とある町の一角にある、民宿のように大きい屋敷。その地下の一室で、青白い魔法陣が光っていた。その上には黄金の甲冑を着込んだ茶髪の男。魔法陣の横にはその男を見ている少女。その男は自分を見ている少女にこう問う。
ーーーーサーヴァント″セイバー″、召喚に応じ、馳せ参じた。ところで、お前は俺のマスター、で、いいのか?
そう問われた少女は、自分が聞いた言葉を疑わずには居られなかった。なぜならーーーー
今から十四時間前、わたしは全ての準備を終えた。だが、召喚する時間が無かったから、そのまま学校に行った。学校に到着すると、靴を履き替え教室に向かう。
「おっはー、あや!」
「おはよう、
「おはよう、
教室に着くと、双子の友人である瑠花、璃花が挨拶をしてきた。それに答え、わたしは席び座り授業を受けた。一通り授業が終わり、家への帰路へとついた。家に着くと、着替えて料理を作ることにした。今すぐにでも召喚したい。でも、まだ人が起きている。だから、夜まで我慢する。
夜が来た。さすがに深夜までは待てなかったので、夜九時、実行することにした。地下へと通ずる階段を下り、魔法陣が刻まれている部屋へと向かう。扉を開け、魔法陣の横で召喚の呪文を唱える。
素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ満たされる刻を破却する。
ーーーーー
ーーーーーー告げる。
ーーーー告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者―
汝三大の言霊を纏う七天。
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーー!
「サーヴァント″セイバー″、召喚に応じ、馳せ参じた。で、お前が俺のマスターでいいんだよな?」
「な、んで......。なんで″セイバー″なの......? わたしは″バーサーカー″を召喚するつもりだったのに......」
一階にあるリビングで互いに向かい合ったソファに腰を下ろしながら、″セイバー″とセイバーのマスターである少女、
「つまり、″セイバー″ではなく″バーサーカー″を召喚するつもりだったのに、″セイバー″である俺が召喚されたと」
「うん。召喚の失敗、だったのかな」
「いや、違うな」
「え......どうしてわかるの?」
セイバーは、理由を語る。
「俺は召喚される時、確実に縁を感じた。つまりは触媒があったと言うことだ」
「でも、触媒なんてわたし持ってないけど......」
「触媒なんて物は、召喚する奴との縁があればいい。複数の場合はマスターとの相性で決まる。ちなみに、触媒はその耳飾りだ。もう、わかっただろ? 俺の真名はーー」
そこでセイバーは黙り込み、窓がある方向を睨む。その顔はとても真剣で、冷たい目をしていた。さすがに、ただならぬことだと思った。
「どうしたの、セーーー」
「ついてこい」
声をかけたら、言い終わる前にセイバーによって遮られてしまった。ついてこい。そう言ったセイバーは、明らかにさっきまでのセイバーとは違っていた。
無言で廊下を歩くセイバーについていく最中、綾香は考える。綾香の左耳についている耳飾りは、世界を飛び回っている父が久々に帰ってきた時にお土産としてくれた物だ。一応魔術に関わっている身である綾香にはわかる。これは微量ながらに魔力を帯びている。父に聞いたところによると、とある谷の下で拾った″なにか″の欠片を加工して耳飾りにしたらしい。欠片の材質や大きさから考えると動物の角からできているらしく、父は″角笛″の破片では無いか? と考えた。知識が多くない綾香でもわかる。角笛に関わっていて剣を扱い、″バーサーカー″の適性もある英雄など、相当限られる。推測するに、セイバーの真名はーー
「マスター、ここで待っていろ」
「え? ......あ、わかった」
いつの間にか玄関まで来ていたらしい。熱心に考えていたから、最早、と思った。そこまで近くはないのだが。セイバーは玄玄関の扉を開け、外に出る。玄関は自動で閉まる訳ではないので、完全には閉まっていない。若干開いている隙間から外を覗くと、黒いタキシードを着用し、黒い髪に黒い瞳を持った中性的な青年が玄関先に立っていた。
