魔法少女リリカルなのは外伝   作:紅@あの丘の向こうへ

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11.決別

 

 

0061年、十二月十三日 早朝。

 

その日が、管理局へ攻撃を行なった武装組織『ヘイズレグ』が通告した宣戦布告日だった。

 

宣戦布告を突き付けられた管理局には、猶予がなかった。

 

客観的に見れば、ヘイズレグと時空管理局での戦力差、物量差は、比べるまでもなく時空管理局の方が圧倒的に勝っていると言えた。

 

だが、全てのタイミングや積み重ねてきた用意周到な計画を握るヘイズレグにも、管理局に勝ちうる充分な勝機があった。

 

故に、ヘイズレグが取る策は、短期奇襲による電撃作戦に絞られた。

 

それは、特攻にも似た危険すぎる戦略。幾ら演習襲撃から繰り返された管理局内部での造反により、管理局の指令系統が混乱していたとしても、管理局の高い防衛能力には変わりは無かった。だからこそ、時空管理局が最も危険視しなければならないのは、ヘイズレグが切り札として用意したモノ、ただひとつだった。

 

ロストロギア、ダインスレイヴ。

 

それを保有し、行使できる人物はヘイズレグで、ただ一人。元時空管理局の空戦魔導師であり、機動一課所属の第三航空中隊『サイファー隊』の元メンバー。ヘイズレグ首領、アーチャー・オーズマン。

 

彼がもし、時空管理局の防衛包囲網を突破し、地上本部へ辿り着いたとしたなら、その損害は、時空管理局発足して以来の、最悪の惨事となる。

 

ヘイズレグは、何としてもアーチャー・オーズマンを管理局地上本部へと到達させるために、あらゆる手段を行じる準備を整えていた。

 

そして、時空管理局側にもアーチャー・オーズマンに対する切り札を用意する必要があった。ロストロギア、ダインスレイヴを保有するアーチャーをよく知り、彼を補足し、互角に渡り合える空戦技術を持った人物。その答えを、すでに上層部の人間は出していた。

 

 

彼を殺すに値する人物を。

アーチャーと共に空を飛び、彼ともっとも親しかった人物を。

 

 

****

 

0061年、十二月十二日

 

早朝の朝会の後、空戦魔導士であるライリー・ボーン二等空尉は、レジアスは緊急に発足した管理局内部調査を行う捜査員たちによって連行された。

 

形ばかりの任意同行といって、まるで犯罪者のよう扱われたライリーは留置室に連れて行かれ、数人の調査員から尋問をかけられていた。

 

「お前は本当に、アーチャー・オーズマンの思惑を知らなかったんだな?」

 

調査員はじれったそうに簡素なテーブルを指で叩きながら、テーブルを挟んで対面してるライリーに問いかける。何度目か忘れたその問いに、ライリーはうんざりするように天井を仰いでから、調査員を睨み付けた。

 

「だから、何度も言っているでしょ…俺は、何も知らなかったんだ」

 

アーチャーと六年間、共に過ごしたライリーに共犯者や協力者、なにかしろの疑いが持たれるのは必然だった。ライリー自身もそれくらいのことは理解できた筈だったが、彼もまた冷静じゃなかった。腹立たしそうに調査員を睨むが、お構いなしに調査員もライリーを脅すように身を乗り出して見据える。

 

「奴は管理局の中から造反者を率いて、今回の事件を起こした。お前もその一味である容疑が――――」

「そこまでにしておけ、尋問はここまでだ」

 

調査員の言葉を遮ったのは、調査員を挟んでライリーの正面にあった扉から入ってきた女性だった。調査員は振り返ると、素早く立ち上がって敬礼を返した。それから、彼女の一声で調査員はそそくさと留置室から出て行った。

 

「なんだ、選手交代ですか? ロウラン提督」

 

座るライリーは両手の自由を奪われた手錠をわざとらしく見せながら、入ってきた女性「レティ・ロウラン提督」を不満そうに見上げた。

 

「すっかり、絞られたようだな。ライリー・ボーン二等空尉?」

 

階級も気にせず、睨んできた部下を見るのは久々だよと、レティはライリーの手錠を外すと、管理局制服の上着と没収されていた愛機、ティルフィングを返した。

 

「言っただろう、尋問は終わりだ」レチィが扉の方を振り返ると、扉の前にはファーン・コラードが立っていた。

 

「彼女の弁護のおかげで、君の疑いが晴れたんだ。感謝しておくんだな」

 

レティと一緒に留置室から出たライリーを、ファーンが心配そうに労わった。上着の裾に腕を通すライリーに、レティは持っていたファイルを渡す。

 

「これが、君と隣にいるコラード一尉に与えられる任務だ。君たちには今から私の執務室へ来てもらう」

 

簡潔にそう言うと、彼女は踵を返して歩き出した。らりりーとファーンも、彼女に付いて行く形でその場を後にした。

 

