「あ、あなたは......?」
「ぼくは、"バーサーカー"。なまえを、わすれられた、かいぶつ。きみは、ぼくの、ますたー?」
「え......?」
夜の帳が空を包む闇の中、少女を巨大な体躯の怪物が光の槍より守る。
「あらら、仕留め損なった......こりゃまた文句が雨あられのように降り注ぐだろうねぇ。ったく、召喚サークルも無しにどうやって召喚したんだか......」
「おまえ、きらい。ここで、ころす!」
「面倒だねぇ......」
怪物は槍を持っている中年の男を襲う。男は怪物の攻撃を軽やかにかわし、後方へ退く。そんなとき。
『ランサー、早く戻ってきなさい! 全部見てたわよ......! しくじった代償は高くつくわ!』
「あーりゃりゃぁ、雷が落ちる、か......じゃあ、戻ろうかねぇ」
「にがさない!」
「いや、帰らせてもらうよ。それじゃあ、うら若きマスターちゃんと牛の怪物くん」
そう言い残し、ランサーは闇夜に溶け込んでいった。
時を遡ること十二時間。薄暗い部屋の中、研究所のような場所に違和感なく存在する″それに″は居た。
「出来た。これで″令呪″は私のものに......!」
「博士、準備が整いました。いつでも大丈夫です」
″それ″の前に佇む女性に、助手の男は声をかける。それを聞いた女性は、狂喜乱舞する。
「そうかそうか、これであの地の願望器が私のものに......フフ、フハハハハハ!」
「ええ、そうですね。僕も今日という日をどれ程待ち望んだことか......」
「そうだろうそうだろう! 私の大願が叶うのだから、お前も嬉しいだろう!」
「ええ、もちろん。とても嬉しいですよーーーー」
このとき、女性は気付いていなかった。もっとも身近な存在が、自分の成果を狙っていたことに。
「ーーーーだって僕が頂くんですから」
男は懐に忍ばせておいたナイフを取りだし、女性目掛けて突き刺す。女性は虚を突かれたのか、後ろを振り向くので精一杯だった。
「ゴフッ......シーズ......お前、何を......?」
血みどろになっている女性の問いかけに、シーズと呼ばれた男は答える。
「この日をずっと待ちわびていた! 幾人もの犠牲を作り出しながらも、この日が来ることを......願望器が手に入れば、全ての犠牲が報われる! 父の研究を全て反故に出来る!」
「ぎざ、ま......なにもの、だ......!?」
「僕、ですか? 僕はーーーー」
シーズは女性の問いに、少し間を置くも語り出す。
「フォウ・シーズン。あなたが受け継いだリック・シーズンの研究過程で生まれた彼の子です。まあ、戸籍上での子ですけど。それよりも、長く話し過ぎましたね。さようなら、教授。あなたの意志はこの僕が継ぎます。安心してお亡くなりになってください」
シーズ改め、フォウ・シーズンと名乗った男は女性に優しく微笑む。女性は恨みの籠った顔をシーズンに向け、詠唱を行う。だが、なにも起きず、ただただ時間が過ぎていっただけだった。
「な、ぜ......?」
「ああ、ひとつ言い忘れてました。僕が切った
「こ、の......わだじは、ごんなどごろで、じぬわげには......いがない......!」
最早、助からない量の出血をしながらも、まだ生きようとしている女性を見て、シーズンは呟く。
醜い、とーーーー
「これでいい。これで......いいんだ」
まだ、あどけない表情で眠る少女を抱えたまま、シーズンは燃え盛る研究所を後にする。自分になにかを言い聞かせるように呟きながら。
白銀色の髪と対極の全てを飲み込むような黒色の瞳は、ビルの隙間から覗く太陽を燦々と映し出していた。
時が流れること数時間。コンクリートで作られた一室にて、少女は目を覚ます。
「う......」
「目が覚めたかい?」
「ここは、どこ? わたしは、だれ?」
あどけない表情の少女は、なにもわからない。なんせまだ、
「ここはイギリス。君はエレン・シーズン、僕の子供だ」
「エ、レン?」
「そう、エレンだ。僕のことはシキと呼ぶといい」
「し、き......」
シーズンはエレンと名付けた少女の頭を撫で、こう告げる。