「っ!!」
青年の顔を見た瞬間、綾香のからだを恐怖が支配した。青年の口許は弧を描くように歪んでおり、深淵のような底が見えない目と合わさると、とても不気味だ。そんな青年に臆せず、セイバーは距離を縮める。
「へぇ~。見た目からしてセイバーかな。オレの殺気に臆さないところを見ると、さぞや高名な騎士と見た。名は?」
「この時代では、まず自分から名乗るものなのだろう?」
「オレか? オレはアサシン。切り刻むことが大好きな、生粋の暗殺者だよ」
アサシンがそう言い終わったのと同時に、再度綾香の身がすくむ。もはや、あれは狂気の暗殺者だ。いや、殺人鬼と言うのが相応しい。
「狂気を振り撒くのは、暗殺者の戦い方じゃないな。やる気がないのか?」
「オレはそんじょそこらの暗殺者じゃねぇ。真っ正面から、相手の首をかっ斬るのさ!」
そう言い終わるよりも速く、アサシンは正面へと駆ける。右手にはナイフが握られており、セイバーに近づくや否や思いっきり突き出す。セイバーそれを、いつの間にか手に持っていた黄金の柄の剣で受け止める。アサシンは左手にもナイフを持っており、右手のナイフが受け止められるのを確認することもなく、左手のナイフも突き出す。それを、後方へとさがることで、セイバーは避ける。そんなやり取りが、何度も続いた。
玄関の隙間より二人を覗いていた綾香は、どこか不審に思う。理由は、セイバーが攻撃をいなすか避けるかしか手段を取っていないからだ。相手の攻撃が速いから攻撃に転じれないだけだと思うが、もし綾香が思っている英雄ならば、ナイフ一本どうってことないだろう。だが、セイバーは受けないように上手く躱している。もしかしたら、セイバーは自分が思っている英雄ではないのではないか? そう思ったが、すぐに消える。逆に、原因はアサシンの方にあるのではないか? と思ったからだ。もしかしたらアサシンは、硬度に関係なく切り裂ける宝具を持っているのかもしれない。そう考えると、いくらセイバーでも受ければ一堪りも無い。それに気づき、セイバーは避けているのでは、と思う。もしそうなら、綾香の魔術で攻撃に転じれるはずだ。
そう思い、綾香は扉を静かに閉めて、体を扉に預ける。そして、詠唱を始める。
「″水は木の成長を促し、木は火を生む。それ即ち五行相生、木生火″」
「はあぁぁ! っ!」
アサシンがセイバーに突っ込もうとした瞬間、両者の間に水が生まれ、木が成長し、燃えて火となる。
「なんだ、これ......」
「隙あり......!」
「やべっ!」
セイバーは、アサシンにできた隙をついた。袈裟斬り。アサシンはそれを避けたが、右肩に若干の切り傷がある。完全に避けきることはできなかったらしい。十歩近く後退したアサシンは、両手に握っていたナイフを投擲する。だが、セイバーは突進する。甲冑に直撃するが、甲高い音を上げるだけでなにもなかった。
「はあぁぁぁっ!!」
「っ!!」
数歩で懐に飛び込んできたアサシンは、もろにセイバーの一撃を受けてしまう。その一撃が原因で、アサシンは塀を破壊し歩道へと出る。
「後少しか」
「待ってセイバー!」
アサシンを追撃しようとしていたセイバーを、綾香は止める。歩道の方を見てみると、そこにはもうアサシンの影すらなかった。アサシンは元々、暗殺が本分。気配を消す能力がクラスの特徴なのだ。今からでは追えない。それに、おびきだされでもしたら、こちらが不利だ。だからこそ、セイバーを止めたのだ。
「今アサシンを追うのは危険だよ。今は、体制を建て直そう」
「......まあ、マスターが言うのなら従おう」
綾香は一息つく。本音を言えば、戦うなら邸内でやってほしかったからだ。邸内には音漏れを防ぐ結界を張ってあるが、歩道には張って無い。歩道に出られると音がダダ漏れになってしまい、聖杯戦争のルールの一つである『神秘の漏洩』を守れなくなってしまう。
綾香は思う。もし、あの英雄なら蛮勇が過ぎるかもしれないため、この先が大変になるかもしれない、とーー
若干、セイバーについての情報を盛りすぎてしまった気がしますが、大丈夫でしょう!
サーヴァントの真名は結構有名な人たちばかりなので、今後気づかれてしまうかもしれませんね。
推測を楽しんでもらえるよう、精進いたします!