僕が転生してからおよそ一週間が経った。あれからというもの、ほとんどの時間を魔法の勉強に使った。近くにある街で冒険者登録を済ませ(有料だったが)、なぜか話しかけてきたウィザードのお姉さんに手取り足取り魔法を教えてもらったりだとか、なんとも充実した日々を送っていた。
とりあえず、初級、中級魔法は全て使えるようになった。
そろそろ旅に出たり、クエストをこなしたりしようかなぁと思っていた矢先、僕の寝床としているボロボロの小屋に一通の手紙が届く。ちなみに届けてくれたのはここ一週間で街で知り合った優しいおじいちゃんだ。
「なんかたかそうな封書だね………」
僕はそれをまじまじと見つめる。
その封書は、綺麗な長方形でシワや汚れは全くなく、裏に綺麗にシールまで貼ってあり、『クシロ ナギト様』と綺麗な字で書かれてある。
こんな手紙をもらったことがないからまじまじと見たけれど、一見そこまで普通の手紙とは変わっていない。
僕は封を切って中身の手紙を読む。そこにはこう記されていた。
拝啓 クシロ ナギト様へ
貴方を王国の城にご招待する為にこの手紙を送らせていただきました。
迷惑でないのでしたら、どうぞ私の城へ来てください。
貴方のご来訪をお待ちしてます。
第一王女 アイリス
どうやらこれは非常にまずいことになったなぁ……と思わざるを得ない僕でした。
☆
僕はあの手紙を読んでから即座に王国を目指した。手紙を渡してくれた優しいおじいちゃんに道を教えてもらい、一週間お世話になった人たちに見送られながら僕は街を出た。一週間しか居なかったのに涙しながら笑顔で見送ってくれる人もいた。あの街の人達にはいつかお礼をしなければならないなぁ。
そんなことを思いつつ、僕は歩みを進めた。途中、魔物なんかに襲われたが、とりあえず覚えたての上級魔法のライトニングセイバーを放ったらどうにかなった。
そんなこんなで王国に着いた時には、僕はもうボロボロだった。
「さ、流石に三日三晩、不眠不休の飯なしはキツイね………」
親切なおじいちゃんが、頑張れば三日で着くと言われたので頑張ったらちょっと三日目に着いた。
現在、王国に入る門の前にいるけれど、どうも足が言うことを聞かない。
歩みを進めようとするけど、逆に足がもつれ転倒してしまった。
そして限界だった僕の意識は、何の抵抗もなく暗闇の中に消えていくのだった。
☆
「…………い……………か……」
何処からか、声が聞こえてくる。
「だ…………で……………か!?」
切迫したような、何かに焦っているようなそんな感じの声だ。
「大丈夫ですか!?」
僕はその声で目をぱちっと開ける。見えたのは知らない天井、そして隣には白いスーツを着た女性がいた。
「良かった、無事のようですね」
「え、っと……ここ、は?」
「ここは王国内のアイリス様のお屋敷の一室です。王国の門の前で倒れたでしょう?」
そういえば、と思い出す。僕は疲労で倒れたんだった。
僕は上体を起こし、頭を下げながら白スーツの女性に礼を言う。
「ありがとうございます。助けていただいて」
「困った時はお互い様、というでしょう。それでだが、貴方がクシロナギトであっていますか?」
突然なんだろう、と疑問に思うと、白スーツの女性は僕がポケットに入れていたはずの手紙を取り出して僕に見せてくる。ちなみに僕の服装はパーカーにカーゴパンツというなんとも馴染んでない服装だ。
「あってます、けど」
「ならば話は早いです。クシロ様、空腹ではございませんか?」
「え、いやそんなことは………」
ない、と言おうとした途端、腹の虫は抑えきれないといったふうにグギュルゥゥゥウウという盛大な音を鳴らす。
恥ずかしすぎて、穴があったら埋まって死にたいよ……。
「ふふ、お食事いりますか?」
僕は俯いたまま、頷いた。
白スーツの女性は付いてくるように促したので、僕は大人しく従うことにした。
☆
僕は通されるがまま、食事の置かれたテーブルまで連れて行かれ、そして座らされた。
テーブルにはフルコースのように七つや八つものお皿に料理が盛ってある。
普通なら目を輝かせるところなのだが、どうにも落ち着かない。やはり慣れていないのか、安心して食事できる気がしない。
そんな風に思っていると、不意に僕が入ってきた方の扉が開いた。そこにいたのは、純白のドレスを着込み、金色の綺麗な髪をなびかせて歩いている、十二歳ぐらいの女の子だった。
「どうも、本日は私のわがままに付き合っていただき、ありがとうございます」
「あ、いえ………」
わがままに付き合う前に野垂れ死そうになってましたけどね。
というより、私のわがままということは、この子が第一王女のアイリスということで間違いはないだろう。
「今日は折り入ってお頼みしたいことがあってお呼びいたしました」
見知らぬ男の人にもかかわらず、優しそうな微笑みを浮かべて丁寧に話している。この子絶対にいい子に育つよきっと。
「えっと、立ったままだったら疲れるから座ったらどうかな?」
僕は恐る恐る声を出して言った。
年下なのに目上の人とは、あんまり実感わかないというか、途中で無礼を働きそうなそんな予感がする。
だが、それは杞憂だったのか、アイリスは一瞬ポカンとしたかと思うと笑顔に表情を戻し、料理の置かれている席へと座る。
「それで、頼みたいことってなんですか?」
「そ、それはですね………」
途端、アイリスの顔が朱色にほんのり染まり、俯き加減になる。
何だろう、と疑問に思っていたが、その疑問は次の一言で綺麗さっぱり消え去ることになる。
「わ、私の付き人になってくれませんか?」
……………………………………。
……………………うん?
