型月に苦労人ぶち込んでみた   作:ノボットMK-42

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長期間に渡り更新が滞っており大変申し訳ございませんでした。
スケジュールの余裕が無かったことや体調不良等の理由があったとはいえ数年ぶりの投稿となってしまった事を重ねてお詫びいたします。

書き方の調子を取り戻す為にもリハビリ目的の別作品でも挟みながらちょくちょく次の話を投稿していこうと思いますので改めて宜しくお願いします。


※本編の注意事項として、若干の暴力的描写がございますのでどうがご留意下さい。


第11話 魔女のはなし 2

 私は強かった。

 私は賢かった。

 私は特別だった。

 

 

 人間離れした人間であるウーサー・ペンドラゴンからあらゆる事柄に於ける高い資質、そしてブリテン島に宿る原初の力である黒い呪力。

 島そのものを所有物とし、その気になれば卑王ヴォーティガーンの如き人外の力を振るうことすら出来る権限を受け継いだ。“島の主”という一点に於いては国王となった妹を遥かに上回っているだろう。

 

 更に、一度思考を巡らせれば、常人が十度は頭を悩ませねば導き出せない答えを容易く見出せる知能も生まれ持った。

 一人の魔術師が生涯をかけて漸く辿り着ける魔導の秘奥であろうとも、書を流し読んでほんの数日すれば手が届く。

 大凡まっとうな人間が積み重ねるべき努力も無しに高みへと上り詰めることが出来る類まれなる才能はあらゆる方面に於いて他者を凡俗の域に貶める。

 

 天才などという陳腐な物言いをする人間など5歳を過ぎたあたりで一人もいなくなっていた。

 才能の有無に関わらず、大半の人間の目には理解不能な力と才能を兼ね備えた人の形をしたナニカであり、近づき難き異形の者としか映らなくなる。

 

 事実、この身は純然たる人類とは異なる存在だ。

 体内に宿る黒い呪力を通して最後の神秘が残る島であるブリテンの地と繋がり、幻想種に属しているブリテン島の人間達の中でも一際人外に偏っている。

 一個の生命として見るのなら、人間よりも巨人や夢魔、竜種等が属している妖精種に近しい半人半妖なのだ。

 加えて言うのであれば母方の血筋による人外の側面まで持ち合わせているのだから、割合で言えば三分の二は人ならざる存在であるのだろう。

 

 周囲の人々から疎まれるようになるのも然もありなん。

 彼等は単に異端を嫌い、排斥ないし不干渉を決め込もうと望む本能を正常に働かせた結果として私を遠ざけたに過ぎないのだ。

 一般的な道徳心に基づけば誉められた行為ではないのかもしれないが、同時に常識的な危機感を持つ生物としては無理からぬことでもあり一概に悪行とも言えず、誰もが意見を同じくするのだから咎める者が現れるのを望むべくもない。

 

 冷静に考えればそのような答えも導き出せただろうが、生憎と被害者側は当時10にも満たない幼子だ。

 何も悪さをしていないのに自分を独りぼっちにした周囲の人間を『仕方が無い事だから』と許す寛容さを発揮出来るだろうかと問われれば、答えは当然否である。

 

 他人の気持ちを察するだとか理解するだとか、それなりに年を重ねた大人であろうと難儀する事柄に対して、生まれ持ったものなど何の意味も持たない。

 能力的に優れていることと精神的に優れていることは同意義でないと、力を持ちながらも平凡な人間的精神の持ち主でしかなかった小娘の屈折ぶりが物語る。

 

 そんな者が、己の負の感情を制御する術も持たないままに自分を疎む事の無い父を喪い、せめてもの支えとして臨んだ王の位と使命を妹に奪われて正常でいられる筈も無く、順当に歪み、当たり前に狂い、自然に暴走を開始した。

 

 父より受け継いだ才能も、ブリテンの申し子としての黒い呪力も、弱者を虐げて空虚な自己満足に浸る自慰行為の道具と成り果てていく。

 痩せ細った心の渇きを癒す事も無ければ、大きく穿たれた穴を塞いでもくれないと分かっている筈なのに、当然の事実からも目を背けて快楽の淵へと逃げ込んだ。

 そのまま行き着くところまで行き着けば、弱り切った人間としての心は完全に死に果て、嘗て求めたものへの欲求に突き動かされる亡者となっていたことだろう。

 

 

 そこで彼に出会った。

 無駄に身体が大きくて、冗談のように人相が悪くて、同じくらいかそれ以上に愛想も性格も最悪な義弟に当たる男。

 

 別段特別な才能や力を持って生まれたのでもなく、今に至るまでの人生で人域を逸脱するような力を手にする機会にも恵まれていない。

 自分のような半分人でない存在の側面を持つのでもなく、妹のように生まれつき竜の因子を有していることもない、頭から爪先から魂の奥底まで普通の人間でしかない生物。

 

 妹を害しようとするのを邪魔立てしてきたことは理解が及んだ。

 誰だって身内に手を出されたら憤りを覚えるのは当然のことであり、増して妹は忌々しい事にブリテンの王である。先王の家臣であった騎士エクターの息子にして現王第一の臣が動かない方がおかしいだろう。