 

****

 

ミッドチルダ地上本部、レティ・ロウラン提督の元へと呼び出されたライリーとファーンは執務室で、上層部から打診された任務内容を聞かされていた。

 

「…今、何て言った?」

 

窓際に置かれたテーブルに腰かける提督へ、ライリーは上官に対する態度とはまったく思えないほど、低い声と睨みを効かせながら、そう問い返した。

 

「なら、もう一度言おう、明朝に攻撃を仕掛けてくるヘイズレグに対して編成される防衛特務隊に、君を配属することが決まった」

 

普通なら、退くほどゾッとするようなライリーの剣幕と相対するレティは億劫する様子もなく、淡々とライリーにそう伝えた。

 

「君は、ヘイズレグの事実上の首領であるアーチャー・オーズマンと、古くから面識があるようだな。奴の動きや動向を察知するには、君が一番適任だと上層部の人間が防衛特務隊に推薦したんだ」

 

アーチャー・オーズマン。

つい昨日まで、時空管理局の機動一課、サイファー隊のメンバーだった魔導師。

そして、ライリーの相棒だった男。

 

彼は管理局を裏切った。いや、寧ろ最初から管理局に下っていなかったのかもしれない。この反逆の下準備として、彼はわざと管理局へ身を置いていたのかもしれない。

 

レティや管理局の名高い上官たちが、事の後にアーチャーについて調べ尽くしたが、彼の経歴や戦績などが、データバンクから完全に抹消されていたのだ。それはあり得ないことだった。一個人のデータを完全に抹消することができる人間は、データバンクの管理者か、削除できる権限を持つ高官しか居ないのだから。レティを含めた現場の上官たちはこの異常な事態に不信感を抱いていた。いくら「ヘイズレグ」が準備を整えていたとは言え、何もかもが「ヘイズレグ」へ優勢になるように傾いている。

 

それは、まるで誰かが手引きしているように―――。

 

レティは、その事を考えないように意識を切り替え、ライリーへこの話を切り出した。今は「黒幕」を探るより、目の前の驚異に対処する方が先だ。ライリー・ボーンは、彼を最も知る人物であり、アーチャーと同等に戦える空戦技術を持った優秀な魔導師だ。アーチャーに対しての相性、適応力をライリー以上に発揮できる者は、他にいなかった。

 

「君にはアーチャー・オーズマンを止める『管理局の盾』となってほしい。それが上層部の考えだ」

 

レティの言葉を一字一句聞き逃さないように、黙って聞いていたライリーの肩が、目にわかるほど震えていた。

 

「データが抹消されたアーチャー・オーズマンを一番知る管理局魔導師は、今や君だけだ。奴に的確な対処ができる人物、奴を倒すことができるのは、君以外の他にいない。管理局に所属している以上、君がやらなければならない義務だ。ライリー・ボーン二等空尉」

 

『お前は、どちらを味方する?』

 

それは、ライリーに突き付けられた管理局からの〝踏み絵〟だった。

 

黙ったままライリーは瞳を伏せていた。時空管理局に所属している以上、ミッドチルダの治安と平和を守ることは当然の義務だ。それがどんなに、個人にとって残酷なことでも。

 

ガンッ! 静寂だった部屋の中で鈍い音が響く。ライリーがすぐ脇にある机を、拳で殴り付けていた。

 

「…俺に…俺に一体、どうしろって言うんだ」

「ライリーさん…」

 

震えるライリーの隣に立っていたファーンには彼の心の苦しさを理解しようとしていた。ライリーが、どれほど理不尽で、割り切れない立ち位置に立たされているのかを。深い呼吸を繰り返し、取り乱すライリーをファーンは責めなかった。

 

いや、ライリーにとったら誰かに責めて貰いたかった。

 

仲間を殺され、相棒と、親友だと思っていたアーチャーが、自分の憎んでいる敵の首領だった。その事実を目の当たりにしながら、アーチャーを自分に討てと管理局は言う。

いっそのこと、命令でも出して、強制的に『ヘイズレグ』を迎え撃てと言って貰いたかった。敵を皆殺しにしろと、何も考えずに命令に従っていれば、どれだけ楽なのだろうか。

 

「俺はそこまで思いきりのいい人間じゃあないんだ。 突き付けられた事実を、受け止めることすらできない、ちっぽけな男なんだよ…!」

 

管理局は、選択権をライリーに与えた。最も残酷な選択を。ライリー自身、もうどれが

正しい考えなのか判断することはできず、考えたくもなかった。『管理局の魔導師』としたら、アーチャーを倒すべきだろう。けれど、『ライリー・ボーン』という個人からしたら、ライリーはアーチャーを殺すことなど、できなかった。

 

「何、泣き言を言ってんだ」

 

ふいに、ライリーの後ろから声が聞こえた。ライリーが、ぐしゃぐしゃになった顔で振り返った。

 

