型月に苦労人ぶち込んでみた   作:ノボットMK-42

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就職活動の合間に気晴らし感覚で投稿していきます。
文才に関してはお察しな作者ですが生暖かい目で見守っていただけると幸いです。


円卓の苦労人編
第1話


 今日も今日とて朝早くから仕事の山との大合戦。多勢に無勢は勿論の事、援軍のあては無く孤軍奮闘以外に道は無し。その唯一目に映るチョモランマもかくやと言わんばかりに積み重なった大量の仕事が聳え立っていては愚痴を溢す余裕すら無い。

 穀物の収穫状況だとか兵站が足りてるかだとか周辺国の動きだとか妹の昼食の献立とか、蛮族が出たとか他所の国が戦争仕掛けてきそうだとか物資の売買もしくは物々交換の段取りとか反乱を企ててそうな連中の監視報告だとか研究開発中の肥料の出来具合だとか、兎に角一つ一つの密度も種類もバラバラな仕事が次から次へと舞い込んで来る。

 今に至るまで国政なんてものもそれなりにこなしては来たものの、処理しなければならない事案の多さに頭が痛くなるのは何時まで経っても変わらん。

 特に最近は食糧問題が割と深刻だ。何せつい二日前に割と大きくて比較的土壌の状態も良さげな農園があのクソ忌々しい地球外生命体型蛮族野郎共の奇襲によってものの見事に整備前の荒れ地に早変わりしたのである。

 知らせを聞いた時は思わず卒倒しそうになり、何とか踏み止まったら踏み止まったで致死レベルの胃痛に襲われた。そして宇宙ゴキブリの如きこの世で最もハイセンスなクソッタレぶりを誇る究極の○○野郎集団を一匹残らずひっ捕らえて一列に並べた後、一匹ずつ頭蓋を○○き、そこに〇〇〇〇った奴らの○○○をぶち込んで死ぬまで○○○する〇〇〇〇を味わわせて遣ることを強く誓いながら、これまたクソ苦い手製の胃薬を口の中に流し込んだものだ。

 

 兎に角食料だ。食料がヤバい事になった。絶望的って程じゃないが割と小さくない打撃を受けてしまった。

 色々と余裕の無い我が国に於いて、それは結構な被害になる。外国との取引で補えないことも無いのだが、あからさまに『食い物くれ』って意志を示すと此方の現状が芳しくないことを悟られてしまう。そうなれば各国の外交官は良い笑顔で実に景気良く代金を吹っ掛けてくれるか嬉々として付け入る隙に身を滑り込ませてくることだろう。だから色んな国との取引する物資の要項にさりげなく混ぜるような形で掻き集めていくしかない。

 そうなると一度の取引で扱う物の量とか取引そのものの回数とか諸々の手間が一気に増えることによって更に仕事の山が標高を増すわけである。俺に登山家の精神でも備わっていれば是が非でも頂上に辿り着く気概に燃える所なんだが、残念な事に苦労してまで高い所に昇ろうとは思わない。高所恐怖症ではないが。

 

 出来る事なら自国の生産力で賄いたい所ではある。が、さっきも言ったようにウチには余裕なんて全然無い上に基本的にウチでは農作業も他の仕事も殆どが手作業だ。

作物の栽培・収穫にしたって機械の“き”の字も存在しない現状、ちまちまと自力で作業を行う他に無く、品種改良も何もされてない作物はすぐ病気になったり味が悪くなったりと問題ばかり発生する。

 元よりウチの国の土壌が悪いせいで育ちそのものが良くなかったりするわけで収穫時期はいつも暗い気持ちにさせられるのが常である。

 肥料だって自分の知る長年掛けて改良に改良を重ねてきたような代物が無い以上はそこらにあるものから材料に使えそうな物を掻き集めてくるしかない。

 兵站や軍隊の訓練状況とか維持費とか配備状況にしたってパソコンもない時代に於いては情報管理及び処理の効率が気が遠くなるほど悪い。

 そこで今回の○○蛮族野郎共による被害なんだから、もうどうやって無くなった部分を補てんしろと?その為の取引を各国としようって話でしたねそうでした。

 

