これじゃないと思う方は本当に申し訳ありません。
あと、気が早いかもしれませんがfgoの次のストーリーがエルサレムだとか円卓だとかいう名前で、もしかするとケイ兄さんも登場するのではと思ったり思わなかったり。
キャメロット城が完成し、円卓の席が埋まり、王はギネヴィアを王妃として迎えた。
彼女は真相、王の正体を知った上で口外せず、ただ王妃として振る舞うことで王を支えた。
円卓の騎士達の物語が本格的に花開いたのはこの時期だった。
懸念事項の一つであった蛮族は、キャメロット城完成前にアーサー王率いる軍勢によって本拠地を奪われ、その数を大きく減らしながら周辺各地へと散り散りになった。僅かな生き残りも徐々に刈り取られるのを待つのみである。
飛竜等の魔物の類による被害も先王ウーサーの死から始まる暗黒時代と比べれば圧倒的に数を減らしている。
しかしブリテンは未だ危機に瀕している。島の土で作物は育たず、外部から取り入れた種から取れる量は非常に微々たるものであるのが現状だ。
食用に足るだけの作物は外部から買い上げた物が大半を占め、貧しい国故に文官達は財政の管理に苦慮する。
異民族の侵攻は止まらず、アーサー王が駆け抜けた12の会戦の終盤、度重なる戦は変わらず国民へ大きな負担を強いていた。
だが、荒廃していくブリテン島の中にあってキャメロットだけは笑顔と希望に満ちていた。
豊かな生活、平穏な日常。一昔前までは想像も出来なかった夢のような世界がそこにはあった。その夢はキャメロットを中心としてゆっくりとではあるが、確実に広がり始めている。
国民はアーサー王の威光が齎したものであると称え、騎士達は自分達の奮闘が報われたのだと誇った。
そんな中、現状を理解しているごく少数の者達は現実に苦悩していた。
永遠に咲く花は無く、滅ばぬ国など存在しない。変わりつつある世界の中で神代より生き残った国としての寿命を迎えつつあるブリテンは、キャメロットの威光と豊かさが広がるよりも圧倒的に早く衰退していった。
何とかブリテンを生まれ変わらせようと奔走する者は自身の企てが予想以上に上手く進まない事に焦りを覚え、相も変わらず一度の戦が起こるたびに小さな村を干上がらせてでも軍備を整えねばならない現状に更なる焦燥をつのらせた。
そのような状況で、マーリンが信じがたい予言を口にする。
要約すればそれは『5月の初めに生まれた子供がアーサー王に災いを齎す』と言うもの。
あまりにも唐突、そして抽象的な予言。5月に生まれた誰が災いを齎すと言うのか、災いとは果たして何なのか。肝心な点を欠いたそれは情報と呼ぶにはあまりにも漠然としていた。
しかし予言を聞いた者達は誰一人として、それが虚言であるとは考えなかった。
マーリンは優れた魔術師であり、人間離れした知見を持ち、何より理想の王の誕生の予言を的中させてみせたのだ。
これまで積み重ねて来た実績がある以上、彼の言葉は切って捨てるには重すぎた。
そこで真っ先に一人の騎士が行動に移り、予言の日の前後に生まれた子供を徹底的に調べ上げた。
恐らく中には予言の日とは別の日に生まれた者もいるだろうし、予言の子が複数名いる場合を除いて考えれば大半はただの人違いでしかない。
それでも念を押して調べ上げ、絞り込んだ数十人の中に王の命に届き得る忌み子が生まれると言うならば、万全を期してそれら全員に何らかの措置を施さねばならない。
島からの追放を訴えかける者もいれば命を絶っておくべきと言う過激な意見も出た。議論は紛糾し、如何に対応すべきか誰もが思考を巡らせた結果、打ちだされた結論は王城からの隔離、そして継続的な監視だった。
貧しいブリテンに於いて新しい命は非常に重要な意味を持つ。排除しようなどと考えた日には国力や民の感情にも決して小さくない影を落とす事になるだろう。
故に予言の子と目された子供らを調べ上げた騎士が、自分の領地に彼等を迎え育てる役目を買って出たのだ。
危険因子を自分の手元にて監視し、予言通りの行動に繋がる動きを見せれば即座に対処する。そうでない者には他の国民と同じ生活を送ってもらうだけ。