「グラハム…隊長…」

 

視線の先にいたのは、病床だったはずのグラハム・アーウィンと一人のまだ年端も青年だった。

 

「無限図書所属のユーノ・スクライアです」

 

グラハムの隣にいる青年はそう答える。無限図書とは、管理局が関わった事件や事故を始め、あらゆる世界の過去、歴史、文献や伝説などが多岐に渡り保管、管理されている大規模な情報管理部門だ。

 

「ここまで、彼が案内してくれたんだ。まぁ、俺も彼に用があったんでな」

 

グラハムは管理局の制服を身に付け、演習の時、訓練の時と全く変わらない様子で、ライリーの前に悠々と佇んでいた。だが、以前とは決定的に違う点があった。

 

あるはずの左腕がなく、裾が力なく垂れ下がっていた。

 

「アーウィン三佐、貴方はまだ療養しなければ…」

 

レティが突然現れたグラハムに戸惑った声色でそう言った。

 

グラハムは部屋の扉を閉めると、眉間に年輪を重ねたシワを寄せながら静寂に包まれた部屋を見渡す。

 

「片腕が飛んだくらいで、ずっとベッドに眠っておくわけにはいかんよ。ましてやこんな状態なら尚更だ」

 

「それに片手さえありゃ煙草も吸える。それだけで充分だ」と、グラハムはため息を漏らす。彼の意識が回復したのは、レジアスの演説が行われる直前のことだった。

 

サイファー隊の最期。

そして、裏切ったアーチャーの真実を知ったグラハムは、失った片腕の再生治療を蹴って、ライリーの元に来たのだ。

 

「それに…俺の隊のことだ。部下の失態は指揮官である俺の責任だ。放っておくわけにはいかん」

 

自分だけが病床にいることなど、グラハムには耐えられなかった。

自分の片腕を治すことを選べば良かったかも知れない。だが、グラハムにとってそれは、片腕以上のものを失うに等しかった。片腕を選べば魔導師としての魂が折れてしまう。

 

「ヘイズレグがダイスレイヴという驚異的な武器を持っている以上、こちらから迂闊に手出しすることは危険すぎる、そこで彼の出番と言うわけだ」

 

グラハムの行動は早かった。長年培ってきた情報網と人脈で、グラハムはユーノへ直接連絡を取っていた。

 

「ダイスレイヴの詳細は、僕が責任をもって調べだします」

 

グラハムの言葉にユーノは頷く。

 

「いい返事だ。期待させてもらうよ、スクライア」

 

グラハムは満足そうに微笑むと、静まっていた執務室にいる全員を見渡した。

 

「ダイスレイヴの戦闘能力は、ヘイズレグの魔導師の実力も考慮すれば凄まじい脅威だ。なにせ奴等は、元は管理局の魔導師なのだからな」

 

分りきっていることだったが、グラハムが言った台詞で執務室の中にいる全員の緊張感が更に増したような、そんな重い空気が流れた。特にライリー自身にとっては。

 

ダイスレイヴは管理外世界で見つかったモノだ。そして、管理局がダイスレイヴを回収するとき、目覚めたダイスレイヴの力で、アーチャーの故郷はもう元には戻らないモノとなった。

 

点と点が繋がった気もした。

 

アーチャーは、確かに故郷を失ったと言っていた。だが、まさかこんな真似をするなんて、ライリーには想像すらできなかった。

 

初めてアーチャーと心を通じ合わせて話したとき、心に届いたアーチャーの言葉は、嘘だったのか?

 

ライリーには嘘だったなんて信じられなかった。信じたくなかった。

 

こんな状況になっても、ライリーには彼を殺すなどと、微塵の考えも浮かばなかった。

自分は、『管理局の魔導師』なのか? それとも、『ライリー・ボーン』なのか? 倫理と道徳心に、気持ちと思考が追い付いてこなかった。

 

「なんで俺が、やらなきゃならないんだ」

 

突きつけられた現実と理不尽さを憂いる言葉しか浮かんでこない。

大人ぶってるくせに何一つ割り切れていない、ちっぽけな自分に何を為せと言うのだろうか。

 

「ライリー。お前と話をしたがってるのは、俺だけじゃないぞ?」

 

グラハムはそのまま横へ避けると、彼のシルエットにすっぽりと隠れていた「少女」が、ライリーの前に姿を出した。

 

「ヴィータ…」

 

グラハムやユーノと共に来たのは、ヴィータだった。彼女は彼女で、この場に来る理由があった。

 

「…アンタは、なのはを救ってくれた恩人だよ」

 

ヴィータは、見る影もなく荒れきったライリーを、まっすぐ見てそう言った。あの夜の病院で言えなかった言葉を。彼がどんなに否定しても、彼が「なのはを助けたことは間違いだった」と嘆いても、救ったという〝真実〟に変わりはない。

 

