優雅は運命を知ってしまったそうです   作:風剣

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……お待たせしました(土下座)
大学受験無事終了、志望校にもどうにか合格しました。こんな自分を待ってくださった読者の方々、本当にありがとうございます。
正直この作品に関しては、反省点を挙げれば活動報告にも書き切れないくらいの後悔があったりするのですが。それでも、どうにか続きを書いていきたいと願ってキーボードに手をつけました。
いや本当ごっっめんなさいです。そして本当にありがとう。
四月になって大学、バイト、モンハンワールドの暇殺し三段コンボが始まる前に完結させるか、完結に指先をかけるくらいまで書き上げたいなって(願望)
残り10話もないよね?もう少しかかるかな?20話くらい??


圧壊

 

 

「随分と、壮観な眺めだ」

 

 世界が、悲鳴を上げる。

 大気が焼け、森が啼き、大地が爆ぜては不気味に揺らぎ、その都度雷鳴と轟音が盛大に響き渡る。

 

 森を舞台に繰り広げられていたのは、神秘と神秘のぶつかり合い。

 小丘のような巨体を誇る巨人を相手に渡り合うのは、雷神の眷属である神牛を駆るライダー。正体不明のアーチャーやアインツベルンのセイバーもまた各個で迎撃に当たっているのだろう、雨のように矢が降り注いだかと思えば巨人の手足が金色の斬閃に断ち切られ宙を舞う。

 

 手足を振るうだけで災害の如き被害を生み出すであろう土塊の巨人と、それと凌ぎを削る複数の英霊が織り成す光景はまさしく天変地異とでも呼ぶべきものであった。

 山のような巨体、雷の属性に対する耐性、そしてサーヴァントの一撃を受ける度に発せられる耳障りな恐慌。こうまで特徴を挙げられれば、あの大魔術が如何なる伝承を基盤に形作られたかを特定するのは簡単だった。

 

「『心臓』を要に霊脈を極大の魔力炉心に加工……神話においても弱点となった虚弱な精神性は恐怖心を力に対する渇望に置き換えられることで霊魂を貪る悪鬼へと変容させたか。術式自体は粗雑な造りだが、この地独特の『歪み』を最大限活用できるよう趣向も凝らしている。神代の実物とは比べ物にならぬ絞り滓と言えど、大地との親和性を確立させてしまえば霊脈を喰らって戦い続ける怪物と成る訳だな」

 

「モックルカールヴィ……北欧神話における雷の戦神を討つべく創り上げられた土塊の巨人。よくもまあ、これほどの代物を作成するに至ったものだ」

 

 恐れ。生物の持つ根源的な感情のままに暴れまわる巨人によって踏み潰された城壁、その瓦礫の山を背後に戦況を分析していたロード・エルメロイは好戦的に口元を歪める。

 そして彼は、既に土塊の巨人を打倒する対策を複数構築している。

 

「本来は地脈との繋がりを断ち切るのを優先すべきなのだろうが、流石にあの大質量は手に余るものがある。であれば―――『核』である牝馬の心臓を潰すのが現実的ではあると思うが、どうかね? ――死徒オーウェン・トワイライト」

 

 

「あぁ、賢明な判断だと思うよ、ロード。それならばあの巨人も撃破することができるだろうさ。―――邪魔さえ、入らなければね」

 

 

 爆滅。

 魔術師の眼前にあった樹木が、土砂が爆風によって根こそぎ吹き飛ばされ、周囲に致命的な破壊を齎す。

 災害を体現したのは短剣で刻まれし宝具同然の神秘。常軌を逸した規模で行使されたルーンに驚愕を覚えつつも、迫る死を前に彼は怖じることは一切なかった。

 

 その命を預けるに足る最強の礼装が、傍に控えているのだから。

 

 燃える嵐がケイネスを呑み込まんとした時、彼を中心に展開した銀色の膜に熱波が遮断される。荒れ狂う爆炎は森の一角を吹き飛ばすも、泰然と佇む魔術師には火花一つ届かせることはできなかった。

 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)。時計塔のロードたる魔術師が操る最大の礼装が、主を守り抜く。

 

 ――原初のそれでもない衰退した魔術基盤を、こうまでの威力で解き放つか。

 

