2つの稲妻は草原を焦がしながらぶつかり合う。
方や14歳の少女。霧隠れが誇る雷刀を両手に持ち、満面の笑みを浮かべながら、眼前の敵に向かう。
もう片方は11歳の少年。クナイを両手に持ち、少女の攻撃を防ぎながら反撃を繰り返す。その顔には笑みがあった。
少年――研磨京之介は気持ちが高ぶっていた。
彼は自分がこの世界で生き残るために強くなろうとしている。加えて、命を散らしてしまう仲間がまだ自分のそばで生きているのであれば救おうとも考えている。
だが、今は違った。
敵である林檎雨由利との間には何か感じる物がある。
不思議なことに彼女との戦いは楽しいという感覚が京之介にはある。
当初、雨由利が向かってきた際は、驚きのあまりに変な声を出してしまったが、そこには嬉しさがあった。策に容易く引っかかったことに対する嬉しさではない何かだ。
京之介はそれが雨由利に関係しているなにかだとは理解しているが、答えは一向に出てこない。
それを知るためには彼女との戦いを続けなければならない。この、楽しい戦いを。
少女――林檎雨由利は14年という短い人生ではあるが、この先味わうことがないであろうと思えるほどの高揚感を覚えていた。
最初の戦いで感じた以上のものが、自分を高めてくれている。病など最初からなかったかのように体の動きがこれまでよりも格段に上昇している。
京之介と向かい合っているだけで、心臓の高鳴りは止まらず、自然と笑みが顔に浮かんでいる。その京之介も笑顔を見せているのだから余計に嬉しくなってしまう。
だが、同時に雨由利は、京之介のことを斬りたくないと思っている。
戦いは楽しい。だが、彼を殺したくない。
不思議な感覚とも戦いながら、雨由利は京之介との戦いを楽しむ。この先生きていても味わえないかもしれない最高の瞬間なのだから。
「く、身体能力じゃ劣るな」
この戦いが始まってから初めて顔を歪める京之介はすばやく印を結ぶ。
『多重影分身の術』
分身を作り出し、周囲を囲む。
「囲んだところで、的が増えるだけよ!!」
ズガアアアアアアアアン!!
空から無数の雷が地上へと降り注がれた。
『風遁・真空弾』
影分身たちは風遁を雷へと放ち、攻撃を相殺した。
「なら、これはどうかしらぁ!」
『雷遁・稲妻』
雷刀から放たれた横に広がる雷撃が分身たちを次々と消していく。
しかし、本体の京之介の姿はどこにもなかった。
「なら地面の中かしらぁ!」
『雷遁・爆雷』
雷刀を地面に突き刺し、地中を爆発させる。
「ぐっ……まずい」
「見ぃつけたぁ!」
地面から飛び出した京之介を見て、雨由利はすかさず距離をつめ、斬りかかろうとしたその時、雷刀の動きが止まった。
「っ! はっ!!」
止まったことを見た京之介はクナイを投擲する。
「ちっ!」
雷刀でクナイを弾いた雨由利も距離を取る。
「…………今、なんで攻撃を止めたんです?」
「さぁね、何でかしらね……私も知りたいわ」
「「……」」
2人の間に沈黙が流れる。
この時、京之介は考えていたことがあった。忍刀七人衆は林檎雨由利以外にも優れているのか? という点だ。
殿を務めていた際に、雨由利以外の者たちも確認したが、雨由利のように刀からオーラを感じなかった。
京之介はこのことから、雨由利は雷刀・牙を十全に振るうことができる存在だが、その他の者たちは武器に認められていないのではないか。と推測した。
(以前父上が言っていたな、本当の実力者は武器からも認められていると)
とすれば、京之介は命を奪う以外の方法を思いついた。
「1つ、賭けをしませんか?」
「何を賭けるのかしら?」
「俺が勝ったら、その刀と共に木ノ葉に下っていただきたい」
「へぇ、面白いことを言うわね。じゃあ、私が勝ったらなにが貰えるのかしら?」
「俺が霧隠れ側につく。じゃ駄目ですかね?」
「ま、いいんじゃないの? おいおい煮詰めればいいわけだし。……それじゃ、続けましょうか!!」
雨由利は再び雷を纏う。
彼女が纏った雷は今までの中で一番すさまじい物であった。京之介を殺さずに手に入ると分かった途端に胸の中にあった何かが外れたのだ。
必ず手に入れる。雨由利はこの戦いでさらに強くなっていった。
(長時間の戦闘は不利に近い。みんな無事だと思うけど、他の忍刀のことも気になる。ここは一気に!)
