。朔哉は頭がオーバーヒートを起こす前に参考書を閉じた。
窓に近づき、そーっとカーテンに手をかける。そして隙間から道路を見下ろすと―――――
「チッ……」
家に戻って既に数時間が経過したというのに、未だに数人の記者が彷徨いていた。もしこの場に第三者が居たとしても、うんざりした朔哉の舌打ちを咎められる者など居ないだろう。
彼らに気付かれる前に窓から離れて本棚へと向かう。適当に引っ張り出した文庫本を読んでいると、1階から真臣の声が聞こえた。
「朔哉ーー! 風呂空いたぞーー!」
「おーう」
本を戻し、準備をして部屋を出ようとした……その時―――――
『♪♪♪』
机の上でスマホの呼び出し音が鳴り響いた。
(こんな時間に誰だよ……)
ドアを閉めて、念のため画面上の番号を確認する。
(……え?)
発信者は……『吉村誠一郎』。
となると、出ない訳にはいかない。消した電気を再び点け、液晶画面の応答ボタンを押した。
「はい、斎藤です」
『……朔哉、俺だ。こんな時間に電話して悪いな』
申し訳無さそうな、そしてどこか疲れたような先輩の声。昼に会ったばかりなのに、もう随分と長い間話していないように感じられる。
「いえ、大丈夫です。お疲れ様です」
『話は聞いたよ。とんでもないことになったな……』
「ええ、まあ……」
”とんでもないことになった”。今日だけで十回以上、聞く言葉だった。
実は帰宅直後に亮と通話して以降、友人の何人かが心配して連絡をくれたのだ。だが皆、上記と似たような台詞をまず最初に吐く。どうやら誠一郎も例外では無かったようで、それが朔哉には可笑しかった。
『武偵高離れるのか?』
訓練や
「はい……"転校"することになりました」
"どこに"とまでは言えないが正直に話す。だが、勘の鋭い誠一郎なら行き先くらいは分かっているのかもしれない。
『……そうか。残念だが、もしかすると今はその方が良いのかもしれない』
「と言うと?」
先輩の言い方に少しばかり引っかかりを覚えた朔哉が聞き返す。だが、帰ってきたのは予想外の言葉だった。
『お前、今から出られるか?』
「い、今からですか?」
もう一度、時計を見ると既に10時を幾らか過ぎている。父に何と言われるか……。
『伝えたい情報がある。"先週金曜日の一件"でな』
「……!」
先週の金曜日。
あった出来事など1つだけだ。誘拐されたあの少女を助け出し、犯人を大勢ぶち込んだあの日。
解決したはずなのだが、一体何があったのだろう。しかも電話越しではなく、わざわざ会って伝えたいだなんて……。
『正直、これ以上お前に負担は掛けなくないんだがな……知っておいた方が良いだろう。だけど、電話で話すには危険すぎる気がしてな』
誠一郎の口調に違和感を感じる。何かが起きたのだ。
朔哉の武偵としての第六感が、そう告げていた。
『今、台場の海浜公園にいる。来られそうか?』
「……分かりました。すぐに行きます」
そう言って電話を切り、上着を羽織る。そして小さな金庫の中から護身用の
「朔哉、父さん明日も早いからもう寝るな……って……」
1階に駆け降りると、リビングから真臣が顔を出す。しかし、朔哉の出で立ちを見ると目を丸くした。
「おいおい……お前、そんな格好して何処に行くつもりなんだよ」
「俺の関わったヤマで何かあったみたいだ。ちょっと出てくる」
「ちょっとってお前な……。あれだけのことがあったのに―――――」
「すぐ帰るから」
真臣の言葉は振り返った息子の声に遮られた。静かだが有無を言わせない口調、意思の強い目。時折見せる彼のそういう所は、死んだ妻にそっくりだと毎回のように驚いてしまう。
(プロ意識に関しては一人前か……)
贔屓目抜きでも、朔哉の武偵としての実力は高い。会うたびに成長を感じるくらいだ。
今日も周囲の助け舟があったとは言えIS学園の人間……しかも、あの織斑千冬を相手に自分の要求を堂々と述べた時は素直に驚いた。
まだ学ばなくてはならない部分もあるのだろうが、それは経験を積めば何とでもなるはず。
もうそろそろ……ただの子ども扱いは終わりなのかもしれない。
引き止めるのは無理そうだ。
そう思った真臣は壁に掛かっているキーを1つ取ると朔哉に投げて寄越す。
「使えよ」
「え……」