 

 何ら疑問も驚愕も抱かせない当たり前の行為。

 ならばいつも通りに邪魔者は軽く蹴散らして行けば良い。指先一つ翻せば、或いは二言三言呪文を唱えれば只の身体が大きいだけの人間など肉塊以下の残骸に変えてしまえるのだ。

 

 今までもずっとそうして来た。

 王位を妹に奪われてからというもの、他者に何を譲るような真似もしたことなど無い。

 欲しい物は何であろうと奪い取り、気に入らないものは全て消してやった。邪魔する者達は一人残らず全てを奪った上で跡形も無くして来た。

 だから今回も同じにしてやろうとしたのに、他の連中と同じものである筈の人間は、いつものような有り様にはならなかった。それどころか此方の企みや行動を幾度と無く阻んでは潰していったのである。

 

 初対面の時だけではなく、その後も幾度と無く妹に対する有形無形の干渉を行おうとしたが、それら全てが標的へと効果を及ぼす前に頓挫する。

 初めは何が起こっているのか理解出来なくて、次に何かの間違いだと己を誤魔化して、やがて在り得ない筈の事態が発生していることに混乱する。

 

 此方の考えが見透かされている。

 下等生物に過ぎない存在が此方を上回っている。

 上位の存在である自分が人間風情に煮え湯を飲まされ、負け続けている。

 

 在り得ない事だ。在ってはならないことだ。

 強くて賢くて、凡俗共とは全てに於いて異なっている自分が、弱く愚かで平凡な存在に土を付けられるだけでも信じられない事なのに、目論みを悉く外されてしまうなど天地が裏返るが如き異常事態。

 

 私という存在が持つ性能は、あの男を含めた他者のそれを圧倒的に上回っている。どれだけ些細な物事であろうとも、後れをとるわけがない。一方的に勝利し、上回り、見下ろして踏みにじる側の存在なのだ。

 それがこの世界の理であり不文律、当たり前の常識だと、一切の疑問なく信じて生きて来た。それだけが、誰からも疎まれ拒絶された自分が拠り所に出来る唯一のもの。

 要は己が自信にしているものを揺るがされたことによって、自己同一性に致命的な矛盾が発生し始めていたのである。

 

 このままでは夢が壊れる。現実に引き戻される。

 何もかもが上手く行って、絶対者としての安寧に浸り続ける為には常に特別な存在でいなければいけないのに、これでは全てが台無しになってしまう。

 何も見えない聞こえないと、視界を遮っていた瞼が開かれ、耳を塞いでいた手が退けられるような思いだ。

 

 再び知覚した世界は相変わらずの有様なのだろう。

 怪物と疎む視線が四方から向けられ、拒絶せずにいてくれた父はどこにもおらず、自分が担うはずだった王位に就いた妹が栄光の道を進んでいる。

 言葉にするだけでも気が狂いそうになるほどの嫉妬と孤独と恐怖が湧き上がって来る地獄そのもの。

 

 そんな只中に放り出されるなど冗談ではない。死んでも御免だ。

 ならば、そうしようとする者を排除するしかない。妹よりも先にあの忌々しい凡人男だ。

 奴を消せば安心出来る。自己満足と自己陶酔と自己欺瞞に満ち溢れた甘い夢の世界が戻って来る。

 

 そう思い立つや、妹へと向けていた悪意は行き着く先を別の者へと変えた。

 意図的に狙いを逸らされていることにも気づかぬまま、たった一人の為の暗殺計画に腐心する日々が始まったのである。

 

 ある時は騎士を、ある時は魔術師を、またある時は人ならざる魔獣、それも両の手ではとても数え切れない物量を以て圧殺せんとした。

 これが妹に対するのだとしたら多少苦戦することはあるかもしれないが最終的には切り抜ける事も叶うだろう。

 非常に忌々しい事だが、あの小娘は王となるべくして設計、養育された事もあり生物としての性能は凄まじく高い。比例して戦闘力も相応な上、すぐ側には花の魔術師が控えている。

 ちょっとやそっとの小細工が通用するような相手ではないし、本腰を入れたら入れたで謀叛の意思を明確にした逆賊として討伐するように周囲に働きかける事だろう。

 

 対するあの凡人男には特別な力も強力な後ろ盾も無い。

 王から公私共に重んじられているという点だけみれば迂闊に手出しできる立場にないように思えるが、当の王は未熟の域を出ておらず、陰に日向に降り注ぐ悪意を権力の傘で遮る力を持たない。

 大っぴらに喧嘩を売るのならば兎も角、策謀を巡らせる裏の戦場に於いては全くの無防備と言って良い。

 

 花の魔術師も王の関係者ではあれ然程の重要人物とも認識していない臣下一人の為に骨を折りはすまい。

 例えあの男が無残に殺され王が嘆き悲しもうとも、それすら成長の糧として利用して見せるであろう事は、一つの命と心を生まれる前から己の目論む通りに作り替えた所業からして明らかだ。

 