 馬鹿げた火力。複数の礼装による補強を受けた月霊髄液は、しかし圧倒的火力の一撃に耐えかねたように防壁部分を蒸発させていた。死徒の用いる礼装が神代の聖遺物であると即座に看破した彼は驚愕の面持ちで魔力の残滓を見送る。焔を散らす白銀の斬閃を回避する死徒の脅威を肌で感じ取り、己の工房内での戦闘ですら敗北も有り得る難敵であると認識を深める。

 歴史と歴史のぶつけ合い。神秘の密度を競い合う魔術戦に勝機は望めず。

 彼我の戦力差を理解した彼は、しかし動じることなくその見識眼から勝機を見出す。――更なる手札を切るのに、躊躇はなかった。

 

「っ、う!?」

 

 大気が爆ぜる。腹部を焼き潰されて転がった死徒は、水銀の刃による追い討ちだけは避けて退避する。

 ケイネスの手には、華美な装飾を施された短剣が握られていた。

 武具としての能力などは見込めない儀礼剣。だが魔術礼装としてなら、魔術行使にあたっての概念強化、術式補強を行う優秀な機能を有していた。

 

「このっ」

 

「君のルーンは、確かに脅威ではあるが。神代に近い規模の魔術行使がルーンに限定されるのであれば、話も違ってくる」

 

 身を蝕むのは複数の呪詛。焼かれた腹部をぐずぐずと腐らせる死徒が地面に落とした松明(カノ)を中心に炎が燃え広がる。

 全方位から迫る炎。灯された篝火(・・)を目印に呼び出された周辺の使い魔。月霊髄液の護りも無意味とケイネスを圧し潰す筈だった熱量と物量は、しかし直後に四散する。

 

「な――」

 

 炎は消し飛ばされる。唐突に硬直した魔獣は己を構成する概念基盤ごと崩れ落ちた。

 そしてケイネスは、そもそも己の礼装を盾にも使っていなかった。散り散りになる炎をかき分けて突き進むのは月霊髄液――短剣を握る腕の動きを得体の知れぬ痺れに封じられるオーウェンは、ロード・エルメロイ最強の矛に致命的なまでの接近を許す。

 

Scalp()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 苦し紛れの銃撃など、代行者にはなんの障害にもならなかった。

 

「手荒い挨拶だ」

「だが、嗚呼。そう、敵対するマスターに対する反応としては真っ当なものだな。そうだろう?衛宮切嗣」

 

 そんな表情もできるのだな、と。アインツベルンの城で資料に目を通した時には怖気さえ催す虚無性しか感じられなかった男の愉悦に満ちた笑みを無感動に見つめながら、キャレコの銃口を綺礼に向けて忌々し気に舌打つ。

 

 疑念はあった。

 

 まずは、綺礼の保有する衛宮の魔術刻印。

 奴の師は時計塔でも実力を一目置かれる一流の魔術師である。一〇〇〇年もの間純血を保ってきたアインツベルンが外部から引き入れた唯一の傭兵である切嗣に注目し、その家系に目を止め、有用な手札であるとして衛宮の魔術刻印を取り寄せ、己に移植する――。

 有り得ないとは言うまい。

 魔術を習うようになって五年にも満たない神父が、移植に失敗したら、いや成功しても深刻な損傷を受けかねない何ら繋がりのない家系の魔術刻印を己に埋め込み、戦闘に応用できるよう術式に干渉する。

 馬鹿げているが、それは綺礼一人だけという前提の話だ。

 魔術『師』、遠坂時臣の全面的支援。それを受けることができているのならば、多少は現実味を帯びてくる。それでも正気の沙汰ではないが。

 

 更には、死徒も交えたマスター三人での乱戦。

 あの戦いの時、綺礼は敵マスターを狙撃する腹積もりでいた切嗣の居場所を分かっていたかのように現場に現れていた。

 だがあのコンテナ群以上に監視、狙撃に適した位置は複数個存在していたのだ。それが舞弥の潜んでいた場所であり、そしてアサシンが居たデリッククレーンである。それらを差し置いて代行者が真っ先に切嗣の元に来たという事実は、偶然では済まされないものだった。……戦闘時に綺礼の口にしていた、まるで切嗣を以前から見知っていたかのような言動を捨て置いても、だ。

 

 加え――今回の、避難中の遭遇。本来なら不可能と断じる事態であろうとも、魔術の存在がある以上、この聖杯戦争にこちらの主観では推し量れぬ何かがあるだろうことは想像に難くない。だからこそ、綺礼の行動から切嗣は己を追い詰めているものに当たりをつけた。

 

