四月五日以降の大安の日からなんです。
ちなみに今年は四月九日です。
この話はその日にむけて準備をすることになった一組の男女の物語。
※今作はハピナさん主催の第3回ハーメルンコンテストへの応募作品です。
※テーマは「色々な人の『鯉のぼり』」です。
※作品内の描写には作者の偏見が含まれている可能性があります。その辺りはご指摘いただけると幸いです。
あんまり関係ありませんね。それでは、作品を最後までどうぞお楽しみください。
「知っているか?四月九日は大安。四月九日は四月五日を過ぎた後の初めての大安だからその日からはこいのぼりを飾るんだ」
「………いや、だからどうしろと」
僕の住んでいるアパートに突如友人がやってきた。
友人はたまたま僕が玄関の鍵を閉め忘れていたら勝手にあがりこんできた。
不法侵入で訴えてもいいだろうか?
「ふむ。それなら私は服を脱いで悲鳴をあげてみよう」
「僕を勝手に悪者にしようとするな。僕は無罪だ」
「そうか。では不法侵入ついでにお前の財布でも盗っていくか」
「男独り暮らしの家に女一人で訪ねてすることは犯罪行為なのか、普通?」
「お前が私を襲ったら間違いなく犯罪行為を犯したことになるな、私ではなくお前が」
「君のその貧相な体つきに興味はないんだけど」
「やかましい。殺されたいか?」
発想が物騒だぁ………なんでこんなやつが友人なんだろうか。
………というか、本当に何なんだ?
僕は今夕食を作っていたところだったんだけど?
妨害するとはいい度胸じゃないか。
「ふふん。そんな態度をとっていていいのかな?聞いたぞ、お前仕事先が潰れたそうじゃないか」
「うっ!い、痛いことを言わないでくれる?僕だってこんなことになるなんて思ってなかったさ」
………僕はとある機械を製作する会社で働いていた。
ところが社長が会社の借金を返せず、会社の施設は全て売られた。事実上の倒産だ。
しかも何人か働いていた人が何処かへ強制労働させられに外国へ送られてしまったらしい。幸い僕は送られなかったが。
そこまでうちの会社は切羽詰まっていたんだ。
僕はそんなことに気づいては無かった。
………ちなみに。僕の再就職先はまだ未定だ。
「それにしてもお前は開き直っているなぁ。やーい、ニートニート」
「うるさいよ。本当に襲っちゃうぞ?」
「………お手柔らかにお願いします」
「………えっ?」
「冗談だ。今日は地味にエイプリルフールだからな、地味に」
「おいコラ」
一瞬でもドキッとした僕の純情を返せ。
「まあ、そんなかわいそうなお前の為に私が持ってきた話は冗談じゃないんだがな」
「………内容によっては怒るよ?」
「はっはっは。そう警戒するな………なあ。お前、少しうちで働かないか?」
「………えっ?」
突如、友人から仕事のお誘いが来たことに驚いて思考がフリーズする。
「ま、詳細は明日話す。私も忙しいんだ。じゃあな」
「お、おい!?僕にだって都合があるんだけど!?」
もう帰ろうとした友人の腕をつかんで引き留める。
「………先にいっておく。日給で3万出そう。どうだ?」
「喜んで引き受けさせていただきます」
………お金には勝てなかったよ。
翌日
「………まとめると。鯉のぼりの配達をするからから暇そうだった僕に手伝ってほしい………ってことか?」
翌日の朝早くからうちを友人は訪ねてきた。元気だな本当に………
そして、少し前に仕事内容の説明が終わったところだ。
ふっと思い出した。
友人は日本古来の物………鎧や模造刀、人形などを作っている工房をしている家族生まれだった。
友人は今その工房を継ぐことになっているらしい。
小さい頃それで刀の鞘を持って追いかけ回されたことがあるんだが………
………そっとしておくべきだな。
「そういうことだ。本当の事をいうとな。うちの父さんが最近車で事故ってしまって今年の配達役が足りないんだ」