そうすれば予言されたほんの一握りを除いた何の罪も無い子供らに謂れの無い処分を下す事も無くなる。ブリテンの未来を担う者達を無為に失わずに済むだろう。
王は騎士の申し出を受け入れ、予言の日に生まれた幾人かの子供等は王城から離れた騎士の領地へと引き取られた。
しかし彼等を引き取った騎士はそれまでの議論がただの茶番でしかない事を知っていた。彼は調査を進める段階で予言の子に大凡の検討を付けていたのである。
ならば何故、予言の子だと見做されてしまった見当違いな子供達の処遇など態々話し合ったのか。何故該当する人物の事を話さなかったのか。
議論の場でも彼が語ったように、国力の無駄な消耗や国民感情への影響を配慮しての事であるのは事実。と言うよりも排除を止めさせた理由の大半はそれであることに変わりはない。
ただ、予言の子が誰なのか当たりを付けた上で隠匿したのは、その人物が公表するには些か不都合な事情を抱えていた為だ。
素顔を隠し、素性を隠し、後見人となった騎士によって不都合な真実も隠された彼…否、彼女は今も一人の騎士としてアーサー王に仕えている。
その人物は、生まれた時から自分が人間でない事を知っていた。自分が何の為に計画されて作られたのかも。
この身は普通の人間と同じく愛され望まれて産み落とされたのでも、誕生を祝福されたのでもない。
自分を作った者、母である魔女モルガンの妄執を成就させる為に作り出された人の形をしたナニカ。
普通の人間のように長く生きる事も無く、子を為すことも無く、与えられた役目を果たせばその後は勝手に壊れて行くだけの人間擬き。自分というモノを冷静に分析し、初めに抱いた感情は悲哀だ。
自分には自分の意思がある。何も感じない人形などではないのだから母の願いだとか憎悪だとかに感情移入は出来ないし、それが正当なものだとも思わなかった。
ただ、それに従う以外にどのようにして生きれば良いのか分からなかったからそうしていただけ。
自意識だけはハッキリとしているのに人格を形成するだけの経験も思い出も無いまっさらな状態の自分。何が正しいのかも、人と同じ生き方も分からない。
そんな自分に生きる目的を与えたのが、母が破滅させようと動いている人物であったのは如何なる皮肉だったのか。
遠目に見ただけだと言うのに、その人物はまるで黄金に輝いているように思えた。
それ程の覇気、佇まい。この世のものとは思えない騎士の頂点に立つ王は、揺ぎ無く配下達の先頭に立ち戦場へと赴く。
彼の出陣を見送る民衆は皆一様に戦の前から勝利を確信しているかのような歓声を上げ、その偉大さと力を称えた。
彼こそが、母の暗い妄執を見て育った自分が初めて目にした光。人間の域を超えた絶対者として、人間でないモノの空っぽな心に刻み付けられた理想の王の姿だった。
いつかあの輝ける王のような立派な騎士になりたい。
子供の憧れと言われてしまえば正しくその通りだったのかもしれない。何せ自分は知識や技術を詰め込まれただけの子供に他ならない代物なのだから。
そんな青臭い夢を未熟な身の上なりに追い求めて、すぐ壁につき当たった。
と言うより、動き始める前から袋小路に嵌ってしまっていたことに今更ながらに気が付いた。
何せ騎士の身分でありながら素性を隠している。母に命じられ、自身の正体を悟られない為にと仮面を被って素顔を隠していた故に、周囲からの印象はすこぶる悪い。
身分詐称や隠蔽は世間一般では大変不名誉な事だ。その両方に手を染めている者が何某か企んでいるのではと周囲から警戒されるのも無理はない。
最早母の言いつけなぞどうでも良いと思える程度には元の役目を放棄しつつあったが『これを外せば最後、自身が人間でない事実が露見してしまうだろう』という、脅迫にも似た母の言葉が脳裏を横切り素顔を晒す勇気が出ない。
それでも戦で功績を立てればいずれは王の目に留まる。周囲を圧倒するだけの力を生まれながらに与えられている自分ならば必ず他の騎士に先んじて王の下に近づけると、未熟過ぎる騎士は浅ましくも信じていた。