 あれこれと理屈を並べ立てたが、要するにあの男の暗殺計画の障害となる者はいない。

 身一つでこの上位種たる自分の魔の手を捌かねばならないのだ。当然ながら、木っ端人間如きに乗り越えられるような生易しい真似はしない。

 名の通った騎士だろうがそれなりの実力を持った魔術師だろうが一度や二度死ぬ程度では済まないような絶望的な展開というものをくれてやるつもりだった。

 

 アーサー王第一の臣下が何者かの手によって惨殺されたという知らせが発せられるのは最早時間の問題。

 あのような凡庸な男の訃報なぞ数日足らずで忘れ去られるのが関の山であろうがと嘲笑を溢しつつ、その時が訪れるのを待った。

 

 

 ここで話を少し戻すが、先程あの男へと差し向けた刺客に纏わる事柄を覚えているだろうか。騎士や魔術師や魔獣共のくだりだ。

 誤解の無いように言っておくと、これらは同時に差し向けたのではなく、かといって寄せては返す波のように次から次へと送り込んでいったのでもない。送り込む必要が生じる度に新手を投入していったのだ。

 

 その意味する所は即ち暗殺の失敗。

 知恵と力と美貌を駆使して掻き集めた手勢は人間一人を跡形も残さずに殺し切って有り余る戦力だ。

 しかし、それらが標的の命を私へと献上することはなく、それどころかただの一人として帰還することは無かったのである。

 

 一斉に取り囲んで殺す算段であった騎士達は、闇討ちや遠方からの魔術や呪術によって標的の姿を視界に捉えることも出来ないまま皆殺しにされた。

 複数人がかりで発動する魔術によって寝床ごと吹き飛ばそうとした魔術師達は、術の発動途中に忍び寄って来た標的と正面からの接近戦を強いられ一人ずつ殴り殺された。

 一匹だけでも先の騎士と魔術師の集団を葬ることの出来る合成獣の群れは動体を感知して発動する炸裂の魔術と巨大な爆発を引き起こすだけの陳腐な礼装の罠によって身を削られた後、杭が敷き詰められた落とし穴に嵌った末に火を掛けられ灰と化した。

 

 こそこそと逃げ回り、隠れ潜み、罠を巡らせ、相手の土俵に一切のらず、本来の力を発揮することもさせぬまま一方的に嬲り殺す。とてもではないが騎士の所業ではない。

 それもその筈、あの男は騎士としての自覚も、そうあろうとする意志も、そうであったことすら一切無い。

 

 例えどれほどに卑怯卑劣であろうとも、為すべきことを成せるのならば、妹に魔の手を伸ばす魑魅魍魎を退けることが出来るのであれば構わない。

 外道の謗りなぞ寧ろ誉め言葉として受け取ってみせるであろう男は、在ってはならない敗北、それも当人を狙っての謀略を跳ね除けることによる言い訳のしようがない結果を突きつけてみせた。

 

 

 何故

 どうして

 なんで

 

 どうして上手く行かない

 思い通りにいかない

 望んだ結果が手に入らない

 

 高々凡人一人殺すだけのことがどうして出来ないのか

 今までは簡単に出来た事の筈なのに

 失敗続きなんて何かの間違いだ

 

 

 憎くて憎くて仕方がなくなった男が刺客を返り討ちにする情景を遠見の魔術越しに目にするたびに私は狂乱した。

 出会った時から積もり積もった怒りと憎しみ、そして恐怖がない交ぜになった激情が言葉にならない絶叫となって漏れ出し、感情の振れ幅に呼応するようにして全身から魔力が溢れ出して小さな嵐の如き様相を呈する。

 

 疾うの昔にかなぐり捨てた冷静さに続いてなけなしの理性すらも感情の波に押し流され、遂には直接的な暴力に訴えた。

 表立ってアーサー王と、その身辺にいる者に手を出せば逆賊と見做され処断されてしまうと分かっていたが故に決して侵すことのなかった一線を、一時の感情に任せて踏み越えたのである。

 

 余りにも愚かな自滅行為。

 卑王ヴォーティガーン討伐の前哨戦として処理されるのが関の山だというのに、頭の中には一人の男への殺意で埋め尽くされ、目に映る者もただ一人。

 その人物を視界に捉えた瞬間、激しく燃え上がっていた負の念が更に膨れ上がり爆発する。

 

 

 殺す

 殺してやる

 絶対に

 

 斬って殺す

 突いて殺す

 潰して殺す

 千切って殺す

 焼いて殺す

 腐らせて殺す

 溶かして殺す

 崩して殺す

 砕いて殺す

 破裂させて殺す

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 胸中に秘めた言葉さえ言語化不能な叫びとなり、呼応するようにして全身から黒い魔力が炎のように立ち昇る。

 男は相変わらずの能面で此方を見据えながら仁王立ちしている。それが逃げも隠れもしない意思表示であることは明らかで、今の自分と直接対面して微塵の畏怖も抱いていない内心を体現していた。

 その立ち振る舞いが更に神経を逆撫でしたことが最期の引き金となり、全ての殺意と害意が解き放たれた。

 