「ええ!?お父さん大丈夫なのか?」
「怪我は入院沙汰になったが二週間くらいあれば問題ないらしい」
「そうか………今度お見舞いに行かせてくれよ。ところで車はどうだったんだ?」
「車はもう駄目なんだ。フレームが元々老朽化していたところに今回の事故で逝ってしまったらしい。修理も考えたんだが………」
「フレームは高いからな。50万くらいするケースもあるから………廃車か」
「ああ。残念だがな………とにかくこの状況じゃあうちでは鯉のぼりは運べない。確かお前は車を持っていたな?今日一日鯉のぼりを配達してくれ」
「うーん………別にいいんだけどさ。あの車でいいの?」
「ああ。ああいうのは送り先の子供は喜ぶからな」
多少呆れながらも僕はアパートの駐車場を見る。そこにあるのは僕の車。
カーボンボンネットに大きなウイング等々を装着したAE86スプリンタートレノがある。
分かりやすく言うのなら。
走り屋とか暴走族みたいな車があった。
こんな車で本当に大丈夫か。
そして配達を始めたんだが………
「かっこいいなこの車!なんて言う車なんだ!?」
「ハチロクって車だよ………もしかして気に入った?」
「ああ、俺も将来こういうのに乗りたい!」
………わりと好評だった。自分が誉められている様で悪い気はしない。
ただ………
「すみませんねえ、うちの子があんなにはしゃいじゃって」
「いえいえ、これも少し狙っていましたから。そのためにわざわざ大学卒業以来ほとんど会っていない友人に頼んだんです」
「あらぁ。あなたも意外と悪い子ねぇ」
「いやあ、昔母さんと私の父さんを取り合ったというあなたほどではないですよ」
「「あははは!!」」
………アノヤロウ………
後で文句言いまくってやる。
移動中………
「あー楽しかった。あの人も相変わらず元気で良かった。さあ、次は………」
「いや、次に行くところはわかってるんだけどさ。リストもらってるし」
先程、あの親子の家に配達したが、まだまだ配達先は残っている。
車を運転してそこへ向かっている途中だ。
ただ僕には気になることがあった。
「なんでわざわざ僕らが配達する?配達の業者に頼めばいいじゃないか。それになんでお前もついてくる?」
「わかってないね。いいかい?こういうのは人付き合いが大切なんだよ。私は今まで毎年父さんと一緒に配達していたんだ。さすがに今年は父さんは無理だが、せめて私だけでもな。いいか?些細な事で人間関係は大きく変わる。よく覚えておくといい」
「はいはい、覚えておきますよ………それはそうとさ。意外と配達する量少ないな」
この車は小さいけど意外と荷物は載る方だ。ただそれでもワゴン車とか荷物を載せることが前提の車には及ばないが。
そんなスペースの大きさにちょうど収まるくらいしか配達する量はなかった。
ちなみに鯉のぼりは新規の物と頼まれて修理した分で4:6位の割合で運んでいる。
『物は大切に使ってほしい』って昔こいつも言ってたっけな。
「………鯉のぼりを飾るのは今となってはお年寄りとか昔ながらの風習を大切にする人くらいだからな。おまけに法律もうるさくなった。お陰で飾りたくても飾れないところも増えた」
「ははっ、鯉のぼりで商売をしている人からしてみれば辛いだろうなぁ」
「そうだな。うちは質がいいから県外からも商品は取り寄せられたりもする。だから工房は維持できるし、十分儲かっているんだが………それでも注文は減っているのが現状だな。辛い時代になったものだ」
せちがらい話になってしまった………
………聞かなければ良かったかもしれない。
移動中………
「いやあ、すまんのう。儂らももう体がよう動かんのよ」
「いえいえ。これくらいはお安い御用ですよ」
友人をかりだして配達させた上に設置作業までさせているあんたのセリフじゃないと思うのはおかしいですか?
