「あれがトウカシティか!」
コトキタウンで謎の組織『マグマ団』に遭遇したサトシ達は、コトキ遺跡で古くから変わらずに存在し続けるポケモンと言われるジーランスとの出会いを経て、一番最初のジムであるトウカシティに辿り着いた。
「ホウエン地方で最初のジム戦だ、行くぞピカチュウ!」
「サトシ~ちょっと待ってよー。そんなに急がなくたって良いじゃない」
「もうすぐジム戦ができるんだぜ。これが急がずにいられるかってんだ!」
そう言い残して走り去るサトシ。
「ーーもう!サトシってば慌てすぎ! あんなに急がなくたって良いじゃない…」
「まあ気持ちは解らなくはないけどね。僕だってトレーナーに成り立ての頃は似たような感じだったし」
ムスッと頬を膨らませるハルカに苦笑いで語るアルス。二人は駆け出していったサトシを見失わないように自分達も駆け足でトウカシティへと向かった。
「ねぇ、本当にトウカジムに挑戦するつもり?」
「当たり前だろ? ジム戦に勝ったらバッジが貰える。それを八つ集めるとホウエンリーグに出れるんだぜ?」
「ふーん……」
ベンチに座るハルカは膝に肘をつきながら、つまらなさそうに目を細めてサトシを見る。ジムバトルやポケモンリーグと言われてもピンと来ない。精々『そういえば私のパパってジムリーダーだったっけ……』程度である。
こうしてトレーナーとして旅に出たのも、トレーナーとして旅に出る年齢になり両親に言われたから。
「トウカジムのジムリーダーってどんな人なんだろうな-?」
「ーーーっ!?」 ビクッ。
サトシの何気ない一言に、自分に対してではないと解っていても、驚いてしまうハルカ。
「どうしたんだい?ハルカちゃん」
ハルカの隣にいたアルスはその様子に気付くと訊いた。
「え、えーと……あはは…………何でもないです」
目と口元を引きつらせ、しかしアルスの問に答えることはないまま顔を逸らしてしまった。
「兎に角トウカジムに行ってジム戦だ、ハルカ行こうぜ!」
「えっわたしは……」 「行かないのか?」
言葉に詰まるハルカ。
「わたしはちょっと用事を済ませてくるからここで…またあとでね!」
逃げるようにハルカは公園から走り去っていった。
「…?どうしたんだハルカの奴」
「彼女にも彼女なりの事情があるんだよ。さあ、僕達は先にトウカジムへと行こうか」
ハルカと別れた二人が辿り着いたのは道場の様な建物、トウカジム。さっそく挑戦しようとジムの扉を叩くも反応は反ってこず。勝手とはいえこのまま引き返す訳にもいかず建物の中に入る。
ジムの中に入って少し進んだ先にバトルフィールドがある部屋を見つける。
「すみませ~ん誰かいませんかー?ジム戦に挑戦しに来たマサラタウンのサトシと言います。誰かいませんかー?」
「…誰だよ~、今録画してあるシロガネ大会の映像を観てたのに邪魔するのは……」
頭を掻きながらやって来たのは、おそらく10歳未満だと思われる眼鏡をかけた少年。
彼はサトシとアルスの二人、サトシの方を見て眼鏡をクイッと直すと何かに気付いたのか声を上げる。
「あっー!あんたはシロガネ大会のーー!」
眼鏡の少年の反応にうんうんと頷くサトシは自分の名前が呼ばれるのを今か今かと待っている。
「ーーー二回戦で負けた人!」
ガクッと肩を落として落ち込むサトシ。名前を間違われ更に落ち込む。落ち込むサトシを横目でチラリと見たあと、アルスは目の前の少年に質問する。
「それよりも。見た所きみはここのジムのジムリーダーの親族かな? もしよければジムリーダーを呼んできてもらえるかな?」
「ジムリーダーを? もしかしてジム戦しに来たの?」
_「僕はともかく彼がね。もしかして不在かな?」
もしそうなら一度出直す必要がある。
何やら不気味な笑みを浮かべる少年が。
「…くくく、呼ぶ必要なんてないよ! 何を隠そうこのぼくが! このトウカジムの! ジムリーダーなんだからね!!」
「ーーー君が…?」
「なんだよ! 僕じゃいけないって言うのか!?」
サトシの尤もな反応に地団駄を踏む少年。
「でも君は見たところ、トレーナーどころかトレーナーとして旅に出れる様な年齢には見えないよ?」
アルスの疑問に焦りを見せる眼鏡の少年。
「と、兎に角! そこのサトル…じゃなかったサトシはジム戦しに来たんでしょ? このトウカジムのルールは3vs3の勝ち抜き戦だよ」
「ええ!? 3vs3の勝ち抜き戦!?」
ジム戦のルールを聞いて焦るサトシ。それもそのはず。
サトシの現在の手持ちはピカチュウのみ。
「どうしたの?早く最初のポケモンを出しなよ。さぁさぁ。さぁさぁさぁ!」