右手に雷遁。左手に水遁のチャクラを集め、それを体に纏う。
「嵐遁の鎧。といったところかな」
「へぇ……面白くなってきたわねぇ!!」
二人のチャクラに呼応したのか、空が黒い雲で覆われ、嵐のへと変わっていく。
横風が2人を倒さんとばかりに吹き荒れ、黒雲からはゴロゴロという音が常時鳴り響いている。
ポツ
水滴が空から一滴一滴落ちてきた。次第に激しくなり、風と共に、勢いよく地上に降り注いでくる。
まさに嵐。近い場所で雷が落ちる。
「っ――――!!」
「はああああああああ!!」
再び交差する2人。
殺し合いではないのに、互いに笑みを浮かべる。
安堵しているからである。相手を殺さないですむということが、2人を落ち着かせ、なおかつさらなる成長を施した。
京之介からしてみれば、まだ林檎雨由利を木ノ葉の戦力として加えることができるかもしれない。というのが心の内を占めているが、他の感情が燻っている。それが分かれば本人は苦労しないのだが、考えている余裕はない。雨由利の猛攻を凌ぎきり、勝たなくてはならないのだから。
雨由利は京之介の提案がとてつもなく魅力的に思えていた。
彼が手に入る。
それだけで頭が支配される感覚に陥ってしまいそうだった。
まるで麻薬を使ってしまったかのような高揚感が彼女を強くしている。
何度目か分からないほどの交差。
京之介は嵐遁で雷遁以上の加速を身につけたが、未だ嵐遁を使うには不安定さが出てしまうため、短期決戦に持ち込むしかない。が、雨由利がそれをさせないとばかりに強くなっている。この瞬間にも。
雨由利の雷による忍体術は反射神経を常人の何十倍にも高め、この戦い限定ではあるが、林檎雨由利は飛雷針の術を除いた速度勝負において、忍界最速を誇れるほどに上昇していた。
「これならどうだ!」
『嵐遁・鳳閃華』
高速の球体が京之介の手から放たれるが、雨由利はそれを難なく防ぎきる。
「お返しよ!」
牙を交差させ、雷を蓄える。
『雷遁・雷牙』
ビーム状の雷が京之介に襲い掛かる。
『風遁・特大真空弾』
真空の弾丸でそれを相殺。爆発が発生し、お互い後方に吹き飛ばされる。
天候はさらに悪化、視界も悪くなっていく。
それでも2人は笑みを浮かべる。
お互いに最高の気分だった。チャクラが切れそうなことも忘れそうなほどに。
風上に立ち回り、嵐遁の鎧を解除し、印を結ぶ。
『沸遁・蒸気流』
口から蒸気を吐き出し、風に乗せて風下の雨由利の方へと流れる。チャクラコントロールで風で霧散しないように操る。
「これで何をするのかしらぁ!!」
『雷遁・落雷』
見えなくとも雨由利には広範囲に攻撃できる技があるため、すぐに反撃したが、そこで、またもや地中から攻めてくるのではないかと直感が働いたため、その場から素早く移動した。
蒸気の中から抜け出した先に京之介を発見したが、次の瞬間。雨由利は足を止められた。
「なっ!?」
前へと転びそうになったのを牙で支え、足元を見ると、泥の手が雨由利を捕まえていた。泥遁・ヌカの手である。
急ぎ泥の手を払おうとした時には、京之介に接近を許してしまった。雷刀を振るおうにも、零距離にまで接近されては刀を振るには遅い。
「はっ!」
ドスッ
「ぐっ! ……うぅ」
沸遁で力を底上げした右腕で腹部へ一撃を与える。
強烈な一発で気を失った雨由利は京之介に倒れる。
「……俺の……勝ちですね」
嵐が止んだ。
戦闘後、別の場所で戦闘を行っていた仲間たちも合流した。
ヒアシら京之介の同期はボロボロのようだったが、全員無事だった。どうやら矢鶴の援護が効果的だったようだ。
刀に関しても、鮫肌と呼ばれる刀以外は回収に成功したようで、仲間たちが持っていた。
雷刀に関しても、京之介がすでに回収した。
しかし、雨由利がまだ生きていると分かると、仲間たちは目の色を変えた。
「なぜ始末しない!」
「そうだ。そいつは敵だぞ!!」
だが、京之介は落ち着いていた。
「彼女は俺との賭けで負けて木ノ葉に下ったんです」
「バカを言うな。そいつに仲間を殺されているんだぞ!!」