 繰り出されたのは制御も術式の構築も満足に為されていない杜撰極まる魔力塊の雨。しかして単純故に強大な破壊力が宿るそれらは強固な鱗で守られた竜すら物言わぬ肉片に変えてみせる事だろう。

 防ぐことは当然不可能、文字通りの雨霰と言わんばかりに降り注いでくるのだから避けることすらままならない。

 そんな純魔力は着弾と同時に土埃と魔力光を放って暫く視界を覆い隠すほどの衝撃を放った。

 

 暫くして視界が明瞭になった時、周辺の建物が跡形も無く崩壊し着弾地点に至っては地面が大きく抉られて窪みが出来上がっている惨状が露わになる。

 当然のように男の姿は無い。あまりの破壊力で欠片も残さず消滅したに違いない。

 

 あまりの痛快さに笑い転げる。

 自分で作り上げた惨状を前にして、愉快でならないと腹がよじれる程に笑っていた。

 怒りが晴れ、心が躍った。憎き輩を塵殺せしめることの甘美に絶頂すら覚えそうだった。

 

 

 愚かにも立ち塞がり、その誇りに泥を塗っただけでなく屈辱を味わわせた取るに足らない人間風情がザマを見ろ!

 

 

 こんなに胸の空くような心地になれるというのに今の今まで何故に手出しを躊躇っていたというのか。

 いざ動けばこんなにも容易くことは済むのだ。咄嗟に放った杜撰な魔術ですらこのような結果を生み出せるのならば、もう一人の怨敵にして本命たる妹めも全力を以てすれば容易く消し炭にしてやれるに違いない。

 ああ、そうする前に大事な大事な義兄がこの世から綺麗さっぱり消えて無くなったことを教えてやらねば。

 きっと嘆き悲しむことだろう。苦痛に表情を歪ませる小娘の姿を思い浮かべるだけで愉快な気持ちになれたが、そうするなら死の証明となる物が無ければいけないと思い至り、残っている筈も無いかと落胆しつつも笑いは収まらない。

 

 せめて死んだ後くらいは何かの役に立っても良いだろうに、所詮は何の価値も持ち合わせない凡人風情、過度な有用性を期待するだけ酷というものか。寧ろ最後に散り様で愉しませてくれたことだけは褒めてやるべきだろう

 

 これまで散々虚仮にされて来た鬱憤を晴らすかの如く風に乗って霧散した男へとあらんばかりの罵詈雑言を浴びせかけていた時、突然誰かが肩に手を置いた。

 最高に愉快な心地であったところを邪魔しただけでなく、許可なく自分に触れる不遜を働いた輩が現れるなど、これでは勝利の余韻が台無しだ。

 

 こうなっては殺すしかないと、いつの間にか背後に現れた人物へ振り返る。

 するとそこには

 

 

『随分と楽しそうに笑っていましたが何か愉快な事でもありましたかな姉君殿?』

 

 

 思わず間抜けな声が漏れ出た。

 肩に置かれていた手を振り払って背後に向き直った直後に視界を埋めたのは見上げんばかりの大男。

 無駄に鍛え上げられた鉄のような筋肉で覆われた身体つきと、冗談のように人相の悪い顔立ちをした男は先程木っ端微塵になった筈の人物だった。

 存在している筈の無い者が現れた理解不能な事態に思考が停止し、追従するようにして身体も微動だにしない硬直状態に陥る。

 

 故に次の反応はとれなかった。

 男が此方の胸倉を片手で掴んで引き寄せ、空いている方の手で作った拳を下腹部に打ち込む一連の流れが他人事のように感じられた。

 我に返る暇もなく、強大な魔力を宿しているとは思えない華奢な身体は強風に煽られた木の葉の如く宙を舞う。

 

 腹部を貫通したように錯覚する威力が乗った拳は臍の下から脳天まで衝撃を浸透させ、空中に投げ出された直後は半ば意識が何処かへ飛んでいた。

 我に返ったのは地面に叩きつけられ、吹き飛んだ勢いそのまま跳ね回るように転がされた後。

 いつだったか目論見を外され続けて狼狽していた時と同様に何が起きたのか理解できず、幾ばくかの間をおいて自分が殴り飛ばされた事実に辿り着き、最後は思い出したように込み上げて来る鈍痛と食道を逆流する感覚に悶えた。

 

 立ち上がる事さえ出来ぬまま、強かに打たれた箇所を両手で庇いながら胃の内容物を吐き出す。

 痛みと圧迫感と息苦しさが同時に襲い掛かり、全身から脂汗が噴き出し、涙と鼻水が人間離れした美貌を醜く歪めていくが、顧みる余裕などある筈もない。

 

 

 何故生きている

 確かに消してやった筈なのに

 何故だ

 

 

 胃袋の中身を粗方吐き出し切り、途切れ途切れに発した擦れ声は、相手に問い掛けたというよりも理不尽な現状への恨み言に近かった。

 それでも男は律儀に答える。まるで出来の悪い子供に言い聞かせるように。

 

 