 話はかなり変わるが、次なる問題が妹の食事事情だ。

 昔から相当の健啖家であり、兎に角沢山食べる上に妙な所でグルメな妹は食事の量が少なかったり味が悪くなったりするとあからさまに機嫌が悪くなる。

 あからさまと言っても誰彼構わずそんな態度を取るわけではなく、俺を相手にした場合限定で機嫌の悪さを発揮するという困った習性があるのだ。

 だというのに、この時代この国のメシは基本的に不味い。俺が知る基準まで食文化が発達するには何世紀掛かるかも分からない上に先ほど言った通り食材に関する問題もあってか妹のお気に召すだけの物を献上するのは非常に難しい。

 だからこっそり自家農園何て作って直に管理を行い妹の為だけになるべく品質の良い食材を揃える手間が発生しているというのが現状だ。まったくもって手のかかる妹である

 

 そうそう、俺の妹は王様やってたりする。

 『いきなり何寝惚けたこと言ってんのwww』『女だってのに王様何て出来んのか(笑)』『女なら王じゃなくて女王だろjk』なんてツッコミはとりあえず待って欲しい。ちゃんとした事情がある。

 まず一つ、妹は周りから女と思われていない。

 こういう言い方すると妹が女性的魅力皆無な喪女みたいに聞こえるだろうが……あながち間違いでもなかったりする状況に陥ってしまっているのが悲しい。

 低身長に加えて、下手な男よりも“漢”を張れる凛然とした性格、洒落っ気皆無でおまけに絶壁というコアな属性持ちの妹は下手すると女っぽい美男子でも通る容姿をしている…らしい。

 そんな具合に妹を漢の中の漢と信じて止まない頭の中にお花畑咲かせた駄騎士共がどう思ってるのかは知らんが、妹の容姿はハッキリ言って男っぽい要素何ぞ欠片も無いような美少女のそれだ。

 キラキラ光って見えるような金糸の髪に宝石みたいな翡翠色の瞳、十人が見れば十人が見蕩れる容姿に加え『弱きを助け強きを挫く』を地で行くヒーロー気質を兼ね備え、人間的魅力はカンストしているときてる。声だってちゃんと女の子の声だし身体は華奢だ。聳え立つ○○の○を辛うじて人と分かる程度に整形して作ったド畜生共と同じ類の美形(笑)な男だ何て馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

 とは言え、色々と複雑な事情も絡んで来るので、俺がそう見えようが見えなかろうが妹は男として国内外に周知されている現状は覆しようが無いし表沙汰にするわけにもいかない。

 女だと舐められるだとか周りが着いて来ない可能性を考慮しての措置であり、現状を鑑みるに有効且つ正しい献策であったと言える。何せこの時代、女の立場は驚くべき程に低い。それこそ下手すれば道具か何かのように扱われ、男に意見しただけでも生意気扱いされる程にだ。

 まぁこればかりはこの時代に於ける価値観というものなのだから文句を言っても仕方が無いので覆しようが無く、今更になって性別云々で揉め始めたら周辺国からの対応もそうだが自国内に於ける混乱、最悪内部分裂すらも巻き起こる事であろう。

 何せ妹は今や騎士の中の騎士にして、数多くの騎士を束ねる王という意味を込めた“騎士王”というあだ名で呼ばれる程の超有名人。人気度が鰻登りしてるだけにちょっとのスキャンダルでも冗談抜きで致命的な事態に繋がりかねん。

 ただ、それも俺がトチ狂って確固たる証拠ってのを集めて真実公表するとかアホをやらかさない限りはそんな事態にはならないだろう。

 民草は愚か、同じ騎士すらも魅了する完璧な王として君臨する妹は多少の違和感なんぞ覆い隠してしまうカリスマを持っているのだ。これが第二の理由になる。

 つまるところ妹が王様やってられるのは世間では男ってことになってて『アイツひょっとして女なんじゃね?』という疑問が出なくなるような格好良さで周りの人間に細かいことを気にさせなくしている為なのだ。

 