「――未来予知。どこぞの予言者に連なる英霊(アーチャー)か、魔眼持ちの魔術師にでも巡り合ったか?」

 

「いや? アーチャーの千里眼()は特別なものでもなんでもない。後者も、否であると言っておこう。私は確かにこの身に道を示してくれる者と出会ったが――彼は決して、かの英雄王のような全てを見渡す目の持ち主ではない」

 

 しかし予知の否定こそはしない綺礼である。暗殺者は眼前の修羅に打ち勝つ可能性は皆無であると認め、セイバーを令呪で呼び出す隙を狙いいつ終わるかも定かではない会話で時間を稼ごうとして――。

 

「ここが森を抜ける際の通り道の一つであったことは知っていたが、嗚呼。今夜お前に出会ったのは、あくまで偶然だとも」

 

 どさどさと、木陰から倒れこんだ人影を目にして。闇そのもののようなローブを纏うサーヴァントに音もなく無力化された白い乙女と護衛の姿に、切嗣の顔から色が消える。

 

「――っ!?」

 

「本来の目的は小聖杯の身柄でな。他所のマスターに身柄を奪われるくらいならば、こちらで安全に保管しようというわけだ。勿論丁重に扱うぞ? 聖杯戦争の推移にもよるが、最低限人間としての在り様は踏みにじらぬようにするとも」

 

令呪をもって、我が傀儡に命ずる――

 

 その判断は正しいと、神父は評する。

 小聖杯を持つホムンクルスの存在はアインツベルンの、聖杯戦争の要だ。これなくして願いの成就は叶わず、仮に致命的な損傷が発生してしまえばこの大儀式は有耶無耶な形で終結することとなる。

 ――いや、それも良いかも知れない。綺礼にとっても師にとっても、今重要視しているのは儀式の成就ではなく破壊である。例え大聖杯の破壊が叶わずとも、第三次聖杯戦争のそれのように小聖杯さえ壊れてしまえば60年――最短でも10年ものの歳月を猶予として稼ぐことができるのだ。セイバーの首を狙う騒ぎに乗じ、聖杯の解析、解体のためにホムンクルスを確保しておく必要があったが、いざとなれば時臣は彼女の殺害を厭うまい。

 脳裏に小聖杯の用途を思い描く綺礼は、固有時制御を駆使し全力で距離を取りながら令呪を切らんとする切嗣を止めようとはしなかった。

 

今此処に現れ、聖杯を狙う襲撃者を討て……!!

 

 その判断は正しいと、神父は騙る。

 狩る側から狩られる側に回ることを強いられた状況。これを打開できない現状では、切嗣は綺礼にはどう足掻いても勝てない。

 ならば、サーヴァントで、最優のサーヴァントであるセイバーを呼ぶ。如何に固有時制御を駆使できるといっても騎士王が相手では無理がある。仮に戦闘に持ち込まれたら自殺行為《四倍速》でもしないと対処はできないだろう。

 そして、切嗣にはそうするしか勝ち目がない(・・・・・・・・・・・・)

 

 であれば――切嗣に残されたたった一つの選択肢に『合わせる』のも容易いと、嗤う。

 

「――やれ、アサシン」

 

 

 

「承りました」

 

 

 

 令呪一画の消失と引き換えに、莫大な魔力が吹き荒れる。

 事実上の空間転移を成し現れるは最強の聖剣を持つ騎士の王。乱戦の中で傷を負いながらも、その清廉なる闘気には欠片の澱みもない。唐突な転移に驚愕しながらも彼女はアイリスフィールたちを昏倒させたアサシン、そして切嗣と対峙する綺礼の姿に凡その状況を把握する。脆弱な霊基のアサシンをセイバーは即座に斬り伏せ、アイリスフィールを救出し代行者に引導を渡すことだろう。

 

 セイバーの能力なら、十分可能な筈だった。

 

 だが。

 

『■■■、■■■■――――――!!??』

 

 森を蹂躙していた土塊の巨人――モックルカールヴィが、その巨体を前触れなく崩す(・・)

 ただでさえ見上げるような巨体を、霊地を喰らうことで一層肥大化させていった怪物である。指先が、膝が、頭部が――その体を組み上げていた全てが、殺人的な大質量であり。

 瞬く間にヒトの形を喪ったモックルカールヴィは――膨大な土砂と魔力の奔流となって、切嗣たちの居る場所を含めたアインツベルンの領地の全域を圧し潰した。

 

 


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