『別に難しいことはしちゃぁいませんとも。

魔術で姿を消しつつ爆煙に紛れて背後へと回り込んだだけのことです。

二流魔術師連中を送り込んで来た一件でも同じことをしていたのですが、どうやら姉君殿は観察力と学習能力が備わっていないと見える』

 

 

 あまりにも簡単すぎる答え。

 一瞬で背後に転移しただとか、幻影で惑わしただとか、高度な技術を求められるような手段などは一切用いていない。

 効果範囲の中にいれば避ける事も防ぐことも出来ない攻撃を、放たれる前に範囲の外へと逃げ出すことでやり過ごしていただけ。

 姿を消すことで、咄嗟に逃れる瞬間を見られることなく、まるで跡形も無くなってしまったかのように演出したに過ぎない。

 たかがそれしきの小細工を弄された程度で、私は相手の思惑に嵌められ隙を晒し、今現在の無様を晒しているのである。

 

 地を這う虫けらの如き自分の有様を自覚した時、胸中を駆け巡ったのは怒りや羞恥ではなく、体験した事の無い理解不能な事態に陥ったことへの不安と恐怖だった。

 冷たい土肌の感触、肌にこびりつく泥と脂汗の不快感、口の中に広がる血と胃液の混じった味。

 

 これまで他者に与えて来たであろう感覚を自分が受けているという現状が、ひたすら有り得ない悪夢としか思えなくて理解はしても納得が行かない。しかしいくら否定しようとも決して覚めてはくれない。

 無駄に時間だけが流れて、気が付けばあの男が此方に近寄って来るだけの猶予を与えてしまっていた。

 

 重たい足音がすぐ側で聞こえて、反射的に背筋が震え肩が跳ね上がる。

 恐る恐る見上げれば、体中に火傷や裂傷の類が見られ、先の攻撃で即死こそ免れたものの決して小さくない傷を負った姿が視界を埋める。

 真っ当な人間であれば風が撫ぜるだけでも苦痛を覚えるだろうに、巨壁の如く聳える肉体は一切の揺らぎもせずに聳え立っている。

 

 虚勢でも何でも構わないから何事か言い放ってやろうとしたが、先手を打つ形で胸倉を掴み上げられたせいで引き攣った呻き声が漏れるだけに終わる。

 岩のようにごつごつとした手に引き寄せられると、ついさっき殴り飛ばされた瞬間が脳裏を横切り全身の血が一斉に凍り付くような寒気が走る。

 すぐにでも逃げ出したい衝動に襲われて、振り払ってしまいたいのに体が言うことを聞かない。生まれたての小鹿の如く小刻みに震えるばかり。

 

 何ということだろう。

 特別な力も宿らない拳一つで目の前の男に対する闘争心が半ば圧し折られてしまうなんて。

 体験した事の無い苦痛と恐怖を心身両面へ刻み込んだ男は、これまで虐げて来た者達にとっての自分が正に同様の者だったと思い知らせた。

 とてもではないが、高みから一方的に踏みにじる事しかしなかった者が正面から立ち向かう勇気を奮い立たせることなど出来はしない。

 

 

『何故私がこのような無礼に及んだのか分かりますかな姉君殿?

要らぬ誤解をされては困りますので申し上げておきますが、先の魔術に対する報復に類する意図は一切ございませんし何らかの欲求を満たす為でもない。色々と“お転婆”への義憤を抱いたのでもない。

更に言うのであれば貴女が陛下の御身を脅かす意図で策を巡らせておられたからでもありません。至って簡単で当然で普通のことです』

 

 

 自慢の頭脳で考えてみろと言いながら、大凡思いつくであろう選択肢を先んじて潰して来るのだから嫌味な男である。

 深く考えずとも互いの状況や関係性、社会的立ち位置等の要素を考慮すれば簡単に導き出せる一般的な答えをほぼ全て否定して簡単だの普通だのと一体どの口が言っているのか。

 だが、当人からすれば本当に簡単な事でしかないのか、呆れ返った表情を浮かべている。

 

 

『やれやれ……まともな答えを期待するだけ無駄ということですか。

薄々分かっていたことではありますが思わず脱力してしまいます。頭の中が子供な大人というのは質が悪いにも程がある。

それも気違いに刃物などという次元に収まらない代物まで持っている始末』

 

 

 本当に困ったものだ。

 

 わざとらしく目を伏せ沈痛な様子を見せつけた直後、一睨みされれば泣きわめく子供も静まるどころか気絶しかねない三白眼が真っ直ぐに見据えて来る。

 抗う術なく蛇に睨まれた蛙と化して、次なる行動を無言で見送る他無かった。

 

 

『まず手始めに……4年前、とある騎士を傀儡として恋人たる貴族の娘を川に身を投げる事態に至るまで追い詰めさせた分です』

 

 

 提示されたのは暇つぶし感覚で行った人間遊びの一例。

 数えるのも億劫になる程度には繰り返し、それ以前に初めから数えるつもりが無かった為、たった今耳にした一件にも全く覚えが無い。

 