飛んできたキーを咄嗟に掴むと、朔哉はキョトンとした表情で父の顔と手中のそれを交互に見た。
「裏口からガレージに出ろ。そうすれば目立たない。それから、メットはきちんと被るように。俺は寝る」
「……ありがとう」
そう言って飛び出して行った朔哉を見送ると真臣は寝室に入った。そして閉めたドアに寄りかかると、悔いるように目を閉じ―――――
「すまん、
左薬指の指輪を触りながら、そう呟いた。
◆
自宅から海浜公園まで数十分はかかった。
真臣から借りたバイクを停めると、朔哉は誠一郎を探す。日中は平日でも人が多いが、流石にこの時間になると殆ど誰もいない。
歩くこと数分。誠一郎は夜景の見える人工ビーチに1人で立っていた。
どこかボンヤリとした背中。その先には、あの日2人で駆け抜けたレインボーブリッジも見える。
「先輩! 遅くなりました」
朔哉が近づくと、誠一郎も気付いて振り返った。
「……ああ。急に呼び出してスマンな」
そう言った彼は……かなり疲れているようだ。だがそれは、肉体的疲労と言うよりも精神的疲労のように思われる。朔哉は誠一郎のこんな表情を見たことが無い。
「いえ、俺のことは良いんです。それよりも何があったんですか?」
「……今日の昼に会った時、勝どき署に行くって話したよな?」
やや、躊躇うように話し始めた誠一郎に朔哉は眉を顰める。やはり何かあったようだ。
「……え、ええ。逮捕したヴァルハラの連中の取り調べを見に行くって……何か分かったんですか?」
食い入るような目付きでそう聞くが、誠一郎は首を横に振った。
「いいや、話は聞けなかったよ」
「聞けなかったって……」
まさか、取り調べを見せてもらえなかったのだろうか? だが警察から、あまり悪印象を抱かれていない彼が門前払いを喰らうとは考えられない。
なら、何故……?
「…………」
「先輩……?」
黙り込んでしまった誠一郎に恐る恐る話しかける。
決して確証などないが、自分の頭が告げている嫌な予感。それが外れるように祈りながら……。
だが彼から帰ってきたのは、それをも上回る衝撃的な内容だった。
「……死んだよ」
「……は?」
死んだ? 一体誰が?
一瞬、思考が停止する。
そして、その対象が誰なのかを理解した時……自分の顔がみるみるうちに真っ青になっていくのが分かった。
「お前と俺で逮捕した、ヴァルハラの末端構成員は全員が死亡したそうだ」
「っ!? 何で……!?」
思わず、敬語を使うことまで忘れてしまった朔哉が誠一郎に詰め寄る。
「……皆仲良く自殺だとさ」
心底、悔しそうに吐き捨てた彼の握り拳が震えていた。
「自殺だ……?」
「……信じるか?」
1人や2人ならまだしも、あの人数全員が自殺?
そんなこと有り得るわけがない。いや……あって良いはずがないではないか。
朔哉は誠一郎から目を逸らすと、現場であった芝浦方面を睨みながら答えた。
「……いいえ」
この日、世界で2人目の男性IS操縦者が現れた。
少年の名前は斎藤朔哉。後に世界中の女尊男卑主義者達を震え上がらせることになる武偵である。
彼の友人となった女性の一人はこう言った。
―――――織斑一夏を鑑定書付きの大業物と例えるなら、斎藤朔哉はただの無銘ね。それでも……決して鈍刀ではなかったわ。
第1章「再始動」完結。
To Be Continued……
如何でしたか?
やっと第1章が終わりました!
ここまで1年半以上……。いくら何でも時間が掛かりすぎですね……。今後も出来るだけ早く更新するように努力します!
ところで自分で書いてて思ったんですけど、これはISなのだろうか……?
以前にも書いたかもしれませんが、何か海外の刑事ドラマみたくなってしまいました(笑)
でも自分はこんな風にしか書けないのでご理解頂けると助かります(汗)
次章から、ようやく……ようやくISの本編に突入します!
タグにも在りますが、この作品は原作改変、一夏&箒アンチといった内容となっております。
そういうのはちょっと……という方はブラウザバックを推奨させていただきます。
感想、評価、ご意見などは大歓迎です!
それでは今回も読んでくださってありがとうございました。失礼します。
P.S. イタリアがW杯出れないとかマジかよ……。