「くっ! でもジム戦なんだからジムリーダーが先にポケモンを出すのが決まりだろ。だからそっちからポケモンを出せよ」
「なんだと!?僕はジムリーダーなんだから僕が決めたことは絶対なんだぞ~!」
「なんだと~!」
「なんだよ~!」
「ぐぎぎぎぎぎぎぃっ!「ーーあれ?こんなところで何してるのよマサト?」ーーお、お姉ちゃん!?」
サトシとマサトがいがみ合っていると外からハルカが来て、眼鏡の少年の方を見て名前を呼ぶ。名前を呼ばれた少年はハルカを見てお姉ちゃんと呼んだ。
「お、お姉ちゃん!?」
マサトの一言によって、ハルカの父親がトウカジムのジムリーダーだと知ったサトシは、どこか物言いたげな表情でハルカを睨む。
「そういえばハルカ、貴女自転車はどうしたの?」
ふと思い出したように口にするミツコに気まずそうに目を逸らすハルカとサトシ。
「すみません。ハルカの自転車、俺が壊しちゃったんです。ピカチュウの電撃が当たって……」
バツが悪そうに語るサトシに、ミツコは少し驚いた表情を見せながらも頬に手を当て笑みを浮かべる。
「別に気にしてないから大丈夫よ。私もセンリさんもハルカがいいならそれでいいと思っているし、何より旅は自転車よりも自分の足で歩いてこそだから」
「ママ、アルスさんと同じこと言ってるかも」
「ん? アルス君?」
ハルカの放った、アルスという名前に反応するセンリ。
「おおっ!アルス君じゃないか、久し振りだなぁ!」
「えぇ、お久し振りですセンリさん」
アルスの存在に気付いたセンリは、彼の肩に手を置くと再会の挨拶をする。
「知ってるのあなた?/パパ?」
「ああ、私がシンオウ地方に武者修行に行っていたことは話しただろうミツコ」
「ええ、あなたが『この私が手も足も出なかった。こんなバトルは久し振りだ』って、それはもう興奮覚めあらぬといった様子で話していましたもの。よく覚えていますよ」
「アルスさんってそんなに強かったんですね。…?でもアルスさん、自分はただのしがないトレーナーだって……」
「ん? もしやアルス君、自分のことを話していなかったのかい?」
「ええ、まあ……」
困ったといった様子で頭をかくアルス。
「アルス君は実は、別の地方でチャンピオンだったトレーナーなんだよ」
センリの一言に、言われた本人とミツコ以外の三人の声が響き渡る。
「アルスさんってチャンピオンだったんですか!?」
一番驚いていたサトシはずいっと顔を近づけながら訊ねる。
「ま、まあ…“元”ってのが付くけどね。もう何年も前の話だよ。チャンピオンを引退したのだって、正直に言うとただ退屈な日々が嫌でもう一度旅をしたいって言うのが理由だから」
思い出を懐かしむように、けれど何処か悲しそうな表情を魅せるアルスを見て、サトシだけではなく他の四人もそれ以上訊ねるようなことは出来なかった。
「センリさん。それでジム戦のルールって……」
「ん?もしかしてサトシ君はジム戦に挑戦しに来たのかい?」
「はい。それでルールは……」
「だから~、3vs3の勝ち抜き戦だって言ったじゃないか」
「やっぱり……」
「サトシ君は大会でも上位の成績者なんだろう? それなら沢山ポケモンは持っているんじゃないのかい?」
「今はみんな研究所に預けてます。ホウエン地方では一からやり直したいと思って。ピカチュウだけ連れてホウエン地方でゲットしたポケモンで旅をするつもりです」
「ほう…まだまだ若いと言うのに、そこまで考えているとはサトシ君は凄いな」
「今は手持ちがいないですけど、必ずポケモンを集めてまたジム戦に来ます」
「いや折角来てもらったんだ。サトシ君さえ良ければひとつ稽古をつけてあげよう。もちろん、公式のジムバトルではないからバッジは渡せないけどね」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
一同は、サトシとセンリのバトルを行う為、再びフィールドのアルスある部屋へと戻る。
「私の出すポケモンはこいつだ。行け!ヤルキモノ」
「ヤァァ…………ルッキーーー!!!!!」
ボールから出てきた瞬間、思いきり叫ぶポケモンにサトシとピカチュウは一歩退いてしまう程の驚きを見せてしまう。
「さあ先行はサトシ君だ。遠慮はしなくていい、何処からでもかかってくるといい」
「ならお言葉に甘えて。ピカチュウ電光石火!」
ーーー先手必勝。
見たこともないポケモン。相手のポケモンの情報を知らないサトシはまず、ピカチュウの得意のスピードを活かした攻撃で流れを掴もうとする。
「かわして引っ掻く攻撃!」