しかし騎士は良くも悪くも一兵卒。戦に参加した所で活躍の機会そのものが何度も巡って来るとは限らない。
上に立つ者の指示には従わなければならず、それを逸脱した行為は却って自身の戦歴に泥を塗ることになってしまう。
思うように功を挙げられない事への苛立ち、長い時を生きられないが故の焦燥が積もりに積もり、冷静さを欠いた思考が再び先に述べたような周囲の和を乱すような行為に繋がる。
命令を逸脱した突出、目の前の敵にかまけて味方の連携に亀裂を生じさせる視野の狭い判断、挙句それらを行う中で力任せに振るった異能は敵以外の者まで見境無く牙を剥く。
ただでさえ警戒されていたというのに、腕は立つが血気盛んに過ぎる余り扱い難い猪武者の如き厄介者として周囲から認知されるのに時間は要らなかった。
騎士は半ば必然的に、自軍の混乱を嫌う上官によって徐々に活躍の機会どころか戦場自体からも遠ざけられようとしていた。
だがそれは軍隊と言う一つの巨大な生物の中に混乱が生じるのは避けるべきという、それなりの立場の物からすれば至極当然の考えであった。
突出し過ぎた戦力は扱いが難しい。均一な戦力が一列に並んで進軍するのと偏ったパワーバランスのまま足並みの揃わない突撃を行うのとでは、どちらが正しい軍の在り方なのかは一目瞭然だ。
強力過ぎる一人に着いて行く為に周囲は負担を強いられるし、着いて行けば力任せな暴れ方に巻き込まれ、勝とうが負けようが被害が出る。
軍全体の運行の妨げになるのであれば、いっそのこと居ない方が余程やりやすい。例えどれだけの力を有する猛者であったとしてもだ。
しかし冷遇された側からすれば納得が行かない。他の兵卒よりも多くの敵を倒し、力を示していると言うのに何故自分は認められないのか。
若いという域を通り越して未だに幼いとも言える仮面の騎士は、自身が周囲の人間より優れた存在であることを自負している。
事実、騎士が他よりも圧倒的に優れた能力を持っていることは誇張や虚勢の類ではない。
他より強く、優れているという事実は、予定調和の如く優秀さ故の傲慢な思考を騎士の中に形成し始めていた。
敵をより多く倒せる自分を使わないのはおかしい。
悪いのはそれを理解しない他人である。
自分は他人よりも優れているのだから間違っていない。
一向に好転しない現状に更なる苛立ちを腹の底に溜め込みつつあった騎士は八つ当たりにも等しい悪感情を周囲に放っていくようになる。
より優れた自分は正しくて、その自分の思い通りにいかない現状はきっと何かがおかしい。だから自分は悪くない。
残り少ない時間を無為に過ごしていては目標に近づく前に身体が限界を迎えてしまう。のんびりとしていられる暇など無い。
しかし、そんな事情を知っているのは本人だけ。単なる厄介者としか思えない周囲の人間から更に距離を置かれ、更に孤立を深めていったのは仕方のないことだ。
憧れの王を追いかける筈が、瞬く間に自陣の片隅で突っ立っているだけの惨めな立場まで落とされた。
何故こんなことになってしまったのか。ちゃんと力を示している筈なのにどうして認められないのか。
最早母の命令など頭にない。この忌々しい仮面を脱ぎ去って自身の素顔を晒し、高々と名乗りを上げた上で戦場に舞い戻ってやろうかと考えもした。
だが仮面に掛けた手は力任せに剥ぎ取ろうとしたところで動きを止めてしまう。
何を命じられてここに来たのか、それを全うする価値は無くなっても母が自分に残した言葉は未だに胸中に残っていた。
この仮面の奥には人間ではないモノの顔が隠れている。それを脱ぎ捨てると言うことは恥ずべき人間擬きの正体までもが周囲に晒されると言うことだ。
人間の姿形をしているのに人間でないのが恥ずかしい、更なる嫌悪感に晒されるのが怖い。
誰もが自分を奇形な物を見るような目を向けて来る光景を想像しただけで思い不安が肩に圧し掛かった。
仮面に掛けた手をゆっくりと降ろし、そして血が滲み出さんばかりに握り締める。