「違う! まったく違う!俺は、お前たちを救ってなんて…」

 

救ってなんていない。そうライリーはヴィータの言葉を否定した。

 

寧ろ、救わなければ良かったと自分は思ってしまった。憎みようのない憎悪の矛先を、一度でもヴィータや、あの大ケガを追った〝白い少女〟に向けてしまった。そんな自分に、命の恩人を名乗ることなんて、おこがましいことなど言えなかった。

 

「じゃあ、アイツやアタシは、誰に感謝すればいいんだよ…!」

 

力なく項垂れるライリーに、彼女が見た覇気も、気力も残っていなかった。

 

「アンタは…まぎれもなくアイツを救ったんだよ…それを悔やんでも、無かったことなんて、できねぇ。アンタには、その義務があるんだ」

 

ヴィータの怒号にも似たその言葉すら、ライリーには受け止める余裕なんてこれぽっちもありはしなかった。

 

「俺には…できない…できませんよ、隊長…!」

 

不安や疑心に心を押し潰されそうになっているライリーには戦うために必要な心構えなんて無かった。それでも、とグラハムはライリーが立ち止まることを許しはしなかった。立ち止まる猶予なんて無かった。

 

「ライリー、アーチャーは…いや、サイファー隊は俺にとって大切な仲間であり、家族同然だ。お前たち二人を息子のようにも思っている。歯止めが効かなくなったアーチャーを、誰かが止めなきゃ、この戦いは終わらない」

 

アーチャーと戦う理由はある。だがそれは「管理局の魔導師」としてだ。「ライリー・ボーン」個人として、彼と戦う理由が無い。戦って彼を倒し、殺すかもしれない。そんな可能性が頭を過るほど、体が受け入れなかった。

 

「ライリー、頼む。俺のためにも、仲間のためにも、お前がアーチャーを止めてはくれないか…」

 

この戦いを決意するには、明確な理由が必要だった。

 

 

その理由に決着を付けなければならない。しかしライリーは戦う理由を持たぬまま、グラハムの言葉にうなずくことしかできなかった。

 

 

****

 

 

次元海。

 

世界と世界の狭間がそう呼ばれている。

 

いや、時空の壁の中とも言うべき場所だろうか。

 

こちら側の壁と、向こう側の壁の中。次元世界の狭間を行き交うために必ず通過しなければならない場所。その未知なる空間は、広大な海とよく似ている。空間の果てに見える、針穴のように小さく、神々しくきらめく無数の光。その無辺の光の先には、限りなく広く、際限なく続く世界が繋がっている。どんな場所にでもだ。

 

だが、その無数に散らばる世界に属すること無く、孤独と孤立を求める者達が集う場所もあった。

 

次元海の中を漂うように航行する次元航行船が一隻。外見を言えば、時空管理局が保有する巡航L級次元航行船〝アースラ〟と似ている船。

 

だが、時空管理局が保有する船と「それ」は、決定的に違う。

 

時空間の管理と調査を名目にした管理局の船とは違い、その船は純粋な〝戦闘艦〟であった。全長は巡航L級アースラの二倍の大きさを誇る。

 

管理局の公式資料には一切公開されていない船。戦闘に必要のない生半可な部分は全て小削ぎ落とされ、獲物を狩る狩人のように研ぎ澄ませた洗練したフォルムと、充実した兵装が施されている。

 

当時でも最新艦と呼ばれたアースラよりも更に高性能であり、より攻撃的、より合理的、より扱いやすく設計されている。それは一人の者によって設計された。管理局に似合わないその野蛮で野性的な船は、名が付けられていた。

 

魔法と人を、在るべき境界線を守る存在。その船の名は―――。

 

****

 

「私は、このような作戦…容認などしない!」

 

はち切れんばかりの声量で怒鳴ったレジアスは、口中で舌打ちをした。船内にあるブリッジに連れてこられたレジアス・ゲイツ中将は、まるで議会に出ているかのように悠々と席に座る見知った高官達を睨み付けた。

 

彼は先ほど、全管理局魔導師の前での勇ましい演説を終えたばかりだ。そんなレジアスが、この「ダインスレイヴ事件」の原因である「派閥」を取り仕切る高官と対面している。

 

何故、管理局の人間がこの事件に関わっているのか。

 

管理局の人間がこの場にいるのか。この場に来るまで、レジアスは「ダインスレイヴ事件」の本当の目的など、知らなかった。レジアスは知らされずに、拉致に近い形でこの場に連れてこられたのだ。

 

高官クラスのブリーフィングを終え、執務室へ戻ったレジアスを待っていたのは、真っ黒なケープに覆われた影だった。

 

抵抗する間もなく、レジアスは押さえ付けられ、この場所まで転送されたのだ。薄暗いブリッジの先に集まる高官たちは、レジアスが先ほどまで出席した高官クラスのブリーフィングにも居た人物たちだ。