「ところで。儂のしらんところで結婚したのかね?」
「ん?………ああ。違いますよ?そんな関係はありません。彼はただの臨時の配達要員です」
ズバッと言うな。僕の心にもそこそこダメージが来るんですが。
「ふむ………のう。お主、年はいくつになる?」
「え、えっと………24才です」
「そうか………若いの。これからもながーく生きるんじゃぞ?少なくとも儂みたいに頭が寂しくなるくらいにはな」
………???確かにおじいさんの髪は少なくて寂しそうだが。
「ははは………善処します」
よく分からなかったからとりあえず笑ってごまかすことにした。
移動中………
「………なあ。さっきのお爺さん、昔何かあったのか?」
「ん?ああ………」
先程の『長く生きろ』といった言葉が気になって尋ねた。
友人は言葉を紡ぎにくそうにしながらも教えてくれた。
「あの人にはたった一人、孫がいたんだ………生きていればお前と同じ年になるはずだった」
「………亡くなったのか」
「ああ………家族で旅行に行った帰りに交通事故に一家全員が巻き込まれてな………私もその子とは会った事もあったし、仲も良かった………」
「………じゃあさ。なんであのお爺さんは鯉のぼりを飾っているんだ?その子が死んだのならもう飾る意味なんてないんじゃないのか?」
「………鯉のぼりにはな。男児の健康や出世を願う意味があるんだ。あの人は天国でも孫が健康でいられるように、と。毎年鯉のぼりを飾っているんだ………もうそれが15年も続いている」
見ているこっちも、悲しくて仕方がないんだ………
そういった友人は、少なくとも僕は初めて見る涙を流していた。
やれやれ。どうも僕はこういった悲しい話をしやすい体質らしい………
移動中………
「へえ。だいぶきれいに乗ってるんだね、このハチロク」
「はい。元々親戚の親が乗っていたんですが、その親から譲り受けた物で、走行距離もまだ6万ちょいくらいなんですよ」
「ほう。その人は走り屋だったのかい?」
「少し峠を走りこむ程度だったらしいですね。僕もたまにですが行っています」
「そうなのか………エンジンには何か手を加えているみたいだね?」
「わかりますか?」
「もちろん。エアロパーツやマフラーの具合からすればなかなかのパワーがあるみたいじゃないか」
「おっしゃる通りです。こいつにはキューニーのスーパーチャージャーをつけてパワーを上げています。細かいところも含めて結構お金がかかりましたよ」
「ははは。車趣味っていうのは金喰い虫だからねぇ。俺のレビンも結構金かかってチューニングしていたけど子供の事もあるからね。パーツを売ってノーマルに限りなく近い状態に戻しちゃったよ」
「それでもやっぱりハチロクはいいですよねぇ」
「ああ………今度乗せてくれないかい?」
「………夫がかなり生き生きしているのは嬉しいのだけれど話が全然わからないわ」
「安心してください、私もです」
配達先の家族の夫さんが元走り屋でしかも同じハチロク乗りだった。
見事に意気投合しちゃいました。何か問題が?
「はぁ………君。ところでその手に持っているメモはなんだい?」
「ん?あの人の電話番号。今度余裕が出来たら峠に誘うつもりだけど」
「あ・な・た?昔の趣味にはしるのもいいけど………浮気とか、しちゃダメよ?子供もいるのよ?」
「わ、わかってるさ………走りに行く時は僕らの子供も誘うから」
「そういう意味じゃないわよ………私も連れて行くのよ?」
なんだかほほえましい夫婦だった。
移動中………
「………すごいほくほく顔だな」
珍しく、車内での会話が友人から始まった。
「まぁねえ。やっぱり同じ趣味の人に会えるのは嬉しい物だよ」
「ふーん………なあ。そんなに車は楽しいか?」
「もちろん。お金は結構かかるけどさ。それでも毎日が楽しいんだよ」
「………どれくらいかかったんだ?」
「そうだなぁ………80………いや、100万くらいかかってるかな」
「そんなにか!?うちの鯉のぼりの最高ランクを3セットくらい買えるじゃないか!」
「車もそこそこ放置されてたからパーツが傷んでいたりしたんだ。そこを取り替えたりとかエンジンの強化にボディの強化とかでいつの間にか………でも、本来この車を買おうとしたら車だけで150万いくこともあるしね。得してるよ」
「車だけで150万も!?」
「昭和生まれの古い車だけど人気が高いからね。仕方ないよ」
友人は150万あったら家とか新車も買えるんじゃ………とかぶつぶつ言い出した。
しばらくすると復活した。
「………なあ。やっぱり私にはいまいち理解できないんだが………」
「あ、そう?でもさ。わからない方が楽しいと思うよ?」
「どうしてだ?」
「だってわからないんだったら一体何なのか気になるだろ?僕もまだどうして車が好きなのかはわからないし。でもそれがきっと楽しいってことなんじゃないかなぁ」
「………お前って本当に変わっているな」
「失礼な」
………そして。長かった配達もついに終わった。
「………よし、着いたぞ?」
「そうか………長かったな」
「そうでもない気がするな。結構楽しかった」
配達が終わった後僕は車を友人の家へ走らせた。
そしてそろそろお別れの時間の様だ。