 後で判明するのだが、それは王が修行から戻る前に彼が行った総勢30名の不穏分子の調査の過程で知った情報らしい。

 当然の如く、その内に含まれていた私は経歴から精神性から人間関係に趣味趣向を加えて何人の異性と寝たかに至るまであらゆる情報を調べ尽くされていたのだ。

 

 ともあれ、そんなことを聞かせてどうするのかと疑問が浮かんだ直後、掴み上げていた方とは逆の手が視界の端から迫って来て、既に泥塗れになっていた頬を強かに打った。

 大きな掌は頬どころか顔面の右半分全体を隈なく打ち付けたに等しい衝撃を与え、脳を揺らされたのか視界が歪みながら明滅する。

 

 もう2、3発程殴られる程度は予想していたが、己とは関係の無い他人の話を挙げて引っ叩かれるなど予想の外である。

 

 

『次は2年前、視界に入った適当な町娘を黒魔術で呪って怪物に変えた後、親兄弟を一人残らず食い殺させた分』

 

 

 またもや過去に行ったと思しき悪行を挙げ、振り抜いた手を戻すような形で手の甲を先程とは逆の頬へと打ち付ける。

 平常な状態に戻り切っていなかったが為に何の備えも無いまま二度目の張り手を喰らう。

 小気味良い破裂音が響き、そのまま骨が螺子切れるのではないかと疑うほどの勢いで首が右へと回される。

 

 

『次は5年前、求婚を申し込んで来た他国の騎士と何度か夜を共にした後、幻術をかけて家畜と性交し続けるように正気を奪った分』

 

 

 ちょっと待て!

 

 制止しようとしたが、言葉にする前に右の頬を打たれる。

 くぐもった悲鳴が漏れ、一緒に血が混じった唾を吐き出した。

 打たれた頬は熱を帯びて赤く染まり始めており、同じ箇所に衝撃が加わる事で刺すような痛みを染み渡らせた。

 

 

『次も5年前、とある小さな騎士団に属する男全員と密かに関係を持ち、敢えてそのことを噂として流し仲違いを誘発させ最終的には騎士団を崩壊させるに至った分』

 

 

 止めろ!

 

 

 今度はちゃんと言葉に出来た。

 しかし必死の叫びも何処吹く風と言った様子で左の頬を打つ。

 

 

 ぎぃ!?

 

 

 絞め殺される豚のような声が自分の口から発せられたことも気にならない程の痛みが走り、滲むように涙が零れだす。

 

 

『次は』

 

 

 もう止めて!

 

 

 思わず懇願して、当然のように受け入れられずに再び破裂音が響く。

 連続で頭部に強い衝撃を受けた事で意識が混濁し始め、眼球が裏返り白目を晒す。

 そのまま気絶してしまえれば良かったのに、苦痛の原因たる男は許してはくれなかった。

 

 

『次は昨年の三件を一斉に挙げましょうか』

 

 

 朦朧とする意識の中で耳にした発言の意図を理解しきれずにいると、今度は連続で三度の平手が打ち込まれた。

 

 

 ぎゃ…!?

 がぁ!

 ぐえっ

 

 

 急に激しさを増した衝撃で現実に引き戻され、思い出したように自己主張する痛みに呻く。

 決して命に関わる傷を負ったわけでもないのに呼吸は荒くなり、何度かむせかえっては涙と涎と鼻水で腫れ上がった顔をぐちゃぐちゃにする。

 ほんの少し流し見るだけで他者を虜にする美貌は最早見る影もなく歪んでおり、今の姿を見て王女モルガンであることに気が付く者は皆無だろう。

 

 

『目も覚めたようなので次の件を』

 

 

 ひぃ!?やだやだ止めてぇ!!

 

 

 情けない悲鳴を上げることも気にならない。

 次々に与えられる痛みから逃れたい一心で身を捩り助けを請うが、頬を打つ手は止まらないし助けが入る事も無い。それ以前にこういう場面で助けに入ってくれるような人など思いつかない。

 胸倉を掴む手を退かそうとしても微動だにせず、身を捩ろうとも逃れられない。

 我武者羅に全身から魔力を放出しても男は倒れる事無く平手打ちを見舞う。

 

 この期に及んで初めて、今まで誰にも優しくして来なかったことを後悔する。

 結局今の状況も当然の報いと言われてしまえば反論のしようが無いのだから。

 

 

 

『次は』

 

 

 もう許して!

 

 

『次は』

 

 

 私が悪かったから!

 

 

『次は』

 

 

 もうアンタを襲ったりしないから!

 

 

『次は』

 

 

 妹にも手を出さないから!