 

じゃあ、これはなんだ? 当時のレジアスは、彼らがどういう意味でこの場にいるのか、この場はどういう意味なのかを、直感的に感じ取っていたが、その思考に至った自分が信じられなかった。管理局に属する者が、管理局の脅威になるような真似をするなど、あってはならないことだ。

 

「確かに私は、貴方達とは意見を共有してきたつもりだ! だが、このような武力で訴えるようなやり方は、我々が危惧する脅威そのものじゃあないか!」

 

重圧な空気に包まれるブリッジの中で、レジアスは怯まなかった。自分が正しいと信じた意見を、億劫することなく言ってのける。それがレジアス・ゲイツという男だ。レジアスの言葉を聞いて、今まで黙っていた高官の一人が、口を開いた。

 

「どのみち、こうなるべくして選んだ道だった。賽は投げられたのだよ。考える道はない。我々は断行するしかないのだ」

 

賽は投げられた。確かに今の状況に当てはまることわざだ。サイコロは振られてしまった。

 

「だが、今からならばまだ…」

 

『投降できる』 レジアスはそこまで言葉が出なかった。向き合う高官たちも黙ってレジアスと向き合っていた。無意味だ。今投降すれば、何もかも無意味に終わるだけだ。何も変わらない、何も。レジアス本人にも分かる単純なことだった。

 

「君は、我々自身が危惧する脅威だと言ったな?」

 

高官の一人が、押し黙ったレジアスにそう言った。

 

「この堕落した習性から脱却できると言うならば、我々は喜んで脅威となろう。最早、覚悟を決める時期など、当の昔に過ぎ去っているのだ」

「な、何を言っているんだ…」

 

レジアスは、あくまで分からないフリをしていた。「ダインスレイヴ事件」の本当の目的を、分からないフリをして、管理局の『中将』という役に徹しようと努力していた。

 

「君は未来の地上本部を担う存在なのだ。それを君には理解して欲しいのだよ」

 

だが、この場に連れてこられた段階で、レジアスの努力は無意味だ。

 

「君がいくら綺麗事を言えども、君自身も我々と「同じ穴のムジナ」なのだよ、レジアス・ゲイツ中将」

 

その高官の言葉に、レジアスは何も言えなくなった。ただ、この状況を、自分にとって、どう好転させるか。その対策を、レジアスは考えるしかなかった。

 

 

レジアスの後ろの方に控える〝影〟は、怒りと驚愕に震えるレジアスを見ながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 

その姿はまさに影のようだった。辛うじて口元は見えるが、他は覆われたフードとケープのせいで、まるで影が揺らめいているように見える。ただ、その浮かべる笑みは酷く邪悪で、目を見ずとも、異様な雰囲気を感じ取ることはできた。

 

 

****

 

 

「…」

 

後方ブリッジで、船に乗り込むアーチャー・オーズマンは、次元海が広がる外の風景を一人で眺めていた。

 

この船は次元航行船であると同時に、アーチャー率いる反管理局組織「ヘイズレグ」の拠点となっていた。後方ブリッジはがらんどうの殺風景であり、機材も最小限にしか設置されておらず、ブリッジと言うより、展望ホールと名付けた方が似合っていると思えた。

 

「また、空を見ているの? アーチャー」

 

しばらく一人で外を眺めていると、後方ブリッジへ繋がる自動扉から現れたウーティが、アーチャーへ語り掛けた。

 

戦闘服から船内服に着替えた彼女は、まだバリアジャケットを着たままでいるアーチャーを、心配そうな眼差しで見つめた。

 

「ここは次元海だ。空なんて見えるわけ無いだろ」

 

ウーティの方へ向かず、アーチャーは次元海を見上げたままそう答えた。ウーティも「そりゃそうだね」、と苦笑混じりにそう言う。

 

「だけど、アーチャーには確かに見えているハズだよ、澄み渡るような青い空が」

 

答えないアーチャーの隣へウーティは移動する。彼女もまた、アーチャーと同じくどこまでも続く次元海を眺めていた。

 

「昔の感傷に浸るべきではないって、族長は言うんだろうけどね。けど、私たちは、その過去に囚われて、ここまできた。今更、綺麗ごとなんて言うつもりないよ」

 

過去に囚われても何も戻りはしない。

 

いつかの学者や、平和論者がそう論じてはいたが、人間なんて、そこまで割りきりのいい生き物なんかじゃない。一度でも灯った憎しみと言う炎は、そんな簡単に消えるものじゃない。その矛先が過去でも、現在でも、未来であっても、憎しみの根源を解消しない限り、この炎は消えない。

 

「…空を見るとな、色んなことを思う。だから、俺は空を見上げるのが嫌いだ」

 

次元海を見つめ眼を僅かに伏せてアーチャーが呟いた。彼は過去を振り返っているのだろうかと、ウーティは考えた。

 