「そうだ! そんな奴を仲間と認めるわけにいくか!!」
「彼女が振るうこの刀は、彼女じゃないとうまく扱えません。ほかの人間が使っても彼女の半分程度でしょう」
「それじゃ理由にならん! 第一、そいつがおとなしくその賭けに従うと思うのか?」
「最悪幻術をかけて、霧隠れの情報を吐き出させればいいでしょう」
「なら今すぐやるべきだ!」
「ああ、そいつを仲間にするよりよっぽどいい」
舌戦は白熱していくが、京之介は自分の考えを変えるつもりはなかった。
「それとも、その女に惚れたのか?」
「はっ、やっぱり子供だな」
「おい、やめないか」
由良があざ笑う仲間をやめさせようとするが、京之介は雷に当たったかのような感覚に陥った。
(ああ、そうか……そういうことか)
「ええ、そうですよ」
「は?」
「だから、俺は彼女のことが好きなんだと思います。多分」
「はああああ!? お前、なに敵のことを好きになってんだ!」
「いいじゃないですか。俺の勝手だし、勝者の特権です」
「んなわけあるか!」
「彼女の処分は俺に一任させてもらいます」
そこまで言うと京之介は雨由利を抱きかかえて、本陣へと移動した。
これからのことを検討しなくてはならない。ましてや、霧隠れが奪われた忍刀を回収しにやってくる可能性もあるからだ。
それに、雨由利を勧誘していた際に以前の世界での彼女の死因を思い出した。
「仲間にしたのに、病死なんて冗談じゃねぇ。ぜってぇに死なせねぇ」
雨由利を力強く抱きしめ、京之介は帰還した。
先に本陣に戻っていた仲間からはまたもや怒鳴られもしたが、医療忍者に雨由利が病を患っているから治療して欲しいと頼みこんだ。渋られたが、京之介の策が成功した礼として治療してくれるという。だが、病の深刻度から自分の能力じゃ難しいとも言われてしまった。
「くっ……」
(どうする……別の地域にいる綱手様に依頼するか? いや、三忍と呼ばれる前とはいえど、彼女は忙しい。ここには――)
「急いで駆けつけてみれば、すでに終わっているときた。やれやれこりゃあ、治療に時間もかかりそうだな」
「え?」
声のする方を見てみると、まさに京之介が望んだ人が立っていた。
「ん? なんだ。私の顔になにかついているのか」
「え、なんで……綱手様が……」
「二代目から通達があってな、ここの部隊が近いうちに霧隠れと死闘になるかもしれんから援護に迎えとな」
(さすが二代目……)
「それで? そこに寝ている女は霧隠れの者だろ? なぜここにいる」
「えっとそれは――」
京之介は綱手に今回の策と雨由利と交わした賭けの話をした。
「なるほどね。それでその娘を手に入れたと」
「まぁ、そうなります」
「ませたガキめ」
「ほっといてください」
「まぁ、大叔父様がお前のことを褒めていたからな。よし、見てやろう」
「本当ですか!?」
「なんだ。意外か?」
「ええっと、こんな簡単にとは……」
「まぁ、どれほどの病か見ないとな」
綱手はチャクラで雨由利の体をゆっくりと調べていく。
「……ふむ、これは少し大掛かりになるかもな」
「そんなにですか?」
「むしろ大掛かりでも治る見込みがあることのほうが奇跡かもしれん」
「?」
「よく分からんが、病の進行が弱いのが僥倖だ。これ以上悪化していると治る見込みすらなかったぞ。すぐに手術だな。準備を」
「は、はい!!」
近くにいた医療忍者がせわしなく動き回る。
「よ、よろしいんですか? こいつは敵ですよ?」
「敵だろうとこれほどの病を抱えてあいつと戦ったんだ。それに、仲間にさせやすいだろ? 治療してやったとなれば」
「はぁ……」
「あの、綱手様……俺も見ていていいですか?」
「あ? あんた医療忍術使えないだろ?」
「だからこそ、見ていたいんです」
「…………」
「…………」
「……分かった。ただし、邪魔するんじゃないよ」
「はい!」
数時間後、手術は成功に終わった。
ご都合的な流れが強いのは申し訳ないと思います。
こうする以外にうまい方法が浮かばなかったのが正直なところです。