「君の最終調整は完全では無かったから常識については疎いだろうけど、大丈夫。君の親である僕がつく。それに必要最低限の知識はインプットされているからね。安心してくれ」
エレンにそう告げたシーズンは、近くにあったトランクの中に服やら下着やらを詰め込み、外出の準備をする。
「どこにいくの? しき」
「......冬木さ。聖杯と呼ばれるものを手に入れに行くんだ。そのための君だ。父がアインツベルンから盗んだホムンクルス製造の技術と数百人分の魔術回路を兼ね備えた僕たち最後の希望。君の体に宿った力で、僕たちは救われるんだ」
「ちから?」
「今の君はまだ知る必要は無いよ。すぐに知ることになるだろうけどね」
不適な笑みを浮かべるシーズンの思惑を、エレンはまだ知らない。
翌日、シーズンとエレンはイギリスを離れ、冬木の地へと降り立った。
シーズンたちが冬木の地に降り立つ一時間前、冬木の新都″冬木教会″の方面にある西洋風の屋敷。その屋敷の一角で詠唱を唱える少女が居た。
「サーヴァント″ランサー″、召喚に応じ馳せ参じた。ってまあ、堅苦しいのは無しでいこうか、マスター」
「ふふふ、成功したわね。これで聖杯を......」
「ありゃりゃ、聞いてないか」
「いえ、聞いてるわ! これからよろしく頼むわよ、ランサー!」
「了解、了解~」
飄々とした空気を纏った槍の英霊″ランサー″。そのランサーに下された最初の命令はーー
「偵察ねぇ......」
「偵察と言っても倒せるようなら倒してきてちょうだい。敵は減らせる内に減らさないと」
「了解。で、どこら辺を偵察してくれば?」
「......町中を散策してきて。サーヴァントが居たら手の内を見て引き返して来なさい。それだけでいいわ」
「了解。じゃあ、行って来るとしますかねぇ」
そう言い残し、ランサーは闇に溶け込んでいった。
冬木の空港から移動すること数十分。きらびやかなホテルの一室にて、シーズンとエレンは会話していた。
「さて、エレン。僕は少し食料や生活用品を買ってくる。この部屋で大人しくしているんだ。いいね?」
「うん。」
シーズンはエレンを残し、部屋を出ていった。それからエレンは、いつの間にか深いまどろみの中に入っていた。
「っ!」
目が覚めたのは、まどろみに入ってから数分ぐらいだと思う。体に衝撃が走り、その衝撃を感じた所である右の太ももを見る。そこにあったのはーー
「れい、じゅ?」
それから、無意識の内に外に出ていた。
「ふぅ、ったく、人使いが荒いマスターだこと。オジサン疲れちゃったよ」
偵察に出ていたランサーは、街頭の上に佇み休憩する。そんなとき。
「ん? 何かいるな」
「はっ、マジかよ。結構勘が効くなぁ、オッサン」
「気配遮断、アサシンか」
「おうよ、アサシンだ。オッサンは......セイバーっぽく、ねぇなぁ。ライダーでもキャスターでもないとすると、アーチャーかランサーか?」
「さあねぇ。それよりも、アサシンが姿を表したということはやるつもりなんだろ?」
「おうともよ。さあ、行くぜ!」
エレンが向かったのは、冬木大橋だった。なぜそこに行ったのかは、エレン本人にもわかっていなかった。ただ本能に従い、ここに来たのだ。
「あれれ、何でこんな時間に小さなお嬢ちゃんが居るんだ?」
「ひっ」
何もないところからいきなり現れたランサーに、エレンは驚いた。いや、それだけじゃない。ランサーが持っていた槍にも驚いた。
「......もしかしてマスターか? だがそれにしてはサーヴァントの反応は無し。まだサーヴァントを召喚してないのか。良心が痛むけど、ここでマスター候補を殺しておくか」
「あ、う......」
「悪いねぇ、お嬢ちゃん。ここで死んでくれ」
「い、や......いやぁぁぁ!!」
「なっ!?」
エレンを殺そうとしたランサーは、突如現れた斧槍を防ぎ後方へと退く。
「こりゃヤバイかもな。全力で行くとするかーー」
標的を見つけたランサーの眼は、鋭く冷ややかなものになっていた。そしてランサーは叫ぶ。
「標的確認、方位角固定......『
ランサーはもうおわかりになってしまいましたね。まあ、しょうがないですね。案外早い段階で全てのサーヴァントがネタバレしてしまうかもしれませんが、まあ、楽しんでもらえるよう努力します。