その暗さを含ませたアーチャーの横顔は、六年前の、まだ故郷があった時の、自分の知っていた「アーチャー・オーズマン」とは、まるで別人のようになってしまっていた。眼光を揺らめかせる彼は、酷く重さを感じさせる雰囲気を纏っていた。まるで、あの日に死んだ故郷の皆の命を背負っているかのように。

 

「俺が育ったあの村での思い出。そして、管理局に保護されてからの思い出」

 

全てが憎しみで染まってしまえばいいと何度思い、何度願ったことか。時空管理局を憎んでいるくせに、今更になって色んな思いや記憶が蘇ってくることに、アーチャーは嫌悪感を覚えた。悔しかった思い、憎しみに費やした日々、そして、笑っていた日々。仮初めだと思っていたはずの世界、セピア色に染まっていたはずの世界は、こんなにも色づいて見える。

 

「アーチャー…。貴方は本当に、これで良かったの?」

 

アーチャーの様子を見て、ウーティが眼を伏せながら、女々しそうにそんなことを呟いた。

 

《ヘイズレグ》に所属しているウーティは、アーチャーと同郷の人間だ。

 

父と母、最愛の夫、そして妹であるアルテが六年前の事件で帰らぬ人となった。

 

幾ら拭おうとしても消えない後悔と管理局に対しての憎しみが、六年間ずっと自分に付いて回ってくる。だが、ウーティにとってその憎しみは、人としての間違いだとは思わなかった。憎しみこそが自分を育て、この道へと突き動かしたのだから。

 

けれど、アーチャーはまだ若い。

 

憎しみに育てられ、憎しみに支配されて生きるには、あまりにも若すぎる。本音で言うならば、ウーティは、アーチャーには〝この戦い〟には関わらないで、生きていて欲しかった。

 

管理局に下ったある日から、アーチャーはよく笑うようになった。

 

それは、管理局の魔導師で、アーチャーと同じ歳の「ライリー・ボーン」という人物に出会ってからだ。ウーティも部署は違えどアーチャーの様子を何度も見ていた。廊下ですれ違った時、食堂で見かけた時、任務中に顔を会わせたとき。どんなときも、ライリー・ボーンの隣で、アーチャーは笑っていた。まるで六年前に戻ったような無邪気さで。

 

「アーチャーは、管理局を、彼を裏切ったことに後悔はないの?」

 

後悔は無いのか、迷いはないかだろうか。

例え憎い管理局にアーチャーが残ったとしても、それでもウーティは納得できた。妹のアルテの想い人であったアーチャーにとって、それが幸せと言うなら―――。

 

 

「やめろ」

 

 

ウーティの思いとは裏腹に、アーチャーはその迷いを孕んだ言葉を振り払った。

 

「それ以上言うな。今更、何も変わらない。俺たちは、もう引き返せない。引き金を引いた。だから前に進むしかないんだ」

 

敵から戦う術を学び、武器を奪い、彼は歩みを止めずに歩き続けてきた。今の彼は、自分は冷徹な兵器だと言い聞かせ、人間らしい感情を捨て去って、鉛のように冷たい仮面のような表情をするしかない。それ以外の選択肢など無い。

 

その表情は、六年前、アルテや、村の皆が消えてしまってから、ウーティが初めて再会した時のアーチャーの表情と一緒だった。自分たちは、もう後戻りはできない道を歩いているのだ。

 

遠くに見える、灯火のような、消えてしまいそうな微かな光を頼りに、自分たちは進むしかない。この修羅の道を、突き進むしかないのだ。

 

「ごめんなさい、今更なことだったわね」

 

ウーティは、アーチャーの表情から悟ったのか、申し訳ないように頭を下げ、艦内に戻っていった。

 

「…」

 

再び、一人になったアーチャーは次元海を見つめながら、過去の記憶を辿っていた。

 

 

****

 

 

『くっそ!またスコアで負けた…アーチャー! もう一回だ! はぁ?疲れた?! ふっざけんな! 今日は食堂でランチ奢ってやっただろ! だったら付き合え!』

 

『やったぞ、アーチャー! 次世代デバイスの使用試験に合格だ! 俺の実力が証明されたって訳だな!』

 

『…すまん、アーチャー。毎日練習付き合ってくれてありがとな。今日は俺の奢りだ! どっか旨い飯でも食いに行くか! え? 日本食以外がいい? なぜあの美味しさが分んないんだよ』

 

 

 

アーチャー。お前は俺の最高の相棒だ。背中は任せるぞ。

 

 

 

****

 

 

大義からでも忠誠からでもない、裏があるわけでもなく、ただの感情だけで、六年もの間、隣を歩んでくれた〝友〟。

 

知性的な成りをしているくせに、無遠慮な態度に、お構い無く踏み込んでくる声。知らない間に、アーチャーにとってライリーは、かけがえの無い大きな存在になっていた。

今、胸の中にある大きな損失感が、その証拠だった。修羅の道を歩む自分とは無縁だと思っていた『光の中』へ連れ出してくれたのは、他ならぬライリーだった。

 