結局素顔を晒すことは出来なかった。自分の内に生じた衝動よりもあるかもしれない恐怖が上回った。
そんな自分が情けない、悔しい、どうすればいいのか分からない。
助けを借りることの出来る相手も周囲にいなければ、そもそも他人に助けを求めると言う発想自体が無い騎士は誰もいない城の片隅で肩を震わせていた。
「おい。そこのちっこいの」
声が掛かったのはそんな時だった。
突然話しかけられたことと、気配に敏感な自分が接近に気付かなかったことに驚きを覚えつつも即座に声のした方へ振り返る。
そこには沈んでいく夕日を背にして佇む大柄の男が立っていた。
背後から差し込む日の光を遮り、大きな影を作る男の姿はまるで全身から闇を放っているかのように感じられた。
他の騎士達よりも一回り高い背丈、衣服越しにも分かる屈強な肉体、背中まで伸ばした黒髪を風に靡かせる男はより大きな影を作り出し、人間ではない別の生き物のようにも感じられる。
それこそ、巨人か何かではないかと錯覚を覚える程度には目の前の男はただならぬ気配を放っていた。
男は眼下で呆気に取られている仮面姿の騎士を鋭い目つきで見下ろし、真一文字に結ばれた口をゆっくりと開いた。
「お前がモードレッドか。噂は聞いてる、勿論悪い噂だが。
悪趣味な仮面姿と暴走癖で話題の問題児」
お前に用があって来たと端的に告げる男に仮面の騎士、モードレッドは怪訝な目を向ける。
素性を隠している自分が言う事ではないが、見るからに凶悪で怪しい姿をしている謎の男が突然用があるなどと尋ねてくれば誰しもが訝しむだろう。
尋ねた当人もそれは理解していたのか、問い掛けられる前に相手の言葉を手で制する。
「お前の言いたいことは分かる。
俺が何者で何の用があって来たのかとかそういうことだろう」
言葉を遮られたのは少々気に障ったが、聞きたいことを答えてくれるのであれば良い。
偉丈高に有無を言わせぬ一方的な要求など突き付けて来ていたら拳の一つも繰り出したくなっていたかもしれない。
そんな不安定な精神状態になる程度には今まで色々な事があったのだ。
「俺はケイ。
最近少しずつ形になって来た円卓の騎士って奴の一人だ。
更に言えば、本日付けでお前の後見人になる男でもある。」
精々覚えておけ。
そう締め括り、男は状況を上手く呑み込めていないモードレッドをそそくさと自身の領地まで連れて帰った。
誰かに助けを求める事も、誰かに助けられたことも無かった。
先の短い人生の最中、突然現れた後見人を名乗る円卓の騎士。
予想だにしないこの出会いが、孤独だった一人の騎士の運命を大きく変えることとなる。
空っぽな心に差し込んだ光が王であったのならば、冷え切った感情に熱を灯したのが彼だったと言えるだろう。
やがて“兜の騎士”と呼ばれる事となる少年……否、少女の運命はこの時動き出した。同時に彼女を暗い底辺から掬い上げた男の運命もまた、終結に向けて加速し始める。
マーリンの不吉な予言を実現させる滅びの種は、誰よりも滅びの運命を回避すべく奔走する男の手によって表舞台に送り出されようとしていた。
《本編補足》
【ギネヴィア】
アーサー王の嫁。
従ってケイ兄さんにとっては義妹の一人で、王妃になる前から諸々の説明を受けた上で協力してくれている。今のところは普通に良い娘。
ケイ兄さんとの仲は非常に良好。非常に良好。
複雑な女心故に時々寂しくなることも多いのだが、その度にケイ兄さんに励まして貰っている。ケイ兄さんとしても自分達の都合に巻き込んでしまった責任があるのでメンタルケアには全力を注いでいる。
原作では不倫相手に「王様の方が……」とか言われてる。
【キャメロット】
ケイ兄さんが復興と建造に苦慮していた王城。
花の魔術師のお蔭で割とあっさり完成した。
建築、設計にはケイ兄さんが大いに関わっており、ケイ兄さんとマーリン以外は多分知らない仕掛けやら隠し部屋やらが数多く存在する。
地の底に通じる通路があるだとか城の何処かに金属で出来た要塞が隠れてるだとか色んな噂が流れてる。