 

 

『次は』

 

『次は』

 

『次は』

 

『次は』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ時間が経っただろうか。

 

 悲鳴を上げる体力すら無くした私は死体も同然の有様で脱力し、一切力を緩める事のないまま胸倉を掴む手にぶら下げられている。

 顔面は赤を通り越して紫色に染まった部分もちらほらと見られ、虫の息も同然の呼吸音が漏れていなければ撲殺された哀れな死体にしか見えないだろう。

 

 正しく半死半生とはこのこと。

 緩急交えた平手打ちによって、意識を失うことすら許さないまま生かさず殺さず痛みを与えられ続けた。

 だが、一方的に此方を痛めつけていた側も決して無事ではない。

 始めの攻撃で負った傷に加え、もがきながら出鱈目に放った魔力を至近距離で全身に受け続けた事で傷の無い部分を探す方が困難な有様だ。

 周囲には全身から飛び散った血液で大きな染みが出来上がっている。

 

 今すぐにでも倒れたきり覚めない眠りについてしまってもおかしくはないのに、揺るぎ無く立つ姿は巨大な壁を通り越して大山のようだった。

 そんなものを崩そうとしていた自分の蒙昧さに心底後悔した頃には逃れようと暴れるだけの余裕も無くなっていた。

 

 

 おねがい

 もうやめて

 ゆるして

 いたい

 くるしい

 たすけて

 

 

 泣き言めいた言葉を壊れたように繰り返すだけになったところで漸く平手打ちが止まる。

 やっと終わったのかと一瞬だけ安心して、すぐに血の気が引いた。

 これまで散々に頬を張って来た手がもう片方の手と同様に胸倉を掴みあげ、額が触れ合う程の距離まで互いを引き寄せたのだ。

 

 視線だけで物体に風穴を穿つことが出来そうな目が視界を占拠する。

 腫れ上がった顔面を貫通して後頭部から抜けて出る錯覚を覚えたのは現実逃避の一環だったのだろうか。

 ズレた思考を吹き飛ばしたのはあからさまに怒気を含んだ低い声がすぐ目の前から発せられたからだ。

 

 

『テメェがやらかして来たことはまだまだ腐るほどにある。

その見るに堪えない豚顔が粉々になるまで引っ叩いてやっても足りない程度にはな。

だが肝心なことを理解させないまま無駄に痛めつけたところで時間の無駄でしかない。

だからハッキリと言わせて貰うぞ』

 

 

 それは叩かれる前に一度問われた、簡単に過ぎるらしい理由についてだった。

 いい加減にじれったくなったのか、或いは問い掛ける意味すら見いだせなくなったのか、此方に何事か聞く事も無く彼はそれを打ち明ける。

 

 

『誰もテメェにこうしなかったからだ』

 

 

 言われて、意味を理解出来ず。

 一考して、やはり疑問が浮かぶばかり。

 それを僅かな仕草で読み取ったのか、或いは分からないであろうことを予測していたのか、発言の真意を促されることもなく彼は口にした。

 

 

『ガキが悪さをすれば当然大人がそれを注意する。

場合によっては大声で叱りつけられるだろうし、度が過ぎれば引っ叩かれる。

人間はそうやって育っていくものだ』

 

 

 だが私にはそれが無かった。

 知った風な口を、などとは思わない。事実その通り。

 

 今に至るまで、誰も彼もが何をしようがされようが、他人が否定や制止の声をかけて来た試しは無い。

 例え間違いを犯したとしても咎める人もいなくて、ただただへコヘコと腰の低い態度をするばかり。

 その癖、少しでも此方の機嫌を損ねる恐れがある事をすれば、どんな些細な事だろうと気持ちが悪いくらいに謝罪の意を示して来るのだ。

 

 子供の頃、怪物でも見るような視線に不快感を募らせていた私は、憂さ晴らし目的で少しずつ自覚し始めた魔力を用いて部屋の掃除をしていた使用人を傷つけたことがある。

 本当はちょっとした悪戯気分だったが、幼いながら予想以上の魔力を有していた為に事態は流血沙汰にまで発展してしまった。

 当然そんなことをした私は叱られるのが当たり前の筈なのだが、どういうわけか仕様人達の責任者を務める男が被害を受けた人物を平伏させて何度も何度も謝罪させた。

 何でも、魔力が当たった時に飛び散った血を私が頭から被ってしまったことを問題視したらしい。

 

 正直に言って訳が分からなかった。

 元々私が何某かの作業をしている仕様人に魔力を当てて悪戯しようなどと考え実行しなければ良かっただけのことであり、明らかに大きな被害を受けているのは此方ではない。

 なのに被害者側に過剰なまでの謝罪を要求して不興を買わないよう必死に努めている。

 

 同様のことが昔から何度もあって、ある程度成長してからは誰もが何をされても泣き寝入りを決め込むか逃げるように距離を取るばかりで、叱るどころか反応を示す相手すら周りからいなくなった。

 だから私がどんどん逃避に走って堕落して行っても誰も止めなかったし咎めなかった。

 何人にも邪魔されぬままに地獄の底へ向かって真っ逆さまに駆け抜けていくことが出来てしまった。

 

 

『確かにテメェは周りのクソ馬鹿共に珍獣扱いされて腹に据えかねてたんだろう。

だが他人を弄んで飽きるなり壊れるなりしたら使い捨てるなんぞ下らん遊びが許される理由にはならん!

例えどんな理由があろうとも‟悪い事をしちゃいけません”ってのは当たり前の話で、それでも悪さをしでかしちまったら例え許されなかろうともちゃんと‟ごめんなさい”を言わなきゃならねぇだろうが!