「そういってくれると誘った私も少し嬉しいな。おっと、忘れる所だった。ほら、今日の給料とお土産だ」
「サンキュー………ん?お土産?なんだこれ?」
手渡されたのはお金の入った封筒と少し大きめの段ボール箱だった。
箱は鯉のぼりの箱に紛れて最初から積んでいたようだった。
道理でこんなものが積んであった訳だ。
「開けてみるといい。私の自信作だ」
「ふーん………おお、すごい。ミニチュアサイズの鯉のぼりじゃないか」
箱の中には台座と組み立て式のポールと飾り、そして小さいながらも鱗もきっちりと描かれている三匹の鯉のぼりが入っていた。
「鯉のぼりは男児の健康と出世を願う意味がある………と言っただろう?」
「そう言えばそうだっけ………こんなものを僕に送って大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
あ、ネタはわかるのね。
「ま、コンビニ弁当もよく食べていて失業中のお前の健康と出世は願う意味なんてないかもしれないがな」
「最後の最後に台無しかよっ!?もういいよ、僕は帰るからな!?」
ミニチュア鯉のぼりを箱にしまって助手席に放りこみ、運転席に座る。
すると友人は窓をコンコンと叩いていた。
まだ何かあるのだろうか?僕は窓を開けてやる。
「………なあ、少し話してもいいか?」
「なんだよ………?」
「私達がもう大学を卒業して二年になるじゃないか。お前はあの頃の事を最近思い出したりしていないのか?」
「いつだって思い出すさ。あの頃ほど楽だった時はないし。でも僕は忙しくても今が一番楽しいかな」
「そうか………私も思い出すことがよくある。私にとってはあの頃が一番楽しかった。ただ………今はな。何故か寂しいんだ」
それはそうだろう、と思う。学校に行くことがなくなれば友人と会うことも減ってしまう。
その分寂しさは増す。結構辛いものがあったけど僕は慣れてしまった。
「それでな………夢を見るんだ。あの頃の楽しかった夢から小学生の頃まで………」
「………それで?」
「不思議なことがその夢に共通しているんだ。どの頃の夢にも………お前がいるんだ」
「………は?」
何が言いたいんだこの人。
「それでな。ふっと思いついたんだ。ちょうど父さんが事故で配達する人が足りなくなった。だから、その何かを確かめたくて、最近失業したというお前を雇ってお前と一緒に配達することにしたんだ………もしかしたらな?私はお前のことが好きなのかもしれないから………」
「夢でいつも僕の事を見るからって?乙女だなぁ」
「う、うるさい」
少し照れている友人は僕からしてみればとても可愛く、そして付き合いも長い女友達だった。
ただ………
「………それでな?色々考えたんだ………多分、私はお前の事が好きなんだと思う」
「………大丈夫?熱出してない?」
「ふ、ふざけないでくれ」
………本当にふざけているつもりはない。ただ僕が動揺しているだけだ。
「………それで?僕にどうしろと?君と結婚でもしてほしいのか?」
「い、いや。まだそこまでの決心はつかないんだ。だから………その、とりあえず私と付き合ってみてくれないか?」
「………はっ。とりあえずって………まあ、僕は別にいいけどね。君の事は僕もきっと好きだからさ」
「そ、そうか………ありがとう。これからよろしく頼む………恋人として」
さっきと同じ様に少し気になる言葉を含めて好きだって言ってみた。
少し戸惑いながらも、恋人として認めてくれたようだ。
「はいはい、お嬢様の言う通り………じゃ、僕も家にそろそろ帰るから。何かあったら連絡してくれればいい………じゃあね、また今度」
友人は少しだけ名残惜しそうにこっちを見るもののすぐに普段の様子に戻って車にひかれないように一歩引く。
「ああ………今度は、そっちからも誘ってくれよ!」
「考えておくって」
そして僕は車のエンジンを入れ、自分の家への帰路へついた。
一応、彼女となった女の子から見送られて。
………帰って鯉のぼりを飾っているときにふっと思い出した。
『鯉のぼりは男児の健康と出世を祈る』、と。
たとえばの話だ。健康というのは。もしも親しくなった友人が料理をしてくれたらきっと僕の食生活は良くなるから健康になれるだろう。
出世は普通の一般男性と比べたら彼女がいるってだけでもある意味出世しているともいえる。
………ん?わりと当たっているかもしれない………?
「まさか、あいつが僕を心配して祈ったから鯉のぼりがその祈りを叶えた………?まさか、ねぇ」
その後、僕と友人の関係がどうなったかって?
それは秘密だ。
ただ………僕の部屋では毎年四月五日以降の大安の日からは小さな鯉のぼりを今も飾っている、とだけ言っておこう。
タイトルの『恋鯉のぼ女』の意味がわからない?
実はこれ作者がミスで書いた文章に無理矢理当てたんです。
書いているときにタイトルをひとまず『こいのぼり』と打ったはずがなぜか『こいこいのぼお』と打っていたんです。
それでこれを改造すればいいかなってことになって最初の『こい』はオチの部分から『恋』に。『お』は恋をしているのは女だから『女』に変えたんです。
また、キャラの名前を出していないのはその方が面白いかなぁって思ったんです。
もしかすると『僕=読者のあなた』かもしれませんね。