ふと思う、もし変わらず管理局に残っていれば、どんな未来があったのだろうか。

 

そんな都合の良い偶像を想像してしまった。アーチャーは思考を振り払い、自分の甘さを憂いた。貧弱な精神だと、自分を罵った。

 

引かれた引き金。六年もの間止まっていた運命は、もう元には戻らない。

 

もっと別の運命があったのかもしれないと思うこともあった。

 

しかし、そんなことを考えるだけ無駄だ。

 

根深くくすぶる炎は、そんな簡単に消えない。それに、今更後悔と懺悔にまみれた考えを言葉にすれば、アーチャーはもう前には進めない。後悔は歩みを鈍らせる。ただ、管理局の行っている「行動」は危険だと世界に伝えたいだけなのに、世界はそれを認めようとしない。だから、アーチャーたちは行動を起こした。世界に「間違い」を気付かせるために。

 

 

「…はからずも君は今、歴史の分岐点に立っているようだな。アーチャー・オーズマン」

 

 

感傷に浸るアーチャーの背後。

 

真っ暗な「影」を身に纏った男が、煙のように現れた。影が音もなくブリッジへ入ってくると、アーチャーの背筋に生ぬる何かが這うような、そんな感覚を覚えた。感傷に浸りすぎたか。気配に気づけなかったアーチャーの肌がひきつるように締まった。

 

影の中から現れた人物は「彼」だった。

 

ヘイズレグの資金提供をしてくれるクライアントであり、「本当の正義を知りたくはないか?」と、そう言って、アーチャーをヘイズレグへと誘った人物でもあった。しばらくの沈黙を挟んで、アーチャーは、僅かに伏せていた眼を上げて「彼」へと振り返った。

 

「歴史の分岐点?」

「そうさ。管理局が辿る運命が決まる分岐点だ」

 

アーチャーの視線を真正面に受け止めた「彼」は、顔を覆うフードの下にある眼光で、アーチャーを見つめていた。

 

「初歩的な技術から科学に、そして魔法へ。ミッドチルダが新たな概念を持った魔法を携え世界に現れてから、たったの百年で世界のルールはガラリと変わった。そして今も目まぐるしく変わり続けていて、まさに今、我々は変革の扉の目の前に立っていると言えるのだろうな」

 

彼はまるで影のように揺らめき、異様な雰囲気を纏っていた。

 

「この分岐点の結果次第で、今の誰もが正しいと信じ、すがっている時空管理局もあっさりと壊死するかもしれないな。過去に途絶えた文明達と同じように…」

 

狩る側であったアーチャーでも分かる、異常な殺意と威圧感があった。目先の損得ではなく、「彼」は別の何かを見据えているように思えた。

 

「私としては、できることなら話し合いのテーブルに腰を下ろしたいところだがね。それは叶いそうにない。人と言うのは、過去から学ばないものだな。なにもかも」

 

殺意と威圧感を覆い隠す「彼」は、穏やかにそう言うが、アーチャーは警戒心を解くことはなかった。おもむろに「彼」はアーチャーと同じように、煌めく次元海が見える場所へと歩んだ。

 

「君たちの戦いが間違いだとは、私は思わない。行くと言うならば、私は君を止めない。それは君の選択だ」

 

だが、と「彼」はフードの下で瞳を閉じる。その揺れる影はどこか期待しているような、悲しんでいるようにも思えた。

 

 

「忘れるな。戦いには、互いに向け合った刃を納める方法もあるということを」

 

まるで何もかも見透かしているように「彼」はそう言った。その言葉にアーチャーは未来を垣間見たような気がした。

 

ぎこちなく視線を逸らし、アーチャーは次元海の闇を見つめた。「彼」はつかの間アーチャーの隣に佇んでいると、「おやすみ、アーチャー・オーズマン」と低い声で言い、ブリッジの闇の中へと消えていった。

 

静かすぎる空間に、アーチャーは一人で佇んでいた。

 

ゆっくりと眼を伏せ、アーチャーは過ぎ去った過去の記憶を、もう二度と取り戻せない未来への期待を、改めて深い場所へと仕舞い込む。これでいいんだ、と。もう二度とあの日には戻れない。友と触れ合うこともない。けれど、それでいいんだ、とアーチャーは全く綺麗な終わり方じゃない友との別れを、心の奥底で済ませてしまったのだった。

 

 

****

 

 

十二日の夕刻。

 

明日には襲撃を仕掛けてくるヘイズレグに対して、時空管理局は防衛包囲網の設置を急ピッチで取りかかっていた。無論、ライリーやファーンもその防衛戦に備えての準備を整えている。

 

「よかったんですか?」

 