それが出来てない上にどいつもこいつも教えようとしやがらねぇから俺なんぞが頭と身体に直接叩き込んでやってるってんだよ、このド阿呆が!』

 

 

 父親が悪童へ言い聞かせるようにして声を荒げる彼が語ったのは、確かに至極当たり前の話だった。

 それこそ子供が親に言われるようなことに過ぎない、簡単で当然で普通のこと。

 なのに先程まで頬を打たれ続けていた時とは比べものにならない程の衝撃を受けた。

 

 誰かに負の感情を向けられたことならいくらでもある。

 否定されたり、拒絶されたりしたことも数えきれない程経験した。

 思いやりとはとても言えないような浅ましい“善意”を向けられたこともあった。

 

 けれど彼はどれにも当てはまらない。

 

 負け犬の遠吠えや、自棄になった弱者の怨念返しでもない。かと言って薄っぺらい正義感や同情から来る見た目だけ取り繕った善行ですらない。

 憎しみや恨みつらみも無く、ただ当たり前だからと悪事を働き続けた私をこれまで犯した罪の分まで叱りつけて謝罪と反省を促している。

 それはまるで厳しくも相手を決して見捨てない姿勢の表れのようだった。

 

 

『良いか?良く聞け。

これから何か悪さをしでかす度に俺が引っ叩きに出向く。

テメェが口で言って分かるようなお利口さんじゃぁない以上、毎回身体に教え込む以外に無い。

いつも見てるからな。

四六時中監視して○○○○も満足にさせてやらん。二度とクソつまらん遊びで現実逃避が出来ないようにしてやる。

自堕落極まる安穏とした日々は今日で終わりだ。人様に迷惑かける気力も湧かなくなるまで徹底的に根性叩き直してやる。

その貞操観念とこれまで散々男の○○○を○○して来た○○○と同じくらいユルユルガバガバな頭を一から矯正してやる。泣いたり笑ったり盛ったり出来なくしてやるから覚悟しとけ!!』

 

 

 重傷を負っているにも関わらず、凄まじい気迫で捲し立てられる。

 私は痛みからか恐怖からか、或いは別の理由からかも定かでない涙を流しながら、小さく頷くしかなかった。

 

 




《本編補足》


【合成獣】
 FGOのキメラみたいな生き物。
 火を吐いたりよく分からない気弾を発射したり毒の牙やら爪やらで攻撃して来る。
 群れをなせばブリテンの幻想種とも戦える程度には強いのだが、ケイ兄さんの仕掛けた対怪物用の巨大杭とトリモチが敷き詰められた落とし穴に嵌って全身串刺し&へばり付いて動けない状態に陥る。
 止めと言わんばかりに発火性の薬液を注がれて焼却処分されてしまう。

【姿を消す魔術】
 刺客として送り込まれた魔術師への奇襲やモルガンの攻撃から逃れる際に使用。
 ぶっちゃけると風王結界みたいなもの。
 詳しい事は後々描写するが、ケイ兄さんは現状魔力放出や、それに類するスキルを持たないので代わりに色々と複雑な手法を用いて透明化だけを実現させている。
 妹のそれと比べると出力が低く防御や攻撃に転換することはまず不可能。
 低コストで全身を透明に出来る他、風の魔力でなく炎の魔術を応用している等の違いがある。


【総勢30名の調査】
 アーサー王が活動を再開するに当たって邪魔になるかもしれない人物をケイ兄さんがリストアップし内密に調査。結果として26名はシロという結果だった。
 あからさまな危険物であるモルガンは数少ないクロの中でもとりわけ要注意の対象として念入りに調べられるのだが、少し嗅ぎ回っただけでも子供大人感が凄すぎて逆に演技や擬態を疑うレベルだった。
 初対面の時も直接観察して情報通りの人物かどうかを確かめる意図があったのだが、案の定だった為に警戒するだけ損をした感を味わう。
 また、その後もモルガンには監視がつけられており、当人の動きの他にも人員や物資の動き等の観点からも動向を把握されていた。
 その為、何度か刺客を送り込んでも事前に察知されて対処される憂き目に遭っていたというオチ。
 モルガン自身はケイ兄さんを完全に嘗めてかかっていたし、そうでなくなった時には冷静さを失っていたので監視されている可能性にすら思い至らなかった……流石にアホにし過ぎただろうか?


【ケイ兄さんの負った傷】
 最初に撃ち込まれた魔術を避けたような描写をしたものの、実際には直撃を避けただけで余波によるダメージはしっかり負っていた。
 余波とは言っても今作に於いてはチートオブチートなポテンシャルを誇る設定にしてあるモルガンの攻撃であった為に身体のあちこちが火傷したり抉れたりしていた。
 しかもその後の往復ビンタの際にモルガンが暴れて出鱈目に魔力放出を行ったので全身を隈なく切り刻まれてしまった。
 最終的にどれくらい負傷したのか並べてみると、裂傷及び火傷多数・大量出血・肋骨3本及び左足骨折・内臓破裂・ついでに右の鼓膜が破れていたといった感じ。
 そんな状態で直立したままモルガンの体重を片手で支えてビンタし続けるという、自分で書いててシュールな光景に………

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