「あ、あの!聞いてます、か?」
聞こえてます。けど頭が追いついてこないだけです。そりゃそうでしょう。いきなり平民だった僕が、王女様に仕えるようなことをするなんて。追いつく方がおかしいよ。
「あ、うん、聞いてますよ。……でもどうして僕なんです?」
他にも強い人はいるのでは?と暗に意味を込めてアイリスにいうと、アイリスは手を胸の前でいじりながら小さな声で言った。
「そ、その……………」
その、しか聞こえずその後の言葉は全く聞こえなかった。
ますます疑問は増えていくが、アイリスは悲しそうな表情で僕を見つめる。
「お願い、できませんか?」
ウルウルと瞳を潤ませて、捨てられた子犬のような顔をする。
やめて、そんな顔しないで!僕そういうのに歯向かえない人種だから!
「……迷惑、でしたよね。すみません、無理難題を押し付けてしまって」
僕が答えに悩んでいると、アイリスは悲しそうな笑みを浮かべて言った。
その笑みが僕の心に突き刺さり、心を容赦なく抉り始める。罪悪感が背中にのしかかり、後悔の念が渦巻く。
……もうなんでもいいや、どうにでもなれ。
「…………分かりました。こんな軟弱冒険者でよければ」
「本当ですかっ!?」
「うわっ!?」
顔を背けて仕方ないといった雰囲気を出しつつ言ったはずなのに、アイリスはそれに気づくそぶりも見せず、近くまで来て僕の顔を覗き込んでいる。その瞳はキラキラと輝いており、人を惹きつけるかのような魅力を持っていた。
かといって、その程度で落とされる僕ではない。というか、僕がアイリスなんかに惚れてみろ。ロリコンという烙印を押されながら生涯終えることになるんだけど。
そう思っていることもつゆ知らず、僕が承諾したと分かると自分の席に戻り、清々しい笑顔で料理を頬張り始める。
作法などきっちりと守っているが、些かカチャカチャと食器が音を立てている。
「………なぜ僕なんですか?」
「はい?」
「なぜ付き人を僕に頼んだんですか?」
柔らかそうなお肉を咀嚼しているアイリスは、しっかり噛んで飲み込んでから僕の問いに答えた。
「貴方は腕の立つ冒険者だと、クラウィスの街の人たちから聞いています。あそこはここ、王国とも関係を持っている人達が多いですから、その人達が認めたとなると、相当な実力を持っている都認めざるを得ません」
「もし、それがデマだったら?」
「その時はその時です。私は貴方が気に入りました。だから私の付き人にします。ダメですか?」
こんな職権乱用があっていいのか。いや、職権乱用というか王権乱用というか。
第一王女、とか言っていたがこの子結構破天荒で凄まじいぞ。
僕はもう無理だろうな、と勘付いてため息を吐く。
「分かりましたよ。こうなったら付き人でもなんでもしてやりますよ」
「ありがとうございますっ!それと、これからは敬語禁止、私のことはアイリスと呼んでください」
「分かりまし……わ、分かった。敬語はやめるからその手に持ったフォークを降ろしてくれ。それは投擲武具じゃない」
僕が敬語で応じようとした途端、フォークを構えるアイリス。少しムッとして可愛かったが、その手から放とうとしているものは当たりどころが悪ければ確実に致命傷ものの恐ろしい物だ。
黙ってれば、ビスクドールみたいに綺麗で可愛いのに。
「じゃあ、僕のことは………ナギトでいいから」
「分かりました!」
「あと敬語もなしね」
「それは嫌です」
「ちょっと待って。どうして僕の時だけよくなくてアイリスは……ってごめん分かった。だからそのナイフは降ろして。それ確実に人を殺っちゃうやつだから」
僕が慌てて手を上げて降参のポーズをとると、アイリスはくすりと笑う。その表情は、年相応に子供っぽく、可愛らしいものだった。
「それでは、これからお願いしますねナギト!」
さて、本格的にアイリスとナギトを絡ませていきますよ!
楽しみで仕方ないです!
それでは、次回もお楽しみに!