ギリギリまで惹き付けて当たる直前に身体を傾けて避けたヤルキモノは、すれ違い様にその鋭い爪の一撃をピカチュウへと繰り出す。
ピカチュウは避けることも出来ずにもろにヤルキモノの攻撃を受けて吹き飛ぶ。
「体制を崩した所をもう一度引っ掻く攻撃!」
センリは体制が崩れた隙を攻めるべくヤルキモノに再び引っ掻くを指示する。
「くっ! ピカチュウ、10万ボルトだ!」
「甘い! ヤルキモノ、避けて引っ掻く!」
走りながら避けたヤルキモノは追撃の引っ掻くをフィールドに叩きつける様に当てる。
「くそ、なんて速いんだ…!」
ピカチュウも素早さには自信がある。しかしヤルキモノの瞬発力とアスリートの様な勢いのある走りの前に隙が中々見当たらず、逆にこちらの隙を突かれている。
「当然さ! パパのヤルキモノはとっても強いんだ!」
「…何でマサトが自慢気なのよ…」
「でもピカチュウもすごいよ。あのパパのヤルキモノにここまで戦えているんだもん」
まるで自分のことのように誇らしげに胸を張るマサトに呆れるハルカ。そんな父親にここまで善戦できているピカチュウに対して食い入るように見つめるマサト。
一方、善戦していると思われているサトシはその実ピカチュウの攻撃を尽く避けられ反撃されていることに焦りを感じていた。
(くそっ。避けてばかりじゃヤルキモノのペースに乗せられる。電光石火は避けられる。10万ボルトも撃つ前に攻撃される。……どうにかして動きを止めないと)
「……一か八か賭けてみるか」
(むっ、サトシ君の目付きが変わった?何か仕掛けてくるな……)
「なら見せてもらおうかな。サトシ君が何をするのかを。ヤルキモノ引っ掻く攻撃!」
「ピカチュウ!ぎりぎりまで惹き付けるんだ!」
「今だ!腕にくっ付け!」
「ーーな、なに!?」
ピカチュウが腕にくっ付いたことでヤルキモノの動きが止まった。その隙をサトシは見逃さなかった。
「ピカチュウ!10万ボルトだぁ!」
動きが止まったヤルキモノに特大の10万ボルトが炸裂する。避けることも出来ずに直接当たったそれは、ヤルキモノに大ダメージを与える。
「なかなか大胆な賭けに出たものだね。久し振りに驚いてしまった。だがーー」
「ヤルキモノ、地球投げだ!」
10万ボルトを受けて動きが止まっていたヤルキモノはセンリの指示にカッと目付きを鋭くすると、腕に組み付いていたピカチュウを強く抱き締める。
「ピ、ピカッ!?」
驚くピカチュウを余所に、ヤルキモノは10万ボルトを受け続けながらも高く飛び上がり、勢いそのままにフィールドに思いきり叩きつけた。
「ピ、ピカチュウ!!」
叩きつけられた衝撃による砂塵の先に向かって叫ぶサトシ。煙が晴れたあと、勝利の雄叫びを上げるヤルキモノと目を回して倒れているピカチュウの姿があった。
「いやぁ…私も久々に熱くなってしまったよ。普段は抑えているんだが、サトシ君とのバトルが楽しくて思わずジムリーダーの役割を忘れてしまった」
「アルス君、私はキミとバトルがしたい。ジムリーダーではなく、一人のトレーナーとして。良ければこの挑戦、受けてくれるかな?」
「構いません。むしろこちらからお願いしようと思ってましたから」
「決まりね。なら今日は泊まっていくと良いわ。ヤルキモノもピカチュウとのバトルで消耗してるから休ませないといけないし。
それに……」
チラッとハルカに視線を移すミツコ。視線の先には母親の『泊まっていく』の言葉の直後にアルスに向かって小さくガッツポーズをとる我が娘の姿が。
「……な、なに…ママ?」
「んっふふ~ん、なんでもないわよ~ハルカー♪」
自身の内心を見透かされたことに気付かれたのかと焦るハルカと、娘の反応が面白いのか口に手を当てて笑うミツコ。
「ねえサトシ。よかったら旅の事とか聴かせてよ!大会は録画して何度も観たけど、旅の事は知らなくて」
「ああいいぜ! アルスさんもチャンピオンだった頃の話とか旅の事とか聴いてもいいですか?」
「あまり誰かに聴かせられるような話でもないんだけどね。こんな僕の話でもよければ構わないよ」
「あの光景を見ると懐かしく感じるなミツコ。覚えているか?私達が彼らの年の頃のことを……」
「今でも覚えてますよ。私がまだトレーナーだった頃の事ですもの。大切な思い出の一つですから忘れる訳がありませんよ」
「ハハッそうだな。あの頃のきみは本当に強かった」
「あら♪現役を退いたと言ってもまだまだ戦えますよ。なんなら久し振りに一勝負致しますかあなた?」
「それも悪くないな。久し振りの夫婦対決と洒落混もうか」
しばらくの間、二人は思い出話に花を咲かせていた。