 そんなこんなで妹は現在進行形で人々が思う理想の王として今日も今日とて玉の座に君臨し、俺はその臣下というポジションに収まっている訳だ。

 この時代に生まれた当初は、正直こんなことになるなんてちっとも思っちゃいなかっただけに今まで色々と苦労してきた。今だって大変な目に会いまくってはいるが。

 何せ俺は“生まれ変わる前”はどこにでもいるような学生に過ぎなかったんだから、騎士だの将軍だの国務長官だのやれと言われたところで困る。今は何とかやって行けているのだけれども。

 思えば遠くまで来たものである。少しはマシな将来を勝ち取るべく騎士として身を立てんと錬磨に励んでいた。ついでに何かと面倒掛けてくれる妹の面倒もみてやれるようになればと俺なりに努力していた方だと思う。

 嘗て全ての元凶の一人である魔術師が普段の薄ら笑いのままにこう言った。『君は彼女を運命から遠ざけようとしていたのだろう』と。

 『この国に於いて王というものが何なのか、王になることが何を意味しているのか。国の頂点に立てば味わうことになる苦難を言って聞かせたのも妹に王になろうなんて気を起こさせない為。騎士になろうと鍛錬に打ち込む妹を窘め続けていたのも、妹がいずれ辿り着くであろう騎士の王になる事を防ぐ為。彼女が選定の剣を抜く際にも再三度その場から立ち去るように指示したのも、妹が抜いた選定の剣を自分が抜いたものであると偽ったのも、総ては彼女が王になる未来を回避する為だったのだろう?』と。

 当の妹にすら打ち明けていなかった胸の内をまるで微笑ましいものでも見るかのような顔をして語る魔術師。奴は言外に『お前が何をしようとも無駄だったのだ』と俺に告げていたのだ。事実俺何かの力ではどうしようもなかったのだろう。

 

 どうしようもなくて、それでも自分なりに何をすべきか考えて、そこから更に紆余曲折あった果てに俺は一生あの娘の味方で有り続けることを選んだ。

 例え誰があの娘の敵に回っても、誰もが掌を返そうと、それこそ世界がまるごとあの娘を否定したとしても最後まであの娘を支え続けると決めた。

 

 それが決してあの娘の救いにならないことを知った上で。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 睨み合っていた書類から目を離し、ぼんやりと天井を見上げる。

 そういえば今日は幹部勢を交えた会議もあったか、うっかり忘れかけていたことに疲労の度合いが最近増して来ていることを実感する。

 やはり文官をもっと増やすべきであろうか。ウチはどうにも戦場で活躍する将は人材層が他の国と比べて薄い本と電話帳くらいの差がある程度には厚いのだが、対照的に国政や他国との外交を執り行う人間が少なめに思える。

 無論武官の中にも政治の出来る人間がいることにはいるのだが、騎士然とした思考回路故にどうにも腹の探り合いや後暗い遣り取りを嫌う面がある。融通の聞かない連中も多く強かな立ち回りと言うのはあまり望めないような奴らが多いのだ。それも一つの美徳かもしれないが。

 まぁ何が言いたいのかというと、人手が足りない。足りない分を俺や他の文官が補って普通よりも多めに仕事を処理しなければならず、こうして苦労する羽目になっているわけだ。

 こんなに苦労して会議の時になったら他の騎士連中からあからさまに気に入らん奴を見る目で見られ、何か発言する度にKY扱いされて下手打つと総スカン喰らうとかマジでやってられん。自分からこの役職に就いておいてなんだがウチの国マジでブラック。

 丸テーブル囲んで頭の中にお花畑咲かせてるイエスマンならぬイエスナイトの馬鹿タレ共、『理想の王』だのと勝手な偶像を押っ付けやがる能無し共にこの苦労の一片でも味あわせてやりたいもんだ。

 

 何度目かという同僚達への恨み節を脳裏に反響させながら、仕事を再開する。

 煌びやかな鎧を身に纏った騎士達が戦場で駆け回る裏で、ジメジメと国務に勤しむ。所謂“転生”とやらをした俺こと『ケイ』の日常がこれである。因みに名前の前に『サー』はつけないのであしからず。正直そういうのは柄じゃない。

 本当に前世では考えられない今の生活。この良くも悪くも退屈だけはさせてくれない日々がもうじき終わることを予期しつつも、俺は自分の役目を全うする。最後の神秘が息づくこの国が滅び去るその日まで。

 


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