忙しなく動き回る管理局スタッフを遠巻きに眺めていたライリーに、準備を終えたファーンがそう問い掛けてきた。彼女の問いは、恐らく今朝にレティ・ロウラン提督とも話した〝防衛特務隊〟についての話だろう。

 

「…良いわけないだろ」

 

ファーンの心配そうな問いかけに、ライリーはあっさりとそう返した。

 

「正直、納得も覚悟もできていないさ」

 

ライリーは自分の愛機であるティルフィングを調整する手を止めた。

 

「『誰か』が、やらなきゃならいんだ。その『誰か』に一番当てはまったのが、俺だったってだけだ」

 

仲間だと思っていたアーチャーが、管理局へ反旗を翻す敵の首領だった。だからアーチャーを捕まえる。そこまで簡単に割りきれるほど、自分は出来た人間じゃない自分の器の小ささを情けないと憂いても、ライリーは前に進もうと足掻く。

 

『もう踏ん切りをつけてしまえばいい』

 

あぁ、そう思えたらどれだけ楽なんだろうな、と思うこともある。

 

ヘイズレグの人間を殺そうとしたとき、ただ憎しみと怒りで身体が動いていた。それがどれだけ楽なのかは、身を持って知っている。けれど、その先に待っているものは、果てない憎しみの連鎖と、自分の虚無感だけだ。

 

この戦いは、ずっと昔から始まっていたのかもしれない。いつかアーチャーと語った『正義の価値観』の話から、すべてが繋がっていた。親父が死んだとき、アーチャーの故郷が消え去ったとき、ライリーとアーチャーは自分たちが知らないところで繋がっていた。

 

アーチャーは敵となった。だから、アーチャーを止める。今は、それを言い聞かせる。

たったそれだけの自問自答に、ライリーはそう答えを付け、手が止まっていたティルフィングの調整を再開する。

 

ティルフィングは、マリエル・アデンザが〝とっておき〟の装置を取り付け、それに合わせて幾つかのバージョンアップが施されていた。素体はティルフィングのままだが、この改造によってティルフィングの攻撃力、そして運用するビット「X-S01」の運動性は飛躍的に向上するという。

 

アーチャーと戦うライリーには、ありがたい計らいだったが、試験運用をする暇もなかった為、綿密な調整シュミレーションをライリーは何度も仮想空間で繰り返していた。

 

「…あの」

 

パネルで座標位置の調整をしていた最中、考え込んでるような仕草をしていたファーンが、いきなり声を掛けてきた。ライリーが視線をファーンへ向けると、彼女はまた考えるような仕草をしたり、言うか言うまいか迷っているような表情をして、「よし!」と気合いみたいな声を出すや、何か決心したような真剣な顔つきでライリーと向き合った。

 

「この作戦が終わったら、一緒に食事に行きましょう」

「は?」

 

ファーンの突拍子もない提案に、ライリーは思わずそんな間抜けな声を出してしまった。

 

「ごはんですよ、ごはん!すごく美味しい店、知ってるんです」

 

ふふん、とファーンはいつもの落ち着いた様子とは似合わないほど、無邪気な笑みを浮かべ得意そうに胸を張った。

 

「そこでお腹いっぱいご飯を食べましょう! それから、えっと…」

 

しかし、考えていた会話のタネが尽きたのか、はたまた未だに固まっているライリーに、どうしようかと困っているのか、ファーンの言葉はだんだん尻窄みになっていき、恥ずかしそうに、胸の前で指を合わせたり離したりしていた。

 

 

****

 

 

『おい、ライリー! 暇なら飯行くぞ!飯!今日はやけ食いだ!』

 

『なんだよ、アーチャー。またフラれたのか?』

 

『そうだよコンチクショウ!だからライリーは俺を慰めろー慰めろー』

 

『そんな押し売りな慰めろなんざ聞いたことないけどな』

 

 

****

 

 

ふと、そんな記憶がライリーの頭の片隅で蘇った。その光景がどこか懐かしくて。

 

「ははは」小さく、しかし確かに笑うライリーに、ファーンは安堵するように目を細めた。

 

「貴方が笑った顔、ようやく見れました」

「…そうか?」

「ええ、いつもこんなしかめっ面ばかりでしたから」

 

そう言うファーンは両手の人差し指で目元をキッと吊り上げる。

 

「残念、俺はそこまで変なしかめっ面なんてしない」

「それは私の顔が変だって言うんですか?」

 

不機嫌そうにそっぽを向くファーンがまた可笑しくて、ライリーはくつくつと喉の奥を鳴らすような声で笑う。

「…ありがとな、元気でた」

「ふふ。それが聞けたので、さっきの愉快な顔の話しはチャラにしといてあげます」

「そりゃどうも」

 

時間は夕方の五時頃だった。ちょうど見上げたミッドチルダの空には、朱色の夕日が霞んで見えていた。

 

 

 

――NEXT

 

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